『第六天魔王』織田信長と『世界最後のマスター』藤丸立香との毒にも水にもならないぐだぐだな日常。
「殿! 既に囲まれています!」
燃えゆく寺院。
遠く見える篝火は、その一つ一つが自分達を狙う地獄への誘いだ。
仲間だと、そう思っていたのに。何故。
「……狼狽えるでない」
上から凛とした、静かな、それでいて落ち着きが伴った声が落とされる。
「こうなれば、貴方だけでもお逃げ下さい。退路は俺が……!」
手に持つ武器を握り込み、覚悟を決める。
自分が死に絶えても構わない。だが、彼女は今死ぬべきではない。彼女と掛けた時間を、戦いを無に帰したくない。
だから、彼女だけは殺させない。
「藤丸よ────もう、良い」
肩に暖かい物が触れた。
彼女の手だ。何度も救われ、導かれた。彼女の小さき大いなる手だ。
そして、振り返りざまに見た彼女の瞳は驚く程にいつも通りだった。
赤く血のように紅い眼が、艶がかった長い黒髪から俺を見つめている。
彼女は言外に言った。
助からない、と。
逃げられない、と。
そして、今日まで彼女と過ごした故に気付いた。
彼女のもう一つのメッセージに。
して、お主はどうするかのぅ?
はあ……全く、困ったお殿様だ。
今この瞬間にも死が迫っていると言うのに、このうつけ様は俺を試しているらしい。そして、本心では死ぬ気などさらさらないのだろう。
何とも面倒臭く、そして分かりやすい人だ。
「決まってる。全員で生き残る。そして勝って帰るんだ!」
俺を覗いている瞳が大きく開き、燃え上がるように紅い光を灯す。そして、口の端をニィと歪ませ、大笑いをされた。
腹を抱え、目尻からはうっすらと涙すら湛えている。
ひとしきり笑いに笑った後、彼女は俺を再び見据えいい放った。
「この状況で、ワシとお主だけでなく、全てを救うと言いのけるとかっ、 流石と言うか、お主はうつけの中の大うつけじゃ!」
そして、
「────だが、是非も無し。 そうでなくては面白くない! さあ、往くぞ。うつけはうつけ同士、笑いながらこの世を地獄に変えようではないか」
彼女は俺の前に立ち、手に持つ黒き武器を敵陣に向ける。
「ワシの名は信長────第六天魔王、織田信長じゃァ!」
──ブチッ
何かが千切れた嫌な音が聞こえる同時に、先程まで居た敵陣────テレビに映っていたキャラクターが消え、代わりに画面は地獄の底にも負けないような真っ黒黒だ。
「「アアァァァアアアア!!」」
誰もが寝静まった夜中、俺と信長は絶叫する。
今日一日分のデータがぁ…………。
「……ねえ、信長」
この事態を引き起こした諸悪の根源を睨むが。
「わしは悪くないもん」
そう言ってクッションがわりにしていた布団を捲りそのままベッドの中へ隠れてしまった。
俺は諦めと疲れから手に持つ黒い武器──ゲームコントローラーを床に放り、横になった。
はあ。冷たい床が気持ちいい。
そう、此処は戦国時代でもなければ焼かれることに定評のある本能寺でも無い。
藤丸立香に与えられた自室であり、敵というのはなんてことは無い。只のゲーム──『ドキドキ☆本能寺』内で四又した結果に引き起こされた修羅イベントのキャラクター達の事だったりする。
発端は、俺の国から生まれたゲーム。「信長の野望」をうっかりマシュ話してしまったの事から。と言っても、俺もそのゲームをやった事がなく、クラスメイトから聞いたプレイ内容を簡単に教えただけだった。
そこまでは良い。
まだ何時もの雑談程度だし、マシュが「なるほど、マスターのお国は歴史を大切にしているのですね!」と何だか自分も褒められたようむず痒い感覚に襲われただけだからね。
問題は、この話題を何処から聞きつけたのか、本物の織田信長様が直流&交流&蒸気の開発チームに加え、黒ひーにプロデュースさせた闇鍋の如きゲーム『ドキドキ☆本能寺』を生み出してしまったのだ。
そして、俺は光栄なるテストプレイヤーという名の毒(確定)味役という訳だ。
まあ、総監督であり言い出しっぺである信長も一緒にプレイする言い出してくれたので、飽きる事は無いだろう。彼女の騒がしさは時にうっとしいが、こういうゲームでなら賑やかなお巫山戯要員になるので大変好ましい。
まあ、問題はこのゲームだった。
正直黒髭が関わっていたと聞いた時からあまり期待などしていなかったが、これが存外に面白い。
忠実などクソ喰らえと言わんばかりの改変や、シュミレーションなのに急に出てくる格闘パートや推理パート、更にアイドル育成など、一見するとカオスの極みなのにそれぞれの要素が絶妙に組み合わさり神ゲーに見えた。
お陰様で、俺も信長もすぐにゲームの没入した。お互いの呼び方(何時もは殿! 何て時代がかった呼び方はしない)すら変わり信長も第六天魔王モードでノリノリのアゲアゲだった。
まあテンション上がった結果、有線コントローラをぶん回してゲーム機本体のコンセントまで抜けてしまう辺り、信長らしいと言うか、ぐだぐだと言うか……
そんな回想を勝手に頭の中で繰り広げていると、パサっと毛布をかけられた。
床に付けていた体を起こし、ベッドの上にいる信長の方を見る。掛け布団と毛布の2枚組が今は一枚ヘリ、掛け布団だけになっていた。
部屋には空調も効いているしそこまでは寒い訳ではない。
更に言うのであれば、ここは俺の部屋で、信長にも自失が用意されている。寝たいのならば、自分の部屋に帰ればいいのだ。
でも、折角なので彼女の優しさを快く受け取る事にした。
唯一点いていたテレビの明かりを消す。
すると部屋はあっという間に真っ暗だ。
「お休み、信長」
「…………うむ」
毛布に包まり、ゲームで疲れた脳を休ませる為に瞼を閉じる。
すると、日々の戦闘訓練による肉体的な疲れから来る眠気とは違う、純粋な遊び疲れの眠気が襲い、俺はあっという間に夢の世界へと墜ちていった。
◆ ◆ ◆
「という訳です清姫さん」
「そういう訳じゃ、蛇娘よ」
「あらあら、では本当に他意は無いと?」
「「無いです(のじゃ)!! 」」
「嘘、では無いようですね。……もう、ますたぁと信長さんが床で同衾していたので、わたくし驚いてしまいました」
誤解が解けたようで何よりだ。
まさか、朝ごはんを呼びに来たきよひーとは……
しかも、信長さんや。あんた相変わらず寝相悪いな。何でベッドから落ちて起きないんだよ。あまつさえ、俺の毛布に潜り混んじゃうんだよ。お陰様で、朝からカルデア裁判だよ。
罪状は『不純ますたぁ交友』らしい。何だそれ。って言うか、どんな状況で作られた法律なんだ……?
「……でも夜遅くまでげえむをするのは健康によろしく無いと聞いております。なので、次からは控えるようにお願い申し上げます……マスター?」
顔をしかめ、私怒っていますよオーラがふわふわ出す清姫。
「うぅ……分かったよ」
はあ、しょうがない。
体調管理だってマスターの務めだ。ならば、自分から悪くさせる様なことは行うことそのものが間違いだったのだ。
うん、友達と夜中まで遊んでいた頃を思い出したようで楽しかったし、信長的に言うのであれば是非も───
「おいおい、何を言うておる。死ぬかよ娘?」
清姫の額に信長の宝具である種子島が突きつけられる。
「此奴の自由は此奴だけのモノ。それを奪う事は、決して許さぬ」
余りもの殺気で背筋が凍った。
一言も発せられない。今口を開いたら、きっとその銃口は俺にすら向くだろう。
生意気だ──多分、そんな理由で眉間を撃ち抜かれるだろう。
気に入らなければ、神すら恐れず殺す。
それが織田信長。
自分を第六天魔王と称した英雄の在り方だ。
「故に、弁えよ娘。お主とて鉛弾を舐めたくはないであろう?」
それは脅しだ。
清姫の命を人質にした、有無を言わせない恐喝と言ってもいいだろう。
信長の気迫に押されてか、清姫の体が細かく揺れる。
そして、
「────嘘吐き」
体を震わせていたのは恐怖からでは無く、
「そんな嘘を吐くような人には、決して屈しません」
怒りから。
「嘘、とな?」
信長は依然として銃口を清姫に向けたまま、首を傾げた。
「貴女はますたぁの為と言いましたね、それこそが嘘。 そんな事、貴女は少しも思ってなどいない」
清姫の口からは焔がチロチロと、まるで蛇の舌のように蠢いている。
「何故なら、貴女はますたぁを自分のモノだと捉えているから。だから、ますたぁの自由とは、貴女の所有する財も同じ。それを奪おうとしたからこそ、貴女はこうも感情を表沙汰にしている」
だから───嘘。
俺の為に怒ったのではなく。
信長は己の為に怒ったのだと、清姫は指摘する。
信長は口を噤み、銃口を降ろす。
「ならばどうする。わしを焼き殺すか? 鐘に閉じ込めた何処ぞの坊主の様に」
ようやく、信長は口を開いた。と言うよりは火蓋を切ったという方が正しそうな物言いだ。
ここからでは顔を見ることは叶わないが、機嫌が良いとは思えない。
「いえ、違います」
首を振り、清姫は否定する。
「わたくしは正直に言ってほしいだけです。貴方の本音を、嘘偽りなく」
「ふむ……そうじゃのう。確かに此奴の為だった、と言うのは幾らか誤りがあるのう」
信長は何故か俺を見て、微笑む。
「じゃが、此奴の事を思って、と言うのも嘘では無いのだ」
清姫は、何も言わず耳を傾けた。
「家来の物はワシのもの、ワシの物はワシ物。此奴も例外では無い。じゃが──そうでは無いのだ。ワシのものだから、という訳では無い。もっと直接的な、そう。まるで、ワシの自由が奪われたような……うん、上手く言葉に出来ず、すまんのぅ娘よ」
珍しく、申し訳なさそうな声を出す信長。
彼女がこんな声を出せるとは知らなかった。長い付き合いなのになぁ。
「いえ、ありがとうございます。本音という、心根の深い部分を晒させてしまいましたね」
清姫は続けた。
もう、体は震えていなかった。
「……わたくしも、少々しつこかったかも知れません。ええ、ますたぁの自由はますたぁだけのモノ。それに気づかないわたくしも、悪うございました。気づかせてくれて、ありがとうございます。信長さん」
清姫は素直に謝罪を延べ、ペコリと頭を下げた。
彼女とて好きで朝からこんな修羅場を作った訳では無い。
それが彼女の在り方である以上、嘘を吐いたらこうなるのは当然だったのだ。嘘を吐いたと言う、自覚の有る無しは関係しない。
清姫は嘘そのものを憎んでいるのだから。
因みに、最近はそうでも無いが、カルデアに来て間もない頃は、嘘・即・焼、という感じで、俺もちょくちょく死にかけたりしたっけ。
「ではますたぁ、先に食堂でお待ちしております」とだけ言って清姫は部屋から出ていった。
後に残ったのは、パジャマ姿のマスター1人とまだ眠いのか、布団に潜り込もうとするお殿様が1人だけだった。
「取り敢えず、朝ごはん食べようか」
「わしの分も頼む〜」
「自分で行きなさい信長様」
貴女、気分で食べる物決めるから、面倒くさいんだよねー。前に食べ残した食器を信長の代わり持って言ったら、エミヤにさんざんお小言を言われたのだ。
「むぅ、爺やのようなことを言いおってからに……まあよい、ならばおぶってたもう」
ベッドに座り、子供のように両手を広げているものぐさ様。
これが我が後輩ならドキドキどころか理性がデンジャラスビーストしてしまうだろうが、まあ信長だしなあ。
漆を思わせる艶がかった黒髪は、布団に潜って寝てたせいか荒波の様な寝癖が付いている。
服装も昨日のまんまだ。良く分からない英長文が入ったTシャツにジャージだし。っていうか、随分と大きさが合ってないな。足元の裾なん捲りしてるんだ、アレ。
まあ、いいや。
断って機嫌が悪くなられても困るし、さっさと運ぼう。
そう考えを纏めて、信長の手が届くように腰を降ろした。
「疚しいことを考えるでは無いぞ? まあ、わしの様な超絶美女に引っ付かれたら欲情の一つ二つ、是非も無いよネ!」
そう言って、背中に抱き着くようにして乗ってきた。
うん、思った通り軽い。
でも、思ったより柔らかい。
ゴリゴリして痛いかと思っていたが想像より随分と ────って危ない! 邪念に支配される所だった。
できる限る背中を意識しないようにしながら、偶に呟く信長に対して「ソウデスネ」と相づち返しつつ、俺は食堂へと急いだ。
────その後、その様子を羨ましがったジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリイから始まったマスターのおんぶ権戦争が勃発するとも知らずに。
信長の好感度はFGOで言うと第4と第5の間くらいです。
恋愛では無く、相棒としての面の信長を見たかったので書きました。