恋姫†国盗り物語   作:オーギヤ

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第三十話

 

 孔明と士元の正式加入が決まり、心情的にも季節的にも春が訪れようとしていた。

 浮かれるには良い季節であったが、いつまでも浮かれているわけにもいかない。二人を贔屓し過ぎるのもよくないし、気持ちを切り替えて今やるべきことを進めていこうと思う。

 

 二人の加入後、広く領内の人材を招き入れ、ウチの新体制が徐々に固まりつつある現状。

 

 惜しまれるのは歴史知識として内政官に心当たりがないことだ。オレの知っている歴史知識は猛将や軍師。要するに花形ポジションの有名人しか知らないという薄いものである。

 

 時代としても黄巾の乱以前は知らないし、劉備や曹操が没して以降の三国時代終盤も怪しい。蜀贔屓であったこともあり劉備、関羽、張飛がバタバタと死んでからは興味を失ってしまった。

 

 三国時代終盤はまだ何十年も先だろうから別に構わないが、黄巾の乱以前の人物は今が全盛期という可能性も大いにある。孔明や士元の師である水鏡先生のように、知っていれば助けになってくれた人物も居たんじゃないかと思うと、やはり勿体ないなと思う気持ちが強い。

 

「内政官。内政官なあ。誰かいたっけな」

 

 戦場にこそ立つことはないが、国を支える裏方の人材。そういった人物にまるで心当たりがないのが惜しまれる。武将と軍師が固まっている現状。求めているのは後方で支えてくれる人材。

 

 例えば先の時代で最大派閥となる曹操軍。軍師は荀彧に郭嘉に司馬懿。このあたりの名前は浮かぶが、内政官として有名な人物を挙げるとなると知らない。軍師が兼任しているという見方もあるが、他にも山ほどいるだろう。一人も挙がらないのはニワカもいいところである。

 

 知らないならこれから知ればいいことなのだが、人材を見極めるのは中々に時間がかかる。

 

 ぶっちゃけ孔明も士元も、何も知らなければ年相応の少女にしか見えない。ウチに加入していてもまずは下働きから始めさせるだろう。将来的には台頭してくるだろうが、それまでには長い時間がかかるはずだ。それが在るべき流れとも思うが、省略出来るならそれに越したことはない。

 

 武官は雰囲気でだいたいわかるが文官はわからん。ウチは重要ポストがガラ空きだから、下手に埋まる前に出来る人材を配置したい。執務室で新規加入者の名前を見ながら頭を悩ませる。

 

「────馬良、馬謖、蒯越、蒯良。馬良と馬謖はうっすら覚えもあるような。馬謖……」

 

 前々から目を付けていた四名の加入が無事に決まるも、馬謖の響きにはいくらか不安もある。

 後は面談していて気になった連中。話していて雰囲気が良いというか、理路整然としているなと感じた人材を上のポストに就けることにした。蔣琬、費禕、董允。この三名が該当する。

 

 馬良、馬謖、蒯越、蒯良、蔣琬、費禕、董允。

 

 上記の七名は全員荊州の出身者だ。

 この七名を孔明と士元の下に就け、これから領内の運営を行っていくことになる。

 新戦力がどれだけやれるかは未知数だが、長い目で見守っていこうと思う。誰もが孔明や士元ほどやれるわけもない。あまり過度な期待をし過ぎるのは、双方にとってよくないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦後処理も徐々に終わりが見えつつある春。

 世間は知らんが領内は平和であった。賊の出没なんて話もまったく挙がってこない。

 すべて世は事も無し。順調そのもの。そう言いきれたら良いのだが、やはり問題は尽きない。

 

「────また曹操から書簡が届いたのか」

 

 現在、困っていることというか、対応に難儀していることは曹操関連の件である。

 討伐軍との最終戦に従軍してはオレ達を散々痛めつけた曹操。あの場で仕留めきれれば話は早かったが、当然そんな簡単な相手でもなかった。まあ、それは済んだことなので別にいい。

 

 問題はそれから後のことだ。

 曹操が領土へ引き上げて以降、理由は不明だが定期的に書簡が届くようになっていた。

 

 始めの一通目はまだわからんでもない。互いの健闘を称え合うような内容であったし、敵にも敬意を払うという行為は重要なことだとも思う。それはいい。そこはオレも引っ掛からない。

 

 ただ二通目以降、近況報告中心の内容を送って来られてもどう反応すべきかわからない。

 そりゃあ曹操軍の近況を知れるに越したことはないが、それを曹操本人から伝えられても反応に困る。どうして曹操がオレにそんなことを伝えてくるのか、さっぱり理解出来ずにいた。

 

 新手の精神攻撃と断定し、目を通さずに破棄することも考えはしたが、近況報告以外にもかなり重要な内容を盛り込んでくるため読まないわけにもいかない。劉備のこととか朝廷の今後の動きの予想とか、知っておきたい内容を随所に挟んでくるため目を通さずにはいられなかった。

 

「一度も返事してないのに途切れずにくるとか。マジで何が目的なんだよ。謎過ぎる……」

 

 そして一方通行で送られてくるというのも地味に、派手にオレを悩ませていた。

 交互にやり取りを交わしていれば普通の話。地方領主同士で交流を深めているという話だが、こっちが返事を返していないのに送り続けてくるのはどういう理由からだろうか。

 

 返事がないことを咎めたり、要求する文言もない。前回届いた内容は確か愛馬の名前を【絶影】にしたという報告だった。影を絶つほど速い馬。普通に良い名前だと思ったが違っていた。

 

 曹操の愛刀の名前である【絶】とオレの名前から【影】という字を採用したと聞かされて、一体どう反応をすればいいのか。一体何をどう考えればそんな組み合わせを採用しようと思うのか。

 

 曹操という超人を理解するのは難しすぎる。ただ悩んでいても仕方がないので、一度返事をして反応を見てみることにした。有益な情報の数々に対する感謝と、戦えば終わればノーサイド。今後は仲良くすることもあるかもね、といった社交辞令中心の当たり障りのない文章を連ねる。

 

「────これでよし。曹操と関係が悪化しないなら、それに越したことはないのも事実か」

 

 最終的にどうなるかは別として、当面の間は中立を保てるのであればそれは望むところ。

 そういう思惑もあっては返事を返してみるも、曹操の反応はオレの想定を遥かに超えていた。

 

 返事を返してから半月後のこと。眼前に並ぶは高い山。これまでの十倍の書簡が届けられては、流石に手に負えないと観念し、一人で考えるのを止めて仲間を頼ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仲間を頼ると決めたはいいが、目につく連中に片っ端から話すのも違うと思う。

 広く意見を求めた方が効果があるという理屈はわかるが、そんなみっともない真似は出来ん。『戦った相手から書簡が届いて困ってます』なんて声を大にして言う事ではない。

 

 そういう観点から女性陣の耳に入れることが憚られたので、同性の頼りになりそうなヤツを選び、飲み会という名目で夜に文鴦と鄧艾を私室に呼び出しては話をすることにした。

 

「お前から飲みに誘うなんて珍しいな」

「オレだって飲みたい時ぐらいある。飲まなきゃやってられんよ。マジで厄介事ばっかりだ」

「オレは厄介事も嫌いじゃないぜ。大歓迎だ」

 

 はいはい、と返事をしながら文鴦に向かって座布団を投げ、座るように促す。

 鄧艾が持ってきた丸机を文鴦の前に置き、オレの分の座布団を敷いては酒瓶とツマミをテキパキと並べる。それが済むと黙って立っていたので、座布団を手渡して文鴦と同じように座らせた。

 

「立ったまま飲むヤツがあるか。座れ」

「はい。お言葉に甘えてご同伴に預かります」

「そんなに気を回さんでいいぞ。呼び出したのはオレだからな。今夜は無礼講といこうや」

 

 鄧艾は強面の顔に似合わずキッチリとしたところがあり、よく気を回してくれていた。

 

 まあ、実際のところは顔に似合ってるのかもしれない。上下関係を重んじる姿勢はアウトローの雰囲気がある。オレをカシラと呼び、文鴦をアニキと呼んでいることからもそれが窺える。

 

 外から見たウチのイメージはこんな感じだろうが。だが、オレはそこまでキッチリする必要はないとも思っていた。締めるところをしっかり締めるなら、普段はくだけた態度でも構わない。

 

 周泰ぐらい極端なのは稀だが、周泰はあれで与えられた仕事は漏れなく完璧にこなしている。いくらかメリハリが利きすぎている気がしないでもないが、あの姿勢は見習うものがある。オレもトップに立つ身として、気を張ってばかりで周囲が息苦しくならぬよう気をつけたいと思う。

 

「よし、飲むぞ。飲むぞー!」

「おう! 安い酒を用意してねえだろうな!」

「うっす! 頂きます!」

 

 そんな軽いノリで始まった飲み会。

 最近あった仕事の話だとか、誰かがヤラカシた笑える話だとか、ありきたりな会話が弾む。

 

 平和はいいが退屈だ、と文鴦が愚痴を零し『どうせすぐになんか起こる』とオレが答える。

 現に各地で黄巾賊の残党が騒ぎを起こしているとも聞く。張角が倒れたからといって静かになるような話でもない。乱の根本原因は現体制に対する長い不満の形の表れだからだろう。

 

 ウチが平和なのは、ウチの領内で暴れるより余所で暴れた方が生存率が高いからか。

 領内に賊が湧いたら即日すっ飛んで行くような連中ばかりだし、それが周知されている現状やはり来ない。今まで散々戦い通して来たことだ。こんな時期があってもいいんじゃないかと思う。

 

「────ああ、そうそう。お前ら曹操軍を覚えてるか。討伐軍の中でもクソ手強かった連中」

 

 オレは酒にあまり強くないため、少し酔いが回ってきたところで早めに本題に入った。

 

「勿論、覚えてるぜ。夏侯惇が居たとこだ」

「カシラの目に傷をつけた連中ですよね。自分の持ち場にも腕利きの援軍寄越してました」

「そうそう。血がぜんぜん止まらなくてマジで焦った焦った。曹操の得物、妖刀かなんかかよ」

 

 右瞼に触れながら、曹操に斬られた傷の治りが尋常じゃないほど遅かったことを思い出す。

 

 傷痕もクッキリ残ったし、今でも痛むことがあるし碌なもんじゃない。まあ、それでも目が見えているだけマシだろう。後遺症と呼ぶには浅いし、曹操に斬られた傷は勲章ともいえる。

 

「で、その曹操軍がどうしたんだよ」

「なんか曹操軍の曹操さんから書簡が届くようになってよ。アレだアレ。詳しくは読んでくれ」

 

 そう言ってオレは部屋の隅を指差す。

 一通目から現在に至るまで通数別に隙間を開けて並べて置いた。数えると累計十通か。

 

 こうして見ると一通目から十通目を通して書簡の数が徐々に増えているのがわかる。最新の十通目だけ異常に多いが、それ以前も増えているな。返事をしていないのに増えるのはなぜか。

 

「────次に相見える時まで健勝であることを願う、か。ふうん、別にいいんじゃねえの」

「こっちは都の動向を事細かく書いてますね。有益な情報そうですが、これに何か問題でも?」

 

 文鴦と鄧艾が書簡を読んでは『別になんも問題ないんじゃないか』と疑問を呈す。

 

「しかし、お前も曹操も結構マメだな」

「ですねえ。戦いが終わってまだ数ヵ月しか経ってないのにこの量。自分なら出来ませんよ」

 

 二人は頻繁にやり取りが行われていると錯覚しているようだ。そりゃ普通はそう思うよな。

 ウチと曹操の拠点は大陸全土で見れば比較的近い。行軍となると時間はかかるが、馬を走らせれば一週間前後か。近いは近いが、手間暇かけてまで送り続ける必要があるのかは疑問だが。

 

「いや、うん。オレは返事してないんだよ。別に返事をするような間柄じゃないと思ってたし」

 

 書簡を届けるのも人手がかかるしな。

 オレは二人の言葉を聞いては首を横に振り、現状置かれている状況の説明を始めた。

 

 なぜか知らんが書簡が送られてくること。

 返事をしていないにも関わらず、それを意に返さず平然と次を送ってくること。

 興味を惹く内容を盛り込んで来るため読まずにはいられないこと。一度だけ返事をしたら次は大量の書簡が届いたこと。これは曹操による、ある種の謀略の類ではないかと危惧していること。

 

「ほう、そうきましたか」

「なるほど、これは確かに厄介事だな」

「領土間の行き来も考慮すると絶えず送って来ていると考えるのが自然でな。意味不明だけど」

 

 曹操の意図するところはなんだろう、とオレは助言を求めては手元の酒を一口だけ飲む。

 

 文鴦と鄧艾の二人はオレの言葉を受けては他の書簡にも手を伸ばす。曹操の文章から何か意図を汲み取ろうと試みてくれているようだが、読めば読むほど曹操の術中に嵌まっていく。

 

「得物の名とカシラの名を掛け合わせて愛馬に命名。なるほど、これは理解不能ですね」

「良い結果が出るまで毎日占い師の下を訪ねたが逃げ出したので捕えた。ほう、おっかねえな」

「配下の者が心配しているが嫉妬しているだけだから問題ない。だが、説明責任を求めると」

「返事がないのも返事のうち。これも駆け引きとして楽しんでいる。おいおい、無敵か。曹操」

 

 粗方読み終えた二人は考え込む。

 こんな強面二人に文で熟考させる曹操。やはり有象無象の連中とは格が一枚も二枚も違う。

 

「これは相当ヤバい女ですね」

「ああ、ぶっちぎりでヤバい女だな」

「やっぱそうだよな。あの時確実に始末しておけば、こんなことに悩む必要もなかったが……」

 

 曹操と対峙した討伐軍最終戦の最終盤。

 視界も半分塞がっていたし、勝てたかどうかは定かでないが続けるべきだったかと後悔。

 あの場で引いた判断自体は間違ってなかったが、こんなことになるとは予想外も予想外だ。

 

「その発想に至るカシラも大概ヤバいですね」

「案外、相性が良かったりするかもな。ここなんか読むと、お前の身柄を欲しているっぽいが」

「身柄ねえ。オレを拷問にかける気かな?」

「戦いに勝利して従わせるか。この考えは嫌いじゃねえな。流石は夏侯惇の上に立つだけある」

 

 戦いに敗れたら死ぬものだと考えていたが、諸侯に名を連ねた今は違うのかもしれない。

 

 敗れた後のことなんて深く考えても仕方がないが、志半ばで敗れたらオレはどうするだろう。

 戦場で死に至るなら考える必要もないが、生き残った場合が問題だ。再起不能になるまで抗い続けるか。それとも勝者に敬意を表し、その軍門に降ることをまた善しとするのか────。

 

「────まあ、オレに勝てれば好きにすりゃいいさ。負けてやる気は毛頭ないがな」

「ああ、そうとも。オレ達こそ無敵だからな!」

「間違いないっすね。ヤバさ度合いでも格が違うってとこ見せつけてやりましょうや!」

 

 酒を飲み進めながらそんな話に花を咲かす。

 ヤバさ比べなんてしても不毛なだけだが、確かにウチも大概ヤバい組織だとは思う。

 

「しかし戦場で女を引っ掛けるとはな。お前やっぱ桁違いだわ。しかも、こんなヤバい女」

「正直、自分には真似出来ませんね」

「なんでそうなるんだよ。斬り合った間柄で芽生えるのは殺意のみ。そんなの常識だろうが」

 

 このまま突き抜けるか。それとも丸くなるか。

 丸くなるのは時代が許さないだろうが、尖ってばかりもどうだろう。戦いに勝ち続けていても犠牲者は出る。こうして飲み交わす相手が減るというのは、やはり寂しいものがある。

 

「で、オレは曹操にどう対応すべきだと思う?」

「さあな、そんなことは知らねえよ」

「このまま情報抜いてりゃいいんじゃないですか。暴挙に出てくりゃ相手するだけの話ですし」

 

 宴もたけなわの時分。

 そろそろ結論をと切り出すもすっかり酔っ払った二人は、オレの言葉にニヤニヤと答える。

 

「見てる分には面白いから続けろ続けろ!」

「姐さんの耳に入るとヤバいことなりますねえ」

「お前ら他人事だと思いやがって……。人選間違えたかな。まあ、進展あったらまた聞けよ」

 

 相談して解決しないなんて珍しい話でもない。

 誰かに話して気が楽になったとかも別にない。酒の肴になったって程度の話で終わった。

 

 曹操とのやり取りは継続して行うことにした。

 曹操の機嫌を損なうのも危険だし、なんやかんやで慣れると悪いものでもなかったりする。

 

 読ませる力もやはり超一流だし、やり取りの中で予期せぬ気づきに出くわすこともある。客観視することも時に大事だということか。ヤバめな内容を定期的にぶち込むのは変わらなかったが。

 

 そして飲み会も終盤。

 ふとした時に文鴦が酒瓶を持つ手を止めると、随分とまた古い話を切り出した。

 

「────ああ、そういや大将。面白いで思い出したが、前にも面白い女と出会ったよな」

「お前とは長い付き合いだからな。何時だよ」

「あれは何年前だったか。どっかの村娘で、やたらと大将に突っかかってくるのがいただろう」

 

 はて、と考えるもすぐに思い出す。

 文鴦と出会ってまだ間もない頃か。やたらと懐っこい女と出会った記憶がある。

 旅をしていると人と出会うことが頻繁にあったが、あれは確かに中々印象深い女だったな。

 

「あの頃の大将は殺気立ってたからな。大将に近づく女も、女の話を聞く大将も珍しかったよ」

「ほう、詳しくお聞かせくれますか?」

「また今後な。役立たずのお前らにもう用はない。帰った帰った。オレはボチボチ寝るとする」

 

 話を続けてもよかったが、そろそろ酔いも回り切り睡魔が襲ってくる時間帯であった。

 止めなきゃ朝まででも平然と盛り上がりそうなのはいいが、いつでも仕事は尽きない。翌日に支障の出ない範囲で飲み会を切り上げては、ぶーぶー文句を垂れる二人を部屋から追い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、オレは久しぶりに夢を見た。

 何年前のことだろう。文鴦と二人で近くの山賊をボコって小金稼ぎに精を出していた頃だ。

 

 その夢を見たのは多分、寝る直前に文鴦との会話を思い出していたからだろう。

 とある村で、やたらと懐っこい女と出会い、何日か付きまとわれていたっけな。頭も身体もフワフワした女で、そのくせ妙に目が離せない、なんとも不思議な魅力を秘めていた覚えがある。

 

 自分と正反対な気質を感じては近づけようとしなかったが、そんなことは関係ないとばかりに女は絡んできた。夢の中でも同じように甘っちょろいことを言ってはオレを困らせている。

 

「暴力はいけませんよ!」

「力こそ正義。暴力はいいぞお。小娘」

 

 いや、別に困ってはなかったか。

 オレが適当に煽ったりしたせいか。正義感を爆発させて文句を言ってくることが多かったな。

 

「問題は話し合いで解決すべきです!」

「話し合うより腕ずくのが手っ取り早くて楽なんだよな。やはり暴力。暴力は全てを解決する」

 

 村に迷惑をかけていた山賊をボコって文句を言われる謂われはなかったが、言ってることはわからんでもない。文鴦とタッグを組んでは山賊を問答無用でぶっ飛ばして金銭巻き上げていたし。

 

「なんて野蛮な……。私はですね────!」

「ああ、はいはい。わかったわかった」

「絶対にわかってない……。でも村の恩人だから強く言えない……。複雑な心境です……!」

 

 夢の中で説教されるのは面倒くさい。

 その場から足早に離れてもよかったが、懐かしい顔に再会するのはやはり悪い気がしない。

 

 名前も知れない村娘、改め小娘。

 それほど年は離れてなさそうではあったが、小娘と煽ると良い反応をしたので続けていた。

 

 文鴦と出会って間もない頃のオレは人との交流に関心が薄く、自分の名を打ち明けることも、人の名を訊ねることもしなかった。どうせすぐ別れる相手を深く知ったところで意味がない。

 

 そんな冷めたことばかり考えていたが、今となってはそれが間違いであったとつくづく思う。

 

「貴方は冷たい人ですね!」

「だったら別に絡んで来なくていいぞ」

「いやあ、それが辺鄙な村って意外と暇でして。ちょっと相手して欲しかったり……あははっ」

 

 旅先での出会いは一期一会。

 だからこそ、一度きりの出会いを大事にするべきだったのだろう。今となればそう思う。

 

「また……また会えますよね。うるうる……」

「うるうるって言葉に出すのか……。まあ、元気でやんな。互いに生きてりゃまた会えるかもな」

 

 その言葉を最後に場面は途切れ、目を開くとそこには見知った天井が広がっていた。

 その日は夢のことを丸一日近く考えたが、翌日以降は考えるのを止め、次第に忘れていく。

 

 そして再び思い出したのは、夢で見た女と都で再会を果たしてからのこと。桃色の髪を靡かせ、胸にも大きな桃を二つ蓄えた女。その女の正体が劉備と知った時の衝撃は凄まじいものだった。

 

 曹操、孫策、劉備。三国時代の三英傑と対面を果たす日が刻一刻と迫っていた。

 




荊州出身の賢人達を解放しました。
出番があるかは未定ですが、朱里ちゃんや雛里と一緒に日夜働いてると思われます。

馬良 白眉の人。功績は覚えてないです
馬謖 孔明の弟子。泣いて馬謖を斬るはあまりにも有名。やらかした人
蒯越、蒯良 劉表の重臣
蔣琬、費禕、董允 諸葛亮と並び蜀の四相に数えられた三人。有能オブ有能

絶影。曹操の実際の愛馬
名の由来は影を留めないほどの速さとされる
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