恋姫†国盗り物語 作:オーギヤ
IF END① 孫家大勝利√。子は鎹。
「────せ、責任を取らせろって。防衛戦に加わったのは私の意思で、彼は関係ないわよ!」
南陽郡、宛城は孫権の私室。
月夜の晩、孫権は孫策からの伝言を受けた周泰の言葉に耳を赤くして狼狽えていた。
討伐軍との最終戦に参戦したことを認める代わりに、その責任を月影に取らせろと孫策。
責任を取らせる。つまりは婚姻関係。それに準ずる関係となることを孫策は求めた。その方が色々と都合も良いし、孫権本人も満更でないのなら、ちゃっちゃと関係を決めて来いと。
「まったく、姉様は好き勝手に言うんだから。まだこの城へ来て九ヵ月かそこらなのに」
「九ヵ月って十分長いと思いますけど」
「それに競争相手って。こんな悪名高い城に嫁いで来る女なんているもんですか。ふふっ」
孫権はやはり満更でもなく思っていたし、競争相手の心配もまったくしていなかった。
討伐軍との戦いも終結し、これから平和の一途を辿ると信じていた孫権。月影との関係を深める機会はいくらでもあると楽観視し、今はまだ焦るような時期ではないと考えていた。
血みどろの戦いを終え、甘酸っぱいフェーズに移るんじゃないかと淡い期待を抱く孫権。
月影との関係は少しずつ進めて行けばいいと考え、孫策の指示を突っぱねる。孫権は過程を楽しむモノだという恋愛脳でいたが、ここで傍に仕えていた甘寧が要らぬ一言を発してしまう。
「────まあ、確かに月影相手に婚姻関係を結ぼうなんて、諸侯や豪族は考えないでしょう」
「そうよねえ。そうそう!」
「ただ、求められれば月影は応じるでしょうね。あれで合理的な面もありますし、おそらくは」
本編では頭で思っても口に出さなかった甘寧。IFルートでは思ったままに口出しをする。
そしてこの甘寧の一言が、その後のルートを確定付けるものとなった。孫権は自身の構想にヒビが入ったことに慌て、間を置かず周泰が同調すると目を丸くして大いに慌てふためいた。
「来るもの拒まずって感じですもんね」
「だな。それで友好勢力が増えるなら四、五人程度なら平気な顔して引き入れそうな男だ」
「戦略結婚ですねえ。ウチも実際、傍から見ればそういう風に……って、それは置いときますか」
甘寧と周泰は起こり得る展開を語った。
それは孫権にとっては想定外のことであり動揺を隠し切れない。見ず知らずの女が月影の横に立ち、甘える姿を想像したらモヤモヤする孫権。なんとか阻止出来ないものかと二人に問う。
「ど、どうすればいいの!?」
そんな孫権を見ては甘寧と周泰が目を合わせて頷き、孫権の背をそっと押した。
「ご心配でしたら有象無象が来る前に勝負を決してしまえばよろしいかと。先手必勝です」
「南陽軍の戦いを見てもわかる通り、攻め手が有利なんですよ。戦いは勢い。勢いが大事!」
甘寧と周泰は攻めるべきだと主張する。
二人にとってもそうだ。知らない女がやって来て、我が物顔で好き勝手に振る舞う姿など見たくもない。その姿が孫権を苦しませることも、二人はよく理解していた。
「なるほどなるほど。先手必勝。勢いが大事。それで、具体的にはどうすれば……?」
「あの男も流石に大戦終わりで気が抜けてるでしょうし、その隙を狙うほかにありません」
「そのデカイお胸を押し当てて、ちょっと甘えた声を出せば勝ち確です。月影さんはチョロい」
勝ち確、という言葉が甘美に響く孫権。
はしたない行為という自覚はあるが勝てるのであれば話は別。なりふり構ってはいられない。
「わ、わかったわ! きっとそうする!」
戦略結婚なんて断固認めない、と孫権。
側近二人の後押しもあっては固く決意し、すぐに月影の下を訪ねることにした。
甘寧と周泰は去って行く孫権の背を見ながら『こんな夜遅くに行くんだ』と声を揃える。
「乙女な蓮華様もやはりいいな」
「乙女の純潔、散らしに走ってますけど」
「蓮華様が幸せならそれもいいさ。月影。第一印象こそ最悪だったが今は私も嫌いじゃないし」
甘寧は周泰のツッコミに答えるも内心、悪い気分ではない自分に気づかされる。
そして二人は月影の性格を見抜いていた。深く関係を持てばきっと大事にされるだろうと。
月夜の晩に異性の寝室を訪ねてどうなるか。
それがわからない三人ではなかったし、月影も据え膳を食わぬほど枯れていなかった。
孫権が朝になっても私室に戻っていないのを確認した二人はグッと拳を握り勝利を確信する。
「────ゆうべはお楽しみでしたね!」
翌朝、月影を見つけた周泰は待ってましたとばかりに元気よく笑顔でそう言い放った。
見るからに寝不足を引きずっている月影は周泰の言葉に返事を返さず、小さくあくびをする。
「────ゆうべはお楽しみでしたね!」
「二回も言うのか。またベタベタな台詞だな」
月影の反応は周泰の望むものではなかった。
慌てて言い訳する様子を見ながら『全部知ってますよ』的な立ち回りがしたかった周泰。
だが、当の月影にそんな素振りは微塵もなく、ベタな台詞を言われても平然としていた。
「なんでそんな堂々としてるんですか!?」
「なんでって、別に悪いことをしたわけでもないし。込み入った過去の話も色々としたしな」
しっかり孫権と話をした上で、しっかり朝まで盛り上がったと伝える月影。
何か問題でも、と言いたげな月影の態度に周泰は残念がる。取り乱す様子はなさそうだと。
「まあ、悪いことをしても堂々とするけど」
「うーん、流石は元天下の逆賊。慌てふためく様子も見たかったですが、仕方ないですねえ」
顔を真っ赤にして慌てふためく月影を想像するも『確かに違うかも』と思い直す周泰。
これぐらい堂々としている方がらしいかな。そう周泰は思うも、月影の横に孫権の姿がないことに疑問を抱く。てっきり腕でも組みながら一緒にいると考えていたが、どうしたのだろうかと。
「それで蓮華様はどちらに?」
「蓮華はまだ寝てるよ。寝かせておいてやれ」
まだ寝てるんだ、と合点がつく周泰。
それと同時に周泰は、月影が孫権の真名を自然に呼んだことに驚いては声を上げた。
「────ああ! 今、真名で呼んだ!」
これまで月影は誰も真名で呼びはしなかった。
何か特別な事情でもあるのかと思っていた周泰。そんな月影が孫権の真名を口にした。
これは孫権が望んだことなのは勿論。月影にとって交わった相手に対するケジメであり、自身の出自について打ち明けた孫権に対する親愛の証であったが、周泰はそこまでの事情を知らない。
「蓮華様のこと真名で呼んだ! ヤラシイ!」
「いや、その反応はどうなんだ?」
「これはアツイ夜を過ごしたことを示唆してますねえ! ちょっとそこらへん詳しくぅ!」
「朝っぱらから話すことでもないだろ。気になるなら蓮華に聞いてくれ。オレからは言わん」
それでも周泰は素直に喜んだ。
月影が孫権を真名で呼んだこと。少し照れくさそうにする程度を見せたことを喜んだ。
月影の腕に抱き着き『詳しく話すまで離れません』と言っては頭をギュッと押し付ける。
「────まあ、なんだ。これからも長い付き合いになるだろう。改めてよろしく頼むぞ」
「私のこと、とびっきり甘やかしてくださいね! その方が私も甘えやすいので。えへへっ」
月影はそう言うと抱き着かれていない、もう一方の手で周泰の頭を乱暴に撫でる。
周泰は乱れる髪を気にすることなく答えると、先に続く未来を想い無邪気に微笑んだ。
それから一ヵ月が経った。
その間、初手からブッコンだ周泰とは違い、甘寧は静かに月影と孫権の動向を見ていた。
「ねえ、月影。今晩も相談があるのだけどいいかしら。ちょっと長くなるかも……ね?」
「寝不足なのに抗えない。男の性だなあ」
孫権はここ一ヵ月。何かと理由をつけては毎晩欠かさず月影の下を訪れていた。
日中、暇を持て余す孫権はぐっすり睡眠をとっていたが仕事に追われる月影は休む間もない。
月影の目の下にはド派手なクマが浮かんでいたが、そんなことお構いなしに夜の誘いをする孫権。瞳にハートマークを浮かべた孫権に甘い言葉でねだられると、月影は無力であった。
「────ふっ。お盛んなことだ」
甘寧はそんな二人を見ては上機嫌に呟く。
主人の幸せは自分の幸せとばかりに遠目に見ているだけでも満足出来ていた甘寧。
甘寧は二人の姿を見ては、そう遠くないうちに訪れるであろうイベントを静かに待った。
それからさらに二ヵ月後。孫権達が月影の下を訪れてから丁度一年が経った日のこと。
最近は睡眠が取れている様子の月影に声をかける甘寧。目の下のクマも薄くなっていた。
「月影、どうだ。よく眠れているか?」
「仕事も多少は落ち着いてきたしな。蓮華も近頃は大人しいし、睡眠時間もそれなりには」
それはよかった、と甘寧。
「時に月影。なぜ蓮華様が大人しいと思う?」
「これまでが大人しくなさ過ぎただけって認識だけど。オレも人のことは言えんが」
「まあ、それもあるだろうが、理由は他にもある。心当たりはあるよな。わかるよな?」
珍しく口元を緩まし、どこか確信めいた甘寧の言葉に月影は疑問符を浮かべる。
「心当たり……はて?」
「近頃の蓮華様は大層幸せそうにお腹を撫でていらっしゃる。言いたいこと、わかるよな?」
なおも甘寧の追及が続き、お腹を撫でるという行為について月影は連想を深める。
すぐに思いつくのは食事。満腹に達した者が満足そうに腹を撫でる様子は容易に想像がつく。
「いっぱい食べたとか?」
「蓮華様を食べたのは月影。お前だろ?」
「それは否定出来ない。ただ、それがお腹を撫でることと、どう関係が…………んん!?」
月影は頭の回転が鈍いわけではなかった。
甘寧からヒントを与えられ、それを手掛かりに連想すればすぐに答えに至る。
答えに至り、それを裏付ける証拠もある。
証拠というよりは実績だろうか。ともあれ月影には思い当たる節が山のようにあった。
「ケジメの取り方、わかるよな?」
「はい」
「蓮華様の姉上である雪蓮様の耳にも既に届いている。近く、話し合いの場を設けたいと」
毎晩のように交わっていれば当然の結果。
外堀も既に埋まっている様子。月影は孫家の手回しの良さに感心するも、感心している場合ではなかった。今は一歩でも対応を間違えれば即、開戦へ繋がりなりかねない危機的状況でもある。
「物理の話し合いになりかねんな……」
「義姉と呼べと仰っていたから、怒ってはないと思うぞ。もっとも、お前の対応次第だがな」
「とにかく、まずは蓮華と話して来る。軍の召集は……違うか。とにかく蓮華に会うのが先だ」
甘寧が早とちりした可能性だってある。
思い当たる節しかない月影であったが甘寧と別れ、孫権の私室へと早足で向かう。
孫権の私室へ向かう月影は、ドエライことになったなと思う反面、喜んでいる自分に気づく。
戦いに塗れた自分の半生。自らの所業を考えれば喜べる立場ではなかったが、嬉しいものは嬉しい。この感情をどうすべきかと月影は悩む。胸の奥底に仕舞うべきか。それとも────。
「────あら、月影。珍しいわね」
自分の感情に素直に従うべきか。
孫権の私室を訪ねた月影はそこで、普段のチャイナ服ではなくマタニティ風の服に身を包む孫権の姿を見る。『随分と気が早いな』と呟くも、孫権の姿を見た瞬間に月影の心は決まった。
「でも、良いところに来てくれた。貴方に大事な話があるの。喜んでくれるかな……」
清らかな蓮の華が咲く。
孫権の言葉を聞いた月影は孫権の手を取ると、孫呉と共に乱世を歩む決意を固める。
「────私の可愛い可愛い妹がね。それはそれは悪い男に誑かされちゃったみたいで!」
孫策との邂逅は月影の居城で行われた。
謁見の間にて集う両雄。孫策は周瑜と黄蓋を引き連れ、月影は自軍の主な面々を並べる。
「今のご時世、そう珍しい話でもないわな」
「そうねえ。それだけなら私も強く言えないかも。ただ孕まされたって聞いちゃうとねえ?」
そこにはピリピリした空気は微塵もなく、みなが裁かれる月影を楽し気に見守っていた。
既に誰もが事情を把握しており、孫策らの来訪を待っていた。自軍の大将が裁かれるという一生に一度あるかないかの場面。兵達も屋外で聞き耳を立て、やはり楽し気に動向を見守る。
「間違いないわね。蓮華」
孫策の問いに孫権は笑顔で頷く。
お腹を撫でながら幸せオーラ全開の孫権を見ては孫策も笑顔を返し、次いで月影に問う。
「月影。それについて心当たりは?」
「心当たりか。そうだな……」
月影は周囲に視線を向けるも、この場で月影を助けてくれる者などいはしない。
南陽軍の将校クラスは詰められる月影の姿を見てニヤニヤし、諸葛亮と鳳統は顔を真っ赤に染め、甘寧はジッと見つめては『真面目にやれよ』と言わんばかりの無言の圧力をかけていた。
周泰は出番が来るのを今か今かとウズウズしていたが、月影は周泰が話し出すとややこしいことになるのを既に知っていた。周泰を手で制止しては、ごちゃごちゃ言い訳をするのを止める。
「心当たりは当然ある。責任も取る」
「貴方がそういう心積もりなら、私もうるさくは言わないわ。蓮華のこと、よろしくお願いね」
月影は覚悟を述べ、孫策がそれを認めた。
周囲から歓声が上がる。肩の力が抜けた月影の前に孫権が歩み、照れながら声をかけた。
「ま、まあ姉様が認めたなら私も従うわよ。勘違いしないでよね。姉様が認めたからだから!」
「妊婦のツンデレとは新しいな。流石はオレの嫁だ。良からぬ性癖に目覚めそう」
月影軍と孫策軍の同盟関係は以降、一度も揺らぐことなく固く結ばれていくこととなる。
「あまり無茶はしないでね。月影」
「ああ、そうだな。約束するよ。蓮華」
孫権の言葉に月影は目を閉じ、自分本位の生き方を改めていく必要があることをよく考えた。
張純の乱。
馬相の乱。
黒山賊の乱。
西園八校尉設立。
霊帝崩御。
何進暗殺。
献帝即位。
董卓上洛。
目まぐるしく動く国内情勢の中、月影軍と孫策軍は長く静観を決め込んでいた。
騒動には首を突っ込まず、領土の発展と安定に努め、力を蓄え続ける。そして────。
「────月影もいない。孫策もいない。劉備もいない。そんな連合軍ある? ある???」
反董卓連合結成。
逆賊董卓討伐に向けて集まった諸侯。曹操は主要人物が軒並みいない連合軍を見ては嘆く。
「月影さんは、お嫁さんが出産間近で来れないとのことですわ。お目出度いですわねえ」
「嫁が出産間近? 私は妊婦だった……?」
連合軍の盟主袁紹がそう言うと、曹操は自身の身体に触れるも当然そんなことはない。
「孫策さんは、妹さんが身重で心配だから立ち合いたいとのこと。家族想いですわねえ」
「はぁっ!? ってことは月影の嫁って孫策の妹じゃないの。こんな偶然ないわよね!?」
月影の嫁が孫策の妹だと知り憤慨する曹操。
寝取られNGなのは勿論。重要な一戦に不参加を決め込む二人を許せない。そして────。
「劉備さんは、どういうわけか逆賊に与するみたいですわね。この私に逆らうなんて愚かな人」
「ははっ……。はははははっ…………」
劉備は上洛を果たし董卓軍に加わった模様。
月影が孫権と結ばれ、多く静観を決め込んだルートにおいて連合軍は烏合の衆と化す。
「どいつもこいつも上等じゃない! この私を本気で怒らせたことを後悔させてやるわ!!」
そんな連合軍の中でも曹操軍は気を吐いた。
それでも呂布、張遼と並び関羽、張飛、趙雲を要する董卓軍を打ち崩すには至らなかった。
連合軍は董卓打倒を果たせずに解散。
董卓軍は凌ぐことにこそ成功したが消耗は大きく、以降も諸侯の支持を得られなかった。
董卓と劉備は地方出身の成り上がり者。朝廷内でのエリート層とは馬が合わない。
過激なことを嫌い、心優しい董卓と劉備はまとめ上げるのに難儀する。その結果、二人は連合戦で自分達と戦うことなく強い影響力を持つ諸侯を求め、月影と孫策に白羽の矢が立った。
「────上洛して国政に参加しろだ? オレがそんな見え見えの罠に引っ掛かる訳ねえだろ」
当初、月影はその要請に否定的であった。
体よく招いては暗殺するつもりだろうと高を括り、そんな愚かではないと一蹴する。
どうせ滅びる国に加担してなんになるのか。月影はそう考えるも、国の立て直しを孫権に頼まれては弱かった。赤子を抱いた嫁に懇願されては月影も、もう一度考えざるを得なかった。
このまま放置しておけば国は割れ、戦乱の世が十年、二十年、五十年と続くだろう。
それは自分が望んでいたことであったが、子供はどうだろうと考える。平和になる道が僅かでもあるのなら、それに賭けてみるべきだろうか。子が生まれた月影は国の立て直しを思案した。
「血に染まった手で、また随分とぬるいことを考える。オレは変わってしまったんだろうか」
「変わらない人なんていないわ。月影」
「そうだな。きっとそうだ。変な予兆を感じたら逃げるけど、顔ぐらいは出しておくとしよう」
月影は要請に応じると孫策と連絡を取り、揃って上洛を果たしては国の立て直しを図る。
諸葛亮、鳳統、周瑜、陸遜と希代の内政官が手腕を振るい、歯向かう者には月影麾下の将校が睨みを利かす。月影軍が情け容赦ないことを、都にいる官僚達は誰よりもよく心得ていた。
月影は意外にも国政に口を挟むことをほとんどせず、新たな帝を始め董卓や劉備を立てた。
幼い帝は当初月影を恐れたが、ある日に子供の相手する月影の姿を見かけてからは心を開き、そして自分よりも幼く小さい月影の子に触れると、次第によく可愛がるようになっていった。
朝廷内が緩やかに改善の兆しを示すと、次いで連合を組んだ有力諸侯らの懐柔を図る。
「蛮族どもの統治に協力しろ? 名族の私が蛮族に協力するわけ……え、三公位を与えるから来い? そ、そういうことでしたら話ぐらい。名族の力が必要とあれば吝かではありませんわ!」
袁紹には望む地位を与え連合発足を赦した。
「親友の桃香が頑張っているんだ。勿論、協力しよう。月影も評判よりまともそうだしな」
次いで幽州の雄、公孫瓚も口説き落とす。
公孫瓚以下、地方の諸侯らは注意深く月影の動向を窺っていたが、人格に問題ないと判断を下せば現体制下に異論を挟まず、支持を表明していく。そして袁術とも、わだかまりが解ける。
「なんと小さく、なんと暖かい。妾がかつて治めていた領内にも、無数にあった小さな命」
袁術は月影と孫権の子に触れた。
袁術は領主時代に好き勝手に振る舞い、自分が守るべき領民を蔑ろにしていたことを恥じた。
側近の張勲は何か言いたそうではあったが、幼い主である袁術が改心し、成長を予感させる態度を示している中では口を挟まなかった。『お嬢様が納得してるなら』と自分に言い聞かせる。
こうして朝廷は威光を取り戻していくも、曹操だけは最後まで納得することはなかった。
朝廷は月影軍、孫策軍、董卓軍、劉備軍、袁紹軍、袁術軍を向かわせ物理的な説得を試みる。
「こんなのおかしい。おかしくない?」
「君の配下は、この状況でも誰一人として離反に応じなかったぞ。これは誇っていいことだな」
「貴方、そんなことまでしてたんだ。人の心とかないのかしら。はあ、戦わずに屈するとは……」
曹操は最初こそ応戦の構えを取るも、流石に無茶だと悟っては矛を収め、朝廷の威に従った。
こうして漢王朝は騒乱期を乗り越え、名臣達が活躍する興隆期へと移り変わっていった。
それからさらに長い年月が経つ。
その間、小さな問題こそあったが、どれも大過には至らず国は平穏を維持し続けていた。
月影は朝廷内が安定し出すと中央の国政を離れ、南陽の領地に戻っては静かに暮らした。
上洛当時の幼かった帝は、その後も月影の子を可愛がり続け、子が成人を迎えると国婿として迎え入れた。月影は『マジかよ』と逆光源氏計画に驚くも、帝の決定に異を挟むことはない。
帝の外戚となった月影には王の爵位が与えられ、孫策には公(候)の爵位が与えられた。
月影は南陽王として君臨し、孫策は呉公として故郷に凱旋しては孫家の宿願を成し遂げた。
「────貴方に賭けて良かったわ。月影」
「君の爵位は棚ぼたみたいなもんだしな」
「そうそう。棚ぼた棚ぼた。でもいいじゃない。終わり良ければ全て良し! そうでしょ?」
そうだな、と月影は答える。
月影と孫策。互いに大領の君主として君臨するも、数年に一度は顔を合わせていた。
孫策は南陽の地を訪れるのを好み、月影や孫権を始め旧臣との交友をよく深めた。
「振り返ればそうだな。ハメたつもりがハメられていた。孫家のお色気戦法に屈した形に」
「五人も拵えといて良く言うわねえ」
「それはそう。嫡男は帝に強奪されるし、何が起こるか読めない、本当に飽きない世界だよ」
そう言って月影が笑い、つられて孫策も笑う。
その笑い声に誘われて孫権がやって来る。その美貌は何十年経っても翳りをみせていない。
「二人共どうかしたの?」
「それがね蓮華。月影ったら上の子が出て行っちゃって寂しいんだって。あの月影がよ?」
からかう孫策の言葉に月影は耳を傾けない。
子供は何れ巣立って行くものだ。そんな言葉が頭に浮かぶ程度には月影も年を重ねていた。
月影が月日を振り返り、物思いに耽る。
その姿を見た孫権は月影の中の孤独を感じ取り、年甲斐もなく抱き着いてはこう言った。
「そうよね! 私も凄く寂しいわ!」
「いや、オレは別に寂しくなんて……」
「だから、ね。下の子供達も手がかからなくなってきたし、六人目を作っちゃいましょう!」
もう年だから、と苦笑いを浮かべる月影を孫権はニコリと笑い手を引いて連れて行った。
そんな二人を見届けながら孫策は笑顔で酒を呷り、出会った当時の月影の姿と重ね合わせる。
「────人は変わるものねえ。月影。貴方は私の想像よりも強く、優しい男だったわ」
子が産まれた月影は家族や仲間を優先し、自身の感情を強く押し出すことをしなくなった。
かつて総てを滅ぼしかねないと見ていた月影の姿はそこにはなく、平和のために呑み込んだ感情が多くあったことを孫策は想像し、平和に尽くした月影の姿勢に孫策は強い敬意を示す。
「子は鎹……でもないか。二人はずっと仲良しだし。蓮華や子供達が繋ぎ止めたのは────」
月影の善性だろうと孫策は総括する。
家族の絆が乱世の到来を阻み、世に平穏をもたらした結果を、孫策は誰よりも嬉しく思った。
月影と孫権の子は帝の国婿となり、帝との間に生まれた孫はやがて帝位を継いだ。
漢王朝はその後も永く繁栄を続け、月影の国盗りはその血を通して成されたとされる。
多分本編のENDより平和な世界線。
いくらか強引な展開となりましたが、私は孫権推しなので個人的に満足してます。
IF END②は曹操で確定。③は劉備。④は董卓かな。何れキリのいいとこで書きます。
誤字報告、感想、ありがとうございます。
現在、あまり目を通せておりませんが、また反映、返信させて頂きます。