恋姫†国盗り物語   作:オーギヤ

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第十一話

 

 古い顔馴染みと再会するのは嬉しいもので、頼られるとついつい手を貸したくもなる。

 

 連絡手段に乏しい世界なら特にそうだ。

 簡単な頼みなら即答してもよかったが、鄧艾の頼み事はちょっとばかしレベルが違う。

 久しぶりに顔を合わせてみれば即カチコミのお誘いとは、コイツも本当に変わらんなと思う。

 

 しかし他郡に攻め込むとなると考えなければならないことが多い。これまで通り勢いで押し切れるかもしれないが、さてどうしたものか。そんなことを考えていると孔明と士元がやって来た。

 

「軍事進攻を計画している……?」

「南郡ですか。襄陽、江陵と堅固な都市がありますね。支配すれば大きな利に……ふむむ」

 

 なぜ来たのかはわからんが、途中参加の二人が話に入れるよう経緯を簡単に説明した。

 太守が逃げて南郡の連中がブチキレてます。南郡にいる黄巾賊を追い払えば南陽軍の軍門に降ります。簡単に説明すればこんなところ。ただ、まあそんな簡単に事は進まないだろう。

 

 熟考の構えを見せる士元とは打って変わり、孔明はアタフタと落ち着かない様子を見せる。

 入室の勢いはなんだったのか。突っ込むべきなのかと考えていると、先に文鴦が口を開いた。

 

「────で、その嬢ちゃん達が例のアレか」

「ああ、そうだ。いきなりだとお前らも納得しないだろうし、まずは外部顧問の名目にしとく」

 

 孔明と士元は劉備軍の軍師となる。

 二人を劉備軍から引っ張るのは無理だろう。そもそも南陽軍は真っ当な勢力とは呼べないし。

 そんなことは百も承知なので外部顧問とかいう、ふんわりした役職に就いてもらって鋭い助言とか貰えればいいなと考えている。南郡に攻め込むのって有識者の目から見てどうなんだろう。

 

「ふうん。お手並み拝見だな」

「カシラの目利きに適うとは只者やないな」

 

 そしてウチの連中は軍師を求めてはいない。

 オレの指示の下に戦い勝利を重ねた実績から、軍師なんて不要と思っている節がある。

 それでは主にオレが困るため捻じ込むことは必須だが、無理を通せば不和を招く恐れがある。身内で出来るヤツがいないため外部から探すことになるが、余所者の言うことに素直に従うのか。

 

 おそらくは難しいだろうなと思う。

 孔明や士元ぐらい年も若く、オレのお気に入り感が出ていれば可愛がられ話も聞くだろうが、そこらのインテリ層から引っ張ってきた人材を立たせても反発する公算が高いとみる。

 

 まあ、そこは未来の軍師殿に頑張ってもらうしかないが前途は多難である。反社会勢力に仕官を希望する、気合いの入ったハイパー軍師なんぞ果たしてこの大陸に存在するのか。

 

「軍事侵攻とか普通にダメでしょう……?」

「なんだ、嬢ちゃん。大将にケチつけんのか?」

「ほう、南郡なんぞ取るに足らんと。シマにアヤつけられちゃ自分も穏やかじゃいれませんな」

 

 もし見つかったとしても、話の途中で拳が飛んできかねないのも悩みの種である。

 ウチの連中は基本ナチュラルに攻撃表示。頭脳だけでなく腕力を備えるのも必須かもしれない。

 

 

 

 

 

「横から失礼します。朱里ちゃんが懸念しているのは進攻に伴う時間的問題ではないでしょうか」

 

 真っ当な意見を述べる孔明が文鴦と鄧艾に詰められていると士元がフォローに入った。

 

 孔明はウチの野郎共の圧に参ってる様子だが、士元はぜんぜんそんな素振りを見せていない。

 これは本人達の性格なのか。それとも一回目に来た印象の違いなのかは定かではないが、二人ともアタフタされるよりはずっといい。そのうち孔明もまた復活するかもしれないし。

 

「この地から南郡までは目標となる地点にもよりますが、およそ七百里(300キロ)の距離があります。一日に五十里(22キロ)駆けても往復に約一月を要し、これが朱里ちゃんの懸念点かと」

 

 こうやって士元のように数字を持ち出して話してくれる人材がいると凄い助かる。

 今までのウチは『イケるか?』『多分イケる。というか行く』みたいなガバガバな軍議を繰り広げていて、オレが最終的に判断を下してはいたが、これが本来の軍議の形だと強く思う。

 

「さらに目的地での戦闘期間も考慮すると最低この倍は計算しておくべきです。この間、大軍を向かわせれば朝廷は当然動きます。兵力を割けば割く分、討伐軍が来る確率は高まるでしょう」

 

 そうだろうなと思う。仮に城を空にすれば、まず間違いなく強襲してくるだろう。

 空ぐらいまで突き抜ければ逆に警戒するかもしれないが、本隊が南郡に向かっていると知れば攻め落とす。寡兵でも同様。だが情報の封鎖は難しい。万を超える軍を出してバレないは無い。

 

 最も考えるべき点はここかな。

 戦闘はまず問題ないと見る。黄巾賊の強さも地域によってピンキリだが南郡はそうでもない。

 南陽軍の立ち上げ時、南郡の気合い入った連中はコッチに来ている。ソイツらと話した時に南郡にネームド級がいないことも確認済みだ。残った中で名が知れていたのは鄧艾ぐらいなもの。

 

「そうだよね、朱里ちゃん!」

「え? 私は常識的な意味でダメって……」

 

 勝負事に絶対はないが、戦闘面では自信をもっていい。今回はそこに至るまでが肝要だ。

 

「なるほど、素人やない」

「だな。若いのに大したもんだ。大将のイチオシだけはある。こりゃ期待してもいいかもな」

 

 孔明と士元が認められつつある中、ここで議論を活性化させるべく発破をかける。

 

「よし、それじゃ各自、孔明と士元が挙げた懸念点に対する意見を出し合え。正解はあれど失敗はない。思ったことを素直に口にすればいい」

 

 そう言うと場は一気に活気を帯びた。

 そして活発に交わされる意見を耳にしながら、誰を向かわせるべきかと熟考する。

 ある程度の兵を残し、オレを含めた幹部クラスを全員向かわせるのが最も効率が良さそうだが、そうすると、いざという時に対応出来る人材が本拠地にいないことになる。それは不味い。

 

 文鴦を筆頭に、ウチの幹部クラスは攻撃に特化しているため防衛は不向きかもしれない。

 不向きとは言っても実際にやらせたことはないため決めつけるのは早計か。攻めが出来て守りが出来ないなんてことはないとも思う。攻め手の思考を読んで守ればいいだけなのだから────。

 

「五十里って少なくね」

「ああ、百はイケるだろ」

「急げば百五十は楽に狙える」

「オレは昔、二百いったことあるぞ」

「軽装なら三百も見えてくる。これなら三日三晩休みなく進めば往復一週間もかからん」

 

 ────と思っていたが、話を聞いてるとウチの連中に防衛は無理な気がしてきた。

 進軍速度一つとっても当たり前のように無茶をしようとする始末。コイツらは進みやすい平坦な道が無限に続いているとでも思ってるのだろうか。進む道は山あり谷ありが基本だろうに。

 

「オレが悪かった。進軍は一日五十里を前提で考えろ。早くなる分には構わんが、計画より遅くなると支障が出る。天候の乱れや遭遇戦といった不慮の事態に備え、少なく計算するのが妥当だ」

 

 やっぱりオレが残るしかないかな。

 ウチの幹部連中は名も知れ渡ってない。オレさえ残れば朝廷も出兵を躊躇するかもしれないし。

 

 

 

 

 

 その後も話し合いを進め、大まかな方針は固まった。まず派遣期間は二カ月程度。

 南郡に向かう兵は全体で二万。率いるのは文鴦を筆頭に魏延、高順、張燕、周倉、廖化。

 

 出し惜しみはせずに最大戦力を向かわせ、こいつらを鄧艾の先導下、南郡へ解き放つ。

 有事の際、スムーズなやり取りを行うために中継地点を設けはしたが、基本的にオレから戦闘指示を出すことはない。文鴦を頭として現場判断で臨機応変にやってくれと簡単に命じる。

 

「なんだ、大将は行かねえのか」

「お前が代わりに残るなら行くぞ。文鴦」

「悪かった。大将は後ろでどっしり構えててくれ。その方が安心して戦えるってもんだ」

 

 下手に外から指示して動きを制限するよりも当事者達の判断に委ねた方が間違いないと考える。

 この面子で敗れるようなら、オレが出向いたところで大勢は変わらないだろう。領民に迷惑をかけないなら基本的に何をしてもいいと伝える。賊だろうが官軍だろうが好きに相手していい。

 

 二万の兵を固めて進めるのか。それとも分けて進めるのかも現場の判断に一任する。

 ただ二カ月という期間だけは必ず守るように念を押す。そして戻れと命令したらすぐに戻って来いと。これは討伐軍との兼ね合いだ。出兵を察知したらすぐ戻すが間に合うかは際どいライン。

 

「兵五千を残してオレと孔明と士元で城を守る。討伐軍が来ないように仕掛けもやっとくが、実際どう転ぶかはわからん。少し前に叩いたばかりだし、今すぐには来ないだろう。多分な」

 

 南陽軍は現時点で約二万五千の兵力。

 豫洲の黄巾賊が敗走してからというもの入隊を希望する兵の数が日に日に増えている。

 

 残党が流れ込んでいるのだろう。それならより一層のこと黄巾賊同士で潰し合ってはダメな気もするが、誰もそのことについて触れない。賊同士で争うことは珍しくないのかもしれない。

 仮にダメだったとしても賊相手に配慮する必要もないか。こちらの都合を通させてもらおう。

 

「あの、シレッと私の名前が入ってるのですが」

「頼めるか孔明?」

「頼めないですね……」

「そうか。なら仕方ないな」

 

 ただ都合を通すのは時と場合と相手による。

 孔明のように特に非の無い相手に対しては、断られたら素直に引く方がいいだろう。

 これは孔明相手だからではなく、誰が相手でもそう。今のオレは軍事力を背景に傲慢に振る舞うことも可能だろうが、一度でもすると際限がなくなる。次第にそれが当たり前と思う様になる。

 

「朱里ちゃんは守るより攻めたいようです!」

「違う違う! 王朝に歯向かうのがダメ……って雛里ちゃん。なんでそんなに乗り気なの!?」

 

 驕っても碌なことにならんしな。

 現状、既に碌なことになってないが、この基準は今後も可能な限り守っていきたいと思う。

 孔明と士元のやり取りを眺めながらそんなことを考える。しかしなぜか士元は前向きな発言が多いな。引っ張るのは無理だと思っていたがワンチャンスあるかも。いや、それはないか。

 

 

 

 

 

 軍議も締めが近づく中、そういえば孫権達三人がぜんぜん口を開いてないことに気づく。

 三人は、とりわけ孫権は鄧艾を訝しむように見ている。何か鄧艾に怪しいところでもあるかと考えるも、よくよく考えれば怪しいところだらけだ。初対面ならば特にそう思うだろう。

 

「いやあ、この闘争の雰囲気堪りませんな。戻ったらきっちりケジメつけさせたるでえ」

 

 人相も発言も悪い意味でパンチが利いている。

 仮に鄧艾が、か弱い美少女かなんかで丁寧に涙ながら語りかけるなら印象も違うのだろう。

 だが実際はこんな如何にもな風貌をし、ドスの利いた声で軍事進攻を勧めるのだから怪しいか。慣れというのは怖いものだと思う。しかし、どうしたものか。孫権達の心象は至極尤もだ。

 

「────────ふむ」

 

 やがて時間が解決する問題でもある。

 このまま見なかったこととして放置しようかとも考えたが、孫権の表情が少し気になった。

 

 訝しむような表情を浮かべながらも時折、心配そうにこちらを見てくるのだから厄介だ。

 オレを相手にそんな表情を見せるのは孫権ぐらいなもの。過去を通してもそんな相手はいなかった。放っておいてくれと思うが、仕方ない。柄ではないが鄧艾に対する心象を良くしておこう。

 

 オレにだって疑う気持ちはある。

 だが、それでも信じなければならない場面もある。疑ってばかりだと本当にキリがない。

 相手のことを信じずに信じてもらおうなんて虫の良い話はない。オレはオレの目を信じる。

 

「南郡の連中が朝廷と組んでたら詰む。鄧艾の誘いを怪しむ者も中にはいるかもしれない」

「カシラ。自分はそんなこと……」

「オレ達の周囲は敵だらけだ。日和って中立決め込む連中なんぞ信じちゃいない。ただ────」

 

 仲間は信じる、とオレは続ける。

 

「何度も肩を並べて戦い、共に血を流した仲間を信じなくて誰を信じるってんだ。仲間を疑うことはしない。鄧艾も南郡の連中も一蓮托生だ。オレに降ることを後悔するほど扱き使ってやるよ」

 

 そう言ってオレは鄧艾を見る。

 鄧艾は黙って歩を進めるとオレの目の前で止まり、両膝に手を置いて深々と頭を下げた。

 

「今日、この時より自分の命はカシラに預けます。好きなように使ってやって下さい」

「そうか。だったら永く使わなきゃ損だな」

 

 期待しているぞ、と声をかけては鄧艾の肩に手を置く。厚みのある堂々とした肉体だ。

 

 このやり取りを場にいる全員が見ていた。

 受け取り方は人によって様々だろう。たとえ馬鹿だと思われてもオレはオレの思う様にする。

 

「朱里ちゃん。やっぱり私は悪い人だとは思わないよ。この人達に負けて欲しいとも……」

「…………………………」

 

 ともあれオレは鄧艾の誘いに乗った。

 そして軍を出して南郡を解放する。解放というよりは事実上の支配に近いのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから三日後。編成と仕込みを終えた二万の軍は南陽郡を離れて南郡へと旅立った。

 孔明が『迷惑じゃなければ見て行きたい』と言ったので士元と共に当日まで城に泊めた。

 オレは準備に追われていたので二人と話すことはなかったが、二人は二人で街を見たり孫権達と話したりと結構活発に動いていたようだ。

 

「────ではカシラ、自分ら行ってきます。手土産も獲ってきますんで期待して下さい」

「ああ、励めよ。オレも行きたかったな」

 

 しかし本拠地に待機ってのは暇なもんだな。

 二カ月か。今更ながらに影武者でも置いといて参戦すればよかったかと考えてしまう。

 

「孫権の姐さんもお元気で」

「ええ、貴方のこと誤解して……姐さん?」

「カシラのコレじゃないんですか。てっきり自分はそういう関係かと思ってましたが」

 

 同じく見送りに来た孫権に鄧艾が話しかける。

 孫権以下、甘寧、周泰。そして孔明、士元もいる。仕方ないが女ばっかりが残ったな。

 孔明と士元は帰るだろうが、これから二カ月どうしたものか。討伐軍が来なければ結構暇を持て余すことになりそうだ。来ても困るが来なくても困りそう。まあ、来なくていいが。

 

「ど、どこを見たらそうなるのよ!?」

「いやあ、そらアレですね。余所者の自分を無言で睨み付ける目。あれは相当なモンでした」

「それは知らない人だったからで……」

「まさにシマを守る姐さんの目でしたね。カシラも趣味がええ。自分のこと覚えとって下さい」

 

 孫権が鄧艾に話しかけられ、というか絡まれていた。まったく出発前に何をしてんだか。

 

「朱里ちゃん、聞いた聞いた!?」

「聞いたよ雛里ちゃん。血縁者で南陽軍の頭領を取り込もうとする孫家が最も巨悪だった……?」

 

 孔明も士元もわちゃわちゃと騒ぎ出す。

 別にピリピリし過ぎる必要はないが、適度な緊張感は持っていた方がいいと思うんだが。

 

「変なこと言って絡むな鄧艾。孫権は自称人質だ。下手な真似してみろ。虎が飛んで来るぞ」

「────ね、こういう人なのよ」

「なるほど、これは賭けが成立するわけや。自分は姐さん応援してますよ。本命にドンと張る」

 

 そう言い残すと鄧艾は去っていった。

 鄧艾は軽口こそ叩いてはいたが、内には確かな自信と闘志が漲っているように見えた。

 

「さて、オレもやるべきことをしなきゃな。軍師軍師。どこかに良い軍師はいないもんかね」

「月影。貴方はホントにブレないわね……」

 

 なぜか孫権に小言を吐かれながら旅立って行く兵が見えなくなるまでその場に留まった。

 

 オレに誤算があったとすれば、鄧艾が実は軍師もこなせる逸材であったことだろうか。

 あのナリで軍師は無理だろと思って考えもしなかったが、人は見かけによらないらしい。

 




小ネタ。南陽軍のステータス(仮)
文鴦 統率92 武力96 知力52 政治22
魏延 統率85 武力92 知力30 政治15
高順 統率89 武力86 知力42 政治33
張燕 統率80 武力82 知力57 政治47
周倉 統率62 武力80 知力27 政治25
廖化 統率72 武力77 知力36 政治25
鄧艾 統率91 武力88 知力87 政治82

番外
曹操 統率100 武力94 知力97  政治96
孫策 統率97  武力97 知力71  政治66
孔明 統率95  武力5  知力99  政治97
士元 統率80  武力5  知力100 政治84

拙作ではこんなイメージで書いてます。
いずれ月影、孫権。曹操配下、孫策配下、劉備軍の第二弾を書くかもしれません。
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