A.RI.GA.CHI.
――side??――入学式前夜
「新しい居候……ですか?」
大学の入学式の前夜、
「あぁそうじゃ。まぁ、居候兼従業員みたいなものじゃな。」
「そんないきなりですよ……。それと、どうしたんですか、その口調。」
「いやなに、わしも明日から一応“マスター”になるわけだからな、その練習をとな。」
……もっと他に練習すべきポイントは見つからなかったのだろうか。
「…で、その人はいつ来るんですか?」
「今日じゃ。」
「はい今日ですね……、今日?!?!」
「そうじゃが何か問題でも?」
……大有りだ。実に大有りである。
「今日って今10時ですよ。こんな夜遅くに来るんですか?」
「いや、その子には先に店に行ってもらって、そこで荷物整理をしてもらっている。向こうで一泊するとかいっていたな」
……まぁ確かに今の家には布団と枕以外なにもないし、引っ越したら引っ越したで店の開店に間に合わせるため急ピッチで作業をするため、私生活の方を整える時間は正直とれないと思う。だから先に行ってもらって私生活の方を整理してもらうのは正直いって滅茶苦茶嬉しいし、助かるのだが…、
「そんなことを、させていいんですか?」
いくらこれから世話をする身だからといって名も顔も知れぬ言ってしまえば他人に俺達の荷物整理を押し付けてもいいのかということと、他人が故に俺達の荷物を任せてしまって大丈夫なのか、ということを含めて言った。すると柊さんは全てを汲み取った上で自信たっぷりにこう言った。
「あの子だから、大丈夫じゃ。」
……だったら大丈夫なのだろう。この人がこれだけ自信たっぷりにこう言うのだ。柊さんは良くも悪くも人のことをあまり評さない。とゆうかあまり他人に興味が無いのだろう。そんな柊さんがここまで絶賛する人とはどんな人なのか、名も知れぬ新しい居候に期待が高まっていた。
――side真姫――同時刻
「あったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
……こちらに来てから計四時間ずっと動きっぱなしだった私の体は悲鳴をあげていた。
「自営業とは聞いていたけどまさか喫茶店なんてね……」
自分がこの家に着いたときは非常に驚いたものだ。異様に大きい玄関ドアにガラス張りの窓。何より玄関口が無いのだ。中に入っても驚きは続いた。実際いま思えば全て納得できることなのだが、一般的な家を予想していたときに喫茶店使用の家を見たら驚くのも致し方ないのかもしれない。後で確認したら裏口が普通にあったのは内緒だ。荷物を置くために部屋に行こうとしたときドアと壁の間に何か紙切れが挟まっているのが見えた。拾い上げるとその紙にはこう書いてあった。
―西木野様。荷物整理お願いします。柊――
……え?正直訳がわからなかった。ドアと壁の間に挟まっていた紙が自分宛のしかも他人におねがいする内容の紙であるなんてどこの世界にそんな非常識なことが存在するのだろうか。
――失礼すぎる。
まだテーブルの下にあったりしたらテ―ブルから紙が落ちたなどと推測ができるが今回のこれに関しては完全にそこら辺に投げ捨てたとしか思えない。また捨ててあったインパクトが強すぎて忘れていたが文の内容も相当酷い。理由を何一つ述べずにただやれとしか書いてないなんて、人に頼む態度がなっていないにも程がある。
相当キレ気味になりながら自分の部屋に着き、ドアを開けようとするが、
――開かない
ドアが開かないのである。いや正確には少しは開くのだがそれ以上はなにかがつっかえていて開けることができない。
――ナニコレ!ふざけてんじゃないわよ!
そう言って床に荷物を置こうとしたときドアの下にまた紙が入っているのが見えた。そこには、
――段ボール中に鍵があります。探してください。柊――
……つぁぁ!自暴自棄になりながら段ボールの中にあるであろう“鍵”を見つけに一階に向かった。
――そして今に至る。とゆうのは少し飛ばしすぎたか。正直この家主のことを侮っていた。鍵を見つけるだけにしたかったのに鍵は結局一番奥にあったために前にある段ボールは全てあさってしまったため、片付ける羽目になり結局ほぼ全部の荷物整理をすることになった。そして、荷物整理をしながらここが喫茶店であることに気がついた。雰囲気的にいうとバーに近い感じで喫茶店にしては重苦しい印象がある。この家の家主は厳格な人なのだろうか。そもそも、鍵が合わないと今までの3時間に渡る疲労と苦労は水の泡になってしまう。早く確かめたかったがそんなことよりも気になることがさっきから一つあった。
「この店にこの曲は合わないわよね……」
そう、曲のことである。自分は昔から音楽関係は相当嗜んでいた口なので、やはり気になってしまうのは仕方のないことなのかもしれない。やはりそれにしても、
「第九はないわよね……」
ベートーベン作の正式名称交響曲第九楽章「交響曲第九番ニ短調作品125」通称:歓びの歌、その滑らかな曲調と意味深い歌詞が称賛を浴び日本の年末の風物詩ともされている有名なクラシック音楽のひとつだ。ただこの曲は日本に広まったきっかけもドイツ人捕虜が、日本人の所長、松江豊寿を称賛する意味でオーケストラを組み広まったぐらいの曲なので意味は“自由”や“安寧”といった平和を象徴する曲だ。ただ、この喫茶店は自由や安寧というよりかは、“懐古”や“回想”といった、物思いにふけるといった意味合いの曲が似合いそうだ。やはりそうすると…………………………………………。
――side??――
「でーたま」
無事、入学式が終了した。彼女は見つからなかったけれども、それは想定の範囲内だ。
鞄を床に放り投げ着替えている途中に柊さんからの置き手紙があった。あの人は携帯を持たないため基本いないときは置き手紙を残すのだがいつもなてとうに置いてってしまうためどこにあるのか分からないときが大半なので今回はラッキーだ。さて……。
「??さん。もう帰りましたか?私は用事があるので、それを済ませてからそちらに向かいます。君は先にそっちに行っていてください。多分向こうには誰もいないと思います。柊」
……なるほど。となるとあっちも入学式なのか。この近くの大学なんてT大学かK大学しかないのでもしかしたら一緒かもしれない。だからどうしたと言われたらどうもしないが。俺は益体もないことを考えながら早足に家を出た。
× × ×
【少年移動中】
× × ×
「ここか……」
電車を乗り継つがなくて一駅。引っ越しする意味すら感じさせる近さにあるその家は相変わらずいろんな意味で目立っていた。
「さて、入りますかね……新入りはちゃんとやってくれたのかね……」
新しい居候を若干後輩扱いしつつ、見慣れた家へ足を踏み入れた。
「おお……」
……凄い。正直この一言に極まれり、という具合で完璧にできていた。しかも聞いていたのは私生活分の荷物整理だけで喫茶店分の荷物整理はしてもらってない、とのことだったので、喫茶店の分までしてあるのは余計に驚いた。……しかし本当に凄いと思う。この量を一人でやるなんて相当な集中力と力が必要だ。正直俺達の予定では疲れない程度に小分けにしてやって一週間で終わらせる予定だったのでこれは相当に助かることだ。……が、ここで自分が最も恐れていたことが余計に現実味を帯びてきた。
「新入りの奴……もしかして武道に精通してないだろうな……」
そう、俺が最も恐れていたのは新入りがいわゆる“武道派男子”である場合だ。柊さんは引っ越しする際には家のことや喫茶店のことについては懇切丁寧に教えてくれるが、新入りのことについてはいつも黙秘権を使用してくる。だから、俺に苦手な相手なので黙っているのではないかと冗談混じりに思っていたが、ここまで証拠が出揃うとさすがに不味い。本当にそうだとしたら俺h……ガチャァァァァァァァン!!!
……待て。落ち着くんだ。落ち着いて状況を整理するのだ。いま柊さんによると新入りは出払っていてこの家には俺以外はいない。そんなときに音がなるということは、これはポルターガイスト。つまりお化け。Q.E.D.
……違う。全然よくない。全然証明終了しちゃダメだ。
……確か、二階から聞こえたよな。……行くしかないか。
ギシ 、ギシ、ギシリ。
――階段の上る音さえ今は非常に大きく聞こえる。その時の俺は異常な程に極限状態だった。度重なる恐ろしい事実や恐怖。まともに考える余裕何て持ち合わせていなかった。だからだろうか、普通に考えれば誰にだってわかることなんだ。こんな音は生活音からは絶対でないって。この音は人が出したものだって。人の部屋に入るときは必ず“ノック”をするということを。そもそも柊さんは基本てきとうなところは本当にてきとうに済ませてしまう人なのだ。だからあの柊さんが人の、それも他人の入学式の日なんて調べるはずがないって、普通に考えれば分かる。でも、そんなことはその時の俺には到底考え付かなくて、前を歩くことで精一杯な自分がその未来を回避できるわけもなく扉の前についてしまった。極限状態の中、部屋を開けた先には―――――――――――、
下着姿の
今の話から現在進行形になります。