南港鎮守府に新たな仲間を加えてから暫くした後、提督である佑弥に南港鎮守府の司令長官から至急の呼び出しが下る。
司令長官室(所長室)に赴き、そしてそこで告げられたのは、愛媛県は松山鎮守府からやって来る艦隊との演習の実施であった。
しかも実施日がその日の午後と言うもはや当日も当日、数時間前になって急に知らせると言う一大事に、提督をはじめ秘書のエリカや他の艦娘は大慌て。
どうやら、連絡の不手際がもたらした結果らしいが、それにしても直前過ぎる連絡にまるで近海に深海棲艦が出現したかの如く南港鎮守府内は慌しさに包まれた。
だが、どうにかこうにか演習の準備が整い、後は相手が到着するのを待つばかりとなった。
「HEY! 提督、どうやらExercises opponentが来たみたいよぉ~!」
南港鎮守府がある港の埠頭に向かって、沖合いから一隻の艦載艇、石油機関を搭載した小型艇である内火艇が近づいてくる。
海上自衛隊にも交通船と呼ばれる内火艇に相当する艇を運用しているが、目の前に映るそれは現代のボートのようなものではなく、まるで遊園地のアトラクションに登場しそうな形状をしている。
これは艦娘が召艦する軍艦と同じ時代の内火艇である為だ。
なお、艦娘は出動する際には港の埠頭等から内火艇を使って沖合いに泊めている軍艦に搭乗するのが通例となっている。帰還もまたしかりだ。
これは、港を他の民間船も使用する為の措置である。また、埠頭に停泊させると出港に時間がかかるという点も考慮された結果と言える。
「愛媛から遥遥ようこそ、南港鎮守府の提督をしています溝端 佑弥です」
埠頭に停泊された内火艇から、第1種軍装である紺色の服を着込んだ提督と数人の艦娘が降り立つ。
そんな彼らを顔合わせの意味合いも込めて出迎えた佑弥達。にこやかな笑顔と共に演習相手の提督に手を差し伸べる。
「いや~、これはわざわざどうも。松山鎮守府で提督をしています斎藤 竜弦です。本日の演習、どうぞお手柔らかにお願いいたします」
「いえ、こちらこそ」
互いに手を取り握手を交わす二人の提督、そしてそれを見守る部下の艦娘達。
一見すると和やかな雰囲気の中顔合わせは行われたと見えるが、どうやらそうでもないようだ。
「(けっ! いけすかねぇ野郎だ! 何がお手柔らかにだ、こちとら急に演習の話を聞かされて大慌てで愛媛から瀬戸内海通って来たんだ、集合場所のそちらにこの苦労が分かるか!?)」
表面上はにこやかであるものの、竜弦はどうやら内心では相当ご立腹のようだ。
「(しかもなんだぁ、伊豆諸島海戦で活躍したか何だかしらねぇが、俺とそんなに歳が変わらないのに俺よりも等級が上とか。くそっ! いけすかねぇいけすかねぇっ!!)」
どうやら同じ提督と呼ばれている肩書きを有していても、社内では佑弥の方が地位的には上のようだ。
「(……だがしかし! だがしかしっ!)」
こうして内心の怒りを面に出すことなく握手を終えた竜弦の視線は、佑弥によって紹介されていく彼の部下の艦娘達。その脅威の胸囲に向けられていた。
「(うおーーいっ! それらは本当に天然物の甲鉄板なのでしょうかぁぁっ!?)」
例え妖精と契約して軍艦を召艦することの出来る艦娘と言う存在になったとしても、生まれもって育ったそれを変幻自在に変えることは出来ない。
竜弦の視界に広がる柔らかな大質量を持つ、まさに鋼鉄(くろがね)の城の数々。
「(貴女方が、その自慢の砲雷撃戦を繰り広げると言うのであれば、こちらも、自慢の九一式魚雷で応戦せざるを得ないような……、そんな気がしてならない!)」
竜弦の脳内で繰り広げられる自身の煩悩の化身たるもう一人の自分が摩訶不思議なダンスを繰り広げる中、彼の思考は更に回転速度を増していくのである。
「(が、しかし! ……よーく考えるんだ俺。実際に戦うのは俺ではない、そうだ、艦娘だ! 俺が生み出した雷撃多重奏を奏でる艦娘(かのじょ)達だぁぁ!)」
思考が導き出す数々の答えにつられるかのように、ふと竜弦は自身の横に並ぶ部下の艦娘達をチラ見する。
戦艦よりも航空母艦の比率が多い為か、彼の部下の艦娘は、一様に平面な部分が多い。
「(空母は航空機を離艦・着艦させる為にさえぎるものの無い平面な一枚甲板を採用しているが……)」
更なる思考の波が竜弦の頭の中に吹き荒れる。
だが、その荒波の中一筋の光が天よりもたらされ、まるで彷徨う竜弦を導くかのごとく誘う。刹那、ししおどしの如く脳内に響く音と共に、遂にとある結論導き出す。
「(と言うことはまさか! まさかあれか! ……うちの艦娘達には上部構造物が少なすぎるのだろうか)」
結論を導き出し、再び自身の横に並ぶ部下の艦娘達をチラ見する竜弦であったが、その時であった。
不意に隣に立っていた秘書兼艦隊旗艦の龍驤から目にもとまらぬ速さで繰り出される肘打ちが、寸分違わず竜弦のわき腹を捉えた。
「ぐふっ!」
予期せぬ部下からの無言の反撃に、竜弦はその痛みを堪えきれず姿勢を崩してしまう。
このまま倒れてしまえばお笑い草、否、一生の恥。
しかし一度崩れた姿勢を元に戻そうにも痛みが邪魔をしてそれは出来そうにもない。
ではどうするか、答えは簡単である。無様に倒れなければ良い。
最後の力を振り絞り、竜弦は最後の最後で左足を地面につけ右足は直角を描くかのように、そしてそこに右手を添える。
その姿はまさに、君主に対して深々と頭を下げるしもべの様であった。
しかも、丁度佑弥達の紹介が終わり竜弦達の番が巡ってきた瞬間であった。
「こ、こちらが……、私の自慢、の部下の、艦娘(こ)、たち……、です」
残った左手が相手の視線を誘導するかのように、横に並ぶ部下の艦娘達に若干震えながらも向けられる。
傍から見るとおかしな光景でしかないのだが、同じ会社の者同士気を使ったのか。
特に指摘されることも無く紹介が終わり、その後もまるで何事も無かったかのように演習が進んでいくのであった。
なお、この演習の後竜弦達は愛媛へと帰っていったのだが。その後、自慢の九一式魚雷から信管が抜かれたとの噂が流れたのだが、真相の程は本人のみぞ知る事であった。
九一式魚雷を持つ奴が相手なら、こちらも一二十センチ対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲を使わざるを得ない。って田舎のお爺ちゃんが言ってたような気がする。