ラフムに転生したと思ったら、いつの間にかカルデアのサーヴァントとして人理定礎を復元することになった件   作:クロム・ウェルハーツ

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3.冬木であう人……出会い頭に攻撃してくるのは止めて頂きたい!

「3.b―4、3.b―4、0qdf:@yg―♪」

「黙りなさい!」

 

 歌を歌うラフムとそのマスター御一行は荒廃した冬木の街を歩き続ける。クールな顔で交配(漢字違い)とかいいですよね?

 師匠の水着、剥ぎ取りたいし、ラフムに『黙りなさい』と怒った所長のタイツも剥ぎ取りたいなあと考えながら冬木の街を歩く。

 

 今はクレーター、元は遠坂邸から一路、冬木大橋へと向かう。大橋を調べて、何かしらの手掛かりがないか調べるためだ。ラフムはどこに聖杯があるのか知ってるけど、言わない。

 ラフムがオルガマリーの困り顔を見たいとかじゃなくて、実はしっかりとした理由がある。

 マシュの宝具のためだ。

 このまま、聖杯を回収しにオルタちゃんの所に行ったら、『いきなり聖杯を譲れとは何事だカリバァァァアアアー!』とか聖剣をブッパされて防げないということにもなりそう。サ●ー先生のイラストのような形相のオルタちゃんには勝てる気がしない。

 だから、マシュの宝具で防ぐ。そして、カリバーを防ぐマシュの後ろ姿、特にマシュのピーチマシュマロをマスターとじっくり鑑賞するためには冬木を回って、ある人物を探さないといけない。

 

 マスターを叱るオルガマリーを横目にラフムは炎上している橋の向こう側を見る。たくさんの人が生活していた冬木。その中でも高層ビルが立ち並ぶ新都は余りにも悲しい。それは終焉の始まりっぽい光景だった。

 

「67?」

 

 まだ形が残っているビルの屋上で赤い光がピカッとした。ヤバイ、あれはヤバイ。

 腕を伸ばして、マスターとマシュ、そして、オルガマリーを抱き留める。

 

「ラフ……ムッ!?」

 

 説明する時間もない。

 三人を抱えたラフムは前に向かって全速力で掛ける。と、それまで居た場所が爆発した。

 新都のビルから放たれた矢が地面に突き刺さって爆発したためだ。ざっと、目測で500m。

 空いている一本の腕で向かって来る矢を全部弾くのは無理だ。腕を自由にしなくちゃいけない。

 

「MATTHEW、tj5w」

 

 ラフムは余っている腕でマシュの盾を数回叩く。

 

「ラフムさん……わかりました」

 

 マシュはラフムの言いたいことが分かったのだろう。高速で移動する中、マシュは盾を前に構えて、マスターとオルガマリーを守る体勢を取る。

 

 残り200m。相手もなりふり構わずに攻撃してきた。進行方向の道路、そして、今来た道路全てを覆う軌道で矢が何本も放たれていた。先に進んでも、後ろに戻ってもダメだ。

 

 ラフムは地面に腕を突き刺す。ラフムの体が浮き上がり、回転を始める。ぐるりと回る視界の中、ラフムは地面から腕を引っこ抜いた。勢いそのままに横の方向へと飛ぶラフムたちを待っていたのはビルとビルとの間の狭い隙間だ。ギリギリの隙間に体が入った後、前方、つまり、狙撃手がいる方向にあるビルの壁に爪を突き立てる。

 ガクンと落ちたスピード。壁に深く突き立てたせいで、肩が痛い。いや、右の側腕だから肩と言えるかどうかは少し怪しいものだけど。壁を大きく削りながら、ラフムたちの動きは止まった。だけど、このままじゃマズイ。

 

 腰を捻り、前の壁に爪を突き立てる。ちなみに、ラフムの筋力は結構あると思う。筋力Dではないハズだ。ビルの壁に罅を入れた後はマシュの出番。つまり、文字通りマシュを盾にして、罅が入ったビルの壁をタックルで壊そうという訳だ。

 

「くっ!」

「t@yf@zw!」

「はい!」

 

 ラフムの『頑張って』という掛け声にマシュはいい返事を返してくれた。

 サーヴァントであるラフム、そして、デミサーヴァントであるマシュは別として、マシュが頑張ってくれなきゃマスターとオルガマリーが怪我をする。そして、ここでグズグズしていたら、ビルの崩壊に巻き込まれて死ぬ。いや、矢を爆発させるのはホント卑怯。ビルを爆破で壊すのは外道(ケリィ)だけで十分だというのに。

 血は裏切れないということか。血は繋がってないけども。

 

 狙撃手へと思いを馳せながらラフムとマシュはビルの壁を二枚、三枚とぶち抜いていく。後ろからは爆発音と建物が壊れる音。無茶苦茶、怖い。ついでに言うと、後ろから粉塵まで迫ってくる。

 もう無理だろう。壁をもう一枚、穿ち破ってビルの一室に入った所で、すぐに横に飛び退く。それと同時に後ろから迫っていた粉塵がビルの中に一斉に流れ込む。とはいえ、すぐに横に飛び退いたから大きな破片などには当たらずに済んだ。

 

 けど、埃でビルの中は酷い様子だ。

 

「es@4d94」

「わかりました」

 

 ラフムはマシュを腕から降ろし、ドアを示す。部屋を移動するためにはドアノブを開かなくちゃならないけど、ラフムには指がない。馬上槍みたいな感じの手だ。

 

 ドアを開けたマシュに続いて、ラフムもドアを潜り抜ける。ラフムの急制動でブラックアウトしたらしいマスターとオルガマリーを休ませるためにソファに寝かして、近くにあった自動販売機に両側から爪を立てる。バキッという音を立てて前面を取り外したラフムはマシュを呼んで、飲み物を取らせる。ちなみに、ラフムとマシュとの意思疎通はほぼアイコンタクトだけ。残念だったな、マスター。将来的には、アイコンタクトだけで戦闘、炊飯、掃除、談話ができる…… そんな関係を一早く構築したのは、このラフムだァ!

 

「ラフムさん」

「?」

 

 マシュの呼ぶ声に首を傾げる。

 

「マスターと所長は大丈夫なのでしょうか?」

 

『大丈夫』というようにラフムはマシュに力強く頷く。

 彼らの意識が飛んでいるのは、安全が保証されていないジェットコースターに乗って気絶したのと同じ感じだから。見た所、怪我をしている様子もないしね。

 自販機から取り出したつめた~い缶をラフムは器用に両手で摘まみ上げる。気分はクレーンゲーム。クレーンゲームのクレーンのように筋力E-などではないから、350ml缶もしっかりと持つことができる。

 そして、持ち上げた缶をそっとオルガマリーの頬に当ててみる。

 

「ひゃっ! ……キャーッ、痛い!」

「所長、お静かに! いつ、敵が来るか分かりません!」

 

 缶を頬に当てられた後、ぼんやりと周りを見るオルガマリー。

 ラフムと目が合った後、目を大きく見開くオルガマリー。

 ラフムを確認した後、叫んでソファから転がり落ちたオルガマリー。

 ソファから落ちた後、マシュに怒られて少し項垂れたオルガマリー。

 すっごいカワイイ。

 

 と、オルガマリーは涙目でラフムを睨みつけた。

 

「な、なんなのよ! 何でいきなり走り出したの!? 答えなさい!」

「c;f」

「ああ、結構です。あなたの言葉は分かりません」

 

(´・ω・`)

 

「マシュ、何が起こったか説明して頂戴」

「はい。私たちを狙った狙撃がありました」

「狙撃?」

「ええ。狙撃から身を隠すためにラフムさんは私たちを抱えて走り出し、ビルの隙間に逃げ込みました。それだけでは不十分だと思ったのでしょう。壁を壊して、ビルを通り抜けて6つ目のビルの内部に逃げ込みました」

「それが今居る場所ということね。それにしても、狙撃されたということは……敵はアーチャー?」

「アーチャー。つまり、私と同じようなサーヴァントということですか? しかし、サーヴァントはカルデアのシステムを使わずに存在できるものなのでしょうか?」

「ええ、可能よ。ここは特異点F、A.D.2004年の冬木。ラプラスによる観測で、私たちがいる同じ場所で、同じ時期で聖杯戦争という儀式が行われていたのよ。この儀式は七騎のサーヴァントを召喚し、競い合い、その勝者は万能の窯である聖杯を獲得できる」

 

『ともかく』とオルガマリーは肩を竦める。

 

「この冬木で行われた聖杯戦争のデータを基にお父さ……前所長は召喚式を作り上げたの。それがカルデアの英霊召喚システム・フェイト。こいつを召喚したシステムよ」

 

 オルガマリーがラフムに指を向けた。途中からややこしくて話を聞いてなかったけど、『ごちゃごちゃややこしい。ポチポチするだけで先に進むようにしてください』と心優しいラフムは言わずに取り敢えず頷く。

 

 ラフムから目を離したオルガマリーは爪を噛む。

 

「街は破壊される事なく、サーヴァントの活動は人々に知られる事なく終わったはずなの。……なのに、今はこんな事になっている。特異点が生じた事で結果が変わったと考えるべきね。2004年のこの異変が人類史に影響を及ぼして、その結果として百年先の未来が見えなくなった。だから、わたしたちの使命はこの異変の修復よ。この領域のどこかに歴史を狂わせた原因がある。それを解析、ないし排除すればミッション終了。わたしもアナタたちも現代に戻れるわ」

「なら、早く先に進まないといけませんね。すみません、所長。オレはもう大丈夫です」

 

 ソファから身を起こしながら、そう力強く言うのはラフムのマスターだ。

 

「当然。さっさと行くわよ」

「はい」

「了解しました」

 

 だけど、それは認められない。

 ラフムは腕でバツ印を作りながら首を横に振る。

 

「何? どういうこと?」

「jzww」

「どうやら、ラフムさんは『待っていて欲しい』と言っているみたいです」

 

 おお、マシュ凄い。ラフムの言いたいことが分かるなんて。そして、そう思ったのはラフムだけじゃなくてマスターもみたいだ。

 

「マシュ、ラフムの言っていることが分かるの?」

「ええ、なんとなく……ですが」

 

 取り敢えず、気持ちは伝わったので来た道を戻ろうとする。だけど、ラフムをマスターが呼び止めた。

 

「ラフム……大丈夫なんだよな」

「ma」

 

 力強く頷いて、ラフムは……ごめん、マシュ、ドア開けて。何とも締まらないラフムだった。

 


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