次かその次くらいまでは、益体もない話をしたいです。
「やはり慣れない刹那主義に身を任せるべきじゃなかったかな。火力が足りない」
「BT戦車ばっかり集めたからね」
「アキ、それは結果論だよ。火力と装甲に偏った編成で黒森峰にぶつかれば、じゃんけんのグーとグーだ。そして戦車道にあいこは存在しない。より強いグー、つまり黒森峰が順当に勝つ」
ミッコが自慢のドライビングテクニックでパンターの砲塔を振り切れないかとカッ飛ばしている事から、激しく揺れるBT‐42の車内。フィンランド民謡をカンテレで弾き鳴らしながらミカがぼやいた言葉に、アキが応じる。
その言葉に対して結果論だと否定的に返しながらも、ミカも『結果的な不味さ』は否定しない。保有戦力に差が大きすぎる以上、どこかで
アメリカのクリスティー技師が設計に携わった、いわゆる『クリスティー式』―――ミッコに言わせれば、『“天下の”クリスティー式』サスペンションを採用した車両は、クリスティー技師の生まれのアメリカではなく、ソ連やイギリスで多く採用・制式化されている。ローズヒップが乗っているクルセイダーや、プラウダや継続で使われているT-34シリーズも、クリスティー式サスペンションの車両となる。
ただし、それらの車両は履帯を外しての装輪機動は出来ない。同じクリスティー式と呼ばれるサスペンションの機構を採用しているが、装輪駆動への切替を可能にするための接続機構が無いからだ。元々、起動輪と転輪の接続機構による履帯走行と転輪走行の切り替えは便利といえば便利であったのだが、構造の複雑化を招くことになるために兵器としての信頼性・コストとしては不利もあったのだ。
そのため、前述の通りにクルセイダーを含むイギリスの巡航戦車シリーズやソ連のT‐34シリーズ以降の戦車は接続機構が省かれて生産されている。制式戦車で装輪走行機構を備えているものは、ソ連のBTシリーズやその改修車両に限定される理由だ。BT‐42はBT‐7の改修型にあたるものである。
―――つまり、BTシリーズを除けば、継続の保有車両の中にBT-42の機動力に追随できる車両は存在しない。火力に乏しいBT‐5やBT‐7を、全10両の参戦枠のうち5両まで詰め込んだ理由であった。BT‐42の奇襲を活かすため、随伴車両ができるだけ欲しかったのである。
「奇襲による硬直と混乱が消えるまでに、パンターを2両。あわよくばティーガーIIまで倒して、そこから逃げて仕切り直したかったんだけど……」
歯切れの悪いミカの言葉は、即ちその目論見が崩れつつある事を示していた。心理の隙、集中が切れる隙を狙った奇襲で、対応を許さず畳み掛ける。その目論見は、この膠着を作られた段階で破綻しているといっていい。
前述のとおり、順当にやれば順当に負ける勝負で博打に出るのは間違っていない。だが、その博打に負けつつあるならば、必要なのは次の判断だ。このままこの場に拘るのはよろしくない。
そもそも何故、ここで相手の隙を突けたか。そもそも何故、ここで黒森峰女学園は警戒を緩めたか。それはこの場所があまり奇襲に向いたポイントではなかったからだ。
遮蔽物によって射線が通りにくく、
そして、黒森峰が陣取っている丘からの視界・射界という理由から、4号戦車やT34‐85などの『火力はあるがそこそこ大きい』戦車をこの周囲に伏せておくのもリスクが高かった。そもそも小型車両であるBTシリーズとT‐26、あとは車高が低い平べったい形状の3号突撃砲ならばともかく、他の車両を丘から見つからないように持ってこれるかどうかの時点で賭けだったのだ。
(結果論だけど、そこでも賭けに出ておいたほうが良かったかな)
どこで賭けて、どこで賭けない。その辺りのリスク・リターンの見極めに失敗したかと、ミカは内心でひとりごちる。
発見されるリスクを承知で4号やT34/85のどちらかでも持ってきていれば、幾ら冷静に対応されたとしても膠着になる事は無い。それらの主砲は、パンターの側面や背面の薄い装甲を容易く貫通しうる。
正面は80mm超えかつ35度ほどの傾斜装甲という構造から、正面からの撃ち合いには強いパンターであるが、側面や背面はその半分程度の厚さの垂直装甲。傾斜も加味すると、実質的な防御力は1/3程度にまで低下するからだ。
「―――とはいえ、刹那主義と同じくらい、懐古趣味にも賛同できないな。反省会は後にしよう」
「どうするの?」
「ミッコ、このまま翻弄を続けてくれ。せめてパンター2両は獲らないと、この後が一気にキツくなる」
会話の最中も、右に左にと激しく揺れるBT-42。トップヘビーの車両で、よく横転せずにそこまで小刻みに方向転換が出来るものだ。ミカをして、『まぁミッコだし……』という理解放棄をせざるを得ないドライビングテクニックにて駆け回るこの車両に対し、パンターG型は砲の旋回がその機動に振り切られないように必死である。
しかし、露骨な
「BT-5、BT-7は回避行動を取らなくていい! パンターにもっと近づいて、45mm砲で貫通を狙うんだ!」
故に、この状況を動かせるのは、膠着している2両以外。BT-5とBT-7の主砲であるM1934式45mm砲の貫通力は、ある実験結果によれば傾斜0度の装甲に対して距離1000mで35mm、500mで38mmだったという。
だがその数字は、一発勝負ではなく何度も試行した結果の平均の筈。上ブレすればパンターの側背装甲でもある40mmを超える数字も出ていたことがある筈だ。まして500mより近付けば、更に威力は上がるはず。
つまり―――
「―――近づいて撃ち続ければ、多分どれかは貫通するんじゃないかな?」
「ミカ、それはゴリ押しじゃない?」
「見解の違いだね、アキ。数字に基づく知的計算の結果だよ」
BT-42以外の車両を全く狙ってこないと判断した継続高校は、残りのBTシリーズによる『間合いを詰めて、足を止めて、じっくり狙ってしこたま撃つ』という、戦車道の定石とは大分違う動きに出た。それでも各車両が停滞無く従ったのは、ミカに対する信頼の大きさと、継続高校の練度の高さが伺える。
某島田のご令嬢が大好きである『ボコられグマのボコ』ばりのタコ殴りに遭ったパンター1号車が、少々耐えてから流石に黒煙を吐いて白旗を挙げた。有効射が出たと判断されての、撃破判定。
「やったか!?」
「やめてよミッコ!?」
典型的な死亡フラグ、言うとだいたい『やってない』事になるセリフを叫ぶミッコに対して、アキが悲鳴のような声を返す。
しかし、撃破判定は戦車道規定によるものであり、参加者たちの判断や意思、気合や根性やその他各種の精神コマンドでどうにかなるものではない。
判定されて白旗が上がった時点で、搭乗員がどれだけ頑張っても動かすことは不可能になる。『根性で押せ―――っ!!』と内部からやっても意味はない。いや、これは白旗が上がってなくても意味がない。
「―――いや、『やられた』」
だが、ミカの声に浮かんでいるのは強い警戒。どういう意味かとアキやミッコが問う前に、その答えとなる動きが来た。
全周傾斜付き80mm装甲の鋼鉄の塊。側面や後方を狙って近距離で撃とうが、BTシリーズの45mmではもはや『無理』の一言しかない重装甲。
BT-42の大口径でも、パーシングやパンターならばある程度撃ち抜けても、ティーガーIIの重装甲相手ならば相当上手く当てない限りは有効射は望めない。そして、静止射撃や至近距離での射撃で弱点を狙うような動きをみすみすやらせるほど、逸見エリカという車長は甘くない。血筋でも縁故でも交友関係でもない。逸見エリカという少女が名門黒森峰の副隊長にまでなったのは、ひとえにその戦車道の実力からだ。
もはや奇襲の利は継続に無く、むしろパンターの撃破に集中してしまったが故に、
当然上がる黒煙と白旗。慌てたように全車両が回避行動を開始するが、最高速度は80kmに近かろうと、そこに至るまでには加速距離と時間を必要とする。一度止まってしまっていた以上、加速が乗るまでは良い的だ。
攻守逆転。この場において狩る側と狩られる側は逆転し、僅か1両のティーガーIIに残り5両の継続高校が追い詰められていた。
「ミカ!」
「逃げても背を討たれて、加速がついて逃げ切るまでに2両はやられる。ならこの場であちらの副隊長車を獲るほうが、まだ勝ち目は残るだろう。100回やって0回の勝率が、100回やって1回になる程度だろうけどね」
判断を仰ぐアキの声に、ミカは飄々と応える。飄々とした様子の半分は素で、半分は意識的なもの。ここで指揮官が弱気を見せれば、いよいよ取り返しがつかなくなる。
敗色濃厚でも、最後まで諦めるわけにはいかない。その点でいえば、ミカという少女は一見しての印象よりも大分諦めが悪く、情熱的だった。
『戦車道には人生に必要な事が全て詰まっている』と、ミカは常々思っている。戦車道に対しては本気であるが故に、ここでさっさと諦めるという判断は浮かびもしない。まして、隊長という立場で仲間全員の夢を背負っている。弱気も反省も、試合が終わった後でいい。
「ティーガーIIはパンターよりも車体・砲塔の旋回が遅い。全車、無理に逃げずに近距離で、相手の砲塔の動きをよく見て、射線に入らないように動くんだ。狙いは装甲のない履帯。履帯を切って、可能ならば駆動輪を壊す。―――行くぞ」
まだまだこれから。
決意を込めたミカの言葉に応じて、BT-42が。そして残りのBTシリーズが動き出す。応じるように動き始めるティーガーIIのキューポラから顔を出した逸見エリカが、鋭い目で敵全体の動きを見ながら、矢継ぎ早に車内に指示を飛ばし始めた。
その向こうでは、煤で顔をまだらに染めた赤星小梅が撃破されたパンターのキューポラから顔を出し、してやったりとでも言いたげな笑顔で状況を見て、エリカに対して親指を立てた。
『後は任せた』。そういうことだろう。横目で小梅を見たエリカが、彼女に対して小さく頷きを返す。『任された』と、そういうことだ。
かくして、黒森峰女学園と継続高校の戦いは加熱していく。
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「―――で、勝つには勝ったけど、ティーガーIIの足回りがボコボコのメチャクチャにされたと」
『修理班が顔を青ざめさせていました。ティーガーIIの駆動系はただでさえ繊細だから……』
そして2日後。宮古修景は、自身が通う男子校学園艦の寮、その自室にて、エリカからの愚痴に近い電話を受けていた。発端は、『試合終了直後は忙しいだろう』という判断で、まほとエリカへの連絡を敢えて連絡を避けていた修景が、『そろそろいいかな』と勝利祝いのメールを送ったことだ。あとは話の流れで、メールが面倒になったエリカが電話してきた。
安いベッドと机、あとは本棚くらいしかない殺風景な部屋は、修景が無趣味というよりは、未だ西住家が後見・援助してくれている立場でありながら、自分の事に金を遣うという事を好まないが故である。
それでも全く使わないと西住本家からお叱りの言葉が来るため、二輪免許と中古のバイクに使って、『自分の為に使っています』アピールをした修景であるが、そのバイクで大洗まで行ったのは色々な意味で失策であった。
ともあれ、第63回戦車道全国大会の、第2回戦。黒森峰女学園対継続高校の試合は、最終的には黒森峰の残存車両6に対して継続高校1でフラッグ車撃破による勝利となったのだが、そこに至る前に索敵チームはBTシリーズ4両を道連れにして全滅。
その後、黒森峰女学園側は継続高校が残した痕跡や試合会場の地形から継続高校の潜伏箇所を予想し、追い詰めての決戦に出た。起伏や遮蔽の多さからゲリラ戦向きの山林地形は継続高校に有利でもあったのだが、舗装された地面と違って戦車の通った跡が地面にくっきりと残るという意味では、隠れたい継続側に不利な要素もあったのだ。
そして、戦車で通行可能なルートが限られるという要素もまた、待ち伏せや狙撃を使いたい継続有利でもあるし、逆に一度居場所が確定したならば追い詰める黒森峰有利ともいえた。
『奇襲の有利が最も利く最序盤のうちに相手を減らし、戦力差を縮めた上で、なんとかフラッグ車を引きずり出しての一騎討ち』という継続高校の狙いは、逆に継続側の方が多くの車両を削られた段階で破綻していた。
それでも諦めず、追いかけてきた黒森峰本隊に対して、今度は狙撃が利く場所でT-34/85や4号戦車J型含む正面戦力を揃えて待ち伏せした継続高校である。狙撃と側面強襲の合わせ技でヤークトパンターを1両仕留めたのは流石であった。流石であったが、そこが限界。
結局それ以降は、陣形をキッチリ組んでの教科書どおりの面制圧をしてくる黒森峰女学園の前に、避けきれなくなったBT-42が被弾・撃破されたところで、黒森峰の勝利と相成ったのだった。
「次の試合までに直りそうなのか?」
『うーん……』
ただし、その勝利と引き換えとして、黒森峰の損害は軽くはなかった。
元々、ティーガーIIはマウスのような『作られてはいたけど、実戦投入はされなかった』という車両ではなく、実際に実戦で使われた車両の中では最重量級だ。トランスミッションギアの過負荷による破損、重い車体を動かすためのエンジンのオーバーヒートなど、実戦運用時に駆動系の問題が多発していたという曰く付きである。
大戦当時のそれに比べると比べ物にならないくらい整備環境がよく、ルール内での改造も認められている戦車道ではあるが、それでもティーガーIIが手のかかるじゃじゃ馬の部類であることは違いない。
それをなんとか倒そうと、継続側のBT軍団総攻撃で足回り=駆動系を集中攻撃されたのだから、ティーガーIIは今や動けないハコ状態だ。宇宙世紀でもなければジオン公国でもないのだから、『
『整備班の感触だと、結構ギリギリの気配なんですよね。ティーガーIIは予備車両もありませんし。そうなってくると練習も困りますから、暫く練習では予備のパンターに乗ることになりそうです』
そういう車両を扱うと、普通はこんなものである。大洗の自動車部の技術力があらゆる意味でおかしい。
「パンターってことは……」
『先輩のお母様と同じですね』
電話の向こうで小さく笑うエリカ。幸いにして、継続との試合で奇襲を見事に食らったという失策について、尾を引く落ち込み方をしている様子はない。この辺りは『史実』に比べると人間関係に対する気持ちの整理がついており、ある程度の心の余裕がある。
勿論『してやられた』という事実に対する反省や、次以降に向けた対策は必須であるし、既に試合を振り返っての意見交換は黒森峰内部で行っている。改善可能な点については敬愛する
それに、奇襲を食らったことこそ失態といえるかもしれないが、その後のエリカの動きは決して悪くなかった。
小梅が膠着状態を作り粘っているという事を無線で聞き、
彼女自身も周囲の人物も当然ながら知り得ないことであるが、『柔軟性』や『対応力』という意味であれば、逸見エリカという少女の成長は『史実』のそれより大分早く伸びてきているのである。
『実際、ティーガーIIは強力な車両です。
「第二次大戦でもそうだったっていうしな。西部戦線の森林みたいな地形では能力を活かしづらかった、って」
『ええ。その点、パンターは相対的に見ればかなり身軽です。隊長がティーガー、私がティーガーIIという重装甲&重装甲で隊長級を固めてしまうよりは、いっそパンターにも多少慣れておいて、試合会場の“引き”次第でどちらに乗るか決めるとか……。乗員全体の習熟が必要になり、負担も増えますから、まだ思いつきレベルですけど』
そうして気負わず話すエリカに対して、むしろ困っているのは修景である。照れかその他の何かしら甘酸っぱい感情に由来する困惑ではない。互いに無意識的に意識している部分はあれど、この両者は気安い距離感を構築している。
この場合、修景が困っているのは自らの知識不足だ。言うべきか、言わざるべきか。数秒迷ってから、修景は自らの弱みを打ち明けることに決めた。
「あー、逸見さん。習熟ってそんなに大変なの? みほとかまほとか、子供の頃から色々乗ってるらしいから、俺その辺がピンと来ないんだけど」
『あの2人は色々別格ですから、なんの基準にもなりませんよ。普通なら戦車ごとの癖に慣れるまで、それなりに時間を要します。……宮古先輩、もしかして西住家で暮らしていたのに、その辺り詳しくないんですか?』
「俺が分かるのは戦車の来歴とかスペックとかの表面的な事柄だけだな。『戦車』は詳しくても、『戦車道』に関しては観戦専門。しほおばさんの教育方針だ。男の俺が戦車道に触れるのは好ましくないって事で、みほやまほの練習について行くのも駄目って言われてた」
『流石、西住流の宗家になると厳しいなぁ……』
「ただ、あんまりにもガチガチなもんだから、問題も発生してな。みほとかまほが夕食の席で戦車道の話をする時、俺は全くついていけなかった。まだ小学生の頃で、西住家にも今ほど馴染んでなかったから、それが凄くキツかった。でも、それはしほおばさんにも伝わっていたんだよ」
母の友人の家に引き取られたという負い目から、まだ西住の家に今ほど馴染めていなかった頃。幼い頃は活発だったみほが、行儀が悪いと嗜められながらも、『今日はこんなことがあった』『これが楽しかった』などと元気に話すのが、西住家の夕食時だった。
ただ、みほが本格的に戦車道の練習をするようになってからは、話す話題に戦車道の事が増えるようになっていった。その頃、保護者であり後見人でもあるしほは、男子である修景が盤上演習に触れる事も拒否していたが故に、当然ながら修景は妹の話す話題の殆どについていけない。
いたたまれなくなり、あまり食欲がないと嘘をついて、夕食の席から早めに逃げ出すことが多くなった。その様子を口を結んで強い視線で睨んでいたしほの事が怖かった。とはいえ、今にして思い返せば、あの時のしほは単純に困り果てていただけなのだろう。
修景やまほより年少で、まだそういった機微に疎いみほを叱り、その事を話さないように言うのも何か違う。さりとて西住流宗家の者が男子に『それはこういう意味よ』などと、戦車道について教えるのは如何なものか。だが、このまま息子同然の少年に居辛い思いをさせるのは本意ではない。
その板挟みで困り果てたしほが、長年の友人である菊代に対して、『どうすれば良いのだろう』と相談に来たというのは、後日こっそり菊代さんが修景に教えてくれた事だった。『内緒ですよ』と言いながらの菊代さんの言葉に、思わず嬉しくて泣き出してしまった幼い頃の修景である。
その辺りは気恥ずかしくて
「だから、しほおばさんじゃなくて、まほが俺に教えるって事をしほおばさんは黙認……というか、やんわり指示する事にしたんだってさ。他人に教導することはいずれ必要になるとか、自身の知識を確かめる勉強にもなるとかいって。そうやって俺が多少知識を持てば、疎外感を感じ過ぎる事は無いんじゃないか―――って」
『西住師範、不器用ですねぇ……』
「でも、いい人なんだよ。みほの事もなんとかしてやりたいから、出来れば次は湯沸かし器にはなってくれるなよ」
『その節は本当にご迷惑をおかけしました。私がみほをボコボコにするのと、みほとご家族の関係が修復されて欲しいというのは無関係ですから、むしろ応援しますよ』
「ああ、その判断で十分助かる。―――で、話を戻すとその試みの結果、しほおばさんが目眩を感じてダウンした」
『なんで?』
穏やかに過去を懐かしむ話からいきなり飛び出してきた脈絡のない結論に、エリカは思わず敬語を忘れて聞き返した。何故それで倒れるのか。話の繋がりの予想がつかない。
困惑するエリカに対し、電話越し故に見えてもいないが、一つ頷いてから修景は説明を続けることにした。
「俺に戦車のことについて説明をするにあたって、まほはあいつなりに考えてな。最初は、その前日にみほが話題に出してたハルダウンについてだった。稜線を使って、硬い防盾に守られた砲塔だけを出す事で、防御力を高めるやり方―――って、言わなくても分かるわな」
『まぁ、それは。いきなりハルダウンは多少高度ですが、前日に出た話題について説明するなら、話題選択は納得いきますね』
「ただ、盤上演習用の戦車の駒とか、飾られている戦車の模型とかを使うと、西住流としては良くないんじゃないか。まほはそう考えたらしくて、その辺にあったもので上手く説明をしようとした」
『あー、なんとなく分かってきた。先輩か隊長、もしくは両方が悪い奴ですね!?』
「この場合はまほじゃねぇかなぁ。いや、疑問も抱かずやってた俺も不味いが」
その時、まほが用意したのは。稜線や丘を表現する為の小さなテーブル、そして戦車の代わりに、みほが当時見ていた魔法少女アニメのお人形。
テーブルの中央にスカート姿のお人形を置き、『下から覗き込めば
うまく説明が出来ているか心配になって見に来たしほが見たのは、そんな光景だったのだ。幼い愛娘が弟(仮)に対して、ローアングルで人形のスカートを覗き込むように指示している。目の前も暗くなり、貧血の一つも起こそうというものである。
『……どんな悪いことをやったんですか?』
「引かない? 怒らない?」
『内容によります』
「……じゃあやめとくわ」
『本当になにやったんですか宮古先輩!?』
「主犯は! 主犯はまほです! あいつがやれって言ったんです!!」
結果的にその行動が『戦車を使わずにハルダウンを説明しようとした結果』であるとまほから説明されたしほは頭を抱え、彼女的にはかなりの譲歩の結果として、『みほやまほへの戦車知識問題の出題役として』と役目を修景に与え、彼は最低限の知識を菊代から教わる事になるのだが。
その経緯から、『戦車』のスペックや来歴に関する知識問題はともかく、『戦車道』についてはみほやまほとの会話に困らない程度のラインで止まっている、観戦専門の宮古修景である。
―――ともあれ。
黒森峰女学園、戦車道全国大会第二回戦突破。第三回戦=準決勝にて、聖グロリアーナとの強豪校同士の決戦に挑むこととなる。
また、西住みほ率いる大洗女子も、黒森峰と継続の試合の翌日にはアンツィオを打ち破って準決勝に駒を進めていた。こちらは、前年度優勝校であるプラウダ高校との対戦だ。
多少の変化をはらみながらも、第63回戦車道全国大会は、徐々に佳境へと足を踏み入れつつあった。
最近一気に更新しましたので、次は1週間後を予定しております。