恋姫†国盗り物語   作:オーギヤ

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第九話

 

「────それではご報告致します!」

 

 報告にやって来た周泰が元気よく発すると孫策、周瑜、黄蓋の三名が同時に頷く。

 周泰は定期的に孫策の居城を訪れては孫権達の近況報告、並びに南陽軍の動向を孫策に告げる。これは勿論、南陽軍内でも周知であった。移動に次ぐ移動に周泰は結構疲れていたりする。

 

 周泰は南陽討伐軍の第二陣について話す。

 南陽軍が勝利したという結果は速報として既に届いていたが、詳細な情報までは届いていなかったため周泰の報告に三名は耳を傾ける。中でも周瑜は興味深そうに聞き入っていた。

 

 南陽討伐軍の第二陣は第一陣の帰還兵中心。

 黄巾賊全盛の今、朝廷は南陽軍にかかりっきりとはいけない。敗軍の兵をそのまま主力に据え、主だった指揮官や編成もそのままに向かわせる。討伐軍の士気が低いことは当然であった。

 

 討伐軍の誤算は二つあったと周泰は話す。

 一つは第一陣の際、支援や従軍を名乗り出た土着の豪族や権力者の助力が明確に減ったこと。

 これは第一陣の敗北が主な要因と思われたが、原因は他にもあった。兵糧を失った第一陣は帰路にて大規模な徴収を行わざるを得なかった。これが非常に強い反感を買う。そして────。

 

「────なるほど、月影も強かだな」

 

 そう周瑜が話すように、ここで月影が動く。

 討伐軍が徴収した物資を補填し、地元の有力者に対し敵意がないことを大きく示した。

 元々月影は南陽郡を支配下に入れてからも、地元の豪族や権力者に対して何か特別な対応をしたことはない。『どうせキレてるだろう』と放置していたことから良くも悪くも進展はない。

 

 賊は討伐軍によって討ち取られると踏んでいた豪族側も同様に、特に動くことはなかった。

 互いに一定の距離を保つ。そして先の一戦で討伐軍は敗れ去る。豪族側は戦々恐々としていたが、そこに討伐軍の徴収と南陽軍の補填が続けざまに重なる。当事者の心境はどうだろう。

 

「協力なんて虫の良いことは言わん。少し目を瞑ってくれればいい。それが互いのタメになる」

 

 月影の言葉は聞く価値があるとされる。

 黄巾賊が大陸全土に蔓延る今、南陽軍が話せる相手なら居た方が良いとさえ思う者も現れる。

 

 月影は郡内の支城を落とした後、良くも悪くも干渉らしい干渉を行っていなかった。

 当初はどうなることかと怯えていた役人達も、月影が自分達に不干渉と見るやホッとする。そして次第にこうも思う。袁家の圧力が酷かった時代に比べるとずっと働きやすいと。

 

 さらに月影が治める地では本来、黄巾賊となっていた者が南陽軍に加入している。黄巾賊が蔓延る近辺と比較すれば治安も良い。相対的に見るとマシではないかと徐々に役人達は思う。

 

 領民達の反応はもっと顕著なもの。毎年、春先になると大量に飢餓者を出していたが、月影が統治を始めた今年の春はいない。それだけで領民達が月影を支持するには十分過ぎた。

 

 こうして第二陣以降、討伐軍への支援は減少していくこととなる。奪ったことから発生した事案を奪った側が解決する。マッチポンプのお手本のような動きをし月影は地盤を固めていった。

 

 

 

 

 

「そして二つ目でありますが……!」

「南陽軍が強かった、でしょ?」

「その通りです雪蓮様! 私も今回は見物しましたが……あはは、中々酷いものでした」

 

 誤算二つ目は南陽軍の実力を侮っていたこと。

 前回は所詮、苦し紛れの夜襲が上手くいったに過ぎないという認識を討伐軍側は持っていた。

 それ故に、まともに戦えば負けるはずはないと過信し、再編成もほどほどに二陣目を送り込む。これが見事に裏目となる。開戦前の搦め手ばかり警戒し、肝心の開戦の備えが散漫であった。

 

「舐められるぐらいで丁度いい。さてさて……」

 

 一方の月影も、南陽軍が討伐軍相手に正面切って渡り合えるかを測りかねていた。

 それでも『試すなら早い方がいい』と野戦を選択し、臆することなく堂々と対峙する。

 

 討伐軍は士気こそ低いが陣形に乱れなく、南陽軍は士気は高いがどこか纏まりを欠く。

 両極端な両者の戦闘。軽く当たった初日の段階で月影は勝利を確信する。兵の質に差はない。違いは将の質。手駒の大きさで南陽軍に分があると踏み、総合力では優位と見る。

 

 月影の予想は当たった。二日目三日目と続くに連れて南陽軍が押し気味に戦闘を進める。

 さらに月影は毎晩、討伐軍の陣に近づき銅鑼を鳴らすよう指示し休む暇を満足に与えなかった。前回の敗戦から夜襲に対して神経質になっていた討伐軍の兵士は大きく消耗することになる。

 

「────朱儁の優秀な側近は可能な限りバラしときたい。それが次回の布石となるはずだ」

 

 月影は討伐軍の消耗具合を注意深く観察し、勝負所を決して見誤らなかった。

 五日目に南陽軍が猛攻を仕掛けると討伐軍は大きく崩れ、そのまま勝負は決してしまう。

 

 討伐軍の総指揮官朱儁は良将であった。本来であれば連敗を喫するような将ではない。

 朱儁は敗戦を冷静に分析しては、これが一過性でないことを理解する。都へ引き返した朱儁は、首都洛陽の防衛網を強めることを進言すると同時に、南陽討伐軍の拡張を申し出る。

 

 これが朝廷側の嘲笑を買った。

 確かに討伐軍の第一陣は各方面で負けたものの、第二陣では見事に挽回を果たしている。

 豫洲では孫策が波才を討ち取り、冀州では盧植が黄巾軍を順調に押し破り、張角の首に近づいていた。負けているのは荊州は南陽軍相手のみ。朱儁の能力を疑問視されるのも無理はない。

 

 朱儁の申し出は却下され『自信がないなら潔く退いてはどうか』とまで言われる始末。

 朱儁はこれを断り再戦を誓う。朱儁は連敗こそ喫していたが朝廷内でも三指に入る将官である。朱儁自身にもその認識があり、自分以外が向かえばより酷い結果になることを察していた。

 

 第一、第二陣で朱儁が討ち死にしていた場合、後任が董卓であったことを月影は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ふむ、まだまだゴロツキ共の天下は続く、か。やれやれ嘆かわしいことじゃ」

 

 そう言って黄蓋が締めるも顔に曇りはない。

 年長者らしく苦言を呈したが、黄蓋にとっても見知った顔が活躍するのは喜ばしい。

 活躍の仕方が少々、かなり厄介なだけで聞く分には構わない。敗走、または討ち取られたという報告を耳にする方が嫌なもの。しかし、なんとも厄介な連中だと黄蓋は息をつく。

 

「南陽軍の次の動きは?」

「引き続き軍師を募るとのことです!」

「軍師か。これまたトコトンやる気だな。交渉次第では帰順が許される芽もあるだろうに」

「そんなことが許されるのですか?」

 

 周瑜は周泰の言葉に少し考えた後に答える。

 

「赤眉軍の前例にもあるように、反乱後に帰順が許される可能性はある。南陽軍が都へ軍を向けない限りは交渉の余地があると私は考える。まあ、都へ攻め込むなんて普通は考えんがな」

 

 百五十年ほど前に勃発した赤眉の乱も、黄巾の乱に引けを取らない大規模な反乱であった。

 そして赤眉の乱はその時代の王朝が滅ぶきっかけとなった。官軍が反乱軍に敗れ、地方諸侯が力を増していく構図は現在のそれと酷似する。四人の脳裏には不敬な想像が膨らむ。

 

「ともあれ、ともあれだ。朝廷は鎮圧が叶わないと知れば別の手を考える。そして今の報告にもあるように月影も決して馬鹿ではない。やがて矛を収めて融和の道を図ると考えるのが自然だ」

 

 周瑜はそう結論付ける。

 周瑜にとっても南陽軍と戦う利はなかった。波才を討った時点で十分名は上げたと考える。

 

「うむ。ゴロツキ共が更生するならそれでよい。死んだ者は不憫じゃが本を正せば袁術が悪い」

「これで私の待遇も改善しますね!」

「明命の待遇は……まあ、うん。そうだな」

 

 黄蓋と周泰は同調し、周瑜は目を逸らす。

 やがて月影は矛を収めて漢王朝に降り、その臣下となるというのが三人の見解であった。

 続いて周瑜は、南陽軍は勝ち続けることにより朝廷側の譲歩を引き出そうとしていると言った。黄巾賊の本隊が敗れ、張角が討ち取られたタイミングで降ろうとしているのだと考える。

 

「張角が討たれても残党は残る。南陽軍が粘れば第二、第三の張角が現れてもおかしくはない。朝廷としてもそれは避けたいところだ。乱が長引けばその分、国力は下がるのだからな」

 

 後は落としどころだろうと周瑜は締める。

 この時代、名門の筆頭格である袁家。その一門である袁術の領土を攻め落としたことで難しくさせている部分はあったが、現在に至るまで袁家が特別な動きを見せていることはなかった。

 

「冥琳様!」

「どうした明命?」

「月影殿より『誰か良いこと言ってたら教えて』と頼まれましたが、話していいですか?」

「え? ああ、うん。別に構わないが。しかし月影も抜かりない。だからこそ渡り合えるのか」

 

 

 

 

 

「…………………………」

 

 三人の話を静かに聞いていた孫策。

 周瑜、黄蓋、周泰の見解は一致していたが、孫策だけは違う見方もしていた。

 周瑜達の意見は間違ってはないが、傭兵団を率いていた月影を重ねてのものだと孫策は思う。

 

 仲間を率いる月影は、それに見合った振る舞いをしていた。一緒になって暴れまわることも多かったが、時には長として荒くれ者達を正しく窘め、良識のある一面も見せていた。

 

 それは周泰の報告にもあるように、傭兵団から南陽軍へ名を変えた今も同じだと孫策は思う。

 朝廷と対峙することを面倒くさがる一面を見せつつも、やるべきことはキッチリ行っていた。兵を鍛え、領民の支持を集め、豪族を懐柔し、やってきた討伐軍を容赦なく追い返している。

 

 落としどころも考えはいるだろう。周瑜と同じ方向性なのかは定かではないが、少なくとも現実的な範囲であるはず。傭兵団を率いていた頃の月影を見ていた者はそう考える。だが────。

 

「────今は理性が抑えているだけ。なんてことにならなければ、本当にいいけどね」

 

 孫策はそれ以前の月影の姿も見ていた。

 暗く淀んだ目をして独り、俯きながらボロボロの身体を引きずる月影の姿を思い出す。

 

 あれは相当、根が深いと孫策は思う。表に現れていないだけで、潜在的に月影はこの国を恨んでいるのだろうと孫策は感じていた。滅ぼせると見れば、月影は躊躇わないかもしれない。

 

「普通はないと冥琳は言ってるけど、彼は普通じゃないからあり得るのよねえ。困ったわ……」

 

 そうなると流石に見逃せないと孫策は思う。

 孫策にも愛国心はある。そして月影に、そんなものが毛ほどもないことを察している。

 袁術の時とは話の規模が違う。都へ兵を向けられてニコニコと笑っているわけにはいかない。

 

 腰に手をあて、どうしたものかと堅い表情を浮かべる孫策は孫権との会話を思い出す。

 孫策は袁術の下から離れた直後、妹である孫権との合流を図る。その時に孫権は言った。

 

 

「あの日、私は彼に助けられた。お礼を言っても悩みを打ち明けても素っ気なかったっけ」

 

 

 孫権は過去に月影と交流があった旨を孫策に伝え、自分の役割について理解を求める。

 

「彼は死に急いでいるようだった。斬って斬ってやがて誰かに斬られ死にたいと言っていた」

「それが今回の城攻めの理由ってわけ?」

「わからない。ただ、助けられた私は見極めたいの。そして可能なら止めたいと思う────」

 

 滅びに突き進む彼を、と孫権は言った。

 

 流石の孫策もこれには悩んだが、孫権の意思が強いと見ては諦め、遂にはそれを認める。

 人の縁とはわからないものだと孫策は思う。そして縁とは簡単に切り離せないのだろうと。

 

「────ま、頑張んなさい蓮華。彼の性根を変えるのは、貴女かもしれないわね」

 

 孫策は離れた地にいる妹にエールを送る。

 

 波才撃破を機に孫策軍は勢いを緩め、領内の平定に向けて黄巾賊の残党処理にあたる。

 孫策軍の旗を見ては逃げ回る黄巾賊に四苦八苦しながらも、確実にその足場を固めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中平一年(184年)三月。南陽軍が宛県で蜂起。月影率いる精鋭は半月で一郡を平定する。

 

 同月。朝廷は何進を大将軍として洛陽の守護を命じると共に、冀州方面へ盧植。豫州潁川方面へ皇甫嵩。荊州南陽方面へ朱儁。三名を北、左、右中郎将とし、賊の勢力が強い地域へ派遣する。

 

 四月。右中郎将、朱儁は三万の軍勢を率いて南陽へ進軍。同月、宛県にて南陽軍と激突し敗走。

 

 同月。左中郎将、皇甫嵩は潁川にて黄巾軍の波才と激突し敗走する。汝南太守の趙謙は邵陵で黄巾軍に敗北しかけるも孫策軍の援護を受け勝利。孫策は功を認められ郡内の県令となる。

 

 同月。広陽の黄巾軍は幽州刺史と、広陽太守を攻め殺した。北中郎将、盧植は冀州へ進軍中。道中、黄巾軍相手に連戦連勝を飾る。

 

 五月。長社にて皇甫嵩、曹操、孫策は潁川黄巾軍波才と対峙。孫策は波才を斬り潁川黄巾軍を混乱させ敗走に追い込む活躍をみせる。

 

 同月。朱儁は再び宛にて南陽軍と対峙するもこれに敗走。将官五名を失う。

 

 同月。冀州にて連戦連勝を飾る盧植軍は、黄巾軍本隊が広宗に籠城するとそれを包囲する。

 




繋ぎ回が長くなったので朱里ちゃん次回
以下、書く予定の話。まだまだ長い……(第一章)

朱里、雛里(二回目、三回目)
荊北三州切り取りに向け(鄧艾)
周泰、ストライキを決行
日常回(南陽赤巾軍って何?)
冀州討伐軍幕間(劉備、公孫瓚)
南陽討伐軍三回目(朱儁)
曹操幕間
袁家幕間(袁紹、袁術)
南陽軍幕間(月影、孫権)
朱里、雛里(四回目)+決戦前夜(国盗り)
南陽討伐軍四回目(何進、袁紹、袁術、曹操)
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