恋姫†国盗り物語   作:オーギヤ

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第七話

 

 朱儁率いる討伐軍との一戦。

 兵の損傷も少なく、食料や武器といった物資も得た。結果だけ見ると完勝だが課題は多い。

 

 本来であれば課題は一つ一つ丁寧に解決していきたいが、今は悠長に進めてもいられない。

 なぜか名指しで朝敵認定は受けるし、隣接する豫州で奮闘している同胞の波才とやらは、孫策軍と曹操軍にロックオンされて滅びまで秒読みに入っている。どう考えても助かるわけがない。

 

 調べたところ曹操軍の拠点は兗州陳留郡。

 地理関係上、豫州の波才を討てば黄巾賊の勢力が最も強い冀州へ向かうと思うが、どうか。

 あくまで冀州入りの可能性が高いというだけで、豫州の波才が滅びれば荊州のコチラに来てもおかしくない距離でもある。近くに孫策軍と曹操軍の拠点があるという事実は頂けない。

 

 そういう場面で欲しいのが軍師の存在だ。軍師はなんというか的確な助言をくれる印象がある。

 地理関係とかいうフワッとした話ではなく、戦略的に考え進軍を予想してくれる存在が欲しい。劉備軍もいずれは拠点が判明するだろうが、近いと不味いなと思う。なんでこう、劉備、曹操、孫策といった本来この時期、味方側であるはずの陣営の挙動を注視しなければならんのか。

 

「袁紹は冀州。馬家は涼州。まあ、ここは問題なし。袁術は……知らん。何処にいるんだろう」

 

 考えなければならないことが山ほどあったが、それを考えてくれる人材はすっからかんだ。

 どいつもこいつも武一辺倒。オレも暴れるだけ暴れて面倒を任せられる相手が欲しい。そんな思いから今日も今日とて周泰を酷使する。

 確か前に甘寧が言ってた水鏡女学院について調べて来てもらったはずだ。名簿の写しがあるとのことなので目を通しておこうと思う。まあ、学生に頼ることなんてことは流石にない────。

 

「────諸葛亮孔明。鳳統士元……?」

 

 そう思っていたが、事情が変わった。

 今朝、周泰から渡された名簿の写しを二度見してから、改めてもう一度確認する。

 そして声に出して読み上げて事実であることを認識する。孔明、鳳統。とんでもない名前が連続で並んでいる。周泰が仕掛けたドッキリである可能性を疑わずにはいられないほどの衝撃。

 

 ただ、おそらくはこの時期に二人の名前は世に出ていなかったはずだと思い直す。

 確か赤壁の戦いの少し前ぐらいに登場したような覚えがある。五年か十年か、それぐらい後に出てくる人物のはずだ。ならば今、二人が学生なのはおかしな話ではないのかもしれない。

 

「わからん。細かい事情はわからんが、この機を逃すなんてあり得ない。ならば……よしっ!」

 

 ここは丁重にお出迎えしなければならない。

 登用出来るとは流石に思わないが、知恵を拝借出来れば儲けもの。さっそく動くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、今日は一人なのね」

 

 それから数日後、運命の日。数日間ソワソワしっぱなしだったが、遂にこの日がやってきた。

 場所は謁見の間。いつもここだが、これからも大概ここだ。飯でも一緒にと考えもしたが、口に合わなかったりしても困るし無難な場所だと思う。初対面で飯ってのは早い気もするし。

 

「ああ、人相の悪い連中は下げた」

「そうなんだ。だから誰もいないのね」

「甘寧も目つきが悪いから微妙なとこだけど、まあいいや。孫権を一人にはさせれんだろうし」

「貴様は……余計なお世話だ!」

 

 考えていると孫権と甘寧が入室する。

 ウチの連中を下げたのは単純にガラが悪いから。第一印象を外してしまっては元も子もない。

 孫権は容姿も良いし言動も穏やかなのでパっと見、どこぞの姫様っぽい雰囲気がある。居てくれるだけで印象アップに繋がる可能性が高い。こういう細かい気配りも大事だと思う。

 

「今日は人を招くって話だっけ?」

「軍師の卵をな。評判が良いって話だし」

「へえ、そうなんだ。でも凄いわね。ここに来ようとするなんて並大抵の覚悟じゃないわ」

「ん? いや、違うぞ。こっちから迎えに行ってるから、本人が来ようとしてるかは知らん」

 

 オレの言葉に孫権と甘寧が『えっ?』と声を揃え、キョトンとした表情を見せる。

 評判が良いというのは作り話だ。孔明や鳳統を始め、水鏡女学院の評判なんて聞いた覚えはない。ただ呼んだ理由を聞かれた時に困るので、小耳に挟んだという風にしているだけである。

 

「迎えに行ってるの??」

「魏延がな。最近なにかと物騒なことだし、念のために兵士を引き連れて迎えに行かせた」

「え、ええっと。それってつまり本人の意思と無関係にってこと? それはそれは……ねえ?」

「どんな無法者がやって来るのかと私も身構えてましたが、これはまた……酷いですね。連華様」

 

 孫権と甘寧が何かコソコソと話している。

 なんでもいいが二人には今回、オレの補佐をしてもらいたいと考えている。この世界の女学生の相手なんてわからないし、何か不手際があった場合は速やかにフォローをして欲しい。

 

 うろ覚えだが孔明は確か、三回ぐらい会わないと仲良くなれないという逸話があったはずだ。

 その逸話から察するに、おそらくは気難しい人物なのだろう。そうした背景を鑑みては、こちらからお出迎えをしたし、こうして同性からも印象が良さそうな孫権をきっちり配置した。

 

 また鳳統と同時に呼ぶとプライドを傷つけてしまう恐れもあったため、今回は孔明一人に絞った。我ながら考えてると思う。後は初対面で上手いこと渡りをつけ、二度目以降に軍事や政治のアドバイスを貰えたら申し分ない。今日はそのための試金石となる。絶対に外してはならない。

 

「孫権、甘寧。今日は一つ頼むぞ!」

「ええ、出来る限りは努力するわ……」

「私も今回は小言を言わず協力しよう……」

 

 二人の協力も取り付け準備万態。

 さあ来い孔明。南陽軍が生き残るためには孔明の助力が必要不可欠になりかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……。わ、私が言うことを聞けば先生やお友達に危害は……危害は…………うぅぅぅ」

「??????????」

 

 それから少し経った後、魏延がベレー帽を被った小さな少女を連れて来た。

 金髪ショートヘアの少女。学生と知っていると確かに学生服のような出で立ちだ。見た目は中等部ぐらいの印象かな。初等部や高等部があるのかは知らないが、それぐらいだと思う。

 この子が孔明なのかと思うと顔がほころびそうになるが、なんだか様子がおかしい。緊張しているのかとも思ったが、顔色が悪い。悪い風に捉えるとなんだか恐怖しているようにも映る。

 

「おい、魏延。お前なんかした?」

「いやーなんか見つけた時からこんな様子で。ワタシ別に変なことしてませんよ!」

「そうか。多感な時期の子供は難しいな。やはり保護者の方にも同席してもらうべきだったか」

 

 見知らぬ場所で大人に囲まれると気まずいよな。ここはオレの配慮が足りてなかった。

 それでも最初は周泰に、油断を誘って連れてくるように頼んだが『人攫いはちょっと……』と断られて『確かにそうだな』と納得しては、こうして真っ当に呼び出したつもりである。

 

「────っ! 水鏡先生は関係ないです!!」

「そうかそうか、水鏡先生と言うのか。憶えておくよ。一度ぐらい挨拶に伺わないとな」

「あいさつ……。南陽軍が……。官軍を一夜で蹴散す羅刹の軍勢……。先生。雛里ちゃん……」

 

 言葉には覇気がなく遠い目をする孔明。

 なんかわからんが心配だな。思い当たる節がないだけに、やはり原因は魏延じゃないか。

 

「なあ、魏延。どんな風に連れて来た?」

「えっ? いや、普通だと思いますけど?」

 

 ちょっと再現してみろ、と命じる。

 数名の兵士と共に水鏡女学院へ向かい到着。その後、講義中の部屋に入って魏延は言った。

 

 

「当方は南陽軍だ! 諸葛亮孔明、前に出ろ! お頭の命令だ。一緒に着いて来てもらうぞ!!」

 

 

 確認するも特におかしな部分はないな。

 こちらの所属と要件を告げた上で孔明に同行を求めている。指示通りの内容と言っていい。

 

「────ってな感じです!」

「うん、問題はなさそうだな。ありがとう」

 

 そして着いて来たということは孔明にも同意の意思があたっと見做していいはずだ。

 断られたら引き下がるようにも伝えてあったし、そこも問題ないはず。だとすると余計に孔明の様子がわからない。定期的に『はわわ……』とか言ってるし、一体どうしたのだろうか。

 

 救いを求めて孫権と甘寧を見る。

 二人とも揃って『こいつらマジか』とでも言いたげな視線を送ってくる。まあ、そうなるか。

 

 現状を打開するにはオレや魏延では困難だ。

 オレ達の価値観は孔明のような知識層とは合わないのだろう。無理もない話だと思う。

 意図を汲み取ったのか、孫権がゆっくりと孔明に近づく。そして孔明の前で少し屈んでは目線を合わせ柔らかく微笑む。孫権の桃色の長い髪と胸が揺れる。オレは『うむ』と呟き見守る。

 

「貴女は諸葛亮殿、でいいのかしら?」

「え、はい。お姉さんは……?」

「私は孫権。今日は来てくれてありがとう。気持ちはわかるけど大丈夫。私が付いているわ」

「やさしいおねえさん……?」

 

 おお、凄い凄い。孔明の目に光が戻った。

 この流れに乗じてオレも自己紹介と続きたかったが、甘寧に肩を掴まれ『引っ込んでろ』と言われた。『なんで?』と聞くと『いいから』とだけ短く言われ、仕方ないので引っ込んだ。

 

 そして見守るのも勉強になると考え直す。

 この後、孔明と入れ替わりで鳳統も招く。現状、何か不作法があるなら改めねばならない。

 とめどない話をする孫権と孔明を見ながら、何が原因であるかを考える。考える、と言っても原因なんて実際のところ、最初からわかっていた。孔明の態度を見りゃ一目瞭然でもある。

 

「────────悪評だよなあ」

 

 確認するまでもなく南陽軍は悪評が高いのだろう。やってることはバリバリの反社会勢力。

 城は奪うし人は斬る。物資も奪ってホクホクやってる有様だ。まあ、酷いもんだと思う。今が黄巾賊全盛の世でもなければ、即座に全方位から攻め込まれてとっくに滅んでいるはずだ。

 

 考えないようにして押し切れないかと狙ってみたが、どうやらそうもいかないらしい。

 人材確保の側面からみると悪評は致命的だ。まともな人材ほど敬遠する。無理やり拉致って働かせるということは可能かもしれないが、長い目で見ると失敗する可能性が高いだろう。

 

 人はそれぞれの意思をもって動いている。それに反する行為を強要しても続かない。

 押さえつける力が強いほど反発するのは自明の理。そんな道理は心得ているが、孔明クラスの人材ともなると一切を無視して働かせた方が効率が良いのでは、と悩む気持ちも生じる。

 

「…………………………」

 

 和気あいあいと話す孔明を見ては悩む。

 優先すべきは個人の意思か集団の存続か。南陽軍の終着点をどう付けるかが問題だ。

 勿論、オレにも考えはあるが出来ることならもっと頭のキレる人物に差配してほしい。考えていることが無理筋であるのか。それとも目指すに値する価値があるのか。そこが重要だった。

 

 

 

 

 

「あ、あの。そちらのお兄さんの名前は……?」

「────ん、オレか」

 

 しばらく黙って様子を見ていたが、やがて元気を取り戻した孔明に声をかけられる。

 素直に答えると元気を失うことになるのは目に見えていたが、こればっかりは仕方ないか。

 

「オレは月影(げつえい)。ここの親玉だな」

「あ、悪鬼将月影……!?」

「おお、これまた凄い名前で呼ばれてるな」

 

 悪鬼に羅刹に仏教感が凄いな。

 この世界の思考は儒教が占めているっぽいが、ちょくちょく変なのが混ざってる気がする。

 オレの言葉を受け、孔明がまた『はわわ……』と困惑モードに入る。月影とオレは名乗った。本名ではなくこの世界へやって来てからの名だ。元々のきっかけはなんだったかと考える。

 

 月影。気づけばその名が広まっていた。

 ルーツを探ろうにも何年も前のことで、思い出そうとすると別の苦い記憶が蘇ってしまう。

 我ながらダサい名前だが、慣れると別に気にならない。何か意味があった気もするが一先ずはいいだろう。今更本名を名乗ったところで、周囲に細かい事情を説明するのも面倒だし。

 

「それで……私はどうなっちゃうんですか?」

「どうなっちゃうって、別に……」

「ろ、牢屋に入れられるんですか!?」

 

 しかし本当に南陽軍の印象は悪いな。

 不安そうに訊ねてくる孔明を見て改めて思う。やはり一度目ではどうにもならんか。

 どう答えるかと悩んでいると甘寧に肘で突かれ『ちゃんとやれ』『無難にな』と言われる。ちゃんとやるにしても何を言っても怖がられる現状。ここは小粋なジョークを飛ばす他にない。

 

「牢屋になんて入れるわけないだろ」

「そ、そうですか。良かった……」

「牢屋は革命の意思無き不届き者で既にパンパン。順番待ちしてるぐらいさ。ハッハッハ!」

「じゅ、順番待ち……?」

 

 口にしてすぐハズしたことに気づいたが案の定だった。ただウチの連中なら普通に笑う。

 甘寧に『おい、ふざけるな』と睨まれ『すまん』と小声で謝る。まだ来て一時間も経ってないが既に孔明はいっぱいいっぱいの模様。これ以上引っ張っても印象を悪化させる気しかしない。

 

 そんな様子を見かねてか、孫権がまたしてもフォローに入る。

 小言を言うだけの甘寧とは違うな。孔明と甘寧の相性が合うのかは微妙かもしれないが。

 

「────ごめんなさいね。今のはこの人なりの冗談なの。ぜんぜん面白くないけど」

「そ、そうなんですか?」

「牢に入る側が舵を切ってるのだから、この城の牢は空っぽよ。ふふっホントに笑えないわね」

「それは本当に笑えませんね……」

 

 ところで、と孔明は続けた。

 

「お姉さんは、どのような立場の人なんですか。悪い人にはぜんぜん見えませんが?」

「私? 私は……そうね。人質かな?」

「ひ、ひとじち……?」

「孫家と南陽軍が衝突すると都合が悪いから人質になったんだけど、彼に調教されて今ではすっかり革命の同志となってしまったわ。今では毎日血を見ないことにはイライラしてしまって……」

「は、はわわ、はわわわわわわ……???」

 

 孫権も面白がってふざけてきたな。これはいよいよ収集がつかなくなるかもしれない。

 

「おい、孫権もふざけてるぞ。注意しろよ」

「聞こえない」

 

 埒が明かないので今日はもう孔明を返すことにした。これ以上カオスになっても困るし。

 帰っていいと言った時に孔明は今日唯一の笑顔を見せた。あまりに満面の笑みを浮かべるものだから、やっぱりダメだと言おうとも考えたが流石にそこまで鬼にはなれなかった。

 

 懐いていた孫権に頼んで孔明を送り届ける。

 孫権には送った帰りに鳳統を連れてくるように頼む。何度も出向くのは手間だからね。

 

 

 

 

 

「────よし! 楽しく話せましたね!」

「そうか? まあ、お前の前向きな思考は見習わんとな。くよくよしてても仕方ないし」

 

 孔明が去った後で魏延が口を開く。

 楽しくはどうだろう。ただ次にやって来る時に向けて何か考えておかなければならない。

 

 孔明は最低三回として、その前に鳳統が来る。

 どんな子かはわからないが今日の教訓を活かして接するべきだろう。孔明と同じように接してしまうと同じような結果になる可能性が高いとみる。印象改善のために何か仕込んでみるか。

 それと並行して登用出来そうな人材を探す。結果として見つからなくても仕方ないが探さないという選択はない。今は静かだが、どうせまたすぐに討伐軍の第二陣がやって来るはずだ。

 

「そういえば甘寧。小言を言わないという話だったが、しっかり言ってきたな」

「言わせる貴様が悪い」

「さいですか。君も話に入ればよかったのに」

 

 珍しく孫権について行かなかった甘寧に声をかける。周泰も孫策軍に向かっていて不在だ。

 

「私は別にいい」

「なんで?」

「目つき悪いし、怖がらせるから……」

 

 気にしてたのか。なんか悪いこと言ったな。

 甘寧には近々お詫びをするとしても、なんだろう。気づけば普通に話すようになっている。

 これが孫家との関係に影響を与えるのかは不明だが、悪いことではない。こうしている間も時代は動く。趨勢を見極め、今やるべきことを一つずつ確実に遂行していく他にないだろう。

 




次回は孫家視点の幕間。投稿は11日予定。
【朱里ちゃん(孔明)について】
当初は目隠した状態で城に拉致する予定でしたが、道中の朱里ちゃんを想像すると、いたたまれなくなったので変更しました。あしからず。
朱里ちゃんは相棒の雛里が懐柔されかけてる様子を見てからツンケンすると思われます
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