魔法少女リリカルなのは~新たな人生を送る転生者~   作:れお3

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第14話「別世界」

「――速く速く! カズヤの出番だよ!!」

「分かってるって……はぁ」

「何で溜め息なんてついてるの?」

「なんでもないよ。じゃあ行ってくるよ、アリシア」

 

 準備運動を少ししたあと、薄暗い通路を抜けて大きな広間へと出る。ドーム状になっているこの広間はコロシアムとしてよく使われそうな場所だった。人が何千人も入りそうなほどの規模の平地。そして平地の端っこから人が何万人も入りそうなほどの観客席が天空に向けて伸びている。

 辺りを確認したあと前を見据える。前には俺と同じように俺とは逆の通路から出てきた奴が居た。

 

「小さいな……」

 

 現れた奴は俺の身長の二倍はある巨漢だった。その背には巨大な斧がある。

 

「見た目で人を判断しないほうがいいぜ」

『セットアップ』

 

 灰色のスラックスに黒いインナーシャツと純白のロングコート、さらにいつもは顔隠しに使っていた黒い布が、使う必要がないので頭から落ち、肩へと掛かり、前と後ろに一つずつ出したロングマフラーへと変化している。そんなバリアジャケットが俺の身を包む。

 相手はそのまま斧を、手に掴み背中から抜く。

 

『お集まりの皆様、本日のカードはこちら!!」

 

 コロシアム会場中にマイクで大きくなっている声が響き渡る。

 

『いつもこの大会の上位者に入り込む、巨人タイラー選手vs本大会初参加ですが実力は未知数、ダークホースタチバナ・カズヤ選手です!!』

 

 マイクの声に反応して歓声が辺りから巻き起こる。

 

『では、試合開始!!』

 

 

◇◆◇

 

 

 俺が時の庭園から落下してどの位時間が経ったのだろうか。点ぐらいに見えていた時の庭園はすでに全く見えない。それどころか辺りは真っ暗で何も見えない。俺が思うにここが重力の底だろう。

 俺は静かに瞳を閉じる。今はもう体の痛みは引いてきたが、体中ズタボロでもう疲れた。このまま安らかに死にたい気分だ。

 頭の中で今までの出来事が走馬灯のように蘇る。転生してからの充実していた毎日。その終わりを告げるように現れたジュエルシード。最初に見つけたジュエルシードを巡っていきなりテスタロッサ

とバトルもしたりした。勝ったのかどうか分からないくらい曖昧な勝利だったのを憶えている。

 ちょっと待て……?何かが引っかかる。

「あっ!!」

『どうかしましたか?』

「お前、まだあれ持ってるか?」

『あれとは?』

「初めてテスタロッサの奴と戦った時に落ちてた奴だ。ジュエルシードだよ!!」

『あっ、それならありますよ』

 

 リゼットのコアから青色の宝石が出てくる。

 

「これでいけるかな…」

 

 ジュエルシードの性質。それは願いを叶えること。もしかしたらこれでここから抜け出せるかもしれない。これにかけてみるに他はない。

 

「頼む、ジュエルシードッ! 一度でいい、願いを叶えてくれ!! ここから……ここから抜け出す力を貸してくれッ!!」

 

 俺の手の中にあるジュエルシードが青く発行し始めた。俺の悲痛な叫びが届いたのか、どうかは分からない。だがジュエルシードは覚醒を果たし、暗闇から一筋の光を出す。その光は次第に俺を包んでいき、暗闇から一転眩い光に包まれながら意識が真っ白になっていった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「いてッ!」

 

 浮遊感が体を襲ってすぐに、落下感が訪れた。辺りは花だらけ。だが、その花があまりに異常だ。 

 

「何だコレ……? 花の葉脈が光ってる……」

『本当ですね……。不思議です』

 

 疑問は浮かぶが見ていてもどうしようもないので花を見た後、立ち上がって辺りを確認する。どこまでも花が広がっていたが遠くに民家が見えた。だが民家と言っても壁は銀色で、所々に線が走っており、そこから怪しく光が出ている。

 

「取り敢えず……あそこに行ってみるか」

『そうですね』

 

 近くに落ちていたジュエルシードを回収し、生えている花を避けながら民家を目指す。

 

「ぶッ!!」

 

 ふと何かにつまずき壮大にコケる。ぎゃあああああああ、傷に染みるぅぅぅぅぅぅぅ!!せっかく痛みが引いてきたのに!!

 

「ったく、なんだよ!! ……っておいおい」

『これは……』

 

 俺がつまずいたのはカプセル。アリシアのカプセルと形が同じ。中から液体が漏れでしていて、既に中身がなくなっていることを語っていた。アリシアが居ないのには気になるが辺りを見回しても、誰もいない。仕方がないので再び民家を目指す。

 そして家の前に辿り着く。

 

「すいませーん、どちらかいらっしゃいませんかー?」

 

 しばらくすると、中から人が出てきた。顔はシワだらけで、相当歳を食ってそうな老人だった。

 

「どちらさんですかの?」

「あっ、ども。橘和也と言います」

「まぁ立ち話も何ですから中に入ってください」

「あっ、はい」

 

 中に招待されたので大人しく家に入る。この家は外壁はかなり無骨だったのに対して、中はとても民家らしい雰囲気だった。クリーム色の外壁に茶色のフローリング。盆栽や観賞用の草があり、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 待っていると、目の前に椅子を運ばれたので、それに座らせてもらう。

 

「さて、お話を聞かせてもらおうかの」

 

 老人も俺の前に椅子を持ってきてそれに腰掛ける。とは行っても話か……。どう説明したらいいのだろう。

 

「まず話す前に聞いていいですか?」

「どうぞ」

「ここは、どこですか?」

 

 まずは状況の把握だ。それがないと話そうにも話せない。

 

「ここですかな? ここはアルハザードの外れにあるダイダナというところです」

「あ、そうですか……」

 

 そうかなるほど、ここはアルハザ……えっ!?

 

「す、すいません! もう一回お願いします」

「ですから、ここはアルハザードの外れにあるダイダナというところです」

 

 うん、聞き間違いじゃない。このじいさんははっきり言った。アルハザードと。最初は入れ歯してそうな歯なので滑舌が悪いのかと思ったがどうやら違うようだ。

 

《どうやらジュエルシードさんはとんでもないところに飛ばしてくれたようだな》

《そうみたいですね。プレシアは何個も使ってアルハザードに飛ぼうとしたのに、私たちは一個で飛べるなんてなんか皮肉ですね》

《そうだな》

「……でしたか?」

「えっ?」

 

 しまった。俺っていつも念話している時は周りのことがおろそかになるんだよな。まぁ、俺はマルチタスク使えないからか。

 

「そちらのペンダントはデバイスですかな?」

「あ、はい。リゼットって言います」

『よろしくお願いします』

「おおっ、こちらこそよろしく。今時、デバイスとは珍しい」

『いえいえ、それにしてもアルハザードの外れというのはどう言う意味ですか?』

「ここから10kmぐらい離れた所にアルハザードの首都、グリガーというところがあるんです。そこ以外の町や市は全て外れと言われてるんです。首都は技術が発達していますが外れは首都の100年前ぐらいの技術と言われています」

『そうなんですね』

「…………」

 

 俺は唖然としていた。これで100年前だ? 説明してなかったがついさっき俺の怪我は完治した。目の前のおっさんが直したのだ。

 この老人の家に入った時にある薬を傷口や痛むところに塗ってもらっていたのだ。「この薬は効果が出るのに時間がかかるのでな」と言って。

 今、実感したが体中の痛みが引いている。痛むところを指で押したりしても何も痛くない。

 これから察するに首都はとんでもないところらしい。

 

「さて、話を戻しましょう。俺たちの話を聞いてください」

 

 一旦、区切りが付いたところで話を元に戻す。

 

「俺たちはあるアクシデントに見舞われ、ここに飛んできました。俺たちは元の世界に戻りたいんです。何か知りませんか?」

 

 正直の事を述べる。最初は嘘を言い、面倒くさくなさそうな手段を選ぼうとしていたが、俺が見る限りこの人は人が良さそうだ。

 

「さぁ、そういうことは専門外ですからな。ですが、首都の方に行けば解決策が見つかるかもしれません」

「そうですか……」

「おお、そういえばそろそろかの」

「何がです?」

「ついさっき、あなたがここに来る前にどでかい音がしたんで、外を確認したら少女が入ったカプセルが落ちてきたんじゃ。こちらで保護させて治療させてもらってたんじゃよ」

 

 さっきのカプセルが脳裏に浮かぶ。なるほど、だからカプセルが空いていたのか……ってちょっと待て。

 

「その子、もしかして金髪の少女でしたか?」

「おお、そのとおりじゃ。よく知っておるの」

 

 やっぱりアリシアだ。でもおかしいことが一つある。死んでるのに手当てしただって? おかしくないか?

 考えながら老人に付いて行き、二階のある部屋に辿り着く。

 

「どうやらちょうど良かったようじゃの」

「ふぁぁぁああ……おじさん誰? ここ何処?」

 

 俺は目を疑った。時の庭園で初めて見て以来、人形のように何も語らずただただそこに存在していただけの死体が俺の前で、視線の先にある小さなベットの上で起きていた。生者としてだ。

 

「お、おじさん。これは一体……?」

「ん? おお、そうじゃった。あなたは死者蘇生を見るのは初めてですかな?」

「あ……ああ」

 

 衝撃のあまり、敬語を忘れてしまう。

 

「表に花があったでしょう? あれは蘇生花というもので、死んだ人に葉をすりつぶしたそれを口に飲ませると死んだ人が生き返るのじゃ」

 

 表の花とは、俺が落ちた時に見たあの葉脈が光っていた花のことだろう。

 

『どうやって生き返るんですか!?』

 

 リゼットが急に声を上げた。リゼットは自分の知らないこととなると目の色が変わるからな。デバイスは普通の辞書と同じく全ての事を知っている。地球に関してだけだが。

 

「蘇生花には死滅した細胞を刺激して再構成させる働きがあり、それが人体の……」

「あー、そこらへんは説明しなくて大丈夫です」

 

 俺が無理やり話を切らせる。絶対にこのあと、ややこしくて難しい単語ばっか出てきそうな感じだからだったからな。

 

《なんで、止めるんですか!?》

「取り敢えず、彼女に状況を説明してあげた方がいいですよ」

《無視ですか、マスターッ!!》

 

 念話でギャーギャー言ってくるリゼットを無視しながら老人がアリシアに状況を伝えている姿を見守る。

 頭に響く声が聞こえなくなったのとちょうどで老人の説明が終了した。

 

「君は一体誰?」

 

 ベットの上にいるアリシアは俺の方を向いて首をかしげながら訊いてきた。

 

「君の妹さんとお母さんの知り合いさ」

「あれ? 私、妹なんていたかな? 母さんは……?」

 

 アリシアはベットの上で首を傾げるのを繰り返す。まさかこいつ、記憶喪失か?

「……いや、なんでもない。ところで君の名前は?」

 

 逆に訊き返す。なぜならアリシアは一体どこまで記憶を持っているのか気になったからだ。ちょっとカマを掛けてみたが、流石にフェイトの事は知らないようだ。

 

「私はアリシア! アリシア・テスタロッサ! ……君は?」

「……おおっ、悪い。俺は橘。橘和也だ」

「カ……ズヤ?」

「ああ」

「うん、覚えた! カズヤ! カズヤ!」

「ほほっ、早速懐かれたようですな」

「……」

 

 目の前でアリシアはベットの上で俺の名前を言いながら跳ねている。フェイトの瓜二つの顔。クールで物静かな印象をあいつから受けた俺にとってフェイトが目の前ではしゃいでいる様に見えて少し笑みがこぼれてしまう。

 

「カズヤ、何で泣いているの?」

「は……?」

 

 目を手でこすって確認する。アリシアの言うとおり俺は涙を流していたようでこすった手は濡れていた。

 

「いや、なんでもないさ。ついさっきあくびしたからそのせいだろう」

 

 今頃、あいつもこんな風に笑えるようになってるといいな……。

 

 

◇◆◇

 

 

「……で、これからどうしよう?」

『さぁ?』

 

 その後、数時間が経っていた。目の前ではアリシアが部屋をドタドタと走り回っている。お前、本当にさっきまで死んでたのかって思えるくらい。

老人は俺たちが元の世界に戻れる方法を調べるため一階に行ってしまった。故に部屋には俺とアリシアしか……おっと、リゼット忘れてた。

 そしてもうしばらくすると、一階からドアの開いて閉まる音が聞こえ、別の人の声も聞こえた。それからすぐ老人に呼ばれ、俺は落ち着きのないアリシアを捕まえてから一階に降りた。

 

「やぁ」

「……ども」

 

 下に降りると、高校生くらいの若い印象を受ける青年が居た。背丈は170cmくらいで、髪は男には珍しく、肩より少し長いくらいのストレートのロングヘアーだ。だが、そのロングヘアーが似合うほど顔が美形だった。シャープな小顔に目つきが鋭い目。その鋭さにすこし不気味な印象を覚えた。

 

「初めまして、僕の名はジェイク。ここの主人、ジェスパーの孫だ」

「はぁ~……」

 

 横目で老人……ジェスパーさんの顔を見やる。孫を見て、悲しい目をしていた。その瞬間、俺にはこの二人は前に何かあったように思えた。

 

「ところで、爺ちゃん。この人たちは? 爺ちゃんってショタコンだったっけ?」

「そんなことはないぞ。この子達は別の世界から来た人らしくてな、帰る方法を考えていたのじゃ」

「へぇ~、道理で子供なんて珍しいのがここにいたのか……」

 

 ジェイクという人は俺と、俺の後ろで俺の服を握り締めているアリシアを下から上に向けてジロジロと見てくる。

 

「家に着く途中、蘇生花がある一帯、無くなってたけどどうしたの? ここの警備は頑丈だし、誰かが侵入した形跡は無いけど」

 

 ジェイクさんは玄関の扉を見やる。正確には扉の奥の外だが。

 

「ああ、あれはこの子を蘇生するために使ったのじゃ」

 

 老人……ジェスパーさんは俺の後ろに隠れているアリシアを見た後、ジェイクさんの方へと向き直る。その時のジェイクさんの顔は目が大きく見開かれており、とは言っても目が細いので他の人と平均ぐらいになっただけだが。その表情は驚愕に包まれて居た。

 

「おいおい、爺ちゃん。それは人が良すぎるってもんだぜ。爺ちゃんの唯一の収入源であり、アルハザードでも数える程しか栽培出来るところがないから稀少とされて、一回の蘇生分で国は買えるかもしれないって言われている奴を……そんな……」

 

 えっ!? そんなヤバイ奴なの!? こっちに飛んだ時、何本か潰してるんだけど……。まずい事したかな~……?

 

「まぁ、少々減ったくらいはどうでも無いわ。気にしなさんな」

 

 ジェスパーさんは俺とアリシアの心配を消すために優しい言葉をかけてくる。

 

「そういえば、さっきの話だけど、帰るって爺ちゃん、あの大会があるじゃないか」

 

 ジェイクさんが『あの大会』と言った途端、ジェスパーさんの顔色が急変する。

 

「あの大会って、もしかして『トップ・オブ・ジ・アルハザード』の事を言っておるのか!? いかん! こんな子供に受けさせるわけにはいかん!!」

「落ち着けよ。あれは誰でも出ていいんだ。子供も別に構わないだろう?」

「そう言う意味ではないわ!」

 

 お、おう……目の前で俺の知らない話で喧嘩になってる……。

 

「君は魔導師かい?」

 

 いきなりジェイクさんは俺の方を向き、尋ねてきた。

 

「まぁ、そうですけど……」

「そうだろうね、胸のデバイスが何よりの証拠だ」

「ジェイク! ならんぞ!!」

「僕がこの子を大会に行くまでに鍛えるからさ。大丈夫だって。しかも爺ちゃんがそう言っても彼らの気持ちの方が優先されるべきだろう」

 

 二人は俺たちを見てくる。

 

「俺は元の世界に帰りたいです」

「私も」

 

 俺とアリシアは二人で顔を見合い共に頷く。どのみちここで老人の世話になってもどうしようもない。それならば、この誘い、乗った方がいいだろう。

 

「良し、決まりだ。じゃあ鍛えると言ったからには実力がどれくらいか確かめないとね」

「じゃあ、表に出ますか?」

「いやここでいい」

「えっ……」

 

 どう言う意味だ? ここでいいって言ってもこんな所で何をするんだ? 俺が疑問に思っていた所、景色が急に緑色の光が球状に辺りを侵食し始め、最終的には上で半円状態で結合した。

 

「どうなってるんだ……?」

 

 地面はふかふか、これは明らかな土だ。そして俺の後ろでじっとしていたアリシアもいつの間にか居なくなっている。このばあい、アルハザードだけが持っている魔導技術という可能性が一番高そうだ。

 

「な? ここでいいって言ったろ? それじゃあ、始めようか?」

「あ、よろしくお願いします……」

『セットアップ』

 

 バリアジャケットを身にまとい戦闘態勢に入る。ところがジェイクさんはセットアップもせず、ただ棒立ちしている。

 

「あの……」

「ん? なんだい?」

「セットアップしなくていいんですか?」

 

 ジェイクさんは俺の質問を聞き終わると、おもむろに笑い出した。

 

「あー、そうだったね。君は別の世界から来たんだった」

「……?」

「まずはざっとこの世界の説明をしておくよ」

 

 人差し指を自分に向けてくる。

 

「この世界は医療技術や魔導技術が発展しすぎて、人が不死当然になってしまったんだ。だから人をたくさん産む必要が無くなった。すると、この世界は老人が増え、子供が極端に減ってしまった。僕が子供が珍しいと言ったのはその為さ」

 

 なるほど、つまり日本の少子高齢化が進んだ感じということか。

 

「けど、今は体を弄るとなんでもできるようになる。意識の移動、体のサイボーグ化、魔力の増幅、その他色々とね。この世界で、肉体の定義なんてものは存在しない。僕も同様、既に肉体がデバイスで、ハードウェアのデバイスなど必要ないのさ」

 

 俺はジェスパーさんが言ってた事を思い出す。「今時、デバイスとは珍しい」あれはこういう意味だったのか。

 

「では、説明も済んだところだし、君の実力を見せてくれ。後、言っておくが殺すつもりでかかってこい。それぐらいで僕と君の実力が釣り合うから」

 

 遂にジェイクさんも戦闘態勢に入る。目つきが線のように鋭くなり、プレッシャーが倍増する。そのプレッシャーに押され、手に汗が出始めた。とは言っても、ジェイクさんはあまり本気を出しているようには見えない。俺とじゃ話にならないということか……。

 今だからこそ思えるのだが、本当に強い人はスイッチの切り替えがものすごく速く、そして恐るべきほど豹変する。恭也さん、士郎さんと一流の人を見てきたが、この人もなかなかだ。俺はまだこのように素早く切り替えることはできないだろう。

 意識を集中させ、じめじめと湿った手で剣を落とさぬよう、柄を握り締める。

 

(俺は恭也さんとの戦いで学んだ……。こういう時は恐れちゃいけない。臆するな、迷いは捨てるんだ……俺は戻らなくちゃいけないんだ。天満や佑樹達が待ってる。そのためにもここでこの人に勝っておきたい。この人はここでもトップクラスの実力だと思う)

 

「ふっ!」

 

 走って対象との距離をある程度縮めた後、風で一瞬だけスピードを上げ、反応をずらす。俺はすかさずそこに渾身の突きを放つ。

 

「なっ……?」

 

 気づくと俺の剣は、ジェイクさんではなくそのとなりの地面に突き刺さっていた。ジェイクさんは俺の突きを見切り、横から俺の剣を弾いたのだ。

 すかさず、剣を軸に体を回転させ、左足で後ろ回し蹴りを相手の脇腹を狙う。

 だがそれも、軽く見切られており、既に足が当たらない程度に後退していた。おそらく俺が後ろ回し蹴りで体が後ろに向いた刹那の間を狙ったのだろう。

 回し蹴りが空を斬る。止めるものが無いため、俺の体は回し蹴りと共に左にズレ、体勢が大きくフラつく。

 そこを見逃すバカはいない。ジェイクさんは体勢が整っていない内に胸へと掌底を撃ち込んでくる。

 

「風よ!」

 

 強引に手を掌底の軌道上へと移動させ、風のバリアーを展開する。一瞬でその後の行動を考え抜く。これを凌いだ後に風のバリアーをそのまま押し出しあんたを吹き飛ばす考えが頭に浮かんだ。

 しかし、その策はいとも簡単に打ち破られる。――バリアが破れたのだ。まるで水面を叩くように波紋が風のバリアを伝わった後、そのまま掌底は普通にバリアを通過して来た。相手が特別な魔法を使ったのではない。単にバリアが脆かったのでもない。むしろ攻撃用として後に転用するために少々強く作ったつもりだった。だが、簡単に突き抜けた。その事が意味しているのは最悪の事実。

 

「がはッ!」

 

 掌底が俺の胸に直撃する。次に、俺の体は宙を舞う。弾丸の如く飛ぶ。バリアーなど、何の意味も無かったかのように飛ぶ。

 しばらくして、風を操り、地面を滑りながらも着地する。

 

「はぁ……はぁ……ふー……」

 

 掌底で肺から抜け出た酸素を再び、取り入れた後、大きく深呼吸する。

 さてこれからどうする。俺の動きは全て読まれていて、なおかつこっちは攻撃を防ごうにも防げない。スピード、パワー、経験、全てにおいてあちらが上だ。

 

「ん~、剣だけに頼らず体術や魔法を織り交ぜながら戦う点や流れるように攻撃をする点は褒めてやろう」

 

 ジェイクさんはスイッチを切り替え、呑気な口調でそう言ってきた。

 

「だが、そのどれもどれもが未熟過ぎる。パワーも無ければスピードもなくキレもない。君の実力はこんなものか? 君の全てを見せてみろ」

 

 しかし、すぐに戦闘モードに戻り、厳しい口調に変化する。

 

《リゼット、仕方がない。あれやるぞ》

《そのようですね》

 

 くよくよ悩んでいたってらちがあかない。弱者が強者に勝とうとする方法はただ一つ。諦めないことだ。強く願うんだ。俺は勝つと。

 

「システムリライト――リ:コード、ブレイカー……」

『承認、リライト――Burst(バースト) Drive(ドライヴ)!!!』

 

 俺を赤い光が覆う。そしてそのベールが消えた時には、地面を蹴っていた。

 風を使っての移動よりも速い足での移動で接近し、両腕の剣でX字に斬り下ろす。

 さすがのジェイクさんでも驚いたようで、ギリギリで二刀の刃から離れる。空振りした剣は地面に直撃。凄まじい地割れがその二刀を中心に発生する。そして少し、重心が後ろにズレて、ジェイクさんの体勢が本の一瞬だが崩れる。しかし、ブレイカー状態の俺にとってその一瞬はすごく長い隙になった。

 振り下ろした剣を、持ち上げる余裕は無い。両手から剣を離して、素手で攻撃しかない。

 

「お返ししますよ!!」

 

 限界まで接近し、右手で掌底を打ち込む。腕を回転させ、えぐるように工夫した掌底がジェイクさんの胸板と衝突。そのままねじ込み、押し飛ばす。

 

「システムリライト!」

Wisdom(ウィズダム) Drive(ドライヴ)!!!』

「テンペストブレイク!」

 

 ここぞとばかりに攻め込む。エアロブレイクの上位互換技、威力が激増した風の奔流が吹き飛んでいるジェイクさんを襲う。

ジェイクさんとテンペストブレイクが衝突。凄まじい爆発音と共に砂ぼこりが舞い上がる。当たった手応えは確かにあった。これで終わりだろう。なにせ全力で放ったからな。いくらジェイクさんでも無傷ではないだろう。

 

「システムリライト」

Normal(ノーマル) Drive(ドライヴ)

 

 元の標準的な状態に戻る。……それにしても砂ぼこりがひどいな。ここまで、砂ボコりは普通立たない。一瞬、イヤな予感を体が襲う。

 

『急速接近中の物体あり!!』

 

リゼットが悲鳴に似たような声を上げる。次の瞬間、目の前に手が出現した。その手に顔を掴まれる。

 

「ダメだな~。油断するんじゃない」

 

 手の隙間からジェイクさんの呆れた顔が見える。顔に砂が付いていたが体に外傷が見られない限り俺が撃ったハズの技は当たってないようだった。

 おかしい。確かに感触があった。この人は恐らく、なにか特殊な物を持っているのかもしれないと思案する。

 

「……終了だ。大体君の力は分かった」

 

 俺が反撃しようとした瞬間、ジェイクさんは手を放し、持ち上げられていた俺は拍子抜けして受身を取れず落ちて尻餅をつく。

 

「はっきり言わせてもらうよ」

「……」

「弱すぎる。一回戦を勝ち抜けるかどうかってぐらいだ」

「……ッ!」

 

 ジェイクさんが指を鳴らすと、緑色のドームが消え去り、家の中へと戻って来た。そのまま、ジェイクさんは、二階へと上がっていく。

 

「……どうしたの?」

「……」

 

 アリシアが座り込んでいる俺を心配して来る。だが、俺は返事出来なかった。自惚れかもしれないが、俺は強いほうだと思っていた。システムリライトの力を手に入れて。何せあの大魔道士、プレシアに勝てたのだから。

 しかし、それは俺の思い込みだった。手も足も出なかった。

 俺は、しばらくそこから動けなかった。

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