『同居人はひざ、時々、頭の上』を読みました。
ハル編でいっつも泣きそうになるのは自分だけかな?
ミーンミーンと蝉の鳴き声が耳障りなくらいに鳴り響く。
外はジリジリと太陽の熱が降り注ぎ、コンクリートがゆらりゆらりと陽炎を生み出し、その先の景色が揺らいで見える。
テレビのニュースキャスターは猛暑日が続くとかほざいていたし、日射病や熱射病がかかる人が例年より多いらしい。
日傘をさしているとはいえ、暑いものは暑いのだ。
「はぁ、暑い……。日焼け止め入念に塗っていてよかったかな」
仕事をお昼で終わらせて、家までの道のりを歩く。
道行く人は、こうも暑いのにそれに負けないくらいイチャつくカップルに自転車を走らせてサイクリングする学生達。
学生たちにとっては夏休みという期間なのだ。
「うぅ、夏休みなんてずるい。……学生の頃に戻りたい」
雪乃ちゃんの会社で副社長を任せられてるけど………人使いが荒いのだ。
私に対する態度は個人的なものを感じるわね。
………もう少し姉を労るとかしてほしい。
道脇に設置されている自動販売機の前で足を止め、飲み物を購入する。
「……炭酸飲もうかな。コーラコーラっと……比企谷君にはマッ缶でいいよね」
コイン投入口に五百円玉を投下し、ピッとお目当てのボタンを押すとガコンガコンとコーラとマッ缶が落ちてくる。
それらを取り出し、コーラのキャップを開けるとプシュッと音を立て、炭酸を飛ばしている。
一息に飲むと、口の中で冷たい玉が弾けるような感覚がやってきて、喉にパチパチとした物が突き抜ける。
「くうぅぅ……喉にきつい。でもおいしい……さて、帰るかな、お土産のマッ缶も買ったし」
コーラで喉を潤し、美容室までの道のりを歩く。
5分程度歩き、美容室に着くとそこにはcloseの文字が掲げられている。
今日は定休日だったね。
カランとドアを開けて「ただいまー」と声をかけると少し遅れて「おかえりー」と返事が返ってくる。
そのまま比企谷君の部屋に向かう。
ガチャっとドアを開けると、ひんやりとした冷気が体にまとわりつく。まるで外とこの部屋は別次元の世界かのように。
「さむっ!比企谷君、冷房効き過ぎなんだけど」
「男は黙って18度だ」
「………」
「やめて!窓を開けないで!冷気が逃げる!冷気ぃ!」
「夏だからってだらけすぎだよ。……ほら君の好きなマックスコーヒー」
「……うむ、いい貢物だな」
「あげない」
「ごめんなさい」
ベットの近くにある椅子に腰をかけて、しょぼくれる比企谷君にマックスコーヒーを渡すと、顔をキラキラと輝かせる。
そんな子どもっぽい仕草に顔が緩むのを我慢しつつ、小言を飛ばす。
「クーラーの温度は26℃ね」
「低くない?」
「28℃がいいの?」
「……マッ缶に免じてそれで構わん」
「なんで上からなのよ……。さて、今日は何する?」
「寝る」
「一緒に?」
「アホか」
「アホとは何よー!」
椅子から勢いよく立ち上がり、うがーと不満をぶつける。ぶつけられた本人は我関せずなのか、タオルケットの中にのそのそと潜り込んで睡眠に走ろうとする。
「………かっちーん」
いい度胸ね、雪ノ下陽乃をなめないでよ。
「そいっ!」
私はその場でベッドのほうに飛び、ぴょーんと盛り上がっているタオルケットにダイブする。
「ぐえっ!……お、重い」
「あーー!今重いって言った!重いって!こ、この!この!!」
「やめて、痛い、馬乗りでぽかぽかするな」
「女性は羽のように軽いんだよ」
「……かっるーい」
「ふん!」
「い、痛い!き、君どんだけ殴れば気が済むの?」
「あっつーい」
「お前が窓開けたせいだからね?」
**********
【夏祭り】
「次は焼きそばね!その次はたこ焼きー!」
「お金出すの俺なんですけどね」
人の波がどんどん増え続ける中、私は八幡の手をひっぱりながら屋台を食べ歩く。
私も彼も格好は浴衣と甚平で、祭りの中に溶け込んでいる。
時刻は既に夕暮れで、茜色の空が私達を照らしている。
祭りに来た目的は夜空に咲く花火を見るため。
今はそれまでの時間つぶし。
焼きそばの屋台に着くとそこは人でゴッタ返していた。その最後尾に付くと彼は疲れたように息を吐く。
「だらしないなー、本番はこれからだよ?」
「引きこもりには辛いです」
「たまには運動しなよ。それより花火なんて久しぶりだね」
「そですね。……最後に見たのは学生の頃以来かな」
「あぁ……、あの時ね」
「はは、陽乃さんも随分変わりましたね」
「変わらない人はいないよ。私は君と関わって変わったんだから、責任取ってよ」
「まぁ、とりますけど…」
「なら、よろしい」
焼きそばを買い、その後にたこ焼きを買うと近くにあるベンチに腰掛けた。
花火が打ち上がるまでもう少し。
周りの人々も花火を見るために良い場所を探してか、ウロチョロしているように見える。
たこ焼きを摘みながら空を見つめる。
空は段々と薄暗くなり、気温も下がってきているように感じる。
「さて、行こうか」
「ここで見てもいいと思いますけど」
「ここはお姉さんに任せなさい」
訝しげな表情を作る彼の手を取り、スタッフ達が規制している場所まで歩く。
行き先は来賓閲覧席。
ここまで来れば彼も理解したのか納得の表情作る。
「さて、もうすぐだね。緊張してきたかも」
「マッ缶の形の花火が打ち上がるのを期待してます」
「そんなのないから……」
「千葉なのに?」
「千葉関係ないでしょ」
あたりはもう既に暗くなっている。
花火が上がるのもあと数分後だろう。私は久しぶりの花火で少しそわそわしているのに彼はいつも通りに落ち着いるように見える。
彼が少し前に私は"変わった”と言ったけど、それは本当なのかな。
昔の私と今の私。
差異はあるけど本質は同じなのかもしれない、だから私は昔の私を否定しない。
昔の私があったから彼に出逢えたのだから。
「ここで八幡と花火を見るのは二回目なんだね」
「あの時とは状況が違いますけどね」
「それでも君とは二回目。……前とは違う形でまた花火を見るなんて昔の私は想像してないだろうなぁ」
「不満ですか?」
「全然」
「ならいいですけど。………あ、そろそろ上がりますね」
ヒューーー、ドーーーン
真っ黒な夜空に、明るい大きな花が咲く。
それは一発で終わるわけがなく、次から次へと打ち上げられ、色を変え形を変えて夜の空を彩る。
パチパチとなる拍手や、感嘆の声が花火の良さをさらに広げる。
彼の横顔をちらっと見ると、目は澄んでいてその瞳には花火が映っている。
不覚にもその綺麗な横顔に見蕩れてしまう。
見ていると彼も気づいたのか私の方を振り向く。
「花火、綺麗だね」
「ですね、偶には花火もいいもんです」
「また一つ思い出が出来たね」
「……もう一つ作りませんか?」
「え?」
チュッ。
それは触れ合うだけの優しいキス。
突然のことに驚いて彼の顔を見ると恥ずかしそうに顔を背けている。
触れた箇所に手を添えると、彼の唇の感覚が微かに残っている。
彼との初めてのキス。
あまりにも突然で、彼らしくない行動。
でも、とてつもなく嬉しい。
頬は徐々に熱を帯びてきて、花火の音はどこか遠くにいってしまっているような感覚に陥る。
「っ………、比企谷君、もう一度」
そして、今度は私からーー。
背景を花火が彩る思い出。
忘れられない思い出がもう一つ出来た。
恋人同士ならキスするかなって思って書いてみました。
誰か、八雪のssで、雪乃が病気にかかって徐々に記憶が失われていくss知りませんか?
教えてくれたら助かります。
pixivにあったと思うんですが…。