なんなんこれ   作:ダルマ

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爆誕! 戦う提督

 とある昼下がりの岸壁、そこに第1種軍装を着込んだ一人の男性の姿があった。

 彼は首からぶら下げていた双眼鏡を使い、眼前に広がる大海原、その地平線の向こうを眺め続けていた。まるで、何かを待ち焦がれるかのように。

 

「っ!」

 

 やがて、彼は地平線の向こうから姿を現した何かを捉えると、僅かに肩を揺らした。

 程なくして、地平線の向こうから姿を現したそれは、双眼鏡を使わずともはっきりと視界に捉えられる距離まで近づいていた。

 

「おーい! 皆!!」

 

 すると、双眼鏡を外し、両手を一杯に使い自身の存在を近づいてきたそれに示すかのように声を張った。

 

「テイトクー! 只今戻ったヨー!」

 

 と、そんな彼の声に応えるかのように、女性の声で返事が返ってくる。

 

 

 程なくして、近づいてきたそれがスロープ状になっている部分を使い岸壁へと上陸を果たすと、男性の前に整列し代表者が報告を行い始める。

 

「第一艦隊、一人も欠ける事無く全員無事に帰還デースッ!」

 

「ご苦労様、皆、無事でよかった」

 

「Perfect gameとはいかなかったデスけど、ちゃんとVictoryは掴んできたヨー!」

 

「詳しい報告はお風呂(入渠)の後でいいから、先ずは皆、ゆっくり体を休めてきてね」

 

「ハーイ!」

 

 男性の目の前に並ぶ者達は、男性と同年代から妹のように歳の離れたものまでいたが、その性別は全員女性であった。

 巫女服のような、或いは学生服のような服装に身を纏っていた彼女達は、皆物々しいまでの機械をその背に、或いは手足に装着している。

 

 しかし、それよりも気になるのは、個々に差はあれど全員が衣服に傷を或いはその身に傷を負っている事だろう。

 

 酷い者など、女性としてあまり他人に見られたくないような部分が見えてしまいそうなほど衣服が破れ、身に付けた機械も一目見ただけで駄目だと分かるほど酷い有様だ。

 

 何故彼女たちがこれ程までに傷付いているのか。それは、彼女たちが艦娘と呼ばれる戦う運命を義務付けられた存在だからに他ならない。

 人の身でありながら、嘗て人類が造り上げた軍艦の魂をその身に憑依させ扱う事の出来る彼女達の存在は、まさに人類にとって救世主に他ならなかった。

 数年前に突如として人類の母なる海を荒らし始めた深海棲艦に唯一対抗できる存在。それこそ、彼女達艦娘なのである。

 

 そして、そんな彼女達を管理する上位組織として、この国には海軍と呼ばれる組織が再びこの世に生を受け。

 各地に、鎮守府と呼ばれる拠点が設けられる事になった。

 

 男性は、そんな全国に設けられた鎮守府の内の一つの運営を任せられ。同時に、鎮守府に属する艦娘達の指揮も任せられた、所謂提督の肩書きを持つ者であった。

 

 艦娘達からすれば彼は自分達の上官と言う立ち位置になる訳だが、彼は心優しい性格であった為、特に上下関係を厳しく隔てて接する事はなかった。

 そんな優しさを部下である艦娘達も感じ取っているのか、互いの間柄は、一点の問題もなく良好そのものであった。

 

「……今日も一人も欠けずに無事帰還。けど、やっぱり辛いな」

 

 しかし最近、そんな良好な間柄に少々暗雲が立ち込め始めていた。

 その理由は、彼自身の優しい性格にあった。

 

 優しい性格ゆえに、彼は最近考え込んでしまっていた。

 男である自身は安全な鎮守府から指示を出しているだけで、前線では女性である彼女達が文字通り命がけで深海棲艦と戦っているのに、これからもこのままでいいのだろうか、と。

 

 出来ることなら彼女達と一緒に自身も戦いたい、そんな気持ちさえ湧き上がっていたが。残念ながら、身体的には彼はごく一般的な成人男性でしかなかった。

 

 男女の立場が逆転している特殊な環境の中にあって、彼の性格は少々不利だったのかもしれない。

 

「……戻ろう」

 

 眼前に広がる穏やかな大海原に背を向け、彼は艦娘達が先に戻っていった赤レンガ造りの鎮守府庁舎へと戻ろうとした。

 その時であった、突如として、謎の笑い声が彼の耳に聞えてきたのは。

 

「ははははははっ! その切なる願い、私が叶えてさせあげましょうかぁっ!?」

 

「へ!?」

 

 一体何処から聞えるのかと周囲を見渡すも、特に自身以外の人影は目に入らない。

 と、続いて再び同じ声が、それも背後から確かに聞こえてきた。

 

 背後には大海原しか広がっていない筈。そもそも、先ほどまで自身が眺めていた筈だが人影など何処にも見当たらなかった筈。

 

 しかし、声は確かに背後から聞えてきた。

 理解しきれない部分はあったが、彼は慌てて踵を返すと、声の主の姿を探すべく大海原に目を向けた。

 

 と、そこには信じがたい光景が広がっていた。

 

 岸壁からさほど離れていない海の上、鮮やかなピンク色をした土管が存在していたからだ。

 

「な、なにこれ……」

 

 そのあまりに突拍子もない摩訶不思議な光景に、彼は思わず声を漏らした。

 と、そんな唖然とする彼を他所に、更に唖然とするような光景が繰り広げ始めた。

 

「フフフフフッ、アーハハハハハッ!!!」

 

 土管の中から、彼自身もよく知る人物が完全無欠のドヤ顔と共にせり上がる様に姿を現したのだ。

 

「とうっ!!」

 

 とい思ったのも束の間、まるでどこぞのキャラクターを髣髴とさせる大ジャンプと共に、その者は彼の眼前に着地する。

 

「あ、あか、明石……さん?」

 

 鮮やかなピンクの髪をおさげ風にまとめ、シャツの上からセーラー服を着込んだその女性は、彼の部下の艦娘の一人である明石その人であった。

 しかし、彼が彼女の名を呼ぶと、彼女は小刻みに体を振るわせ。次の瞬間。

 

「ちがーうっ!! 今の私は!! 新・神戸明石よっ!!!」

 

 視界一杯に彼女の顔が広がるほど顔を近づけると、迫真の形相で改名した事を告げる。

 

 ただし、改名したその名は、乗り換え案内を髣髴とさせた。

 

「え、えっと……い、一体どうしたんですか?」

 

 突然の改名宣言もさることながら、謎の土管からの登場と言い、もはや彼の頭は理解できる許容範囲を超えパニック寸前であった。

 しかし、そんな中でも何とか搾り出すように、新・神戸明石こと明石にその用件を尋ねる。

 

「提督、提督は最近悩んでらっしゃいましたよね。私達が命がけで戦ってるのに自分は後方で指示するだけ。自分はなんて無力だって」

 

「え、いや」

 

「誤魔化さなくてもいいですよ。分かってます。提督は優しい方ですから、声をかけることしか出来ない無力な自分と内に秘めた想いとの間で苦しんでいたんですよね」

 

「……」

 

「でも大丈夫!! 何故なら、神の才能を持ったこの私がっ!! そんな悩める提督の願いを叶えて差し上げるのですから!!」

 

「え?」

 

 一瞬、彼は明石が何を言っているのか理解できなかった。

 しかし、一体何処から取り出したのか、明石が手にした物を目にして、彼は明石の先ほどの言葉の意味を理解できた。

 

「さぁ! この私が作り上げたデラックス探照灯ベルトです! これを使えば、提督の願いは叶えられます!!」

 

 デラックス探照灯ベルトと名付けられたそれを、明石は彼のほうに差し出す。

 名前の通り探照灯を模した造形がバックルに施されたベルトで、バックル部分には何やら入りそうな溝が掘られている。

 

「さぁ提督! これを装備して、貴方も私達と共に深海棲艦から人類を救うスーパー提督になりましょう!!」

 

「これを、使って……」

 

「そうです! さぁ、さぁ!!」

 

 彼自身半信半疑であった。

 しかし、最終的には自身が秘めているその想いに動かされ、彼はデラックス探照灯ベルトを手にする。

 

「えっと、明石さん。これを腰に装着すればいいんですよね?」

 

「えぇそうです。ですが、そのベルトを装着しただけではスーパー提督にはなれません」

 

「え? どういう事ですか?」

 

「そのデラックス探照灯ベルトに、このメモリメダルを挿入する事によって、初めてベルトの力を引き出すことが出来るのです!」

 

「な、成る程……」

 

「あぁ、なんて、なんて素晴らしいキーアイテムと変身プロセスの構築なのでしょう! こんな素晴らしいアイデアを考え出した私自身の才能が怖い!!」

 

 何やら自分自身に酔いしれている明石を他所に、とりあえず彼はデラックス探照灯ベルトを腰へと近づける。

 と、自動的に調整されたベルトが巻かれ、腰にピッタリと装着される。

 

「やはり私は唯一無二の……、と装着したみたいですね。では、これがメモリメダルになります」

 

 酔いが覚め、とりあえずの正気を取り戻した明石から彼は一枚のメダルを受ける。

 メダル表面には、何やら近未来を思わせるヘルメットのイラストが描かれている。

 

「所で明石さん、こういうのって変身するのに適合した手術みたいなものを受けてなくて大丈夫なんですか?」

 

「あぁ、それは大丈夫です。だって提督は既に適合手術受けてますから」

 

 いざ変身する寸前になり、ふと思った疑問を明石にぶつけてみれば。彼女から返ってきたのは予想もしていなかった答えであった。

 それもそうだろう。彼自身には、適合手術などと言う手術を受けた記憶がなかったのだから。

 

「え、そんな手術受けた記憶が……」

 

「まぁ、アレですよ。提督が寝てる間にチョチョットで済ませましたから。さぁ!! そんな細かいこと気にしないで!! さっさと変身してください!!」

 

「あ、はい」

 

 何やらとんでもない事実をさらりと流されたものの、明石の勢いに飲まれ、彼はいざその時を迎える。

 

 

 

「変身!!」

 

 威勢の良い声と共に、彼は手にしたメモリメダルをデラックス探照灯ベルトのバックル部分の溝へと押し込んだ。

 

「Chief!! Lock open!!」

 

 と、何やらベルトから声が聞こえてきたかと思えば、続けてファンファーレと思しき音楽が流れ始める。

 当然、彼の意識はベルトへと向けられる。しかしその頭上で、突如として出現した空間の裂け目から謎のスーツが自身に迫っている事には、当然ながら気がついていない。

 

「え? うわっ!」

 

「Come on!! Chiefarms!! Legend・of・Soldierー!!!」

 

 刹那、頭上から迫った謎のスーツが前後に分離し彼を挟み込んだかと思えば。謎の決め台詞と共に、変身プロセスが完了するのであった。

 

 先ほどまでの好青年提督はもういない。

 そこにいるのは、伝説の兵士の力を借りて自らも戦うことの出来る一人の提督。

 

 身長二メートルを誇り、その身に纏ったミョルニル・アーマーの機能で戦う場所を選ばない、まさに超兵士。

 

 ここに、スーパー提督S-117は誕生したのである。

 

「こ、これが、スーパー提督S-117」

 

 新たな力を得た自身の姿に感動と興奮を隠せない彼。

 試しに、眼前に浮かび上がったゲーム画面を髣髴とさせる選択画面から武器を一つ選択し。近接用の量子兵器、エナジーソードとでも呼べるそれを目の当たりにし、更に興奮する。

 

「凄い! 凄い!! これなら、これなら自分も深海棲艦と戦える!!」

 

「そうでしょ、そうでしょ」

 

「よし、早速この力がどの程度深海棲艦に通用するのか試してこよう」

 

 興奮を抑えつつも、彼は新たに手にした力の実力を確かめるべく、大海原に繰り出そうとする。

 だが、その時彼は失念していた。いや、姿形は違えどこの力が艦娘と同じだと思い込んでいたのだ。艦娘達の様に水上を滑らかに滑れると。

 

「あれ……」

 

 だが、現実は違った。

 スロープからいざ大海原へと足を踏み出した彼の巨体は、水上に浮かぶ事無く、自然の摂理に従い底へ底へと沈んでいった。

 

「え、あれ、あれれ!!」

 

「あ、やっぱ駄目だったか……」

 

 彼に届かぬ声で一人ごちた明石を他所に、彼の巨体は止まる事無く海の底へと沈んでいく。

 

 何処までも続く海の底に、深く、深く。

 

 音も、光も届かぬ世界へと、その身を沈める。

 

 

 

 

 

「……はっ!!?」

 

 と、彼こと溝端 佑弥が目を覚ますと、そこは岸壁でもなければ深い海の底でもなく。見慣れた自身の寝室であった。

 

「……夢? なのか」

 

 寝室を一通り見渡し、先ほどまでの出来事が夢であったことを確認すると、不意に自身の着ている寝間着に注意が向けられる。

 相当うなされて寝汗をかいたのか、寝間着のシャツは自身の寝汗でびっちょりであった。

 

「着替えよう……」

 

 流石に再度就寝するには今のままでは寝心地がよろしくないので、とりあえず彼はシャツを着替える為にベッドから身を起こすのであった。

 

 

 

 それから数時間後、特に身に覚えのない書類の暴力が明石を襲うのであった。




ただし、活躍できるとは言ってない。
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