なんなんこれ   作:ダルマ

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ははははぁ~ん。あははは~ん。


おまけ、その1

 千葉の銚子鎮守府から大阪の南港鎮守府に異動してきた奈々は、異動初日の山場とも言うべき挨拶回りを何とか切り抜け、自身にあてがわれたデスクで一息ついていた。

 

「はぁ」

 

 仕事はもとよりプライベートでも大阪と言う地に馴染みがなかった奈々は、今後第二の故郷になり得るこの地で先輩方の足を引っ張らずに、そして上手く付き合っていけるのかと実際に足を運ぶまで不安がっていた。

 しかし、南港鎮守府の司令長官(事業所所長)や提督、それに何より、噂を聞き及んでいた南港鎮守府の金剛ことエリカは面倒見が良く優しそうで。

 今となっては奈々の中にあった不安は、実際に会った事で払拭されようとしていた。

 

「あ、もしかして千葉からやって来た新人さん?」

 

「はわわ、やっぱり関東の人だから美人さんなのです!」

 

「わぁ、可愛らしいです」

 

「新しく後輩が出来ると、流石に気分が高揚しますね」

 

 休憩室から持ってきたコーヒーカップで一息ついていた奈々のもとに、四人の先輩と思しき艦娘が近づき声をかけてくる。

 本来なら挨拶回りの際に先輩方にも声を一声かけておきたかったのだが、生憎と都合が悪かった為全員に声をかけられた訳ではない。

 今しがた声をかけてきた四人は、そんな都合が悪く声をかけられなかった四人である。

 

 四人はその装いから、それぞれ駆逐艦に空母、それに戦艦の艦娘であった。

 

「あ、はじめまして! 銚子鎮守府より本日付で南港鎮守府に異動してきました吹雪型駆逐艦の一番艦、吹雪を召艦します佐久間 奈々です。先輩方、挨拶が遅れて申し訳ありません。まだまだ若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします」

 

「あ、そんな慌てなくても大丈夫です」

 

 慌てて立ち上がり挨拶を行う奈々の姿に、エリカと同じ巫女服のような装いをした、黒髪ロングヘアの女性に労わりの言葉をかけられる。

 

「佐久間 奈々、良い名前ですね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 女性はにこやかに微笑みながら奈々に接する。その姿は、まさに大和撫子と呼ぶに相応しい。

 

「では、私達も自己紹介しますね。金剛型巡洋戦艦三番艦、榛名の艦娘を務めます村上 春瑠菜です。よろしくお願いしますね」

 

「わぁ、お名前、同じなんですね!」

 

「そうなの、ちょっと運命的で素敵でしょ」

 

 エリカと同じ金剛型巡洋戦艦、その三番艦を召艦する艦娘であるが故に、春瑠菜はエリカと同じような装いをしていたのだ。

 しかも、文字は違えど召艦する軍艦と同じ読みの名前を持つと言う、まさに運命的なものを感じずにはいられない。

 

「ねぇねぇ、榛名さんばかりお話してずるいですよ~。私達も早く自己紹介させてくださいよぉ~」

 

「あ、ごめんなさい」

 

 榛名の名前で盛り上がっていた所に、残りの三人から自己紹介の催促が飛んでくる。

 春瑠菜はその言葉に一歩後ずさると、続いて奈々の着ているセーラー服とはデザインが異なる制服を身に付けた薄茶色の髪をツインテールにした女性が自己紹介を始める。

 

「はーい、白露型駆逐艦三番艦は村雨を召艦します前田 千春でーす! 同じ入社二年目通し、よろしくね!」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 千春から差し出された手を握り返しお互いに握手を交わす二人。出身は違えど同じ入社二年目同士、それだけで親近感が沸き距離が縮まるような気がする。

 

「で、では、次は私、なのです。吹雪型駆逐艦の準同型艦、暁型の四番艦は電を召艦します、久保 董、です。まだ入社一年目ですけど、頑張るのです! よろしくお願いします、です」

 

 奈々や千春とも異なるセーラー服を着込んだ、語尾に特徴のある口調で自己紹介を行う茶髪ロングヘアーをアップヘアーにしている女性。

 どうやら入社年数で言えば奈々の後輩にあたるようだが、入社一年目、高校を卒業して入社しても十八歳の筈だが、奈々の目の前の彼女は実年齢よりも幼く見えた。その身長もさることながら、童顔な顔立ちであることも作用しているのだろう。

 

「後輩さんなんだ。でも、南港鎮守府なら私の方が後輩さんで久保さんの方が先輩さんだね」

 

「わ、私の方が先輩……、え、えへへ、ちょっと恥ずかしいのです」

 

 少々気弱な性格なのを感じ取ってか、奈々は優しく返事を返しながらおずおずと差し出された彼女の手を握り返す。

 

「では、最後は私ですね。航空母艦加賀の艦娘を務めています笠波 夕紀恵です。よろしく」

 

 最後に自己紹介をしたのは、弓道着のような装いに黒髪をサイドテールにした、まさに大人の女性と言わんばかりの落ち着きを見せる女性。

 航空母艦と言う、戦艦や駆逐艦とは異なる搭載した艦載機による航空戦力を攻撃の主体とする、軍艦としては比較的新しい部類の艦を召艦する者のようだ。

 

 なお、前の三人と異なり召艦する軍艦に姉妹艦が存在していない為、何番艦と言う表現は出てきていない。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 最後に夕紀恵とも握手を交わし、こうして四人との自己紹介が終わると、お互いの親睦を深めるべくちょっとした女子会が始まる。

 と言っても、まだ仕事中なので、コーヒーブレイクと言う名の女子会ではあるが。

 

「そうだ、奈々。ここ(南港鎮守府)じゃ同じ名前の艦娘(こ)もいないしさ、吹雪って呼ぼうと思うけど、やっぱりもっとフランクな呼び方の方がいいかな?」

 

 同期である千春が何やら新しい愛称についての話題を始めると、奈々を除く他の三人達は何やらそれはいい考えだと同調し始める。

 

 基本的に艦娘と言うものは、同じ鎮守府内に同形同名の艦を召艦する者がいなければ、大抵は召艦する軍艦の名を愛称のようにして呼ぶのが一般的である。

 しかし中には、例え鎮守府内に同形同名の艦を召艦する者がいなくとも、独自の愛称をつけて呼び合うものもある。

 

 おそらく千春の提案は、新たに愛称をつけることによって南港鎮守府の一員として歓迎すると言う意味合いが込められているのだろう。

 

「ん~、それじゃ、どんな愛称がいいかなぁ?」

 

「あ、あの……。佐久間先輩が召艦するのは吹雪、ですから、『ブッキー』と言うのは、どうでしょうか」

 

 奈々自身も特に悪い気はしていないので新たな愛称を決める運びとなり、どの様な相性がいいのかその候補を色々と出していこうとした矢先の事。

 小動物のように少々気を引けながらも、董がいの一番に候補の名前を口にする。

 

「お、いいねぇ」

 

「ブッキー、とてもいいと思います」

 

 千春と春瑠菜の二人はその候補の名を気に入ったのか、称賛の言葉を送る。

 

「ね、奈々もいいと思うよね?」

 

「うん、ブッキー。何だか可愛くていいかも」

 

「はわわ、気に入ってもらえて嬉しいのです!」

 

 当人である奈々自身も、ブッキーと言う愛称を気に入ったのか、もはや他の候補を聞くまでもなく半ば愛称は決まったかのようであった。

 

「加賀さんも、いいと思いますよね?」

 

「……ブッキー、……ブッキー」

 

「加賀さん?」

 

 春瑠菜が夕紀恵に声をかけて意見を求めてみると、何やら俯き加減に夕紀恵は小声でブッキーの名を呟き続けている。

 そして何かを思い出したかのように顔を上げれば、奈々に詰め寄り質問を投げかけ始める。

 

「もしかして、ご先祖様の顔覚えてたりします!? ご自身の事を『ボキ』とか昔言ってませんでしたか!? もしかして、カブトムシ好きだったり!? やっぱり決め台詞は『さよなら、センカンらしきフネ』とかですか!? やっぱりしたぎ……」

 

 先ほどまでのクールビューティーな雰囲気は何処へやら、何やら恐怖を感じる勢いで詰め寄る夕紀恵を前に、奈々はあまりの出来事に何の反応も示せないまま凍り付いてしまう。

 千春と董の二人も、あまりの豹変振りに同じく固まってしまっている。

 

 だが、そんな中で春瑠菜はこの事態を打開しようとすぐさま動いた。

 奈々から夕紀恵を引き剥がすと、夕紀恵に落ち着けと言わんばかりに声をかける。

 

「加賀さん、落ち着いてください! それは榛名は大丈夫(リアルタイム的な意味で)ですけど、あの子達には大丈夫(リアルタイム的な意味で)じゃないですよ!」

 

「で、でも……。一(一人の)航(高校生)戦(プレイヤー)の誇り(思い出)にかけて、これだけは譲れないんです」

 

「分かります。榛名もプレステとかセガとか羨ましかったけど、でも家は兄弟が多かったから最新のは無理で、だからクーポンの付いていたあれをセットで買ってもらって、嬉しくて楽しくて、隅々までやりこんでカセットをふーふーしたのとかいい思い出ですけど。でも今の子達には32Mbitは古すぎるんです!」

 

「このダメージ(ジェネレーションギャップ的な意味で)を完治(受け入れる)するには、少し時間(買ってプレイする的な意味で)がかかるわね」

 

 そんなやり取りを行う春瑠菜と夕紀恵の二人を他所に、蚊帳の外の三人は、何やら寄り添ってこそこそと話し始める。

 

「あ、あの……。お二人って、一体おいく……」

 

「ブッキー、同じ女性なら分かるでしょ、女は年齢じゃないの、生き様よ」

 

「で、でもあれは、ちょっと分からないのです」

 

「あ、でも。艦娘としての経歴は浅くても、確か加賀さんってここ(南港鎮守府)の艦娘の中じゃ一番の年上だった筈……」

 

「え、そうなんですか」

 

「うん、確か榛名さんや金剛さんよりも一回りくらい年上のはずだから、あ、てことは今はアラ……」

 

 と千春が言いかけた所で、何かに気づいた千春は素早く後ろを振り返る。

 そこには、満面の笑みを浮かべた夕紀恵の姿があった。

 

「あ、加賀さん、正気に戻ったんですね」

 

「飛行甲板(肌年齢的な意味で)はデリケートだから、あまり触れないでちょうだいね」

 

 普段見せないにこやかな笑顔、だがそれが、逆に不気味な恐怖を感じさせる。

 三人は無言で首を立てに振り続けると、再び彼女の顔が元に戻るのを待つのであった。

 

 

 こうして何だかんだとあったが、無事に奈々の愛称も決まり、南港鎮守府の一員としてまた少し距離が縮まったと感じる奈々であった。

 その後、手続き等に関して提督にお伺いを行おうとして顔を真っ赤にしたり、自身のスマホでブッキーを調べてタワーマンションに住んだほうが良いのかと思ったりと。

 

 色々とあったが、異動初日を何とか無事に終えるのであった。




読んでくれてありがとう、読者らしきひと。
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