当初投稿するつもりはございませんでしたが、折角なので投稿させて頂きます。
内容はタイトル通り、妄想によって作り出された第二話です。
一人でも多くの紳士に楽しんで頂ければ幸いです。
以下のことにご注意下さい。
アニメ一話時点の情報で書いた作品ですので、実際の二話以降の内容と異なる部分がございます。
キャラクターの人物像も一話だけではどうしても掴み切れず、想像……妄想で勝手に肉付けした部分もございます。
当方初の二次創作になります。拙い部分も多く見受けられることと思います。
それでも読んで下さる物好きな方はお付き合いくださいませ。
・・・ ・・・ ・・・
様々な要因から、一念発起して塾の合宿に臨んだ俺…嘉味田正一。
「さぁ~むぅ~い~ぃ……」
実力テストという試練に大敗。
周囲のレベルの高さに打ちのめされ、常木さんのスク水カルビという天国のような妄想に浸っていた俺の前に
「う、うぅうう……」
「うわぁぁあああっ! 出た! 出た! 幽霊!」
――幽霊が這ってきた。
「う、うぅ……」
「ごめんなさい! ごめんなさい! 神聖な合宿中なのに常木さんのスク水カルビを妄想しちゃってごめんなさい!全部俺が悪いんです! だからどうか命だけは…!」
お、落ち着け。こんな時は全力で平伏して許しを請うんだ。
そうすれば命までは取られないって図書室の本に書いてあったはずだ。
頼むぞ、悪霊退散BOOK 参ノ巻!
(え…?スク水?カルビ?)
「ぷっ、ふふっ、ふふふふ、あはっ、あはははは、何それ何それ! 面白い!」
「ごめんなさい! ごめんなさ……え?」
「鈍いなー、そして流石だなぁー、 ハ イ ト ク セ ン セ イ は 。」
「…えっ、ええっ!? まさかまさかまさか、常木さん!? いや、でもこんな所に常木さんがいるはずが……しかも窓から現れるなんて、なんで! どうして!?」
そう簡単に信じられるはずがない。
ここは受験の闇に沈む者の集う地獄の只中であって、もっと言うと俺の泊まっている部屋であって、常木さんが居るべき場所じゃないはずだ。
……そりゃ、まぁ…居てくれれば役得なんだけどさ。
「なんでもなにも、私は私よ? 偶々近くの海だったみたいね」
「…キミこそ何でこんな所で遭遇するワケ?」
「いや、それは……」
「それはそれとして、まさか私が幽霊と間違えられるなんてねぇ~。ミスサンタコンテスト準優勝の名が泣くわ。……今まさに泣きそう」
ああ、間違いない。そろそろこれが現実だと認めなくてはならないようだ。
この揶揄い方、それを受けた時の何とも言えない気持ち…。
彼女は幽霊なんかじゃなく、正真正銘常木さんだ。
その身体は紺のショートパンツと黒のタンクトップに包まれていた。
大人びたイメージを感じさせ、持ち前の美貌も相まってミスコン準優勝の威厳を見せていた。
加えて言えばチラリと覗くおへそや、脳内メモリを独占しそうな美しい脇なんかある種芸術の域だとかなんとか。
そんな邪なことが頭を掠めるのはもはや男の性だろう。
「いやいやいや、違うんだよ常木さん。うん、常木さん。あれは郁夫のやつがあんなことを言うから……」
「郁夫君が、ねぇ……」
「そうでもなければ、常木さんみたいな水も滴る良い女の子を見間違えることなんて…」
そこまで言ってようやく気付いた。
どこか感じていた違和感、彼女を幽霊だと思ってしまったもう一つの原因に。
例えの話でなく、本当に常木さんの身体からは水が滴り落ちていたのだ。
彼女は――震えていた。
瞬間、
「――ッ、常木さん、大丈夫!?」
彼女に駆け寄り、思わず肩に手を置くと―――冷たい!
「ごめん、俺がもっと早く気付いていれば!」
「……肩。…手」
「あっ、ごめん!」
「……なんて、もう限界かも」
虚勢が解けるとはこういうことなのだろう。
いつもの勢いはどこへやら、見れば見るほど弱々しく見えてくる彼女。
常木さんがこんなに小さく見えるだなんて。
彼女の周りに静寂が訪れるなんて。
そんなことがあってはいけない。
彼女は何というか…賑やかさ、華やかさの象徴なんだ。
何とかしなくては。
「……このままじゃいけない。とりあえず温まるのが先決だよ!」
「……そうね、そう…思う」
「と、とりあえず、お風呂に入ろう。貸すよ」
「ありがとう…今は……そうね、お世話になるわ」
「さ、こっち。俺の残り湯なんかに入れるのは悪いけど、そんなことを気にしている場合じゃないからさ」
俺も合宿中だし、貸すも借りるも無いんだけど、どうにか了承を得て移動する。
と、風呂場。
「では、ごゆっくり」
「……ありがと、ね」
戸を閉めるときにかけた何気ない言葉に、彼女はとても素直に答えてくれた。
……ような気がした。
・・・ ・・・ ・・・
時刻は午後九時。
俺は部屋をうろつきながら思い出していた。
この地獄の合宿には消灯時間がある。
22時には寝て、翌日に備える必要があるらしい。
……22時って、小学生の修学旅行じゃないんだからいくら何でも厳しすぎる!
そんな風に訴えたいのは山々だけど、学生という立場、そして実力テスト最下位という事実がそんなことを許すはずもない。
せっかく参加を決断したのだから、やり遂げてみせるぞ!
…なんて、あえて思考を向けないようにしているけれど、聴覚を遮断することは出来ない。
『サァーッ』
水の流れる音がする。
『んーっ、生き返る~』
落ち着いた声が聞こえる。
それらを一度でも気にしてしまうと、もう止まらない。
思考は一気に加速する。
霞がかった肌色、整ったシルエットの先に見える微かな火照り。
寒さに震えていた身体は確かな熱を取り戻してゆく。
どうしたってそんな映像が脳内に浮かぶ。
『だって、嘉味田君可愛いんだもん』
何度も聞いた、揶揄い上手な彼女の声。
『…ありがと、ね』
初めて聞いた、しおらしい彼女の声。
それらが頭の中をいつまでも回り続ける気配を感じ――
「あああああーっ、もう! これじゃだめだ!」
思わず叫んでいた。
自ら頬を叩き、気持ちを切り替える。
大体成り行きとはいえ、こんな場面に遭遇して落ち着けるはずがないんだ。
ね、姉ちゃん以外の女の子の、それもあの常木さんのお風呂だなんて刺激が強すぎる。
だからといって、今はこんなことを考えていて良い状況じゃない!
この状況を打破しなくては。
・・・ ・・・ ・・・
「よし、ついたぞ」
あれから役に立てることはないかと考えた結果、俺は部屋から歩いてすぐの自動販売機に辿り着いた。
「パンダココア、パンダココア」
購入するのは馴染み深いパンダココア。
それもホット仕様を二つ。
合宿中、飲み物を買おうと訪れてみれば売っていたのは温かいパンダココア。
お昼に見つけたときは、郁夫と一緒に笑ってたっけ。
夏なのにホットかよ、って。
でも今の彼女にとって、温かい飲み物は多少なりとも役に立つはずだ。
とりあえず一緒に飲みながら詳しい話を聞きたい。
さっきはからかわれて流されたけど、やっぱり放っておけない。
目の前で女の子が困っているのなら助けになりたい。
そのための一歩を踏み出すんだ。
・・・ ・・・ ・・・
『あ~、気持ちよかった。生き返った気分』
暖かく私を迎えてくれた、温かい湯船に名残惜しさを感じつつもお風呂から出る。
タオルで丁寧に水滴をふき取ると、手近に用意されていた彼のジャージに着替え、ドアを開けた。
『よーし、上がったよ~。ご迷惑お掛けしました~』
『って、あれ?』
『嘉味田くん……居ない?』
なぜ?どうして?
疑問に思うや否や、私は推理を開始した。
……彼のことだ、この状況下で『ハイトク的なこと』を想像したのだろう。
オトコノコだもの。
でもすぐに私を心配する気持ちが勝って、いけないことだと思い直した。
そうしたら少し前の自分が恥ずかしくなり、頭を冷やすために外に出たのだろう。
うん、きっとそうに違いない。
確信した私は、得意げにベッドへ腰掛け思考を続ける。
私の勘はよく当たるのだ。
中でも思春期男子の頭の中を当てることは、比較的簡単なこと。
ミスサンタコンテストで準優勝するぐらい周囲から可愛く見られる私は、昔から多くの人に注目され、様々な視線を受けながら生きてきた。
その中には羨望や好意といった正の感情だけでなく、妬みや僻みという負の感情が込められていることも少なくなかった。
今まで生きてきて苦労したことも、悩んだことも勿論あった。
だが私はこういう人間だ、生来の明るい性格が幸いし、屈折しきることなくここまで来れた。
今では本当に良い友人たちに囲まれて過ごしていると思う。
他愛もないことで笑いあえるのは幸せなことだと思う。
人の勘とは、こうして抱いてきた感情、確かな経験に支えられて成り立っているのだ。
そう思えるからこそ私は自分の勘を信じられる。
彼は『純粋で良い人』なのだ。
前者の根拠は、やはりからかった時のあの反応だろう。
普通は冗談だと見抜き、上手く流して躱す所を彼はいつも真正面から受け止める。
この前も顔をあんなに真っ赤にさせちゃって…。
ふふっ。やっぱりカワイイ。
実に揶揄い甲斐のある人だ。
後者の根拠?
それは――
「上がってたんだ、常木さん。飲み物買ってきたよ!」
ほら、こういうところとか。
・・・ ・・・ ・・・
「上がってたんだ、常木さん。飲み物買ってきたよ!」
部屋に戻ると、既に入浴を終えてベッドの上で寛ぐ常木さんが迎えてくれた。
「これ、お口に合うか分からないけど、パンダココア」
「ありがとう。頂くわ」
そう言って、常木さんは缶に口付けた。
「それにしても、よくあったわね…夏なのに」
「そうそう! 夏なのにホットとか、笑っちゃうよね。俺はホットも好きだし、今の常木さんにとっても温かい飲み物が良いかなーって、一応考えて選んだつもりなんだけど…どうかな?」
「うん、美味しいわ。また今度買ってみようかしら」
彼女はそう言うと、元通り快活な笑顔を浮かべる。どうやら調子は大分よくなってきているようだ。
「よかった。是非また飲んでみてよ!」
俺が笑顔で返事をすると、幾許かの静けさが訪れた。
……なんだか良い雰囲気だ。
思えば今まで唐突に揶揄われることはあれど、こうして腰を据えてじっくりと会話をする機会はそうなかった。
いざこういった状況になってみると、気になること、聞きたいことは山のようにある。
どうして自分を揶揄うのか。荒木先輩のことをどう思うのか。髭面の男性との関係性。
本当に、沢山あるんだ。でも今は……
「どうして雨に濡れていたの?」
これだろう。本来この不思議な状況は、海水浴で何の問題も起こっていなければ生じないものなのだから。
「……やっぱり、気になっちゃう?」
「うん。もし何かあったなら力になりたいんだ、俺」
「そう……頼りがいあるのね」
「まっ、まあ……ね」
「そこは自信ありげに頷いてくれた方がカッコいいよ、普通は」
「ご、ごめんなさい」
「まぁ、嘉味田君はカワイイからそれで良いんだけどね」
「それは……ありがとう?」
「一応、褒めてるつもりよ。さて、何があったのか話す前に、ちょっとだけソレを拝借」
彼女はそう言うと、部屋に備え付けの電話を使って電話をかけ始めた。
・・・ ・・・ ・・・
『うん。そう。うん。ありがとう。それじゃあまた』
「電話、終わったわ。」
「お疲れ様。誰にかけてたの?」
「それも踏まえてお話しするわ」
「……最初は海で遊んでたの。楽しく泳いで…バーベキューして…そうそう、スイカ割りもしたわ」
「なるほど、続けて」
「でも、やっぱり夏じゃない? 夜になって、やることになったのよ、アレを」
「……アレ?」
「……肝試し」
「へ?」
聞き返す俺に、彼女はにじり寄り…
「だぁ~かぁ~らぁ~、 き も だ め し よ !」
「あ、ああ、肝試しね。 はいはい」
「別に怖くなったわけじゃないわ。寧ろ逆よ逆!」
「というと?」
「……私と洋子は驚かせる側だったのよ。そうよ、まさに幽霊ね」
……なんということだ。彼女は常木さんでありながら幽霊でもあったのだ。
奇しくも幽霊だという俺の指摘は的を射ていたようだ。
「驚かせる側は先に準備しておくことになって山に入って行ったんだけど、洋子は『特攻隊長~』とか言って前線に、それに対して私は奥の方でスタンバイしてたのよ」
「うん」
「そうしたら急に降ってきてね、雨」
「通り雨、酷かったみたいだね」
「ホント凄かったのよ。前もって降りますって感じを出しておいてくれないと驚くわよ! 困るわよ!」
「それで……どうしてここに辿り着いたの?」
「迷ったの! 道に!」
普段は山に入ることもない上に、初めて立ち入った場所だ。遭難するのも無理もない。
「それはシンプルに困ったね」
「そう! あたり一面暗い夜、慣れない道に突然の雨。焦って移動していたら道を間違えちゃったのね。戻るのも難しくて、あっちこっち彷徨っていたらこの建物を見つけて、縋るような思いで駆け寄ったわ」
「そうしたら丁度俺の部屋の窓が開いたってことか」
「そういうこと。偶然だったけど、知っている人の部屋で良かったわ。ありがとう」
いやいや、全然大丈夫だよ! 少しでも力になれていたならよかった!
そう言おうとした口は……
「こちらこそ、美しい脇と可愛いおへそをありがとう!」
とんでもない失言(心からの本音)を送り出してしまっていた。
「ふっ、あははは! ははっ! 何それ! そう返すかなぁ普通」
「いや、その、つい本音が……」
「じゃあ、集金です」
「ええっ! お金取るの!?」
「真に受けなくてもいいわ。冗談よ」
……なんてやり取りも挟みつつ、パンダココアを飲み干した俺は意を決して考えを口にした。
「それで、今日なんだけど……泊まってく?」
分かっている。分かっているさ。とんでもなくとんでもないことを口走っているってことぐらい。
でも、これが俺の中で出したベストな結論だった。それが偶々こうなっただけなのだ。間違いなく不可抗力。
やましいことなど欠片もないのだと、心の中で呟きながら、誠意を込めて彼女を見つめる。
「いいの?」
彼女の問いかけに、
「もちろん!」
コンマ三秒で答えたことは言うまでもない。
「変なことはなしよ」
「当り前さ! カブトムシに誓って!」
「カブトムシに誓って……?」
「誓いはここに結ばれた! 契約に基づき、俺は床で寝ます!」
「ムリしてるでしょ?」
「む、無理なんて、全然!全く!これっぽっちも!」
「ホントにそう?」
「いや……実はちょっとだけ……。でも、こんな状況で常木さんを一人で帰らせるなんて、それを見過ごすことの方がよっぽど無理だよ!」
もう遅いし、またいつ降ってくるとも限らない。
そんな危険な状況で一人きり、彼女を帰すわけにはいかない。
意地でも。
そう伝えて、再び電話をかけるように促した。
民宿に泊まるとか、そういうことにして、俺の居る部屋だってことが伝わらなければ彼女にとっても問題ないはずだ。
・・・ ・・・ ・・・
彼女が友人達に連絡をしている間を待つ俺に、つい一時間前の現実とは乖離した嘘みたいな今を過ごしている俺に、ソレは訪れた。
いや、気づいていなかっただけで、忘れていただけで常にソイツは迫ってきていたのだ。
時計の長針は11を既に回っている。
短針は当然のように、限りなく10に近くて…。
「連絡終わったわ。改めて今日はお世話になります。よろしくね」
「……ま、ま、マズい! マズいよこれ!」
「……打って変わってどうしたの?」
「忘れてた、やばいやばい! どうしよう!」
「何だか分からないけど、とりあえず落ち着いて話し合いましょう。今日は一蓮托生なんだし」
「この合宿、22時消灯なんだ! ああ、見回りが始まっちゃう! 常木さん、悪いけどなんとかして隠れて!」
「ええっ! 大変! もう時間ないじゃない!」
痛恨だ。痛恨の極み。この部屋は1階だ。見回り開始からこの部屋に先生が訪れるまでに時間的余裕は殆ど無いと言えるだろう。
「とりあえず行くわよ!」
「行くってどこに!?」
タイムリミットはあと30秒。
なるべく音を立てずに、一瞬で隠れられる場所……場所……。
あそこしかないんじゃないか……?
「ベッドしかないじゃない!」
「ごめん、今はごめん!」
もはや一刻の猶予もない。平謝りしつつ、電気を消すと、静かにそれでいて素早くベッドに滑り込んだ。
密着する体。伝わる柔らかさ。ほのかなオンナノコの香りが鼻孔をくすぐる。
……勉強しに来たのに初日になんで、女の子と二人でベッドに入っているんだ?
だめだ、そんな事を考えては! 今は息を潜めてやり過ごすんだ……。
(……ね、こういう状況ってさ、ドキドキしない?)
(なっ!? い、いきなり何を!?)
(ねぇねぇ、そこのところ、どうなのよ?)
(……そりゃ、まぁ、俺も一応男ですし。し、自然の摂理と言いますか……。 そ、そういう常木さんはどうなのさ!)
(わ、私? 私は……。私は……そうね)
小声でそんなやり取りを続けていた俺達。
俺が最後の最後に繰り出した、渾身のカウンターパンチに対する答えは、ドアの開く音によって遮られた。
(……まずい、来た!)
(!? みたいね!)
二人して息を潜める。コツコツと響く教師の足音。
一転して緊張感が場を包んでいた。
「嘉味田は……確か基礎クラス最下位だったな」
何かあまり嬉しくない情報が発せられたようだが、俺は必死に心を無にすることに集中した。
色不異空、空不異色、色即是空……。
空即是色、受想行識、亦復如是……。
心の中でお経を唱える。
今は眠れ、ただ眠れ。その日が来るまでただ眠れ……。
眠れ……眠れ……ねむ……れ……。
「よし、問題ないようだな。初日から真面目に過ごしていればいつか報われる日も来るだろう。多くの生徒を導けるように、仕事、頑張るか」
闇に沈みゆく意識に、教師の呟きが聞こえた気がした……。
・・・ ・・・ ・・・
(嘉味田君、嘉味田君。嘉味田……くん?)
嘘、もしかして寝ちゃったの……かな。
………しかたないなぁ。うん、しかたない。
考えてみれば、彼も合宿で疲れていたところに私が押しかけて苦労したはずだ。
その上、私がここに居ることを隠すために必死だったのだろう。
ここで寝てしまっても仕方がない。
だから……。
(今日は私もこのまま寝よう)
そう決意して目を閉じる。
視覚を絶った思考の世界で、ついさっき彼がした問いがよみがえる。
『常木さんはどうなのさ』
私……私は……。
あの時の答え。流れてしまった会話の答えを胸に、私の意識は溶けていった。
・・・ ・・・ ・・・
木々の葉が色づき、見ごろを迎える十一月。
放課後の教室で帰り支度を進めつつ、郁夫との会話を楽しんでいた。
「懐かしいよなぁ、イナゴマスク」
「だよなぁ。俺、昔さ、姉に初代の変身ベルトプレゼントしてもらったんだよな」
「マジで! 当時小学生だったからなぁ……。俺の誕生日には三号のやつしかなくって、それを買ってもらったっけ」
「いや、それがさ、一年前の古いやつだからいらないって断っちゃって……」
「なんだって!」
「今思うと、姉に悪いことしたなぁ……って思ってる。もちろん、変な意地張ってないでもらっておけよ、とも思う」
「そうか、苦い思い出だな」
「でも、今は分かる。俺はちゃんと姉に愛されていたんだなぁって。おかげで今があるんだなぁって」
「俺も萌ねぇ……姉ちゃんには日頃からお世話になってるなぁって」
「ふとした瞬間に感じるよな、そういうのって」
「ホントにな」
「自分を大切に思ってくれる存在には感謝の心を忘れずに。支えられて生きているって意識を……って、なに語ってんだろうな、俺達」
「イナゴマスクの話だったのにな」
「やっぱ特撮作品は色褪せない名作ってことだな」
そうこうしつつ、帰り支度を終えた時――
「正 一 君 !」
「ひ、耀!」
職員室での用事を終えてきたのだろう。
彼女の眩しい笑顔が夕日と共に降り注ぐ。
同時に赤く染まる、俺の頬。
「おっ、今日もアツいな~。お二人さん」
「ふふっ、郁夫君こそ~。正一君を取っちゃダメなんだからね」
「そこはご心配なく。俺はそういうの、ノーマルだから」
「ホントかな~」
「本当、本当。大丈夫」
「郁夫は……大切な親友だよ」
「そうね。冗談よ、冗談」
「俺が好きなのは、世界で一人、耀だけだよ」
「なっ!? ふっ、不意打ちはズルいんじゃない!? 反則よ、反則!」
「郁夫までからかって、お互い様だろ?」
「そ、それは……」
「それに、本当のことを言って何が悪い。反則でもなんでもない」
「言ったわね。それなら私も。好きよ、正一君。……好き」
「俺のほうがその5倍は好きだね」
「それなら私は……」
「あー、はいはい。分かった、分かった」
すっかり郁夫に呆れられてしまったようだ。
「ま、末永くお幸せにな。お二人さん」
「「…………」」
ニヤニヤしながら立ち去る郁夫の背中を、俺と耀は暫く見つめていた。
二人きりの教室。
沈黙を破ったのは耀の方だった。
「ね、この後、たい焼き食べて帰りましょう」
「……うん。そうだね。そうしようか」
冷え始めた気温を塗り替えてしまうほど、温かで柔らかな手を取って歩き出す。
思えばあの時合宿に参加しようと、自分を変えようと決意したのは、自分より遥か先を歩いている耀の姿に力をもらったからだった。
そんな彼女と共に、並んで歩いている。
将来の夢はカブトムシ――誰かを笑顔にし、喜ばれる存在になることだった俺。
未だ具体的な形には出来ていないサナギの俺だけど、いつか形にしてみせる。
耀と一緒ならそれが出来ると信じている。
だって――
「どうしたの? 私のこと、見つめちゃって」
「いや、やっぱり耀は俺にとって運命の人だったんだなぁって」
「私も。こうして一緒に歩いていると幸せだなぁって、思ってた」
一緒に居て自然と笑顔になれる存在。
支えあって生きていきたいと思える存在。
そんな彼女もまた――
隣で微笑んでくれているのだから。
あとがき
初めて二次創作をした作品になります。
ノリで書き始めたものの、難しいこと難しいこと。
いや、一話しか視聴していない段階で書くこと自体に無理があるというツッコミはなんというかもう、はい。
一流のクリエイターさんの凄さが身に染みました。
感想を頂ければ、それはとても励みになりますし、このような暴挙に出た意味もあるというものです。
書きたくなった時に、また書きます。
それではアニメセイレンの成功を祈りつつ筆を置きたいと思います。
またあとがきまで辿り着けたなら、そこでお会い出来ると光栄です。
そんなこんなで。
二〇一七年一月十六日 東村。