BloodBorne 狩人の手記   作:タイコイチ

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オルゴールの少女

 ザクッ、ザクッ、と、何かを切断するような音が聞こえる。私にはわかる。生物を、それも人程度の大きさのものを切断する音だ。音がする方にゆっくりと足を運ぶと、目に酷く汚れた包帯を巻き、黒い独特な衣装に身を包んだ男がもはや人で無い獣を切断していた。非常に大柄で、全身に血を浴び、それでも尚正気を保っている様だった。彼もまた、狩人である。

「ん……?貴様……異国の狩人か……」

 彼がこちらに気づき、のそのそとこちらに向かいつつ話しかけてくる。その態度は比較的友好ーーあくまでヤーナム全体で見た場合の話だーーであった。ヤーナムの者はよそ者を嫌う。だがしかし、この男はまるで全く嫌う素振りを見せなかった。

「貴方は……?」

 私がまず自分の名を名乗ってからそう尋ねると、男はガスコインと名乗っている者である事、またこの街で神父をやっていたという事を話してくれた。

「医療協会へ続く道は知らないか?できればお互い協力したい」

 そう言うと、ガスコイン神父は渋々ながらも承諾し、代わりに彼自身の目的にも協力するように求めた。彼の目的。それはこの街のどこかに居るはずの妻を探すというものであった。それを聞き、私はこの男の内に秘める何か熱い希望の様なものを感じ、快く承諾した。交渉成立だ。

 私たちは医療協会へ続く道に進みながら、同時に彼の妻を探した。獣との戦闘の最中に彼の動きを見ていたが、やはりこの街に慣れているのだろう。動きが軽やかで、美しく、まさに狩人と呼べる振る舞いだった。ただ一つ、獣性のようなものを残して。

「この大橋の先が医療協会だ……だが、封鎖されているな……」

 あっという間に辿り着いた医療協会への道だったが、その門は固く閉ざされていた。獣の力であっても破れはしないだろう。

「あいつらめ、この街を旧市街の様に焼き捨てる気だな……」

 この時は彼の発言の意味が解らなかったが、この手記を書いている今なら解る。あの旧市街の様は、獣の醜さだけではなく人の醜さも映し出している。それと同じ事がこの街で行われようとしているのだ。このヤーナム全体を、燃やし尽くすという行為を。

 その時、耳をつんざくような鳴き声が聞こえた。醜い獣の、だがそれでいて清らかで、しかしやはり聞き苦しい鳴き声だ。声の主を探す間もなく、上から今までとは比べものにはならない程の大きさの獣が現れた。

 獣の病。それは人が醜くおぞましい獣になってしまう恐ろしい病。そしてその病は信心深い聖職者ほど、より強力な獣になるのだという。聖職者の獣。その大型で白い体毛を生やした獣は、狩人の間ではそう呼ばれていた。

 

 *

 

 その大型の獣は、私に対して素早い攻撃をしかけてくる。それをステップでかわし脚を切り刻むが、まるで効いていない様だ。続けて二段目の攻撃がくる。三段目。それら全てをかわすも、私の身体はこれ以上はかわし続けられなかった。被弾する。そう思った矢先、ガスコイン神父の放つ散弾が聖職者の獣の頭を撃ち抜いた。獣は大きく怯む。そして彼は続けてステップで頭の方へ駆け寄り、銃弾で開いたその頭の傷に、思い切り手を突っ込んだ。そして……脳味噌を引き抜いた。血飛沫が上がり、獣の甲高い鳴き声がまた街中に響く。即死だ。獣はその場に倒れ、四散し、血の雨が大橋に降り注いだ。まさかこれほどの実力を持つ狩人だったとは……想像を超えていた。強大な獣に対する、美しい内臓攻撃。一連の流れは狩人が芸術品と言われてもおかしくないような、そんな動きであった。

「気を付けろ」

 ガスコイン神父がそう言い放つ。礼を言うと彼はフン、と鼻で笑い、背を向け「私の妻を探すぞ」と言った。不思議な事に、彼とは友情のようなものが芽生え始めているような気がした。が、正直彼は獣よりも恐ろしい。決して敵対したくないものだ。精神的にも、物理的にも。そんな事を内に巡らせつつ、ガスコイン神父の妻を探しに同行するのであった。

 歩くガスコイン神父の背中を追いながら、私はだが少し残酷なことを考えていた。……どうせ死んでいるのだろう?と。いや、希望を持つのは良いことだ。だから口出しは決してしなかった。彼もまた、被害者であり、どこか妄信的であるのだ。そっとしておいてやろう。

 

 *

 

「おかえりなさい……お父さん……お母さんは見つかった……?」

 可愛らしい娘だ。赤いリボンを髪につけている。これがあのガスコイン神父の娘だとは考えられない。

「これがあのガスコインの娘だとは考えられないといったような顔だな」

 本場の狩人は心まで読むのだろうか。

「まぁいい。ヴィオラは……お母さんは見つからなかったよ。少し休憩をして、また探してくる」

「そう……」

 娘は少し悲しそうだ。だが少女の様な幼さは見受けられず、とても大人しく見えた。父親の影響だろう……いや、そう思った事は顔には出していない。

「それで、そこの人は……?」

 私の事だ。名乗ろうとすると、それをガスコイン神父が遮り、私の紹介をしてくれた。一緒にお母さんを探してくれている優しい狩人だ、と。彼にしては中々好意的な紹介だったのではないだろうか。

「そう……ありがとう」

 娘は少し微笑んだ。そこには少しだけ。ほんの少しだけだが、少女の面影があった。

「お父さんと、お母さんと、お爺ちゃんとお婆ちゃんの次に好きよ……」

「あぁ、ありがとう」

 5番目か。恐らく喜んで良いのだろう。

 さて、私たちが今いるのはガスコイン神父の家だ。比較的近くに家があったので休憩をしよう、と彼の方から言いだしてきた。本当は娘が心配だったのだろう。まあこれだけ可愛らしいのなら心配になっても仕方がない。獣だらけの街に、少しの癒しがあると思えばいい。いや、私には決してそういう趣味は無い。

 私も病にさえ侵されていなければ、今頃は生涯を共にする者もいたのだろうか。年齢的にも結婚を考える時期である。少し、彼が羨ましくなった。

 

 *

 

「行くぞ」

 そう言われ、家を出た私たちは、ガスコインにあるものを見せていた。家を出る時にガスコインの娘から預かった、オルゴールだ。両親の思い出の品だという。中に「ヴィオラ」と刻まれている。

「フン……」

 ガスコインは少し悲しそうに、鼻で笑った。本当は、気づいているのかもしれない。

「すまない、行こう」

 私はそう言い、武器を構え、蔓延る獣に向かっていく。彼もそうした。もう既に、呼吸を合わせる事すら容易い仲であった。

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