西住家の少年   作:カミカゼバロン

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とにかく更新がしたかった。書くのに割ける時間が少なかった分、話自体も若干短めだが、オチとしてあそこで切りたかったので後悔はしていない。

みほに会う前にワンクッション。


少年、歴女と雑談する

 辛い、辛い旅路だった。

 走っても走っても着かない目的地。南九州に合わせた格好で走行していたら徐々に寒くなっていく気候。

 走っても走っても着かない目的地。現地で適当に探せばいいやと思っていたら見つからない宿。土地勘のない場所での迷走。

 走っても走っても着かない目的地。充電忘れて切れる携帯の電池。遠く置き去りにされた過去を取り戻す物語(≒宿に忘れて慌てて取りに戻った、ハンガーで干してたコインランドリーで洗濯済みの着替え)。

 そして、走っても走っても着かない目的地―――。

 

 だいたいその辺りの累計4日間の旅路については主に修景の自業自得で構成されているので割愛する。

 せいぜい、毎晩のLINEでそれを聞かされるまほの反応が、

 

「うん、大変なんだな。頑張れ、辛かったら電話してこいよ」

 

 から、段々とぞんざいになっていき、最終的には、

 

「ああ、うん。聞いてる聞いてる」

 

 になった程度の物である。

 それ以外にも、3日目辺りにしほから、

 

「修景。もうみほには会えましたか? とりあえずどうだったかだけでも、電話で報告を貰えると嬉しいです」

 

 というメールが入り、バイクで向かっている途中と答えると、

 

「えっ………なんで?」

 

 と、彼女にしては非常に珍しい素で困惑した返事が出てきたりしたくらいか。

 ともあれそれらの、自業自得で長い旅路を経て―――

 

「うちの方には無いなぁ、サンクス」

 

 夜の学園艦、大洗。朝や夕方は通学路として賑わっている街路を、250CCのバイクを押しながらトボトボと歩く修景。その姿たるや、エリカに見送られて黒森峰を出た時の面影など欠片も無い疲れ果てた姿だった。

 特に何のイベントも無く―――精根尽き果てた様子でバイクごと乗船許可を取ろうとした修景少年が、連絡船の受付のおじさんに「兄ちゃん、なんぞ身内に不幸でもあったのかい? これでも飲んで元気だしなよ!」と缶コーヒーを奢られた程度のイベントはあったが―――大洗学園艦に乗船出来たが、さて、これから宿を探さねばならぬのか。

 

 はぁ、と溜息を吐き―――奇しくも、妹と同じ感想を抱いたコンビニ前にバイクを停めて、のそのそとした動きでコンビニへと、缶コーヒーでも買うかと足を踏み入れる。

 自動ドアの電子音が歓迎を告げ、

 

「いや、今日の練習もキツかったぜよ」

「不用意に稜線を越えようとするからだ。突撃砲と言うが、本来は迎撃に向いた車両だからな。良いか、そもそもあの三号突撃砲が使われた時にはフィンランドが―――」

「というか三号突撃砲というのは、由来を調べればドイツ産ではないのか? 何故フィンランドに謝ったんだ、我々は」

「ああ、三号突撃砲はドイツからフィンランドに、1943年から1944年にかけてそれなりの数供与されたんだ。あの時は双方、ソ連という共通の敵が居たからな。フィンランドは自前の戦車を持たない国だった。その為、あの戦争では―――」

「三号突撃砲含め、供与された戦車が頼みの綱だった?」

「いや、スキー履いた歩兵がソ連軍の戦車鹵獲して、それ主力にして戦った」

「なにそれこわい」

 

 それ以上に濃厚な歴女トークが修景をお出迎えした。先に店内で買い物をしていた少女らが、きゃいきゃいと会話をしながら商品を物色している会話である。

 戦車絡みという修景からすれば馴染みのある話題だが、話している面々の格好が中身の濃さに負けずにまた凄い。

 大洗女子の白い制服の上から、マントや胸当て、羽織に軍用コートと、各々好き勝手な格好をしているのである。

 

「フィンランドは鹵獲したものや、あり物を組み合わせて使うことにかけては凄いぞ。第二次大戦中に鹵獲した砲とか、しれっと1990年まで沿岸砲に使っているからな」

「凄いというより耐用年数が心配になるぜよ」

「あと、継続高校だったか。あそこが使っているBT-42。あれはBT-7というソ連戦車を鹵獲して」

「うん」

「第一次世界大戦の頃にイギリスで使ってた火砲を乗せた廃品利用車だぞ」

「マジか」

「マジだ」

 

 冷静に考えると、幾ら今の戦車道ルールでは規定範囲内での改造が認められてるとはいえ、そんな廃品再利用車両で規定車両内でも最新鋭と呼べるパーシングを3両撃破した継続高校の恐ろしさが浮き彫りになるのだが、それはまだまだ先の話である。

 

「……だが、そんな廃品再利用であろうとも、いずれ戦う相手。この左衛門佐、敵に塩を送るような真似はせず、全力でかかろうぞ! さながら、上田城に攻め込んできた徳川の如く! ―――クソぁ! 手加減しろよ徳川ァ!!」

「いや、むしろなんでそれ跳ね返してるんだ、弱小大名だった真田家。しかも2回も」

 

 ちなみに真田家とは言うが、今の話題は徳川への呪いを吐く胸当ての少女―――左衛門佐(※本名:杉山 清美)のソウルネームの由来である真田左衛門佐信繁、つまりは真田幸村ではなく、その父である真田昌幸の所業である。

 3万を超える徳川の兵を相手に上田城で籠城戦を繰り広げ、結果として徳川秀忠率いるその軍は関ヶ原へ遅参し―――などというのは、話題からどんどんと逸れていくので自重するとする。

 

 ともあれ、濃厚な歴女トークとともに、ガサガサとお菓子棚を物色する異装の少女たち。

 修景としても普段ならわざわざ関わり合いになろうとも思わなかったのであろう謎の歴女集団であったが、しかし今の会話には彼としては聞き流せない内容が混ざっていた。

 

「あー……すまん、そこの大洗のお嬢さん達?」

「なんぜよ? あー……カエサル、エルヴィン、左衛門佐。このお兄さん、その棚に用事があるっぽいぜよ。ちょい避けて」

「あ、すいません。どうぞ」

「ああ、いや、そうじゃなくて」

 

 人見知りとは縁のない―――しほ曰く、母譲りの面の皮の厚さの修景であるが、彼をして若干話しかけるのに根性を必要とした謎の歴女集団。

 しかし、一番修景に近い位置に居た羽織姿の小柄な少女―――しかも猫背気味なので、余計に小柄に見える。ただし胸はデカい―――が、意外と常識的に仲間たちに注意を促す。

 慌ててお菓子棚の前を空ける彼女らに軽く手を振って、

 

「今、聞こえてきた内容だけど。この学校って戦車道、無いんじゃなかったっけ?」

「ああ、そういう……。む、怪しいぞ。お兄さんは何者だ」

「アヤシクナイヨー」

「曲者ほどそう言うのだ。……いや、曲者ほどこういう事は言わない気がする」

 

 そして修景の前に進み出てきたのは、名高き真田六文銭の鉢巻を巻いて弓道の胸当てをした、『左衛門佐』と呼ばれた少女だ。

 彼女は軽く首を傾げて、遠慮なしに修景をジロジロと上から下まで眺め回す。

 確かにこんな時間に、見知らぬ少女にコンビニで声をかける男など、実際怪しくて仕方ないので、修景も肩を竦めるのみ。

 この場合、左衛門佐が不躾というよりも、修景の方が不審者だ。ただし、左衛門佐の格好も不審者だ。

 

「いや、おにーさんここに住んでる妹に会いに来たんだわ。今さっき学園艦に着いて、今から会いに行くのもなんなんで、今日はビジネスホテルにでも泊まって明日にでも会いに行こうかなーって。で、妹と同じ学校の子らが戦車道の話題とかしてたからさ。途中から戦国時代に脱線してたけど」

「私はむしろ脱線し続けてくれても構わんのだが」

「幕末まで続いてくれても構わんぜよ」

「ローマまで飛んでくれても良いんだぞ」

 

 そして羽織とマントが横から茶々。

 ただ、幕末はともかく流石にローマは話が飛ぶにしても時代・距離的に離れ過ぎである。

 その言葉に苦笑し、修景は首を傾げる。

 

「まー歴史好きは友人に居たからなぁ。そっちでも多少は分かるけど」

「ほう。話せるなお兄さん」

「ただなぁ、ローマとなるとディオクレティアヌス時代のサン・マルコ広場の四頭像が、ウチの友人のせいで印象深すぎて、他はあんまり。アレだけは名前と画像が脳内フォルダに格納されるレベルでしっかり覚えてる」

「むぅ、やはりローマは日本では知名度が。カエサルとかスキピオとか偉人は多く居るのだが」

「俺ファビウス好きよ。戦略家って感じで」

「うむ、ローマの盾と呼ばれた戦略家だな。―――って、それ以外にも話せるのではないか。では、何故サン・マルコ広場の四頭像だけ印象に残っているんだ?」

「スマホかなんか持ってる? 画像検索してみ。多分アレ、副帝が正帝を支えてるようなイメージの像なんだけど―――」

「うん」

「はい」

「ぜよ」

 

 カエサルとの普段からの付き合いで話や来歴、存在自体は知っていても、画像までは見たことが無かったらしいコート(エルヴィン)、胸当て(左衛門佐)、羽織(おりょう)。

 マント(カエサル)は何の話かと首を傾げる中で、修景は重々しく頷き―――

 

「アレを友人から、『2組のホモにしか見えない』と言われてからは、もう俺にもそうとしか見えなくなった」

「やめろォ! 私のローマをそんな概念で汚染するな! なんか私にもそう見えてきただろ!!」

「うわぁ……確かにこれは、言われたらそう見えてくる……」

「なんでオッサン同士で肩組んでる像が……」

「あとは、『世阿弥が足利義満に寵愛されたように、優れた少年芸能者は時の権力者の男娼であった事など最早常識』とか」

「日本にまでその男色を軸にした歴史理解を波及させてこないで! そんな黒船来航はお断りぜよ!?」

 

 画像検索したらしいエルヴィンと左衛門佐がドン引く中、更に流れ弾が日本に飛びかけて、慌てておりょうが黒船来航を食い止める。

 その様子に修景は、はっはっは、などと乾いた笑いを浮かべ、

 

「俺、友人は選ぶべきかなぁ……。あいつの語る歴史の話題、だいたいホモから入るんだけど……」

 

 戦国、江戸辺りの話題のストックはかなりある。例えば武田信玄周りとか。

 歴女たちは何も答えずに目を逸らした。

 

 

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 さて、結局その後に歴女達から「大洗は戦車道を今年から復活させた」という話を聞いた修景。

 彼女たちがその履修者の一員であり、三号突撃砲を任されたチームだと、あとついでにカエサルとか左衛門佐とかはソウルネームなのだと、割と彼としては余分な情報まで聞かされたのだが―――

 

(まさか、みほの奴が関わって……ねーか。あいつ、戦車道そのものに苦手意識を抱いて大洗に行ったみたいだし。他の科目を選んでりゃ良いんだが、戦車道を選んでた場合、ちょっとまほ達への報告が厄介に―――)

 

 ともあれ、大洗学園艦内のビジネスホテルで、その日はまほには『大洗に着いた』とだけ連絡し。長旅の疲労から、落ちるように眠りにつき。

 翌日、大洗の学校を訪れた修景は―――

 

「あ、ホモのお兄さんぜよ」

「待て」

 

 歴女達から謂れなき―――いや、前日の話題選択を誤った結果の謂れある酷い称号を受け取ったのだった。

 

 




ワンクッション(ただしブーブークッション、或いは射出式脱出シートのクッション)

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