恋姫†国盗り物語   作:オーギヤ

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第二十六話

 

「────なんだ、もうケリがついたのか」

 

 月影は曹操軍との戦いを切り上げ、城に引き返すも既に戦闘は終了していた。

 袁紹の撤退命令を履き違えていた一部の袁紹軍の兵は、自軍の後続部隊が続いて来ず南陽軍の兵が引き返して来る様子を見ては勝負にならないと武器を捨て、降伏を申し出る。

 

 月影は縄に縛られた袁紹軍の兵を見ては『陽動だったか』と袁紹の手腕を称え、さて処遇をどうすべきかと考える。さっさと始末した方が後腐れなく、楽なように月影には思えていた。

 

「捕虜ねえ。袁家とは今後不倶戴天の関係になるだろうし、敵を逃がしてやる義理もないよな」

 

 袁術に次いで袁紹とも構えた月影。

 袁家との関係に修復の余地が無いと考えていた月影にとって、捕虜を取る理由がなかった。

 今更悪名が一つ増えたところで変わらない。見張るのも面倒だし、解放して敵となると尚のこと面倒だ。月影は捕虜を始末しようと考えていたが、鳳統と諸葛亮がそれに待ったをかける。

 

「捕虜は戦後の交渉材料となります」

「人道に背く行為を私達は認めませんよ!」

 

 鳳統は政治的視点から、諸葛亮は人道的視点から月影の発言を咎める。

 南陽軍のトップである月影の発言に対し、これまで異を唱える者はほとんどいなかった。

 南陽軍の将兵達は新米軍師二人の言葉に耳を傾け『これは期待出来そうだな』と評価を上げる。その手腕もさることながら、若くして月影に異を唱える胆力を見ては認める他になかった。

 

「そうか。なら処遇は二人に一任する。ただし、妙な動きを見つけたら情けをかけるなよ」

 

 そして月影も鳳統と諸葛亮の言葉の方に理があることを素直に認め、自身の頭をコツいた。

 戦闘中、戦闘直後に真っ当な判断が下さないことを月影は自認しており、まだ戦闘の気が抜けていない自分を戒める。鳳統と諸葛亮は、月影があっさり認めたことに少し驚くも喜んだ。

 

 それから月影は傷の手当てを終え、空を見上げる。曹操に斬られた右目も光を映していた。

 

「これでようやく、一区切りついたかな」

 

 そう呟き、長い戦いの終わりを噛みしめる。

 そして西日が射しこむ中、月影は激戦を潜り抜けた兵達に労いの言葉をかけて回った。

 

 文鴦は終始満足感を示し、魏延は自身の武功を誇らし気に語る。鄧艾は追いつけなかったことを悔やみ、他の軍団長らは戦に勝利したことを喜び、戦いの中で散っていった仲間を誇った。

 

 最後に孫権、甘寧、周泰の下を訪れた月影。三人は月影を見ては少々身構える。

 城の防衛戦に参加していた三人。それは月影の意に沿わない行為であるという自覚があり、怒られるのか。呆れられるのか。はたまた『馬鹿な真似をしたもんな』と笑われるのか。

 

 何を言われても即座に言い返してやろうと腕を組む甘寧。両腰に手を当てては胸を張り、どんなもんだと周泰。色々あったけど、何より月影が無事に帰って来たことを嬉しく思う孫権。

 

 月影は三人の前に立つと順番に目を見る。そして一言、感謝の気持ちを素直に述べた。

 

「三人共、よくやってくれた。ありがとう」

 

 予想外の言葉に甘寧と周泰は姿勢を正す。

 そして南陽軍の兵達と同じように労われたことに嬉しさを覚え、下を向き表情を隠した。

 孫権はそんな二人を微笑ましく見守り、慈愛に満ちた瞳で一言、月影のこれまでを労った。

 

「お疲れ様。おかえりなさい」

 

 その言葉を聞いた月影の中で、張り詰めていた多くが解れ、放たれていく感覚に陥る。

 根城としてからどれぐらい経ったか。すっかりここが帰る場所となっていることに気づく。

 

「ああ、ただいま。疲れたよ。本当に疲れた。飯食って今日は早く寝たい……ははっ」

 

 ドッと疲れが押し寄せては睡魔が襲う。

 大戦終わりの総大将の発言としては不細工ではあったが、月影はそれもいいと思った。

 

 こうして南陽軍と討伐軍の四度に及ぶ、長きに渡る戦いの日々は終結を迎える。

 勝者は南陽軍。月影は討伐軍を四度退けた豪傑として、その名を轟かせることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────華琳様の髪が!? 黄金より価値があるとされる華琳様の御髪が!?!?!?」

 

 戦いを終え自領に引き返した曹操。

 本拠地である陳留城を守っていた荀彧は、南陽郡から戻って来た曹操の姿に驚愕する。

 

「月影に斬られちゃった」

「斬ら……斬られ……?????」

「お返しに私も斬ったから安心しなさい。月影の瞼をズバッとね。手応えは浅かったけど」

 

 失った縦巻きツインテールの左側を撫でながら、満足そうに戦闘を振り返る曹操。

 曹操の左側の巻き髪は、髑髏をかたどった髪飾りごと月影にバッサリ斬り落とされていた。

 

「華琳様が斬られた……??? そんな間合いに反逆者が侵入……??? どゆこと???」

 

 荀彧は理解が追いつかなかった。

 討伐軍が敗れたという報告は既に聞き及んでいたが、この報告は聞いていなかった。

 荀彧は『無能共が足を引っ張ったんだろう』と判断し、不満ながらも主である曹操が無事なら別の手を考えるまでと思案していたが、まさかまさかの展開に思わず絶句してしまう。

 

「髪なんてすぐに伸びるわよ」

「髪は女の命。その命を斬った……?? 華琳様が死……?? 華琳様が死……!?!?」

「これから数ヵ月、鏡に立つ度に月影との死闘を思い出せると思えば悪くないわね。ふふっ」

 

 荀彧は酷く取り乱していたが、当の曹操はまったく気にする素振りをみせていなかった。

 戦場に立つ以上、死者が出るのは至極当然のこと。自軍の兵に犠牲が出たこともそう。ましてや自分も斬っておきながら、相手に斬られたことを非難するつもりなんて曹操にはなかった。

 

 それでも荀彧の怒りは収まらない。月影がいない今、矛先は曹操を守るべき将へと向く。

 

「────アンタらは一体何してたのよ! 華琳様に反逆者を近づけるなんて……って」

 

 そう怒号を飛ばそうとした荀彧は、そこで夏侯惇らの消耗しきった姿が目に入る。

 とりわけ前線を張っていた夏侯惇、楽進、于禁、李典は揃って深い傷を負っていた。

 

「すまん桂花。すまんとしか言えん」

「あれほどの猛者揃いとは。本当にすまない」

 

 みな傷を負い、敗戦を強く悔いていた。

 夏侯惇が素直に頭を下げ、夏侯淵にも謝罪されては荀彧も強く言い続けられなかった。

 

「ぐぬ……。ぐぬぬぬぬ…………!!」

「まあ、済んだことはいいでしょう。私達は功を立てて戻ったのだから。誇るべきことよ」

 

 苦虫を噛み潰し、それが喉につっかえたような苦悶の表情を浮かべる荀彧。

 思わず頭を抱え悶えるも、曹操に言われては黙るしかなかった。殿を務め上げ南陽軍の猛攻を防いだ曹操軍の活躍は、敗戦した討伐軍の中でも数少ない武功として十分に認められていた。

 

 そして主の曹操は終始一貫して上機嫌。

 それを感じ取っていた荀彧は、かつて抱いていた胸騒ぎが、嫌な予感が的中したことを知る。

 

「でも、そうね。桂花の怒りも尤もだわ」

「と、言いますと?」

「私の髪を斬り落とした責任は取らさないとね。さてさて、どういう口実がいいかしら……」

「捕えて拷問にかけるという意味ですよね? しかるべき当然の報いであるように思いますが」

 

 荀彧の言葉に反応せず、明後日の方向を向いては意味深に瞳を潤ませる曹操。

 

「────あの時、感じた高鳴りは今も私の心に残っている。私の心に強く焼きついている」

「殺意が、ですよね?」

「敗者が勝者に従うのは当然よね。敗者は勝者の所有物という見方も出来なくは……ふふふっ」

 

 ヤバいのでは、と荀彧は夏侯惇らを見る。

 荀彧の視線に揃って首を横に振り『ずっとこんな感じ』とでも言いたげに目を伏せる一同。

 

 曹操は多くを語らない風を装ってこそいたが、醸し出す雰囲気は雄弁に物語っていた。

 曹操の才を求める人材コレクターとしての一面が月影を求め、強敵を求める覇王としての一面が自分を破った月影を求め、それが相乗効果を起こしては曹操の感情を強く惹きつけていた。

 

「あ、ああぁぁぁぁ!! 私が傍にいればこんなことにはなってなかったのにぃぃぃぃぃ!!」

 

 荀彧は自身の不在を嘆くも後の祭りである。

 南陽の乱以降、曹操は月影に対する関心を深め、月影を巡る争いに参加していくこととなる。

 

 南陽での戦いを終えた曹操軍は一時領土に戻って英気を養うも、皇甫嵩が都から軍勢を率いて冀州へ入るとこれに従い、劉備軍と並んで張角討伐に多大な功績を上げることとなった。

 

 南陽・黄巾の乱で武功を上げた曹操は兗州牧へと就任し、強力な諸侯として名を馳せていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────私の義弟が無事に勝利したわね!」

 

 豫洲は沛国相県。

 南陽軍勝利の一報、そしてその後の動向を受けては孫策、周瑜、黄蓋の三人が集まる。

 

「まだ義弟ではないがのう」

「諸侯の中で喜んでいるのは我々ぐらいだろうな。どこも驚き大いに混乱したことだろう」

 

 孫策は南陽軍の勝利を受けては両手を上げて非常に喜び、黄蓋と周瑜は静かに喜んだ。

 

 そして大戦から間を置かず、南陽の地に朝廷からの使者が遣わされると月影は矛を収めた。

 朝廷は月影の帰順を認めると荊州牧へと任命し、支配する三郡の統治権を公的に与える。この一連のやり取りが滞りなく進んだことからも、事前に話がついていたことを暗に示していた。

 

 朝廷は月影の反乱を赦しその支配を認めた。

 行政権に加え軍事権を持つ州牧の地位を与え、州内での反乱や暴動を鎮圧する働きを求める。月影はそれに応じると治所を南陽郡は宛県に置き、これまで通りの統治体制を固めていった。

 

「要するに主張が全部通った形ね」

「朝廷側としては首都洛陽から離すために、襄陽や江陵辺りを本拠地とするように求めたが」

「月影がそれを認めなかったのね。南陽の民も南陽軍が離れることを望みはしないでしょうし」

 

 大戦の勝者らしく言い分を通した月影。

 それと同時に荊北三郡の地盤を固め、荊南四郡への進行を望んでいないことを示した。

 月影は使者へ向け『しばらくは大人しくする』と安心させるために宣言したが、使者からすると『しばらく経ったら暴れるつもりなの?』と戦々恐々させることになってりもしていた。

 

「まあ、なんじゃ。月影に政治的な立ち回りが出来るかは疑問が残るのう。策殿も大概じゃが」

「失礼ね! 私だってやれば出来るわよ!」

「そこは新たに加入した軍師二名が担うらしいです。軍師か。見つかったんだな。それも二人」

 

 黄蓋の言葉に孫策が憤慨し、周瑜は南陽軍へと加入した二人の軍師について想像を巡らす。

 加入した軍師二名は大戦時に両翼を指揮し、対峙する袁紹軍と袁術軍を打ち破ったとのこと。南陽軍の自力の高さも勿論あるだろうが、これが如何に困難なことかを周瑜は理解していた。

 

 まず着任して間もなく両翼を任せられたことが本来あり得ない大抜擢である。

 周泰の報告によれば年はまだ若く、世間的に無名の少女二人。諸葛亮、鳳統の名を実際に聞いた周瑜も心当たりなどなく、親類に名の通った大人物が居るという報告も挙がってはこない。

 

「月影の軍略でも既に三度、討伐軍を破っていた。そこに変化を加えてまで欲した人材か」

 

 無名の少女二人を月影は何度も熱心に勧誘し、それに応じれば即実戦に投入したとのこと。

 それも両軍合わせて十万を超える戦場に軍師として。いくらなんでも無茶が過ぎる行為だ。

 

 だが、実際に加入した無名の少女二人は月影の期待に応え、堂々たる結果を残した。

 月影の目利きが際立っているのか。それとも誰の目からも唸るほどの能力を秘めているのか。

 

 同じく軍師として辣腕を揮っていた周瑜にとっては興味が尽きない。本当に旗揚げから決着に至るまで興味の尽きない連中だなと思う。これからも大陸を揺るがす渦中に居続けるだろうと。

 

「そう言えば蓮華を防衛戦に立たせたらしいわ。つまり傷物にされたと見做していいわね!」

「ほうほう。それは当然、責任問題じゃな」

「ああ、可哀想な蓮華。そうなる気はしてたけど、姉として見過ごせないわ。月影に責任取らせないと。反乱軍に加担したなんて風評が広まれば、お嫁にいけなくなっちゃうじゃない!」

 

 曹操に続いて責任を取らされそうになっている月影。所業を考えれば当然ともいえる。

 言葉とは裏腹にニヤニヤと悪巧みに華を咲かせる孫策と黄蓋。そんな二人をやれやれと眺める周瑜。こうして賑やかに話が出来るのも、みんなが無事に生き延びられたからだなと思う。

 

「────ふむ、責任か。そうだな。結局それが一番手っ取り早くて良いかもしれん」

「あら、冥琳。貴女は慎重派じゃないの?」

「月影も荊州牧なんて大層な重職に就いたしな。地方官の中じゃ文句無しで最上位層だし」

 

 漢王朝は国家、州、郡国、県の順に分けられ、それぞれに統治する長官を置いている。

 国家の長官は皇帝。州の長官は牧(刺史)。郡国の長官は太守(国相)。県の長官は令。

 

「荊州牧。随分と偉くなったわねえ」

「無論、良い事ばかりではないだろう。朝廷側の取り込もうとする動きも見え隠れしている」

「あんな連中を御しきれるとは思えんがのう。強力な武力を欲する者は、やはり後を絶たんか」

 

 一つの国家。十三の州。百余りの郡国。郡国の数倍以上ある県。以下、村道侯国と続く。

 州の長官である荊州牧の月影と、県の長官である相県令の孫策。互いに領主の立場ではあるが、統治する範囲の広さはもとより、与えられた役職の差が歴然であった。孫策は嘆く。

 

「私よりぜんぜん格上になっちゃった。義姉としての立場ある? あるわよね……?」

 

 漢王朝での品官制度は最上位の一から最下位の九までの九段階に分類されている。

 一品官は大将軍、三公位など錚々たる官位が占め、以下の三品官までは首都洛陽に属する中央官僚が任に就く。地方官でも前漢の首都京兆尹の長官など、一部例外はあるが基本的にはそうだ。

 

 地方官は郡国の長官、太守が五品官。

 その下の県令・県長がその領土の大きさによって六から八品官とされている。孫策は六品官。

 

 州の取り纏めをする牧は太守の上の四品官。荊州牧である月影は四品官に分類される。四品官となれば中央でも幅を利かせられる立派な高官。中央に月影が出向けば暗殺されるだろうが。

 

「儂らも活発に動き回るべきじゃったか」

「はい。我らであれば更なる武功を積んでいたでしょうし。結果論ですが、そうなりますね」

 

 黄蓋と周瑜が立ち回りを誤ったかと考え込むも、孫策はそんなことを考えはしなかった。

 

 確かに曹操軍のように、出向ける戦場に全て出向き武功を立てる手段も孫策軍にはあった。

 波才討伐で手を緩めず、派手に戦い続けていれば孫策も大領を任せられていただろう。孫策軍にはそれだけの実力があり、率いる将にもそれに相応しいだけの能力が十分に備わっていた。

 

「────歩みが早ければいいってことでもないわ。しっかり足場を固めていきましょう」

 

 それでも孫策は現状に満足していた。

 孫策は戦いを否定するつもりもなかったが、戦わずして得られた物の価値の高さを主張する。

 

「戦いが少ないということは、それだけ犠牲が少ないということ。将も兵も、その家族もみんな仲間なんだから。少ない戦いでこの騒乱を乗り切れたことを、私達は嘆くのではなく誇るべきよ」

 

 孫策は南陽・黄巾の乱をそう締め括っては柔らかく微笑み、領主としての器を示す。

 他者との多寡を比較するよりも自分達が満足しているか。それが最も重要だと孫策は言った。

 

「その通りだな。雪蓮」

「策殿も立派なことを言うようになったのう」

 

 周瑜と黄蓋は孫策の言葉に満足し頷く。

 孫策軍は他の群雄と比較すると飛躍までの道のりが長かったが、強固な絆を構築出来ていた。

 

「そんなわけで蓮華の尻を叩かないとね! 競争相手が出て来る前にさっさと落とせって!」

「よし! 明命を通して指示を出すか!」

「うむうむ。平和でけっこうなことじゃな」

 

 後に豫洲を平定する孫策軍。

 州内諸侯の支持が厚かった背景には、黄巾賊残党処理を始め長く協力関係にあったこと。

 また孫策の大らかで穏健な姿勢が州内で対立を、争いを生まなかったことがよく挙げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────北にも凄いのが居たものね」

 

 冀州は広宗。

 皇甫嵩に従い、冀州討伐軍第二陣に参戦していた曹操は眼前に広がる光景にそう述べた。

 

 討伐軍第一陣の残党を一つにまとめ上げ、その中心に立ち、戦い続けていた義勇軍。

 瓦解した諸侯の心を粘り強く説き伏せた劉備。強力な武勇を発揮する関羽、張飛、趙雲。

 その働きには曹操も舌を巻く。南陽・黄巾の乱で活発に動き続けていた曹操は月影、孫策、劉備、袁紹、袁術を始め、後の時代の主要人物達と早い段階から出会っていたりもする。

 

 劉備が中心となった第一陣の残党は第二陣が来るまでもなく黄巾賊本隊を圧倒していた。

 打つ手がなくなった黄巾賊は総大将張角と共に広宗にて城に籠り、援軍の到着を待つ。

 

「このまま見てるだけじゃ終われないわ」

 

 討伐軍はこれを包囲すると曹操主導の下、火計を駆使して籠城する黄巾賊を攻撃した。

 既に士気が落ち切っていた黄巾賊は城内から火の手が上がると、城門を開いては一目散に逃げ、その隙をついては討伐軍が総攻撃を仕掛け、遂には城の陥落にこぎ着ける。

 

 張角は敗戦とみるや燃え盛る大火に身を投げ、側近の張宝、張梁もそれに続いたとされる。

 死体こそ挙がらなかったものの、黄巾賊総大将張角の打倒を果たしたと討伐軍側は判断し、これにて南陽の乱に続き、大陸全土を長く騒がせていた続いた黄巾の乱も収束を迎える。

 

「これからはきっと平和な世になるよね……」

 

 曹操は立役者である劉備に声をかけようと思うも、戦禍を眺め呟く劉備を見ては思い留まる。

 武功を誇ることなく悲し気に、焼け跡を見つめる劉備の瞳に方向性の違いを感じ取っては、声をかけることなく離れていく曹操。しんみりした話に耳を傾ける理由など曹操にはなかった。

 

「何れ出会うでしょう。月影のように。敵か味方かはわからないけど。これも月影のようにね」

 

 南陽・黄巾の乱を通して、おそらく大陸全土で最も高い満足感を得ていた曹操。

 強力な諸侯。運命を感じさせる強敵。敗戦。戦勝と充実した日々を過ごし続けていた。

 

「華琳様が口を開けば反逆者の名を……」

「それはね桂花。この私を破った相手のことを、片時たりとも忘れないためなのよ」

「脳が……脳が破壊されそうです。どうして戦勝時に私はこんな感情を抱かねば……?」

 

 ちゃっかり軍師として同行していた荀彧は頭痛を感じるも、長く付き合っていくこととなる。

 

 

 

 南陽・黄巾の乱はこれにて収束を迎えた。

 だが乱の根本原因である、政治腐敗や民衆への苛政はその後も改善されることはなかった。

 

 黄巾賊の残党は長く大陸全土の広域で跋扈し続け、度々大規模な反乱を繰り返し、これが国力の低下と朝廷の威光を下げることとなり、結果として地方の軍閥化を進めることとなった。

 




これにて第一章南陽・黄巾の乱は終わりです。それにしても長かった(8年)
次話でIF END① 孫家大勝利√を書いて二章に入ります。次話はコメディ寄りかも。
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