よろしくおねがいします。
タイトル:疑心暗鬼 書いた人:フーセル
疑心暗鬼、すべてに疑いを持って一切のものを信用できず、夜になって布団には入れば昼間に自分に向けられた視線の意味、意図を考えるとともに多くの思考を巡らせ精神を消耗することであると私は考えていた。(中略)この文は私の遺書のようなものであると思って欲しい。 ~記 平成5年5月20日~
私がこの遺書(彼はもう他界している)を文に起こし、彼の最後を公然の場に曝そうと思い立ったのは他でもない、彼に対する憎しみと怒り、そして彼を助けられなかった自分に対する罪悪感からである。 稚拙な文であることは自分でも承知しているが読んで欲しい。私はどちらかと言えば目立たない人間であったが、彼は常に明るく、優秀で、何をやらせても人並み以上にこなし、非の打ち所が無く、誰からも親しまれた人間であり、言うまでもないが------人間性も優れていた。そして、彼は私の親友であった。
彼が命をたったのは彼が遺書を書いた次の日、平成5年5月21日であるが、その日、私と彼は2年ぶりの再開をしていた。
そして、私は彼の自殺に立会ったが、止めることはできなかった。しかたがなかった。
私と彼はともに通った千葉のXX大学(伏せさせてもらう)の煤けた校門を左に曲がったところにあるカフェで待ち合わせをしていた。当時、私は大学院に在学していていたが、彼は公務員として区役所に務めていた。 私がカフェに先に到着して
サルビアの花が咲いている花壇の側の席に座り彼を待ちながら、懐かしい大学生活を回顧していた。
「義則。 義則。 久しぶり。」
彼のよく通る声に私は我に返り振り向くと幾分か頬が痩けた彼が立っていた。しかし、私はこの時まだ、彼が彼の肉体と命の決別を果たそうという決心をしたことに気がついていなかった。
「ああ、石田。 久しぶり。 少し痩せたように見えるね。」
彼は少し影を落とした調子で答える。
「最近あまり食べないようになったからかね。君は全く変わらないが。」
彼の癖である。私に対しては最後にちょっとした”嫌味”をつけ加える。
彼は私にだけ彼の本心を打ち明けてたからであると言うことに気がついたのは彼の遺書を読んでからであったが。私と彼はコーヒーとサンドウィッチ(生ハムが挟んである)を注文して、懐古話にふけっていた。
その後、2時間程度彼と雑談し、日も落ちかけてきた頃、彼が私に大学の帰りにいつも度数の低い酒とポテトチップスーー彼はコンソメ味が好きだった。を持ち寄って無意味な雑談をしていた堤防に行こうと提案した。 私は特に断る理由もないし、懐かしさを全面に感じていたので当時の大学帰りの気分で彼の提案に賛成した。その堤防は大学のある町の2駅先にある船乗り場の近くの堤防のことであった。実際は防波堤と言うらしいが、私が「堤防。堤防いこう。」というと彼はいつも、彼は防波堤と知っていたにも関わらず「堤防。今日も行くのかい。」と言った調子で私に合わせていてくれた。今思うと、無知な私を小馬鹿にしているのかと思うこともあるが、彼の気遣いであると思うことにして、納得している。そして、堤防の縁に腰掛け、当時と同じように酒とポテトチップスをつまみながらカフェでの話の続きをした。今思えば、この安っぽい酒盛りが彼にとっての最後の晩餐であった。そして、彼はこう、話を切り出した。
「例えば、そう、飽く迄も例えだ。俺は別にこう思っちゃいない。それを考えた上で、だ。義則と俺はいま話しているが、俺が義則に対して、そう、明確な憎悪を感じていたとしたらどうする?別に憎悪じゃなくてもいい、嫌悪感、いや、そうだなぁ。軽蔑でも、いいかな。」
私はこう答えた。
「どうもしないね。いや、どうすることもできないんじゃないかな。少なくとも、石田に暴力を振ったりはしないよ。」
私は浅はかだった。この時点で気づいていればよかったのだ。しかし、仕方ない。過ぎたことだ。
「いや、そうじゃない。義則の、そう、当に今の行動を聞きたいんじゃないのだよ。これからの付き合い方、そう、俺に対する評価、かな。女々しい気もするが。」
と若干、語尾を濁らせて言った。彼は自分が疑心暗鬼に鳴っていることを恥じていたのかもしれない。それか、私に対する失望・・・軽蔑か。
「君が嫌でないなら、今まで通り接したいね。それが無理なら、穏便に距離を置くかもしれない。」
彼はまた、私に質問した。
「じゃぁ、もし、君が私も含む全ての人を信用できないようになったらどうする? それか、最近読んだんだけど、唯心論、そうだね、義則にしか心はなくてほかは無心に、コンピューターみたいに動いているとしたらどうする?そんなことはありえないだろうけど。」
私は彼を小馬鹿にして言った。
「どうした?テレビドラマ・・・いや、くだらない娯楽小説の読みすぎか。馬鹿馬鹿しい。」
彼は諦めたように、開放感のある笑みを浮かべていった。私はよく覚えている、彼の表情を。すべてを投げ出した表情、いや、投げ出したというより”放棄”のほうが適切かもしれない。そうだ、私を含む全ての人々を憐れむように。
「かも、しれないな。 いや、今日は久々に楽しかったよ。」
彼は、またな、と、再開を約束する言葉を私には掛けなかった。
私たちは駅に向かって歩き出した。
一言も言葉を交わさなかった。
そして、駅のホームで下り電車を待っていると彼は苛立や悲しみを込めた声でこういった。
「それじゃぁな。俺はもう疲れた。すべてを納得して受け止めると、とてもつかれるんだよ。なぁ、もう、いいよなぁ?」
彼は、私の、そう、私の目の前から姿を消した。
何も理解できなかった。いや、しようとしなかった。彼が自殺をすることは、予想出来ていたのだ。ただ、葛藤があってできなかった。
「・・・彼の腕を引いても、彼が死んでしまったら、私の責任であろうか。他の人々は私が彼を殺したように思うだろうか。」と。
彼が、疑心暗鬼になってしまったのは私の、このような考え、利己的な考えを誰しもが持っていることが原因ではないだろうか。
彼は、私を試していたのだろうか。いや、試していた、彼はホームに落下する瞬間、私を憐れむような視線を送ったのだ。
彼の最後の瞬間、私は彼の親友ではなく、彼の周りの、疑うべき人々と同じように、彼のうつろな目には映ったのだろうか。
彼のことを助けることができたのに助けなかった。
私の、責任だった。
私が殺したも同然だった。
いや、私を含む彼の疑うべき人々が、彼を殺したのだ。
彼が自らの命をたってから、必然的なことであるか、私自身も他人だけではなく私自身のことさえも信じることができず日々を
私は彼を救えなかった、生きるべきなのか死ぬべきなのか、と頭の片隅で考えながらぼんやりと日々を過ごしていた。そうだ、今思えば私は鬱病にかかっていた。そして私はなぜだか彼が自殺した駅のホームに行くと心の平静が取れるような気がしてならなかった。それは、私が日常から彼にいだいていた、いや、抱いていたとは考えたくはないが実際には考えていたのであろう彼の能力や人望、人柄などに対する嫉妬・・・が私が彼を消し去ってしまった場所へと導いていくのではないだろろうか。と、考えているうちに私は散々に散らかった部屋から適当なジーンズとシャツとあの日着ていたグレーのジャケットを着て七日ぶりに玄関のドアを開けた。外は5月後半にしては暑苦しく、眩しいように感じた。私の卑劣な心を太陽が無理やり焼き殺そうとしているように感じた。そして街を往く人が私を「人間未満」や、「人間以下」のような視線を送ってくるように感じ冷や汗がシャツを濡らしながら、電柱や自動販売機、なんでも人の目から隠れられるものを見つければ見つけ次第隠れながら駅へと向かった。
なんとか私は駅につき、彼の自殺した駅への切符を購入し、見慣れた階段を上り、どこからともなく湧いてくる焦燥感や不安感、そして他人の目線を全身で感じながら電車に乗った。
まだ未熟者なのでもっと頑張りたいです。