西住家の少年   作:カミカゼバロン

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 順調にダレる物語。未だ出発しない主人公。これぞ殺人拳、人種の行き着く技の結晶よ。無駄に500文字は取ってるクーゲルパンツァー。

 なんか色々ありますが、とりあえず更新です。
 あと、事前に『カステラバインダー』で画像検索しておくと、とある人物のとあるシーンでの姿が想像し易いかもしれませんので推奨します。
 本物の暴力(てかげん)にはスパロボでお世話になりました。


少年、過去探訪を決める

 食事を取るにも、行儀や教育の差というものは出る。

 西住家は和風、逸見家は洋風の名家であるが故に多少の差異はあるし、まほの西住家などは言ってしまえば“武門”の家柄であるのだが、躾はしっかりしている為に両者とも食事の仕方は綺麗なものだ。

 食べているものがカレーライスとハンバーグという庶民派なものとはいえ、背筋をしっかりと伸ばした上で、食器同士が擦り合う音など出さずに丁寧な手さばきで食べていると、成程確かに見ているだけで『ああ、良家の子女だな』と納得できる姿となる。

 

 対する修景少年はというと、こちらは17年の人生のうち、母の元で過ごした貧乏時代が7年、西住家の養子に近い立場だった時代が5年、中学以降の学園艦で過ごしたのが5年という配分であり、まほほど名家の教育に馴染んでいない。

 正確に言うならば、しほや菊代さんなどの行儀の悪い食べ方をしては良い顔をしない人の前でならば器用に取り繕う事も出来るし、然程苦にはならないのだが。意識せずに食べる分には、男子高校生らしくガツガツとかき込むような食べ方となるのだ。

 

 ついでに言うと、修景の視点ではまほは別段その手の事で気を使うべき相手に分類されておらず、エリカについても先の叫び―――みほについて馬鹿にされたと思い、本気で怒ったあれが起点となり、心理的な距離感が薄れていた事もあり。

 食べているものは庶民的だが、育ちの良さを感じさせる食べ方をしているまほとエリカを差し置いて、修景少年は特に取り繕うでもなくガツガツと食事をかき込み終わって、手持ち無沙汰にメニューを隅々まで眺めていたりするのだった。

 

 ちなみに、食事の合間を縫うようにして―――まほもエリカも食事しながら喋るタイプではないが、気にせず喋る修景に彼女たちの方が合わせた形で話された内容で、だいたいみほについての内容の確認は終わっていた。

 下手に黒森峰生のまほやエリカの影がちらつくような土産など持たせては、みほにとって辛い思い出を思い出させるだけかもしれないと話し合ったまほとエリカは、『聞いておいて欲しい内容』『調べて欲しい内容』を思いつく限りでリストアップ。

 主に友人は出来ているか、不便はしていないか、足りないものはないかなど―――お前らオカンかと修景が突っ込むような内容であったが。何はともあれ、彼女たちが転校していったみほについて知りたかった内容というものについて、

 

「修景。集計はこれで終わりだな?」

 

 と、こちらも修景にかなり遅れて食事を終えたまほが、スプーンを置きながら言う程度には話は済んでいる。

 ちなみにその発言を受けて修景とエリカが固まったのを見て、まほは不思議そうに首を傾げてから、得心がいったというように重々しく頷き、

 

「ちなみに今の笑いどころは修景と集計をかけた、」

「解説しなくていいです隊長ッ!!」

「ああん」

 

 感情の読みにくい鉄面皮で―――しかし心なしか残念そうに解説を遮られたまほ。

 遮ったエリカとしては、敬愛する隊長の初めて見る姿だが、『隊長のこんな姿、私見たくなかった!!』というのが本音であろう。

 黒森峰に入ってからの付き合いでエリカ側も薄々勘付いてはいたのだが、この鉄の隊長は戦車道に関わりの無い箇所では、時々ただの天然お姉さんである。

 ついでに、遮るためにあげた叫び声に対してギロリとした目で先の同級生店員が睨んできたので、『ノーカン! 今の机叩いてないからノーカン!』と言わんばかりに、両手をバタバタ振ってアピールしておく。

 

「んじゃ、食い終わったら会計して解散でいいか。まだ連絡船って出てたっけ?」

「えぇと……」

 

 そしてそのエリカを他所に、我関せずだった修景と当事者の片割れだったはずのまほは別の会話に入っていた。

 修景の質問に首を傾げたまほがスマートホンをポチポチ操作し、黒森峰学園艦の公式ホームページから連絡船の運行予定表を確認して、僅かに眉根を寄せる。

 

「ああ、ダメだ。今から急いでも最終便にも間に合わないぞ」

「そんじゃ、今日はここで一泊かー。宿泊施設についてそのまま調べてくれ、まほ」

「私の部屋ならタダだぞ。無駄遣いをするな、弟」

「「そこ女子寮ォ!!」」

 

 そして漏れ聞こえてきた会話内容にエリカが、姉(暫定)の言葉に修景が、ステレオでツッコミの声をあげる。

 ついでに先のエリカの同級生店員が分厚いメニュー表―――表面がプラスチック加工されており、頑丈そうなものを素振りしながら近付いてきたので、修景とエリカは慌ててそちらに頭を下げた。

 『ブッダフェイスも3度までだ』と小声で言って去っていったその店員の背を、冷や汗を流しつつ見送ってから、エリカはまほに向き直り、

 

「隊長、女子寮は原則男子禁制です!」

「弟もダメだったか?」

「少なくとも泊めるのはダメですし、そもそも隊長と宮古先輩、血の繋がり無いでしょう!?」

 

 小声で叫ぶという離れ業を披露する後輩に、きょとんと首を傾げるまほ。

 その姉(暫定)の様子に溜息を吐き、修景が自分のスマホで黒森峰学園艦の宿泊施設を検索。料金的に適度、かつ空きのある宿を要領良く探し当てていた。

 

「とにかく、俺は宿泊施設使うから。んで、明日の朝にでも学園艦から降りたら、みほの所に向けて出発する」

「……分かった」

 

 そして、修景の言葉に首を傾げつつ―――つまり納得していない様子ながらも頷いたまほだが、ふと思い出したように修景に向けて声をあげる。

 

「ああ、でも。修景、お前さっきの様子だと母上の写真とか乗ってた戦車とか、見たこと無いんじゃないか? どうせお前が黒森峰に来るなんてそう何度もある機会ではないだろうし、学園艦から降りるのを昼にして、午前中のうちに記念館でも見たらどうだ」

「……む。確かに気になるが、みほの事もあるから動き出しは早いほうがなぁ……」

「そうか、確かに私としてもみほの様子のほうが気になるしな。お前がそれでいいなら、連絡船も午前の便の方が、熊本じゃなくて博多行きだから若干のショートカットになるし」

「あ、それ逆に駄目だわ。俺、熊本のロッカーに荷物預けてるから、一度熊本まで戻らないと」

 

 ちなみに、バイクも熊本にあってそのバイクで大洗まで―――丸2日がかりで―――高速道路で行く予定なのだが、それについてはまほもエリカも知らない。ついでに修景もその雑で向こう見ずな予定が内に秘めた過酷さを知らない。

 

「熊本までの便―――となると一番早いので昼前だな。学園艦は航行するものだから、連絡船のスケジュールが流動的なのは困ったものだ」

「例年、電車やバスのダイヤと同じ感覚で考えて、当日の下調べを怠って乗り遅れる子が何人か出ますよね、帰省時期とか……」

 

 はぁ、とエリカが溜息。

 僅かに遠い目をして思い出すのは、話題に出ていた副隊長―――西住みほのことだ。

 

「あの子もね。1年の夏休みの帰省時に、急がないと間に合わないタイミングで駅前をぽややんと歩いてて。……私、これ乗らないと間に合わないってバスに乗ろうとしてたのに、あの子は『あ、エリカさんだー』と言わんばかりの顔で私に気付いて手を振ってきて」

「……やりそうだ」

「これもしかしてと思って、バスに乗るのやめて声かけたら連絡船の時間をその前の週のと勘違いしてて、2人で大慌てでタクシーに乗せてもらって事なきを得たり……」

「すまないエリカ、初耳だ。みほがすまなかった」

「おい姉。妹と同じ学校、同じ家なのに帰省時別行動してたのか?」

「……黒森峰は名門だから、結構熊本の外から来る人材も居るんだ。そういう戦車道履修者向けに、熊本土産を買ったりする予定だったから……みほを手伝わせちゃ悪いなって……」

「でも熊本出身者にも何も無しだと不味いとか言った挙句、集合場所で両腕いっぱいに紙袋を提げて、なんか見開きで登場しそうな威圧感背負った有様になってましたよね隊長」

「流石に無理を察したので、それ以降は止めただろう」

 

 ロボット漫画の味方最強戦力の貴重なギャグシーンみたいな光景だった。背景効果音はゴゴゴゴだ。

 戦車の数とそこから割り出される乗員数、整備士の数まで含めると、さて、黒森峰の戦車道履修者・関係者の数は如何程になるのやら。

 その全員に1人お菓子1つでも良いから何か買っていこうと思ったまほ、明らかに頑張り過ぎだった。

 

 ともあれ、心なしか頬を膨らませて拗ねた様子のまほを放置して、修景は念のために自分のスマホでも連絡船の日取りと、先程話題に出た戦車道記念館の場所を確認しておく。

 姉は戦車道や学業ではしっかりしているが時々極上の天然だし、妹はそのまま分かりやすく、ぽややんとした性格の子だ。

 その両者に挟まれた修景は、この手の予定確認を姉妹に任せることの危険性を身に染みて分かっているため、確認作業は怠らない。

 

 幸いにして記念館は観光施設でもあるためか、連絡船の出る港―――と、呼んで良いのだろうか? なんにせよ、学園艦から連絡船が出るポイントから近い位置にあるようであり、開場後に2時間程度は中を見て回る時間があるとまで計算し、修景は頷き一つ。

 

「明日の昼前の便で熊本に帰るまで、時間を有効に使うって意味なら記念館見て回るのはアリっぽいな。昼飯は食う時間無さそうだけど」

「それは熊本に着いてから適当にやれ。ああ、あと記念館、入場料2,500円だった筈だぞ」

「ボッタじゃねぇか」

「黒森峰生が居ると無料なのだが」

「両極過ぎんだろ」

「黒森峰生には是非とも伝統を見て、我が校の戦車道の歴史に思いを馳せて欲しいのだろう。それはそれとして、観光客は金を落とせというだけで」

「意図は理解できないでもないが、もう少しオブラートに包むとかさぁ……」

「……あ、あのっ」

 

 ブツクサと言いながらも記念館には行くつもりであるらしい修景の姿を見て、エリカが声を上げた。

 その声に何事かと、修景とまほと店員の目が向く。ちなみに店員判定はセーフ。まだブッダフェイスの営業スマイルだ。

 

「明日も3年生は学力テストで」

「うん。私も寮に帰ったら寝るまでは勉強するつもりだ」

「で、1年生は全員、学園艦内部の施設を案内されて回るんですよ」

「ああ、そういうイベントってどこの学園艦もあるんだなぁ」

「学園艦は広いですからね。特に黒森峰は国内最大級ですし。―――で、2年生だけは空いてるんですけど、先生方が結構、テストと案内で人手を取られるらしくて。自習だらけ穴だらけの授業をするくらいなら、ということで2年生は明日は授業が休みなんですよ」

「……あれ? 逸見さん、戦車道も?」

「2年生だけで動かす車両だけならともかく、1年や3年が混ざる混合チームで動かす車両は人員不足になっちゃいますし」

「座学やら整備やら、なんにせよ中途半端だから、いっそということで明日は戦車道も休みだ。3年生だけ1年生だけならともかく、両方居なくては練習にならん。去年も―――確か一昨年もそうだったらしいな」

 

 横からまほに補足され、修景も成程と小さく頷いた。

 戦車という車両は、自動車やバイクなどと違って個人で動かすものではない。戦車の種別によるが車長、装填手、操縦手、通信手など、多くの人員が必要となる。

 単純計算、学年ごとに履修者の1/3を占めると考えて、戦車道履修者の2/3の人員が欠員となるならば、諦めていっそお休みとしてしまうのも有りということか。

 その辺り、名門黒森峰と言えど時節イベントには敵わないようである。

 

 まぁ世にはクーゲルパンツァーとかいうキワモノも、恐ろしいことに実在している。あれならば人員不足どころか車長が居ればで動かせそうだが、アレで戦車道の試合に出たいという勇者は、古今東西今のところ皆無である。

 ちなみにクーゲルパンツァーとは、史実においてロシア―――当時はソビエト連邦が満州国で発見した戦車(?)である。何故(?)が付くかというと、その存在の開発経緯や配備状況、用途その他一切が謎に包まれているからだ。

 

 では、これが―――例えばラーテ超重戦車(※全重量1,000トン。マウスの5倍以上)のような計画のみで終わった珍兵器だから謎に包まれている、というわけではない。

 先に言った通り、現物がガチで発見されていて、なおも『どういう意図で作って、どういう用途で使われる兵器だった分からない』というブツがクーゲルパンツァー―――独語で『玉戦車』と呼称される物体なのである。

 

 そのクーゲルパンツァーという名称も、何故かあった独語のマニュアルを読み解いた結果のものと言われているが、直径3mの球状の御姿の装甲は5mm。きっと釘打ち用の金槌で『えいや』と力いっぱい殴ったら凹むレベルであり、戦車砲や機銃どころか、小銃を受け止められるかすら怪しいものだ。

 武装に至っては前面に銃眼があるので、多分ここから乗員が手持ち武器で攻撃をするものだと思われる。エンジンは2スト単気筒エンジン―――と言われても分からない人は分からないだろうから、単純に同じものを積んでいる車両を挙げるとすると原付が挙がるレベルである。

 開発国はドイツの筈なのだが、そのドイツにもクーゲルパンツァーの記録は何一つとして残っていない。きっと問い合わせに対応した担当者も首を傾げたことだろう。それを輸入したのは、多分発見された場所的に日本なのだが、こちらにも何の記録も残っていない。

 それでも現物だけはロシアのクビンカ博物館に―――ただし、2016年段階では詳細不明なので説明書きも何もほぼ無い状態で展示されているので、興味がある人はパスポートでも取って見に行ってみてもいいだろう。

 

 ともあれそんな雑学と呼ぶべき価値すらあるかどうか微妙な話はともかく、『ですから』とエリカは前置きし、

 

「私で良ければ一緒に行きましょうか? その……結局さっきの2,000円、返せずに受け取っちゃいましたし」

「え、マジ? 逸見さんが良いならそりゃ、入場料浮いて助かるけど……そっちも休日、やりたい事とかあるんじゃ?」

「差し当たっては特に無いですから大丈夫ですよ、宮古先輩。それに、宮古先輩のお母さんの逸話とかを隊長に聞いたのもあって、私ももう一度あの写真見てみたくなりましたし」

「謎カンフー?」

「謎カンフー」

「これぞ殺人拳?」

「人種の行き着く技の結晶よ」

 

 何故か楽しげに、修景のフリに乗って宮古母の残したフレーズを繰り返すエリカ。

 その提案は渡りに船ではあるのだが、どうにも母親のパンクな高校時代の記録を姉の後輩で妹の友人である少女―――しかも今日が初対面―――と見に行くというのは、2,500円が浮くと考えてもプラスかマイナスか中々の悩みどころである。

 しかし、迷う様子を見せた修景に対し、まほが柔らかな笑顔で援護射撃を―――ブチ当てて逃げ道を塞ぎにかかった。

 

「まぁ、エリカはみほの友人であり、私の後輩でもある。修景、逆にエスコートしてやるくらいの気持ちで行って来い」

「……はぁい。逸見さん、それじゃ明日、休日なのに朝早くなりますけどお願いできますか?」

「それは大丈夫です。私、元々休日でもあまり遅くまで寝てませんし」

 

 『行って来い』とまで姉に言われては、断る選択肢も今更無く。

 白旗を揚げるような心地で告げた言葉に、エリカは任せておけと言わんばかりに胸を叩く。しかし一転、声を潜めて、

 

「……ただし、みほの事。分かったら私にも、早めに教えて下さいね?」

「……あ、それが狙いなんですね。りょーかいです。そんじゃ、明日の待ち合わせのためにもとりあえず連絡先教えて貰っていいっす?」

「あ、はい。えぇと……!」

 

 本当にみほの事を心配してくれてるんだなぁと、感慨深く思いながら。

 わたわたした様子でスマホから自分のアドレスを呼び出しているエリカを見る修景に、まほが僅かに眉根を寄せて注意する。

 

「ああ、修景。エリカはこれで結構な御令嬢だ。明日は普段から姉である私に向ける気遣いの1.5倍を持って接するようにな」

「姉上、恐れながら申し上げますが、マイナスに1.5倍を掛けてもマイナスが増えるばかりです」

「おい弟、私に対する気遣いの基準値を言ってみろ」

 

 そうやって言い争う姉弟が伝票を奪い合うようにしながら立ち上がり、『食べた分は自分で支払う』と主張するエリカを尻目に、姉弟はさっさと二人で全額を割り勘して。

 レストラン前で―――店員の『次はないぞ』という副音声が脳内で再生される営業スマイルに見送られ―――エリカ(おじょうさま)と連絡先を交換という、これだけで男子高校生的に大イベントなような、姉と妹の御実家も物凄い名家だったりするので今更なようなイベントが終わり。

 修景少年、大洗への出発前に、少しばかり自分のルーツを辿っての過去探訪となるのだった。

 




 ちなみにクーゲルパンツァー以外にも、WW2の頃には様々な珍兵器があって、調べると面白いです。

 あと全く関係ないですが、ガルパンを見てWOTを始めて、マチルダやチャーチルの動きの鈍さに愕然とした人。私です。

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