南港鎮守府の一角、そこには工作室と呼ばれる部屋が存在している。
その部屋には、鎮守府随一のエンジニアとも言うべき人物がいた。その名を、明石。
鮮やかなピンクの髪をおさげ風にまとめ、シャツの上からセーラー服を着込むという、あまりエンジニアらしからぬ格好をしてはいるが。その腕前は確かである。
元々艦娘になる以前は技術職に就いていた事もあり、その腕前はまさに折り紙つきだ。
そんな彼女の日々の業務は、主に自身の執務室である工作室で何やら怪しげなアイテムを作成する事。
そして時折、訓練で疲労した他の艦娘達のバイタルパートのチェックを行う程度である。
他の鎮守府、特に第一線で活躍する鎮守府に属する同名の名を有した艦娘ならば、業務の最中に自身の趣味に時間を割けるなんて事は絶対にないだろう。
だが、生憎と第一線ではないこの南港鎮守府にあっては、明石は業務の合間、と言うよりももはや本来の業務を合間にこなす程の割合で自身の趣味に没頭している。
ではここで、これまで彼女が自作したアイテムの数々を一部紹介しよう。
なお、例によって例の如く、これらアイテムは制式採用を目指して上司である提督の佑弥にプレゼンしたが。当然ながら却下されている。
その一。デラックス探照灯ベルト。
その名の通り探照灯を模した造形がバックルに施されたベルトで、バックル部分にコインを挿入することが出来る溝が掘られている。
この溝にバッテリーメダルと呼ばれるメダルを装填し、脇にあるスイッチを押すことによって軍艦を召艦する際に場を盛り上げる効果音が流れる仕組みだ。
因みに、流れる効果音と言うのが。
「Battleship! Battlegirl!! Angel!!! B・B・Aッ・BBA・B・B・Aッ!!」
と言うものであり。何故か歌のように聞えるのだが、製作者の明石曰く歌は気にしてはならないらしい。
なお、このアイテムをプレゼンした際、同席していた提督の秘書であるエリカにプレゼン直後に呼び出され。
大阪湾に沈められる半歩手前までいくほどこっ酷くお叱りを受けた為、その日の内にこのアイテムは封印される運びとなった。
その二。スーパー戦闘機、大空暴風号。
巷で流行っているクラシック・ネイビーとコラボした模型に目をつけ、南港鎮守府の新たなシンボルとするべく作り上げた1/1スケールの戦闘機模型である。
何故かベースとなっているのがアメリカ最後のレシプロ攻撃機、A-1 スカイレイダーだが、明石曰く気にしてはならないらしい。
戦闘用ではない為カラーは鮮やかな紅白を採用、しかし戦闘機らしくシャークマウスのノーズアートが描かれている。
張りぼてのミサイルやロケットポッドを翼下のパイロンに装備し。何故か機尾にはロケットブースターが取り付けられている。
操縦席の計器類など細部にまでこだわり抜いた一品であったが、置き場がないという理由でシンボルとしての設置は却下され。
また邪魔と言う単純な理由で、結局プレゼン後即時解体の運びとなった。
なおその際。
「私の大空暴風号がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
と悔しそうに明石が叫んだとか叫ばなかったとか。
その他、召艦した軍艦を操艦するのに必要な艤装の装着が地味なので、クレーンで艤装を頭から被るように装着させるシステムや。
ドリルや光線兵器といったアイデアも出されたものの。結局それらが日の目を見ることはなかった。
しかし明石は諦めない。
何時の日か、自分が作ったアイテムが日の目を見ると信じて、今日も工作室で新たなるアイテムの製作に没頭するのであった。
少しばかり周囲とは異なる趣味嗜好の為、明石は友達がいないのではと思われるかもしれないが、ご安心を。
そんな彼女にも、この南港鎮守府内に友と呼べるべき人物がいる。その名を、嵐。
「ドーモアカシサン、オハヨウゴザイマス」
「ドーモアラシサン、オハヨウゴザイマス」
同じベクトルの持ち主と言うか、シンパシーを感じずにはいられないこの二人。
出勤し出会うと、独特の挨拶を交わす。これは二人にとっては日課のようなものなのだ。
「所で明石さん、見ました? 昨日のスーパー戦隊カイモンジャー?」
「見たよ、見た! まさかとは思ってけどあそこであそこで野菜グリーンがあんな事になるなんてね……」
嵐のデスクで何やら盛り上がる二人。どうやら、昨日放送していた特撮テレビドラマシリーズの内容について盛り上がっているようだ。
ファッションやグルメ、或いは行楽地での体験談など。同じ年頃の話題の中心に上がってきそうなものは、二人の間には一切上がる気配がない。
因みに、二人が盛り上がっているスーパー戦隊カイモンジャーとは。現在放送している特撮テレビドラマシリーズのタイトルで。
世界の食の平和を守るカイモンジャーが、敵対する悪の組織デーモンカスタマーと戦う様子が描かれている。
スーパーマーケットをメインモチーフにしており。
その為戦隊ヒーローの名前も、『お惣菜レッド』『鮮魚ブルー』『ドリンクイエロー』『野菜グリーン』『精肉ピンク』となっており。
物語の途中からは『レジシルバー』『経理ゴールド』『清掃ホワイト』といった追加ヒーローが加わっている。
そんな特撮ドラマの話題で盛り上がる二人の間に割って入ることの出来る者などいる筈もなく。
周囲の同僚達は、頭に疑問符を浮かべながら時折入ってくる二人の会話に耳を傾けるのであった。