勇者に憧れた男の話
物心ついたときには、すでに自分が他者とはズレた存在だと感じていた。
自分が難なく読める本は周りの子供にとっては暗号であったようだし、武道をやれば誰よりも早く技を身に着け10になる頃にはどんな大人にも、それこそ自分に武道を教えた達人にすら負けなかった。
だから自分のことを俺と呼ぶ頃には飽いていた。何もかもが俺を全力にはしてくれない。俺がどうあるべきかを教えれるような大人もいない。対等に並び立てる友達もいない。今から思えば、人生であれほど孤独で退屈だった時代はなかった。
――そんな時に、俺は一冊の本と出会った。
ダイの大冒険、勇者ダイが多くの出会いと別れを経て成長し大魔王バーンを倒す英雄譚。漫画というものを初めて読んだ俺はたちまちのめり込み、そしてそれが俺の人生において最大の転機だった。
事さらに『勇者とは勇気ある者』というフレーズには胸打たれた。思えば、自分が勇気を出したことなど人生でほとんど――いやむしろ全くなかった。そして俺は思った。彼らのように愛すべき者たちの為に勇気を振り絞り命をかけて戦える人になりたい、眩しく閃光のような人生を生きたいと。
やがて俺は故郷を離れ旅に出ることを決意する。
決して楽な旅ではなかった。食事も自分で用意しなければならない、外国に行けば言葉も通じない。ときには虫を食べる羽目にもなった。飲水に困っていたことも有る。
それでも旅は楽しかった。世界を回れば沢山の人達が居た。色々な文化があった。目に映る物は何もかもが新鮮で胸が踊った。故郷に居た頃と違って飽いたりはしなかった。
旅を続けていく内に、俺は特別な力を持っていること自覚する。そして人外の存在を知りこの世の真実を知った。
これは運命だと思った。ダイと同じく人間の内にありながら特別な力を宿したことは、きっと俺が人間を守るために必要な力なのだと信じた。旅の理由がダイ達への憧れから、人外から人間を守ることに変わった瞬間だった。幸い腕に覚えは有ったし、旅のお陰で度胸はついていたから戦うことへの恐れはなかった。――それでも殺すことだけはどうしようもなく苦しかった。『こんなものが正義であってたまるか』とバーンに叫んだダイの気持ちは痛いほどわかった。
それでも俺は戦い続けた。堕天使を倒し、悪魔を倒し、ある時には同じ人間も倒し、殺す罪を背負い続けた。幾千の屍を超え、幾万も切り結び、気づいたときには俺は『英雄』と呼ばれていた。
『英雄』、なんて嫌な響きだろう。憧れていた者達と同じ称号のはずなのに俺はちっとも嬉しくなかった。
だが一つだけ嬉しいことが有った。
力を得て、旅を続けていく内に俺は同じ境遇の者たちを見つけた。特別な力を持ちながら人間である者、彼らもまた人外との戦いの日々を過ごしていた。俺は彼ら一人一人に説き伏せて回った。力を自分のために使うのではなく、誰かを守るために使わないかと。人間に拘ることはしない。自分の立場に疑問を持っている人外にも声をかけた。人間だの悪魔だの差別すれば、俺も俺が憎むものたちと同じになってしまうと思ったから。
最初は一人だった旅は、やがて何十人もの仲間が集まる大所帯となっていった。俺の言葉がコレだけの者たちに通じ、俺と同じ志を抱いてくれる。それが俺にはたまらなく嬉しかった。彼らは俺にとってかけがえのない存在であり、どんな宝石にも見劣りしない宝だと断言できる。
気づけば俺達は『
俺は今日も戦い続ける。俺の槍は戦えないすべての者達のためにある。この生き方で、誰かに勇気を与えることができるのなら、例え死んでも悔いはない。