「それじゃあ、ここで大人しく……な」
「うん……ありがとう」
私はあの後、ガスコイン宅に戻り娘に全てを話した。母親が死んでいた事。ガスコインが獣となってしまい、それを私が眠らせてやった事。娘は小一時間ほど泣き、それが止むとここ以外の安全な場所は無いか?そう尋ねてきた。私が知っている安全な場所と言えばあそこしかない、ヨセフカの診療所だ。そこなら設備も整っているだろう。だから私はヨセフカの診療所に尋ね、そしてそこに娘を預けに来たのだ。
「狩人さん、ありがとう。この子の面倒は私が見るわ。貴方は狩りに専念して頂戴」
「はい……それでは」
思えばあの時に顔をよく見ておくべきだった。声も。この時は気づかなかった。このヨセフカ女医が、偽者であるという事に。
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さて、一段落して私が着いたのはオドン教会という場所だ。なんでも『姿なきオドン』なる存在を信仰しているそうだ。そこに居た赤フードの男に、『誰か町の人を見つけたら、ここは安全な場所だから身を隠せと伝えてくれ』と言われたが……正直あんなぼそぼそと喋り薄気味の悪い笑いをする人間を信じる教養は持ち合わせていない。無視してさっさと街の階段を降りて行った。その道中、何者かに見られているような感触を覚えながら。
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『この先、焼き捨てられた旧市街。獣狩りは不要、入るべからず』
そんな張り紙は無視した。獣を狩る事が私の使命なのだから、ここに狩るべき獣が居るのなら狩るしかないのだ。
「引き返したまえ!張り紙を読まなかったのか?ここは焼き捨てられた旧市街、獣狩りは不要だ!繰り返す、引き返したまえ!」
どこからか大きな声が聞こえた。だが引き返さない。きっと何かを隠しているのだから。
「ほう、貴公……良い狩人だな……ならば報復を与えよう」
その瞬間、空から私の身体めがけて銃弾が降り注いでくる。何発も、何発も。そうして私はハチの巣にされ、二度目の死を迎えた。
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慣れない感覚だ。狩人の夢で目が覚める。
あれは恐らくガトリング銃か何かだろう……それにしても痛かった。しかしあそこを突破しなければ、私の獣狩りは達成されない。だからこそ行かねばならない。綿密に計画を立てる必要がある。あの地帯を突破する計画を。
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恐らく100回は死んだだろう。それでも精神は朽ちぬまま、身体も滅びぬままに、ずっとずっと進み続けた。そうしてようやくガトリング銃を使ってくる奴の目から逃れることに成功したのだ!ざまあみろ!糞ガトリングめが!
走っている最中に見えた街の様子は、酷いものであった。辺り一帯が焼け、獣も爛れている。元々は人だったのだろう。私はガスコインの言葉を思い出していた。『旧市街の様に焼き尽くすつもりか』……獣には炎が効くという。ずっと前にあった獣狩りの夜で獣たちが手に負えなくなり、それが行われたのだろう。心なしかここの獣は炎を病的に恐れているような気がする。人間だった頃の記憶だろうか。ガスコインがオルゴールの音色から逃げたのと同じような、そんな気がした。
最奥の教会にはひときわ大きな獣が居た。皮が全て剥がれ落ちた獣だ。しかし何という事は無い。内臓を引き出して眠らせてやった。私も強くなったものだ。しかし、この獣は夢とは何も関係が無かったのだ。馬鹿馬鹿しい。青ざめた血の情報すら得ることも叶わなかったじゃないか。
教会の祭壇を見ると、奇妙な杯が乗っていた。何かありがたそうな物だったので、狩人の夢に持って帰る事にした。
*
「君……それは聖杯だよ……」
「はぁ」
ゲールマンの助言を聞く。話によると、その昔聖歌隊と呼ばれる連中が地下深くの遺跡で異形の存在を発見し、そこに宇宙なるものを見出したという。宇宙とは何だ?初めて聞く言葉だ。まあそれは置いておくとして、この聖杯はその地下遺跡に行くための鍵となるらしい。
「それよりも君、オドン教会は知っているだろう?」
「まぁ、はい……」
掴めない人物だ。ゲールマンは続けて、
「ならば、オドン教会を上りたまえよ……」
「オドン教会の上、ですか……わかりました」
一礼をし、狩人の夢から去る。このままでは埒が明かないので、言われたとおりにやってみる事にした。
*
『「宇宙は空にある」 聖歌隊』
どっちなんだ。私はオドン教会の最上層にあったメモを見てそう思わされた。宇宙なるものは地下にあるのではないのか?いったい何なのだ?宇宙?地下?聖歌隊?わからない。私の思考の次元が低すぎるのがいけないのだろうか。いや、そんな事は無い筈だ……
「お、っと……あっ」
その時、足を滑らせた。私はついうっかり、最上層の床から落ちてしまったのだ。いや、別に、良いのだ。どうせ死んでもなかったことになるのだから。少し痛むだけじゃないか。私は覚悟を決め、落ちた。……が、死ななかった。しばらくの間気絶し、目が覚め、辺りを見渡すと。
まるで狩人の夢と瓜二つの、だが何か足りない場所に辿り着いていた。そこは夢の生地だ。狩人の夢の、モチーフとなった場所である。