――え?
あの時、自分の見に起こったこと――“落ちた”という事実がどうも自分の頭の中で認識できなかった。いや認識はしていたのかもしれない。ただその先にある“私が”という事実を自分が受け入れなかった。模試ではいつもA判定だったし不調なときでもB以下の判定は貰ったことがない。自分の人生において不学な時期など一年も半年も、もしかしたら一日もなかったかもしれない。いや、そんなことよりも、“友達”が、“凛”や“花陽”といった大切な、大切な友達が、いるのに何故落ちるのか何故“この私”が落ちるのかが全くわからなかった。
――凛用事思い出した!先帰るにゃ!
凛は唐突にそう言った。私達が呆然としているなかで、私に気を使ってわざわざ凛には関係ない試験なのに、このあとお店も予約してくれているのに、さっき“今日は予定ないから、一日中真姫ちゃんと遊ぶにゃ~”って一番楽しみにしていたのに、一番悲しそうな顔をして涙を流しながら、凛はそれでも私を気遣ってそう言ってくれた。
――……真姫ちゃんは凄いね。
――どうして?私落ちたのよ?あんなに皆に偉そうな態度とって、傲慢な態度をとって、賢いって優秀だって宣っていたのに、落ちちゃったのよ?……ねぇ、花陽嫌味なんでしょ?やっぱり私が貴方たちの仲に割り込んで、凛との時間を奪った私が本当は嫌だったんでしょ?だから?落ちて、見事に落ちた私に嫌味を言ってるんでしょ?ねぇ!そうなんでしょ!なんとかいいなさ……!
花陽は……………泣いていた。
なにも言わずに、ただ、泣いていた。
――なんで、泣いているのよ。
――あれ?なんでだろ?分かんないや。
―ーなんでって貴方……。
――ただね、真姫ちゃんは本当に凄いなって。
――……!またそういって!
――私ね知ってると思うけど推薦なんだ。W大学の推薦。本当はN大の農学部に行きたかったんだけどね、怖かったの。最近その学部人気になっていて、この学部ほどじゃないけど倍率は5倍。科目も理系が多いし、正直志望校にしては高すぎだったんだ。先生とお母さんと話してね、ラブライブ三連覇という実績があれば、内申もいいから、W大学の推薦がとれるって話になってね、逃げちゃんたんだ。夢を捨てて。だからね、逃げないで挑んで戦っている凛ちゃんや真姫ちゃんは私には凄く輝いていて、眩しくて、なんだか私は結局“μ’s”って存在にすがっていて、なにも進めてないなって。だからね、そんな真姫ちゃんに私は、
――嫉妬しちゃったんだ。
――そんなことない!花陽は誰よりもμ’sのことを大切に思っていて、アイドルに対して人一倍一生懸命で、誰に対しても分け隔て無く接して、貴方には十分に内申を受けとる資格がある。それは恥なんかじゃないわ。それはすべて花陽が、花陽自身が、前に進んで勝ちとったものよ!前に進めてないのはむしろ……!?
――あったかい。
――ちょっと花陽!?
――……やっぱり真姫ちゃんは優しいね。とってもとってもあったかいよ。
そういって花陽はずっと私のことを抱きしてめくれた。本人があの時なにを考えていたのか、私には分からない。でも、花陽から伝わるほのかな温かさと微かに伝わる涙はしっかりと感じ取っていた。私のために、泣いてくれている。私のために本気になってくれる。その思いは、言葉は、でてこず、淀みなく流れる涙に思いの形は集約されていった。
どれくらいたっただろうか。花陽と別れた後、私は点数を聞きにいった。あと一点だったらしい。別にあと一点だろうと五十点だろうと悔しがるつもりはなかった。つまり、俗に言う“入試あるある”なのだ。どんなに頭が良くても、一次でどれだけ点数がとれても、本番で落ちる可能性があり、またその逆も存在する。つまり“巡り合わせ”なのだ。たまたまその学校とは縁がなかった。そういうことなのだ。でも、理由がわかっても、誰にでも起こりうることで、今回たまたま自分に当たったということが分かっていても、受け入れられる事実ではなかった。今まで感じなかった周りからの過度で重圧な期待が一気に自分にのしかかる感覚がした。震えて、怖くて、寂しくて、辛くて、必死に呼吸をしていても、心の震えは止まらなくて、その震えは、微かにされど確かに、この身を蝕み始めていた。
――私の人生の歯車が壊れ始めた。
私は結局滑り止めとして受けていたK大学の医学部に入学することになった。パパもママも“凄いね”とか、“さすが真姫だなぁ”とか言ってくれるが、私は知っている。パパが親戚の人達に頭を下げながら私が落ちたことを伝え、ママがご近所で私が落ちたことによる威圧をかけられていることも。全て。それなのに二人は私が“ごめんね”と言っても、“なにが?”とか“入学祝いに寿司でも食うか!”とか、変なことを言ってごまかす。そんな両親にだんだん腹が立ってきていた。両親はなにも悪くないのは知っている。むしろ自分のために尽くしてくれているので感謝するべきだ。そんなことは分かっている。けれども、嘘をつくのが苦手な二人のぎこちない笑顔や生活は見るに耐えなかった。もういっそのこと、“出来損ないの娘だ”とでも言ってほしかった。だからだろうか。少し考えれば分かることなのに。その時の私は自分のことを考えるので精一杯で人生で始めて起こり始めた“崩壊”に身も心も枯れ果てていた。一人で抱え込むと決めた思いは止まらない恐怖と絶望に対し簡単に屈してしまった。
――そうだ、私は悪くないんだ。
いつも見てくれて支えてくれた両親に私は牙をむけてしまった。
――playback――入学一週間前の夕食
カチャカチャカチャ……最近の夕食はいつもこうだ。前まではパパが変なことを言って私が突っ込んでママが冗談には聞こえないようなことを言ってパパがびびって、毎日楽しかった夕食も静かで変に厳かな食事になってしまった。そのせいか夕食もいつもより美味しくなくなってきている気がする。……やはりこの家はもうだめなのだ。やはり言うしかないだろう。
「ねぇパパ」
「なんだ真姫。食事中は静かに…」
「私一人暮らしする。」
ガシャァァァァァン!!!パパの持っていた食器が盛大に割れると共に、パパが勢いよく立ち上がった。
「ふざけるな!!そんなことを認めるわけにはいかない!!」
「ちょっと、……落ち着いて聞いてよ」
「これが……これが落ち着いていられるか!!」
「少しは私の話を聞いて」
「……なんだ」イスニスワル
「……はぁ、あのね来週から行くK大学なんだけど家から凄く遠いのよ」
「……その件に関しては毎日車を出すということで折り合いがついただろう」
「嫌よ」
「嫌とはどういうことだ」
「文字通りよ。……それに、私はこのまんまじゃダメだと思うの」
「……でも、だからといって一人暮らしする理由にはならないじゃないか」
「はぁ……もうこの際だから、はっきり言うわ。私はこの家にいてはダメだと思うの。欺瞞めいた生活。嘘臭い顔。偽証めいた声。もう全部だめなの。耐えられないの。どうせ心のなかでは出来損ないの娘だって、いっているのに、自分を擁護するために、必死に私を持ち上げて、なんとか“西木野真姫”としての体裁を保とうとして。そんな行為が見るに耐えないの。もうはっきり言ってよ。要らない子だって、出来損n……!?」グァッシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンンンンン!!!!!!
「いっ、いい加減にしろぉ!!!!!今すぐ此処に謝罪しろぉ!!!……私を侮辱するのは100歩譲って許す、だがな母さんまで侮辱するのはいくら真姫であろうと絶対に許さんぞ!!!おらぁ!!はやくあやまれぇ!!」ムナグラツカミ
「パパもうやめて!」
「うるさい!私は今真姫と話しているんだ!」
「……謝った方がいいのはパパの方なんじゃないの?」
「なんだと?!」
「これ見てもまだ分からない?」
「……っそれは、!盗聴機!何故そんなものをお前が……」
「……家族に対する暴言や暴力、立派なDVね。これは私の部屋のパソコンにもリンクしていて、このボタン一つで警察に通報が出来るわ。自分の身の程を知った方がいいんじゃない?“お父さん”?」
「ッ……!!」キィ、バタン
――歯車が完全に崩壊した。
一人暮らしする家は事件後の翌日にお父さんから伝えられた。どうにも古くからの知人らしく、その家ならまだ、安心して任せられるとか。完璧な一人暮らしじゃないけど、まぁ、いいかしら。名前は柊さんと言うらしい。どこかで聞いたことあった気がする。どうでもいいわね。
――収まりきらない恐怖は遂に私の中を飛び出した。抑えきれなかった気持ちはそれによる焦りで暴走をし、それが止むことはなかった。壊し、壊し、壊し、壊し、壊し、全てを壊し尽くした。このときの私は
幼稚だった。きっと私は、見つけてほしかったんだと思う。私の在り方を。存在意義を。でも、そんな私の甘すぎる考えを悟ってくれるほど余裕がある人間はもう、この家にはいなかった。
――引っ越し当日――
「……忘れ物無しっと。」
「真姫ちゃんもう行くの?」
「ママ……」
結局ママは引っ越し当日まで何も言わなかった。いったい今さら何用だろう。
「……私もういくんだけど」
「……これ、……今冷えてるし風邪引くといけないから、もって行きなさい。」
「これって……」
それは、高校の入学式の時につけていった赤いマフラーだった。
「……ありがと」
「……それじゃあ。気を付けてね。」
ママは多くを語らなかった。昔からそうだ。基本ママは重要なときこそ多くを語らない。でも、必ず道標を渡してくれる。それをどう使うかは自分次第だと、昔から言っている。時には指輪、時にはダルマ、時にはマフラーと毎回これ?と思うものを渡すがそれは必ず今までの経験からいくと役に立つ。今回はマフラー。これがなんの役に立つのか、皆目検討もつかなかった。しかし、そのマフラーには暖かい“μ’s”という温もりと、柔らかさが詰まっているように思えた。その温かさに、夢のように楽しかった過去に、生涯で一番輝いていた自分に、私はすがっていただけなのかもしれない。
――運命を貴方は信じますか。運命とは意志に関わらず身に訪れる吉凶禍福のことです。それは古の時から、人々を幸福にしたり、はたまた絶望に合わせた残酷で平等なものです。仮に、もし仮に、これが存在しているのだとしたら、彼と彼女の出会いはきっと運命であり必然であるのかもしれません。一人は夢を見せ、それによる反動で大切なものを失ってしまった心優しい少女。一人は、yesマンとして生きる己の人生に戸惑いを感じ、生きる意味を失いつつも、一人の少女に夢を見せられ、生き甲斐を見つけた芯強き少年。とても交ざり遇うことのない二つの“歯車”は奇妙に音をたてながら、静かにゆっくりと時を刻んでいきます。
――小さな小さな産声をあげながら
はい、とゆうわけで次回ついにオリ主登場です。やったね!※私自身リアルの生活が多忙なため、誤字脱字がかなりひどいかと思います。言い訳にしかならないのですが、もし見つけて下さった場合はお知らせ下さい。すぐに修正を加えさせていただきます。読みづらいと感じた方、また、それにより不快に感じた方、本当に申し訳ございませんでした。纏まった時間がとれ次第、大幅に修正を加えさせていただきたいと思いますので、どうかそれまで温かい目で見守ってくだされば幸いです。※