ラフムに転生したと思ったら、いつの間にかカルデアのサーヴァントとして人理定礎を復元することになった件   作:クロム・ウェルハーツ

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1.おいでませ、カルデア……ってバッビローン!

 目が覚めたらラフムでした。ええー? ほんとにござるかぁ?

 

 ほ ん と で す !

 

 腕を見る。なすび色の鋭く尖った4本の腕。細いけど、力は強い2本の足。口は人とは違って縦についている。その口の先から天に向かってぴょこんと揺れている頭の部分がチャームポイントだね。ちくしょう……。

 

 しかも、今いる所は密林。誰もいないし、薄暗いし、なんか獣の泣き声がするし。うわーん、マタハリママ助けて! ついでにおっぱい揉ませて!

 

 泣きたくなってくる。ラフム、泣きたい。いや、本当に。

 え? え? どういうこと? トラックに轢かれたと思ったら密林にいて、葉っぱについた水滴に映った姿を確認したらラフムってどういうこと? 

『楽しい楽しい、ギャハハハハ!』って言えばいい訳? いや、楽しくないよ。こんな状況のラフムを見て愉しめるのは愉悦部員だけだよ!

 

 ガサリと音がした。

 ビクリと体を震わせる。いや、密林、ちょー怖い。ガサリガサリと茂みが揺れるのを見る。自分がこれまでの人生で経験したことがないほどに緊張しているのが分かった。

 思わず、喉を鳴らす。いや、ラフムにも喉あるからね。人とはちょっと違う形だけど、人をベースにしているからね。少し違うからって差別は悪い文明。抵抗しないラフム相手に宝具をぶっ放すのはもっと悪い文明。

 

 と、茂みから人が出てきた。やばい、ぶっ殺される。少なくとも、密林の中でバケモノに出会ったらぶっ殺す。ラフムならそうする。

 けど、転がるようにしてラフムの前に姿を現したのは緑色の長い髪だった。次いでにいうと血塗れだ。うん、ラフム知ってる。キングゥだね、わかるとも!

 ラフムの前に出てきたのは、FGO第一部の第七章のキーパーソン、キングゥだった。

 

「見ィ……ツケタ」

 

 と、キングゥの後ろからラフムと同じ形をしたバケモノが現れた。うっわ、気持ち悪い。人のこと言えないけど気持ち悪い。

 絶望の表情を浮かべるキングゥに群がるラフムたち。ボケっと突っ立てることしかラフムはできない。ご同輩たち、マジ怖。だけど、震えているラフムとは裏腹に、キングゥを取り囲むラフムの内の一体が他のラフムを襲い始めた。

 自身の体に反撃による傷を受けながらも、この場のラフムを全て殲滅したラフムはキングゥに体を向ける。

 

「え? お、まえ……助けて、くれたのか?」

「──逃ゲ、ナ、サイ、エルキ、ドゥ。アナタ、モ、長クハ、ナイデショ、ウ、ケド」

 

 アカン、これ泣いてまうパターンや。

 ラフム泣いちゃう。

 上を見上げて涙を堪えて、ついでに気配も消す。名場面は立ち入っちゃいけないよね、やっぱり。

 

「……おまえは、なぜ動かない? ボクを殺しにきたんじゃないのか?」

 

 空を見上げていると、後ろから声を掛けられた。キングゥだ。

 

「gyh@44444!」

 

 ハッ……いかんいかん。余りにも感情が昂ってしまって、つい叫んでしまった。今の状況とキングゥをこの目で見れたこと、その両方によって如何ともし難い劣情を催しましてね。つまり、キングゥをペロペロしたいお。いや、待てよ。ラフムの口は人間よりも大きい。つまり、ペロペロできる面積が広がる訳で、それはそれでお得なのではないだろうか? 人の姿じゃないとしても舌の面積が広がることは素晴らしいことじゃないだろうか?

 

 ……試してみるしかない。

 

 取り敢えず、キングゥに近づこうと顔を向けた時、地面に土塊が転がっているのが目に入った。

 

「ds@lxyyyyy!」

 

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!

 ラフムがまだ人間でカルデアのマスターで廃人だった時、沖田さんでクイックチェインからのクリティカル連発しまくってしまってごめんなさい。菌糸類、マジ愉悦部。号泣したわ。

 

「ボクを攻撃する気はない、か。……くっ!」

 

 と、叫んでいる内にキングゥの体調が悪くなったみたいで、キングゥは地面に跪いた。それもそうだ。神に造られた体と言っても無理がある。心臓である聖杯を取るために胸を抉られて無事なハズがない。

 

 キングゥに背中を向ける。

 

「kzw」

 

 キングゥは不思議そうな顔をしている。ここにいれば、いつ追手のラフムが来るか分からない。だから、ここから離れようとキングゥを背中に乗せて行こうと背中を向けたのに、キングゥはポカンとした表情でラフムを見つめるだけだった。

 仕方ない。ラフムには知性がある。転生して言葉を奪われたぐらいでラフムの頭の冴えは奪えない。

 

 キングゥの前に右腕──正確に言えば、右の前の腕──を出す。少しビクッとしたキングゥだったけど、ラフムの次の行動でラフムが何をしようとしているのか分かるだろう。

 

 ラフムは腕で地面に絵を描く。これでも、神絵師を目指していたこともある。ツイッターでファボ3つも貰ったこともある。ちなみに、フォロワーは3名、全て自分の複アカだったけどな!

 まったく、世の中ときたらラフムの芸術性についていけない奴ばかりだ。

 

「オマエに乗れ……ということか」

 

 ラフムの芸術的な絵を理解できるとは、流石、キングゥ。何回も首を縦に振る。

 前世の親でさえもラフムの芸術を理解できなかったのに、こんな人理の果てで理解者に出会えるとは。

 

 内心、凄い喜んでるけど、それが表に出せないラフムの体は不便だ。しかし、便利なこともある。ボロボロのキングゥを背中に乗せて、歩くことができる。しかも、素早く……ほんと、速いな、ラフムの体。自動車ぐらいのスピードは出てるんじゃないだろうか。

 恐ろしい性能に慄きつつ、ラフムとキングゥは目的地へと向かうのだった。

 

 +++

 

「どこに向かっている?」

「0tyue」

「聞くだけ無駄か。どうせ、もう何もかも終わる」

 

 うん、取り敢えず森の中から出ようと走り出したのが間違いだった。本当に無駄に時間を使ってしまった。ここはどこ?

 他の危ないラフムは完全に撒けたみたいだけど、地理が全く分からない場所で走り回るんじゃなかった。そもそも、現代の日本に住んでる人でイラクの地理が分かる人なんてどの程度いるんだろうか? 少なくとも、ラフムは分かんなぁい。

 

 そんなこんなでキングゥを背中に乗せたままバビロニアを歩く。いい加減、何か建物が見えてこないかな。

 

「あっちだ。あっちに行ってくれ」

 

 背中のキングゥが唐突に声を発した。身を乗り出すようにして指を右斜めの方向へと翳している。他に行く当てもないし、キングゥの指示に従って歩いていくと上り坂になった。

 背中にいる無言のキングゥと共に登っていくと、日が落ちたらしく暗くなってくる。ハハァ、なるほど。分かったぞ。これはあれだ、いい場面に違いない。ムッツリスケベが考えそうなリヨ鯖に撮影を頼みたい所だ。思い出はもちろん、主人公補正も掛かるしいいこと尽くめ。

 

 そう考えながら歩くと、丘の天辺についた。

 上を見上げる。星が綺麗だった。

 

「ここが……天の丘……馬鹿みたいだ。最期になんで……こんな場所に、来たんだろう。この体が、鮮明に記憶していた場所。……はじめての友人を得た、誓いの丘……無意味だ。こんなところも、ボク自身も。……何もかもを失った。もう機能を止めてしまえばいい。創造主に見捨てられ、始めから、帰る場所なんて、どこにもなかった、ただの偽物、なんだから」

 

 綺麗な星空には似合わないキングゥの独白。

 ラフムは何も言えなかった。生き方がラフムとは全く違う。誰かの偽物だと自分を定義する人間は余りいない。ラフムは前世でそんな人間とは会った事はなかった。だから、ラフムはキングゥに何も言えずに、ただ夜の空を見上げる。

 キングゥに声を掛けるべきなのは、ラフムじゃない。

 

「何をしている。立ち上がらぬか、腑抜け」

「……!」

「まったく。今宵は忙しいにも程がある。ようやく人心地つこうかと思えば、この始末。無様に血を撒き散らし、膝を屈したまでは見逃そう。だが、ここで屍を晒すことは許さぬ」

 

 今のキングゥに声を掛けることができるのは、賢王ギルガメッシュただ一人。

 

「疾く立ち上がり失せるがいい。そうであれば罪は問わぬ」

「ぁ……あ……」

「どうした。立てぬのか? それでも神々の最高傑作と言われた者か? 何があったかは知らぬが、胸に大穴なんぞ開けおって。油断にも程があろう」

「な、にを、偉そうに……オマエに、見下される、ボクなもの、か……!」

 

 キングゥが立った! キングゥが立った!

 

「く、そ……! こんな……こんな、ところ、を。オマエに、オマエなんかに、見られる、なんて……!」

「…………ふん。そう言えば、こんなものが余っていたな。使う機会を逸してしまった。棄てるのもなんだ。貴様にくれてやろう」

「な……え、えぇ!?」

 

 惜しげもなくウルクの大杯をキングゥに与えるギルガメッシュ。中々、聖杯をくれない魔術王も少しは見習って欲しい。じゃんじゃん特異点作ってくれた方が聖杯をバンバン使えるのに。勿体なくてジャンヌオルタとライコーママにしか使ってない。ステイナイト組全員に聖杯を使うことができるぐらい聖杯が欲しい。

 

「ほう。聖杯を心臓にしていただけはある。ウルクの大杯、それなりに使えるではないか」

「ど、うして……? なぜ、なんでこんなマネを!? ボクはオマエの敵だ! ティアマトに作られたものだ! オマエのエルキドゥじゃない! ただ、ただ違う心を入れられた、人形なのに!」

「そうだ。貴様はエルキドゥとは違う者だ。ヤツの体を使っている別人であろう。だが、そうであっても、貴様は我が庇護の……いや、友愛の対象だ」

「……」

「言わねば、分からぬか! この大馬鹿ものが! そこのラフム風情でも分かっていることだ!」

 

 うんうん……うん?

 

「ラフムよ! この大馬鹿者に説明してやれ!」

「g@.f,」

「人の言葉を話せぬのならば、そう言え! たわけ!」

 

 酷ッ(´・ω・`)

 ラフムに関心をなくしたギルガメッシュは再びキングゥへと向き直る。

 

「たとえ、違う心、異なる魂があろうと! 貴様の(それ)は、この地上でただ一つの天の鎖! ……フン。奴は己を兵器だと主張して譲らなかったがな」

 

 ギルガメッシュは気持ち優し気な目付きでキングゥを見る。

 

「その言葉に倣うのなら、我が貴様を気に掛けるのも当然至極。なにしろ、もっとも信頼した兵器の後継機のようなもの! 贔屓にして何が悪い!」

 

 最後に背を向けながらギルガメッシュは言葉を残す。

 

「ではな、キングゥ。世界の終わりだ。自らの思うままにするがいい」

「待って……分からない。それは、どういう……」

「母親も生まれも関係なく、本当に、やりたいと思った事だけをやってよい、と言ったのだ。かつての我や、ヤツのようにな。すべてを失ったと言っていたが、笑わせるな。貴様にはまだその自由が残っている。心臓を止めるのは、その後にするがいい」

 

 その言葉を最後に、ギルガメッシュは姿を消した。

 

「何を……今さら。ボクには、成し遂げるべき目的なんて、なかった。オマエもそうだろう?」

 

 ラフムは首を振る。

 

「7lqebs7;f@ee」

「なんだって?」

 

 伝わらなかったので、ラフムはファイティングポーズを取る。その後にしたシャドーボクシングっぽい動きでキングゥは理解したらしい。

 

「ボクに……戦えというのか? ティアマト神と戦えと?」

 

 紫の目でキングゥはジッとラフムを見つめる。照れるぜ。

 

「オマエも母さんから切り離されたのか。だからこそ、ティアマト神と戦う意志を見せることができるのだろう」

 

 しばらく、キングゥは考えた後、ギルガメッシュと同様に丘を降りていく。キングゥについて行こうとした足を踏み出したけど、キングゥに止められた。

 

「一人で考えたい。これから、ボクはどうしたいのかということを」

 

 フッ……伝わったようだな。

 ギルガメッシュに止められなかったら、ラフムも同じことを言っていた。だから、ラフムはキングゥに頷く。

 

「ありがとう」

 

 最後にそう言い残して、キングゥは飛び去った。空飛べるのってやっぱり便利だな。

 

 キングゥを見送りながら、ラフムは満天の星空を見つめる。

 あ、道が分かんない。

 

 どうしようかとうんうんと長い時間悩んでいると、後ろからガチャガチャという奇妙な音がした。

 

「見ツケタ見ツケタ見ツケタ」

「殺ソウ殺ソウ殺ソウ。バラバラ、ニ、シヨウ」

 

 ラフムが振り返ると、10体近くのラフムが、そこにはいた。キングゥが飛んだのを見て、ラフムがやってきたのだろう。

 まあ、あれだ。

 ……別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?

 

 時間を稼ぐ必要はないけどネ!

 

 となれば、先手必勝! 一番前にいたラフムを爪で突き刺す。けど、ラフムが優位に立てたのは一瞬だけだった。

 抉り貫き、抉り貫かれ、体がバラバラになっていく。ラフムに転生してからまだ、24時間も経ってないのに、死ぬって早すぎ。地面に落ちたラフムの首をめがけて敵のラフムが大きく爪を振りかぶる。

 

 ここまで、か。

 

 もう少し楽しみたかったと思いながら、ラフムの意識は消え去った。

 

 +++

 

「これが……オレの……サーヴァント?」

「ええ。多分、先輩のサーヴァントだと思われます」

 

 死んだと思ったら、目の前には二人の人間。白い服を着た少年と盾を持った少女だ。となれば、問わねばなるまい。

 

「s64、3uqt@0qdkjrq\t?」

「マシュ、この人? がなんて言ってるか分かる?」

「全く分かりません」

 


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