なんなんこれ   作:ダルマ

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流行に乗り遅れまいと無理して書いてしまった結果がこれだよ。


なんなんこれ

 海は人類にとって、いやこの星にとっての母である。

 時に優しく、時に厳しく、いつも傍らで見守ってくれている母である。

 

 だが、ある時。そんな母なる海の底から、まるで傲慢な息子達たる人類にお灸を据えるかの如く、異形のものを遣わせた。

 『深海棲艦』、後にそう呼ばれる事になったそれは、かつての人の業の体現たる『軍艦』を模し、各地の海に出現した。

 そして、船と言う船に無差別に攻撃を仕掛けたのである。『漁船』と言う名の船に。

 

 貨物船、コンテナ船、自動車運搬船にタンカー、更にはフェリーに遊覧船に貨客船など。数ある商船の中で何故か『漁船』にのみ絞り攻撃を加える深海棲艦。

 この不可思議な攻撃対象の絞込みに各国は疑問を覚えつつも、しかし、この敵性勢力との『お魚戦争』に突入していくことになる。

 人が作り出した文明の利器をいかんなくつぎ込み開発された人類の刃は、深海棲艦を次々に海の底へと再び還していく。

 

 だが、現代の兵器と比較して古めかしさが否めない深海棲艦であったが、恐るべきはその数であった。

 数の暴力と言う絶対的なアドバンテージを武器に、深海棲艦は次々に人類が取り返した海を三度奪い取っていったのである。

 

 このままでは漁船が出れずお魚が食卓に並ばない。そう危惧する人類かとも思われたが、実は人類の側も決して一枚岩と言うわけではなかった。

 海のものより陸のもの、魚よりも肉の消費が多い大国の中には無理にこのお魚戦争を続ける必要もないのではと言った声も出始め。

 それに加え国の金庫番とも言うべき財務関係者からのお声もあり、徐々に厭戦ムードが漂い始めていた。

 

 そんな状況の中にあってもお魚戦争から一歩も引く気を見せない国があった。かつて魚の消費量世界一を誇っていた国、日本である。

 魚離れが叫ばれ魚がなくても食卓は大丈夫かとも一見思われたが、例え一位から転落しても大国の中で一番の消費量を誇っているのは事実。

 そして、やはり人は傲慢なもので、いらないと言っていても取り上げられるとやはり必要だと叫んでしまう。

 

 だが、日本一国が頑張ったところでやはり限界はある。なんせ、海は広いのだ。

 

 このままでは食卓からお魚が消える、時間の問題であった。

 そんな時だ、一筋の希望が突如として現れたのは。

 

 数の暴力を武器にする深海棲艦に対抗できる、妖精と呼ばれる不思議な存在と契約を交わした存在。

 かつて存在していた軍艦を召艦し一人で操るその姿はまさに美しき戦乙女、一人一艦、その姿から彼女達を人々は希望と親しみの意味を込めてこう呼んだ、『艦娘』。

 

 国に優しい、財務に優しい、今夜の献立に悩むお母様方に優しい。

 そして、漁師さん達の心強い味方である彼女達の存在は瞬く間に深海棲艦に対抗する最有力な存在となった。

 

 

 その後は怒涛の勢いだった。

 奪われた母なる海を奪い返し、奪い返し、また奪い返し。

 人類は大半の海を再び己が手中に収めたのである。

 

 とは言え、まだ母なる海から深海棲艦が消えたわけではない。

 母なる海を深海棲艦の魔の手から完全に取り戻すべく、今日も人類は、そして艦娘は、戦い続けるのである。

 

 

 

 だがしかし、覚えておいて欲しい。艦娘の全てが、母なる海で頑張っているわけではない事を。

 そして、艦娘の全てが綺麗で可愛くて『女子力』が高いわけではないと。

 

 

 

 

 鎮守府、それはかつて日本が大日本帝国と名乗っていた頃の海軍、大日本帝国海軍の根拠地として、艦隊の後方を統轄した軍事機関である。

 が、大日本帝国海軍と呼ばれる組織が無くなった現在では、鎮守府と呼ばれる軍事機関は廃止され過去の記録の一部として忘れ去られている。

 

 所が、深海棲艦が出現し艦娘が現れると、鎮守府は再び歴史の表舞台に姿を現すことになる。

 と言っても、かつて存在した鎮守府のように巨大なレンガ造りの司令部施設や港湾施設、それに燃料施設等々が敷地内に設けられている訳ではない。

 港湾付近の土地を買収し、建てられた数階建てのオフィスビルの事を指す。

 

 と言うのも、艦娘は召艦した軍艦を彼女達の言うところの待機スペースと言う摩訶不思議空間に戻すことも出来る、つまり呼び出し自由なので係留しておく必要が無い。

 加えて言えば、燃料やら砲弾やらも自動で補充されるという財務担当者歓喜の仕様なのだ。

 更に加えて、艦娘は日本の国防組織たる自衛隊に属しているのではなく、あくまでも民間の戦力。つまるところ民間軍事会社の社員と言う立場なので自衛隊の施設等を使用できない。

 よって、鎮守府とは言わば愛称のようなものであり。正式には艦娘を有する民間軍事会社たるクラシック・ネイビーの各事業所、となるのだ。

 

 なお、艦娘の在籍先があくまでも民間企業となったのは、国内外の声を考慮した結果曖昧な存在たる民間軍事会社に落ち着いた。となっている。

 

 そんな訳で、日本各地や一部海外に存在する鎮守府、もといクラシック・ネイビーの各事業所では、今日も事務作業やら警備業務やらに追われる艦娘、或いは他の社員等々の姿が見られる。

 

 

 そうした各鎮守府の内の一つに、南港鎮守府と呼ばれる鎮守府がある。同鎮守府は日本の主要な国際貿易港の一つである大阪湾、同湾の南部に位置した地域である南港と呼ばる場所に存在していた。

 同地にあるフェリーターミナル、その近くに設けられた鎮守府である。

 

 主に大阪湾や近畿太平洋側の近海等を警備の対象範囲として営業しているのだが、鎮守府が開設した当初はそれなりに海上警備業務も行われていたが、日本近海の安全が確立されてからは、時折現れるはぐれ深海棲艦を相手にする程度の警備実態しかなく。

 もはや主な業務内容は事務作業と艦娘の錬度維持の為の訓練が行われている程度で、重要性はお世辞にも高いとは言えない。

 

 しかし、そんな南港鎮守府にも新しい仲間がこの日、やって来た。

 

「はじめまして、銚子鎮守府より本日付で南港鎮守府に異動を命ぜられました吹雪型駆逐艦の一番艦、吹雪を召艦します佐久間 奈々です。よろしくお願いします」

 

 南港鎮守府内に設けられているオフィスの一角、提督室と書かれたネームプレートが付けられた扉の向こうから、元気な声が聞こえてくる。

 提督、それは艦娘達を束ね、育て、そして時に現場で指揮を振るう。言わば監督的立場の責任者である。

 と一見すると凄い役職なのかと思えるが、実際には所謂中間管理職で。鎮守府の長である幹部社員と一般社員との間に挟まれて、胃に穴が開くような日々を過ごしている提督もいる。

 

「ようこそ佐久間さん、自分は溝端 佑弥。この南港鎮守府で提督をしているものです。で、こちらが……」

 

 提督用にと設けられている個室オフィス。落ち着いた調度品や黒を基調とした色合いの家具が置かれたその部屋では、現在三人の男女が互いに挨拶を行っていた。

 学生が着るセーラー服を思わせる装い、そしてその手には季節柄移動の際に着てきたのだろう厚手のコートを持っている。黒髪ショートカットの女性、佐久間 奈々。

 そんな彼女を第1種軍装と呼ばれた紺色の服を着込んだ提督、溝端 佑弥は自身のデスクに腰を下ろしながら挨拶を交わす。

 

 そして、最後にもう一人。佑弥のデスクの横にまるで秘書のよう佇む巫女服のような装いで身を包んだ女性に、奈々の視線を誘導させる。

 

「溝端提督の秘書にして、栄えある南港鎮守府の第一艦隊旗艦を務める金剛こと御崎 エリカデース! Thank you!」

 

 ブラウンの綺麗なロングヘアをお団子頭にし、金色のカチューシャをつけた女性が、奈々に優しく微笑みながら自己紹介を行う。

 挨拶の最後に英語が混じっている事や、その名前からおそらく彼女はハーフなのだろう。

 

「わぁ、光栄です! 南港鎮守府の第一艦隊、その旗艦を勤める金剛さんは凄く綺麗で大人で、とっても素敵な人だって聞いてたから。私、そんな人の下で働ける事、とても光栄に思います!」

 

「Thank you very much、私も佐久間さんの様なlovelyな後輩が出来てI'm very happyネー」

 

 見ず知らずの者からすれば姉妹にも見える二人の会話。そんな楽しそうな会話に申し訳なさそうに割り込む提督の声が響く。

 

「あーその、話に割り入ってすまないけど、佐久間さんはもう所長のところに挨拶は?」

 

「あ、はい。もう済んでます」

 

「そっか、なら鎮守府内の案内と佐久間さんのデスクへの案内を御崎さん、お願いします」

 

「No sweat! では、佐久間さん、案内するのでFollow me!」

 

「は、はい!」

 

 案内役の為部屋を後にするエリカ、そして、そんな彼女の後についていく奈々。

 最後に軽く一礼して退室した彼女を見送ると、佑弥はやりかけていた書類の処理に再び取り掛かった。

 

 

 

 

 二人が部屋を後にしてからどれ程の時間が過ぎただろうか。不意に部屋の扉が開かれ誰かが部屋へと入ってくる。

 デスクの書類に目を落としていた佑弥は、ふと手を止めると頭を上げ入室した者の正体を確認する。

 

「お疲れ様、エリカ」

 

「はぁ、疲れた……」

 

 部屋に入ってきたのは、秘書であるエリカであった。

 ただ、その雰囲気は部屋を出て行く以前のものとは少々異なっている。特に、会話の中に英語が混じっている気配が無い。

 

 しかし、雰囲気もさることながら、二人の間に漂う空気もまた先ほどまでとは少々異なっている。

 

「そうだ、ちょっと休憩する?」

 

「えぇ、そうして」

 

「なら何か飲み物を淹れてくるよ、何がいい?」

 

「コーヒー、ブラックで」

 

 椅子から立ち上がり部屋を後に休憩室に飲み物を取りに行く佑弥、そんな彼と入れ替わるように、エリカは部屋の中に設けられている秘書用の自身のデスクに腰を下ろした。

 ただ、その座り方は背筋を伸ばすと言うよりも、ぐったりとだらしなく座ると言ったほうがいいだろう。

 

 それから暫くして、その手にコーヒーサーバーとカップを二つ持った佑弥が、器用に扉を開けて戻ってくる。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 デスクに置かれたカップにコーヒーが注がれると、エリカはコーヒーの入ったカップを手に取り息を吹きかけ冷まし、適温になった所で口へと運んだ。

 そんな彼女の姿を他所に、佑弥も自身のデスクに再び腰を下ろすと、自らコーヒーをカップに注ぎ、少しばかりのコーヒーブレイクに入る。

 

「所で、新しくやって来た佐久間くん、エリカの目から見てどうかな?」

 

「……まぁ、いいんじゃない? 前の鎮守府でも特に問題行動があった訳でもないし、人付き合いも問題なさそうだし。艦娘としての力量も、入社して二年目にしてはなかなかと思うし」

 

「そっか、なら良かった」

 

 話を区切り、互いにコーヒーを口にした為に訪れる静寂。

 そして、ほっと一息ついた所で、佑弥が再び会話を始める。

 

「所でエリカ」

 

「ん、なに?」

 

「もう無理して他人の前でキャラ作らなくてもいいんじゃないかな?」

 

 キャラを作る。どうやらエリカは佑弥の前で見せる顔とその他の他人の前で見せる顔を使い分けているようだ。

 

「いやいや、今更なに言ってんの。無理無理、絶対無理。素の私出したら絶対皆に幻滅させられるから」

 

「でもエリカは、飾らなくても素敵だと思うけど」

 

「……、な、何サラッと褒めてん、のよ」

 

 屈託のない笑顔と共に歯に衣着せぬ言葉が飛び出し、エリカの頬は一気に赤らめる。そのせいなのか、反応した声がどこかか細い。

 

「だから、誰も幻滅なんてしないよ」

 

「……無理、やっぱり無理。そもそも、佑弥は女子力高いくせに女心を解ってないのよ! いい、女って言うのは目立てば目立つほど影で妬み嫉みの対象になりやすいの! そんな人が少しでも付け入る隙を与えてみなさい、声に出さなくても視線でチクチク、裏で根も葉もない噂を放出。あぁ、駄目、考えただけで頭痛い」

 

「だ、だけど」

 

「だけどもへったくれもないの。男にはそんな事笑って過ごせるような友情があるかもしれないけどね、女の友情は薄氷を履むが如し、なの」

 

 エリカの口から飛び出す愚痴の数々に、もはや佑弥は苦笑いして誤魔化すほかに手は残されていなかった。

 

「そもそもおかしいでしょ!? なんで『金剛』の艦娘は『帰国子女』じゃなきゃいけないのよ! あの妖精おかしいんじゃない! そりゃ私のお母さんはイギリス人だけどさ、日本生まれの日本育ち、今じゃシュッとしてるだけの立派な大阪のおばちゃんよ。第一イギリスなんて行った事ないし、親戚の集まりだって実家だからイギリスなんて……」

 

 もはや怒りの捌け口が別の方向へと向けられ、ますます佑弥は助け舟が出せない状況へと陥る。こうなれば、もはやエリカの気が済むまで話を聞くしかない。

 

「そもそも絶対他の金剛の子もキャラ作ってるって、あんなへんてこりんな喋り方おかしいでしょ。一体何処をどうしたら……」

 

 自身を含め金剛型巡洋戦艦の一番艦、ネームシップである金剛を召艦する艦娘は、どうやら妖精との契約の際の条件に加えある種の設定付けがなされているようだ。

 見方によってはエリカはそれを律儀に守っていると言えなくもないが、本人としては他の金剛達が同じように設定を守っている中一人だけいの一番に度外視して注目される事を嫌っての結果らしい。

 

 もっとも、明確な条件や設定が存在している金剛と言う艦娘の立場に関しては、明確な故に色々と利用もしやすいとエリア自身は内心思っている節もあるようだ。

 

 一方で、艦娘も艦娘で色々と気苦労があるんだなと内心思う佑弥であった。

 

「はぁ……、なんだろう、愚痴喋りまくったら急に寒気が……。ねぇ、佑弥。アレ取ってアレ」

 

 心の中に溜まった色々を吐き出し終えたエリカは、やっと本当の意味で一息つけたと思った刹那、愚痴の熱が冷めたからか身震いを覚える。

 一応部屋には暖房も効いてはいるが、肩を出し膝上まであるロングブーツとは言えスカートとの間には素肌が露出している部分もある、そんなエリカの今の装いではあまり暖房の効果もないのだろう。

 

 佑弥はエリカのアレと言う言葉に反応し、カップをデスクに置き次いでデスクの引き出しを開けると、引き出しの中からお目当てのものを取り出す。

 赤い布地に白のラインが入った衣類、一般にジャージと呼ばれているものであった。しかも、そのジャージは年季が入っているのか生地がヨレヨレである。

 

「ん、ありがと」

 

 そんなジャージを手に佑弥はエリカのデスクまで持っていくと、手渡すや否や再び自身のデスクへと踵を返す。

 一方、ジャージを受け取ったエリカは、慣れた動作でロングブーツの上からジャージを履いていく。

 

「はぁ~、やっぱり母校のジャージが一番落ち着く」

 

 程なくしてジャージを履き終えたエリカは、その履き心地の良さに言葉を漏らす。

 どうやら、年季が入っていたのはエリカが艦娘ではなく、まだ普通の女子学生として過ごしていた頃から愛用していた一品であったからのようだ。

 

 一体何年使い込んでいるのか、そして何故本人のデスクではなく佑弥のデスクに入っていたのか。おそらく、それらを知っているのは本人と佑弥だけであろう。

 

「さてと、これで少しは……」

 

 未だに肩は出しっぱなしではあるが、それよりも下からの寒さを防げて満足なのか、エリカは再び自身のデスクに腰を下ろそうとした。

 そんな矢先の事、何かが破れる音がエリカの突如として耳に入ってくる。しかも、その音の発生源はどう考えても自身の下半身。

 

 ロングブーツやスカートが破れる筈もなく、今の姿勢からしても一番力のかかっている衣類は一つしかない。そう、ジャージだ。

 

「え、え?」

 

 座りかけた姿勢を再び真っ直ぐに立たせ、スカートをたくし上げて破れたであろう箇所を確かめようとするも、目に見える範囲では破れは確認できない。

 と言うことは、破れた箇所は目の届かない後ろの部分と言う事になる。

 

 であれば、ジャージを脱いで確かめる。のだが、脱ぐのが面倒くさいのかそれとも脱ぐと寒いからか、エリカは佑弥のデスクへと近づくと。

 

「ちょっと、破けたんだけど何処が破けたか見てくれない?」

 

 佑弥にお尻の部分を見せるかのような姿勢で、彼に破れた箇所の確認をお願いしたのである。

 

「う、うん……」

 

 ジャージを履いているのでその下が見えることは基本的にはない、そう、破れていなければ。

 佑弥にとって幸か不幸か、ジャージの破れている箇所は念入りに探すまでもなくすぐに見つかった。ただ、その場所が不味かった。

 

 よりにもよって破けた部分が丁度お尻の部分であり、しかもエリカが突き出すかのような姿勢をとっているものだから、例えヨレヨレだろうが破けた部分から見え隠れするもう一つの布地が佑弥の視界に入って仕方がない。

 エリカの下着を初めて見た訳でも見慣れていない訳でもないが、堂々とさらけ出して見るそれとは異なり、偶然の産物が生み出すそれは佑弥の性的興奮を刺激してならない。

 今この場に鏡を置いていれば、佑弥は間違いなく真っ赤に染まった自身の顔を確認できたことだろう。

 

「ねぇ、何処が破れてた?」

 

 佑弥が見え隠れするもう一つの布地に気を取られ確認の返事を返さないことに少々苛立ったのか、エリカの催促の声が飛ぶ。

 

「え、えっと……」

 

「なに? 何処破れてたの?」

 

 ここで本当の事を告げても特に佑弥がお叱りを受けることもないだろう。そもそも、そんな事ならば最初からエリカは佑弥に確認してくれ等と頼まない筈だ。

 では何故、佑弥は早く破れた箇所を報告しないのだろうか。それは、この眺めをもう暫く堪能していたいとの情動と理性との間で揺れ動いているからに他ならない。

 

 その座を賭けて戦う二つの天使が勝つか悪魔が勝つか、一体彼の心の中のどちらが勝つのか。

 だが、それを待たずしてエリカの再びの催促の声が飛ぼうかとそたその時、事態は二人も予期せぬ方向へと向かう事になる。

 

「すいません、提督。少しお伺いしたい事が……」

 

 不意に部屋に響いた扉を数回ノックする音、その突然の音の到来に佑弥は油断していたのか変な声を漏らしてしまう。

 それを返事と捉えられたのか、扉をノックした人物はドアノブを回して扉を開けると部屋へと入室する。

 入室してきたのは奈々であった。

 

 が、彼女が部屋に入って目にした光景は、思わず視線を背けたくなるようなものであった。

 佑弥は奈々が初めてこの部屋を訪れた時と同様に自身のデスクに腰を下ろして座っていた。ただ、その膝の上から何故かエリカが座っているのである。

 

「え、えっと……」

 

 思いもしなかった光景を前に、奈々はとりあえず目を泳がせた。が、そうした所でエリカが佑弥の膝の上から退こうとする素振りは見せない。

 

「もう佐久間さん、いやフブキ。私と提督とのBurning Love! なHappy Time! を邪魔しないでほしいデース!」

 

「す、すいません! また後でお伺いします!」

 

 甘ったるい声でエリカが注意をすれば、奈々は顔を真っ赤にして大慌てで部屋から出て行った。

 

「あ、ははは……。見られちゃったね」

 

「いいんデース、提督と私のLove Loveな……、じゃなかった。あーあー。はぁ……。まぁこれ位ならジャージ履いてるのを見られなかっただけマシよ」

 

 どうやらエリカが佑弥の膝の上に座り続けていたのは、ジャージを履いている事を知られたくなかったからのようだ。

 ジャージを脱いでいる暇もなく、しかしどうやってジャージの存在を隠そうかと短い時間ながらも考えた末に思いついたのが、あの行動だったようだ。

 幸いにして、奈々はエリカがジャージを履いていた事など気づいていない。もっとも、それはジャージよりももっと衝撃的な光景のお陰であるが。

 

「……所で、エリカ」

 

「なに?」

 

「出来れば退いてくれるとありがたいんだけど……」

 

「もう少し位いいでしょ? 座り心地いいし、ね」

 

「あ、うん」

 

 膝の上に座られている状況なので佑弥からは見えなかったが、エリカの頬は少しばかり、赤らんでいた。

 一方それに気づけない佑弥は、この状況をまさかあの光景を楽しんだ罰なのかと心の中で自問自答していたのだが、結局最後まで答えは出せずにいた。

 

 ジャージの一件は結局あやふやになり。また、コーヒーブレイクもいつもより少しばかり長引いてしまったが、結果としては良かったのかも知れない。

 何だかんだと言いつつも、二人は互いのぬくもりを感じ、心の中が温かくなったのだから。




読んでいただき、どうもありがとうございます。
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