死を見る大空   作:霧ケ峰リョク

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すみません、大分待たせました。
と、いうか久々だったんで書きにくかったです。
多分次回はもうちょっと早く書けると思いますので気長にお待ちください。


雲雀恭弥

「やぁ、初めましてたいったところかな。赤ん坊」

 

並盛中学校の応接室。そこでリボーンは雲雀恭弥と相対していた。

風紀委員会の委員長にして不良の頂点という相反する立場にして、並盛町という一つの町の頂点。

歴戦の殺し屋であるリボーンからすれば未熟だが、それでもこの年齢でここまで強いのは驚嘆に値する。

リボーンが内心、そう評価していると恭弥は話を切り出す。

 

「単刀直入にいこうか。沢田綱吉をここに連れて来てくれない?」

「…………何?」

 

恭弥の口から語られた言葉にリボーンは訝しむ。が、すぐに納得する。

自分の教え子である沢田綱吉は何かと騒動に巻き込まれたり、そもそも騒動の中心に居るトラブルメーカーのような存在だ。

校舎を破壊したり、彼のバイクに乗って逃げ出したり、綱吉を注視するのは当然と言えば当然の事だった。

と、いうか今まで逃れられていたのが奇跡なくらいだ。

 

「お前なら呼び出せるんじゃねぇのか?」

「呼び出して来た事は一度も無いよ」

 

恭弥のその言葉を聞き、リボーンはボルサリーノを深く被る。

無意味な方向に根性がある。取り敢えず後でとっちめておこう。

 

「それに、牙を折れるのは今しか無いからね」

「牙?」

 

あのヘタレにそんなモノがあるだろうか。

そう思っていると恭弥は立ち上がり、窓の外に視線を向ける。

 

「そう、あの獣の牙を、ね」

 

窓の外、グラウンドでは綱吉が校庭に亀裂を作っている姿が映っていた。

 

   +++

 

「赤ん坊には感謝するよ。前々から逃げ続けて来たきみをここに連れて来たんだから」

「リボーン!! やって良いことと悪い事があるだろ!!」

 

恭弥の攻撃をナイフで受け止めながら、綱吉は自分達がこんな惨状に置かれている原因に向かって怒りの声を上げる。

だがリボーンは我関せずと言わんばかりに素知らぬ顔をした。

 

「おめぇが今までやったツケを支払う時が来ただけだろ」

「確かに!! その通り…………だけどもッ!!」

 

トンファーとナイフがぶつかり合う金属音が鳴る。

一方は相手を叩きのめす、否、かみ殺す為に激しく攻める。もう一方はその攻撃を只管に防ぐ。

 

「そういうわけだから自分でなんとかしろ、ダメツナ」

 

リボーンの言葉を聞いて、助けてくれない事を理解する。

家庭教師なんだから少しは自分の事を助けようとはしないのかと内心文句をたれつつも、綱吉は応接室内を見渡す。

幸いな事に今の自分は死ぬ気弾を撃たれて身体能力が上がっている。

普段ならば勝ち目が無い風紀委員長相手でも、これならば太刀打ち出来る。

後は隙を見つけ、直死の魔眼を使ってこの応接室から脱出すれば――――、

 

「きみの考えていそうな事は分かるよ。隙を見てこの応接室から脱出するつもりだろう?」

「――――ッ!」

「させないよ」

 

綱吉の心を読んだのか、恭弥は更に勢いを強める。

とてもではないが隙なんか見つけられない。と、いうより隙を作らないように動いている。

ならば武器を殺して動きを止めようとしても、此方のナイフを防御した際に、自分が振り下ろそうとした箇所からズラして攻撃を受け止めている。

直死の魔眼は非常に強力な異能で、この瞳に映る点と線を突けば、それがどんな強度の物であろうと簡単に殺す事が出来る。けれど、点と線を突かなければその効果が発揮される事は無い。

 

「きみのやりたい事をさせると思ってたのかい?」

「雲雀さんは、そこまでオレをかみ殺したいんですか!!?」

「それ、態々口で言う必要ある?」

 

口頭で伝えながらもトンファーとナイフのぶつかり合いは更に激化する。

それにしても本当に戦い方が上手い。このままやり合っていれば必ず負ける。

何とかして線か点を突かなければ――――、

 

「これで終わりだよ」

 

必死にトンファーを殺そうとナイフを振り下ろした瞬間、刃が鉤爪に捕らえられる。

 

「っ、仕込み鉤」

 

ナイフを使えなくなった綱吉に向かってトンファーが振るわれる。

防ごうにも武器が無く、回避しようにも近過ぎる。

詰み――――その事実に行き着いた時には雲雀恭弥のトンファーの一撃を受けていた。

 

   +++

 

沢田綱吉は決して強くはない。

勿論、弱いというわけでも無い。直死の魔眼という特大の異能があるのは事実だし、その力を使って今まで戦いに勝利してきたのも事実だ。

だが、その強さは直死の魔眼があってこそだ。

能力を理解しているのならば対処は容易。ある程度の実力者であるならば視線から何処を狙っているのかが分かり、それを防ぐ事は簡単だ。

とはいえ、非常に危険な能力には違いなく、防ぎ方を間違えば命を失う事になるだろう。

だからこそ、怯む事なく攻撃をし続けた雲雀恭弥という人間は傑物だった。

 

「強いな」

 

ただの中学生、一般人の領域を遥かに越えている。

彼ならば裏社会でも普通にやっていけるだろう。今はまだ未熟かもしれないが、経験を重ねていけば自分にも届き得る才覚の持ち主だ。

一連の戦闘を見ていたリボーンは雲雀恭弥を高く評価し、次に殴り飛ばされて床に伏した沢田綱吉に視線を向ける。

 

「そして、ようやく理解したぞ。ダメツナ、お前――――死ぬ気になっていないんだな」

 

死ぬ気弾は脳天を打ち抜いた場合、被弾者は全身のリミッターを外すことになる。

結果、下着を除いた衣類が弾け飛ぶ。尤も、意識的に死ぬ気をコントロールする事が出来るならばそうはならないが。その為、リボーンも最初は衣服が無事だった事から死ぬ気をコントロールする事が出来ると考えていた。

だが今の雲雀恭弥との戦いで確信した。

 

――――沢田綱吉は死ぬ気になれてないという事を。

 

死ぬ気弾の効果によって身体能力は上がっている。が、身体のリミッターは外れていない。

正確にはリミッターが外れているのだろう。ただ100パーセントの力を発揮しないように無意識の内にブレーキをかけている。

 

「…………どうしたもんか」

 

リボーンは困ったように呟く。

まさか死ぬ気弾の力でさえ、リミッターを外す事が出来ないとは思わなかった。

やはり直死の魔眼の影響なのだろうか。

 

「まぁ、それが分かっただけでも良しとするか」

 

死ぬ気弾を撃たれると何故か髪の毛が伸びるという特徴等、まだまだ気になるところは沢山あるが今はどうでも良い。

それよりもそろそろ止めた方が良いだろう。

このまま放置していたら本当に再起不能になるまでボコられかねない。

そう判断したリボーンは、倒れた綱吉に追撃を仕掛けようとする恭弥を止めようとレオンを十手に変化させる。

その瞬間だった――――綱吉か唐突に起き上がり、恭弥の持つトンファーを掴んだのは。

 

「…………」

 

青く光り輝く双眸から血の涙が溢れ、額から出ている炎は更に激しく燃え上がっている。

その瞳に理性は欠片も無く、明らかに正気ではなかった。

それは――――明らかに死ぬ気だった。

直後、握り締められていたトンファーが突如としてバラバラになって床に転がる。

 

「ふうん…………どうやら牙はまだ見せてはもらえないみたいだね」

 

だというのに恭弥はそんな綱吉を見て退屈そうに呟いた。

武器を失ったにも関わらずに、だ。

 

「…………死ね」

 

綱吉は武器を失い、抵抗する術を失った恭弥に指を突き付けようとする。

とてもではないが人間を殺す事なんか出来ないようなお粗末な攻撃だ。威力も無く、速度も無く、なにより貧弱。

だが直死の魔眼という異能があれば話が違う。

線をなぞり、点を突くだけで人が殺せるようになるのだ。

そして今、沢田綱吉は雲雀恭弥の命を奪おうとしている。

 

「止めろ。ダメツナ」

 

リボーンは正気を失っている綱吉の顎に蹴りを入れて沈黙させる。

いくら死ぬ気だったとしても脳を揺らされれば平常を保つ事は難しい。

肉体的にはそこまで強くない教え子ならば猶更だ。

 

「うぅ…………」

「ったく、手がかかる奴だな」

 

呻き声を上げて倒れている綱吉の頭の上に乗りながら呟く。

今のを見て理解した――――ダメツナを死ぬ気にさせるのはあまり良くは無いということを。

普通に死ぬ気弾を使うぐらいならば問題は無い。

だが無意識的に彼がかけているブレーキを外してしまえば何が起こるか分からない。

あれが沢田綱吉の意識だとは思えない。もっと別の何か――――。

 

「分かっていた事だったけど、牙を折るには単純ではなさそうだね」

 

教え子の豹変に戸惑うリボーンに対し、恭弥は事も投げな様子だった。

 

「雲雀、お前ダメツナについて…………何か知ってるのか?」

「そこで伸びている問題児については詳しく知らないよ。でも、彼が獣であるということは分かる」

「獣?」

「そうだよ。尤も、直感のようなものだけどね。だけど、彼が危険だという事だけは分かる」

 

恭弥の言葉にリボーンは首を傾げる。

 

「赤ん坊。彼を人間のままにしておきたいなら注意しておいた方が良いよ」


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