「……浮気したら、殺すから」
「あはは。僕はもう、幽香さん。とっくの昔に、あなた以外は眼中にありませんよ」
「……ばか」
ーーそう言って口づけを交わした僕の最愛の恋人……いや、今日から最愛の『妻』になる『風見(かざみ)幽香(ゆうか)』さんは、最高に可愛く……そしてこの世の何よりも綺麗だった。
☆☆☆
「ーー浮気したわね、殺すわ!!」
「ちょっ、それはいくらなんでも理不尽じゃーー「問答無用よ、このばかぁっ!!」ーーぐはぁぁぁっ!?」
……全ての始まりは、あの場所。たくさんの向日葵が咲いていたその畑で、僕と彼女は出会いを果たした。
両親の仕事の都合上、田舎へと引っ越すことになった僕こと『天ヶ崎(あまがさき)隆斗(たかと)』は、それはもう憂鬱だった。何の因果で都会から田舎に引っ越さなければならないのか。あの時の若い僕は、そればかりが不満だった。
それもそのはず。都会と田舎、若者なら誰がどう見ても都会を取るに決まっている。都会の方が何かと便利だし、退屈もしない、地元だったし友達もいっぱいいた。だから、不満しかなかった。
だからこそ、田舎に引っ越してきて初日、家出をしてしまったのは、仕方なかったことなのかもしれない。何より反抗期だったということもある。
……まぁ今になって思えば、なんて子供だったんだなぁ、と後悔もしてる。
でもーーそれがなければ、今の僕はなく。そして、幽香さんにも出会ってなく。
「ぐはっ……!ちょ、まって、幽香さーー痛い痛い!!痛いから!」
「さて、早速浮気をしたあなたを私は殺してやりたいと思っているのだけれど……隆斗、あなたはどう思う?」
「ーー現在進行形でっ!君にっ、殺されかけておりますがぁ!?」
ーーそして、こんな命の危機に直面することはなかったであろう。
僕の上に跨り、誰もが見惚れるような笑顔を幽香さんは浮かべながらーー容赦なくその拳を僕に向かって振り下ろしてくる。
ゴスッ、ゴスッ。何度も、何度も。えぇ、すごく痛いです、えぇ、それはそれはとても。
「あぁ、私は悲しいわ、隆斗」
「だとっ、思うっ、ならっ!そのっ、拳をっ!止めてくださいお願いしますぅ!!」
馬乗り状態で問答無用に殴り続けてくる嫁ーーそれが、僕の妻であることの悲しい現実を受け止められません。なまじ人間じゃない分、その拳の威力は尋常ではない。
っていうか、幽香さん。浮かべている顔は確かに笑顔のはずなのに、目が全く笑っていないのはなぜなんだ。とても怖いよ。
……まぁ原因は、その『片手に持ってるやつ』なんだろうけども。
「いやぁ、これには私も一杯食わされたわ。まさか浮気相手が、こんな紙だったなんてね」
僕をタコ殴りにしていた拳を一旦止めて、これ見よがしにその片手に持っている本……所謂エロ本をヒラヒラと弄ぶ幽香さん。
馬乗りにされてタコ殴りにされた挙句、その行動に男としての尊厳がどんどん薄れていってる気がするが……しかし、動きが止まった今ーー反論するなら、ここしかない。
「待ってくれ幽香さん!その本は友人が持ってきてここに勝手に置いていっただけの代物で、その、とにかく誤解です!」
「この本は一週間前にはなかったわ。そしてこの一週間の間、あなたと私以外の人はこの部屋に上がっていない。この意味、わかるわよね?……それで、なんて言ったのかしら?ーーあぁ、五回death(デス)?そう、五回死にたいのね?ふふっ、仕方ないわねぇ」
ーーあ、これあかんやつや。
本を無造作に投げ捨て、ポキポキっ、と軽快に指を鳴らしている彼女を前に、僕はそう悟ってしまった。今の僕には幽香さん、君が最愛の妻ではなく災厄の死神に見えてしまう。
しかし、だ。考えてみてもほしいのだ。僕は人間の男であり、故に人並みの性欲は持つ。そのため、そういったものを買ってしまうのは、仕方のないことじゃないかーーあ、幽香さん。無言でビンタはやめてくれませんか。
「ばかっ!ばかっ!!ーーこの浮気者っ!!」
「ぐはっ!ぐぇっ!ちょ、ストップストップ!」
あははこいつー、全然効かないぞー、みたいなノリで済ませられるような雰囲気だろうが、僕は騙されないぞ。何せ可愛い言葉と共に繰り出されているのは、一撃一撃が紛れもない死の強打だ。
だから僕の必死のストップ発言も冗談なんかではなく、マジなんだ。真剣と書いてマジなんだよ、幽香さん。
「私は浮気者に罰を与えてるだけよ、わかる?マジと呼んで真剣と書くのよ、隆斗」
「真剣に僕を殺しに来てるってことですかねぇ!?」
「大丈夫、流石に私もそこまでしないわ。次に目が覚めた時、あなたの頭の中は私でいっぱいになるくらいにしか殴らないから、安心なさい」
「全然安心できない!?」
どこの世界に嫁に魔改造される夫がいるんだ……と思ったが、現在進行形でいましたねここに。はい、余計に安心ができません。
……こうなれば、致し方ない。あれをやるしかないようだ。
「ーー幽香さん、お願いだ。僕の話を聞いてほしい」
「っ!な、何よ、今更!」
僕の真剣みを帯びた雰囲気に、殴っていた手を止め、おどおどしだす幽香さん。心なしか、顔も赤い気がするが、何故だろうか。……まぁ、今は気にしないでいいか。それよりも、大切なことを彼女に伝えなければいけないのだから。
ーー喰らえ、僕の十八番!
「それは、幽香さんを喜ばせるためのものなんだ!」
「………………はい?私を喜ばせるため?あのねぇ、隆斗。あなた、この期に及んでなにをいっ、てーーっ!?な、なっ、ななっ!?あ、あな、あなたっ……!?」
僕の突然の言葉に、きょとん、となる幽香さんだったが……ふっ、その意味を察したのだろう。瞬時に顔を赤くして、声にならない声を上げようとする。その姿を見て、勝利を確信する僕。
そう、これが僕の十八番……幽香さんを辱める行為だ。普段はクールぶっている幽香さんだが、実は彼女、結構ムッツリだったりする。
「ねぇ、幽香さん。僕は知ってるよ?実はその本に対して怒ってたのもーー僕を満足させてあげるのは、私だけだから、って対抗意識を持っちゃったからなんだよね?」
「な、ななっ!て、てきちょーなことをっ……!?」
図星つかれて焦りすぎでしょ、幽香さん。声が上ずってますよ。……そんな幽香さんが最高に可愛いのだが、まぁそれは当たり前のことか。
まぁそもそも、幽香さんがムッツリだと何故僕が知っているか、なのだが。これもわかりやすい。わかりやすすぎて可愛すぎる。
「……だって幽香さん、普段はあんなに強気でドSなのに、ベットの上では弱気で、ドえーー「それ以上言うなぁぁぁぁぁ!!!」ーーぎゅぶる!?」
言い終える前に馬乗りの幽香さんから有無を言わさない一撃が飛んできた。……あ、これは飛ぶヤツです、主に意識的なものが。
今までの手加減したものではなく、渾身の力を込めての右ストレートを喰らったことにより遠のく意識の中……赤らめた顔で息を荒らげる幽香さんを見て、僕が最後に思ったのは、
ーーこれからも末永く宜しくお願いします……僕の自慢の花妖怪(およめさん)、であった。
この作品のモットーは、過激だけど甘々に!です!
……はい、残念ながら続きますチ───(´-ω-`)───ン。
まぁ本当に息抜きなので、更新は不定期だと思いますが、それでも応援してくださる方がもし居れば、やる気に繋が(ry
それでは感想や批評、評価等心よりお待ちしております!