魔法少女リリカルなのは~新たな人生を送る転生者~   作:れお3

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第5話 「温泉へ逝こう!」

 今、俺は海鳴市のとある温泉に来ている。高町家達と一緒に…

 

「どうしてこうなったんだろうか……」

「ん、どうしたんだい? 橘君」

「いや、何もありませんよ。…えっと、士郎…さん?」

「ああ、ならいいのだが…」

 

 なんでこうなっているのかは数日前にさかのぼる。

 

 

 

                   ◇◆◇

 

 

 それは、突然告げられた―――――――

 

「ねぇ~、一緒に温泉に行こう?」

「………は?」

 

 ただいま、学校での授業の合間の休み時間。これは高町から発せられた一言だった。

 

『えええぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーッ!!!』

 

 その言葉にクラスメイトのほとんどが驚きの声を上げる。中には涙目になりながら、こっちを睨んでいる奴もいる。……あれ絶対、高町のファンだな。

 

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待て! 何がどうなって、そうなった!?」

「えっ…いや、いつもわたしたちのせいで、迷惑かけてるから、家族で温泉旅行に行くんだけど、一緒にどう?っていう意味で言ったんだけど……」

「分かるかっ! さっきの一言にそんな意味が込められてるなんて、普通分かんないって!!」

「そうね…今のはあんたが悪いわね」

「ふぇ…アリサちゃん、どうして?」

「それはね、今さっきの言葉だけを聞いたら、普通は二人っきりで温泉に……」

「…………!」

 

 バニングスが高町にさっきの言葉は普通どういう風に受け止められるのかを説明しているようだ。バニングスが言い終わったら高町の顔が一瞬で赤くなった。……今、湯気が出なかったか?

 

「ち、違うから! そんな意味で言ったんじゃないから!!」

「わかった! ……わかったから行くメンバーを教えてくれ」

「ふぇ、えっと…まずわたしの家族全員とアリサちゃんにすずかちゃんとそのお姉さんの忍さんとメイドさん達…ぐらいかな」

「………………俺の知らない人ばっかりじゃねーかっ!?」

 

 いや、実際顔は知ってるけど、絶対俺が行っても、なにもすることないと思う。

 

「あっそれは大丈夫。橘くんの事はお母さん達知ってるから」

「えっ…何で?」

「わたしが話したの。連れて行くのは別にいいけどどんな人なんだ?って訊かれたから」

「あ、そうなんだ。でOKもらったのか?」

 

 そう、知られたのはもう過ぎた事だから、どうでもいい。肝心なのは、OKが出たかどうかだ。事によってはまだ逃げようが……

 

「うん♪ むしろお父さん達、気に入ったみたいで早く会いたいって言ってたよ」

「……さいですか」

 

 嘘だろ……どこにも逃げ場なしかよ…。しかも戦闘種族に気に入られてしまったようだ。

 

「で、どうかな?」

「……わかった。逝くよ」

「うん♪ 良かったぁ、早速今日帰ったら言っておくね♪」

 

 

 

                   ◇◆◇

 

 

 

 というわけだ。一応リゼットは持ってきている。万が一って可能性もあるしな。

 

(本当にすることないな…)

 

 いま俺は恭也さんや士郎さん……つまり男が集まっている部屋にいる。が、初対面の人とペラペラしゃべれる根性は持ち合わせていないので、二人とは離れて、一人で窓の外を見ている。

 いま思い出したんだが、ここって高町とテスタロッサが戦う場所じゃなかったか?

 まあ、もうすでに原作とは若干話が変わってるから原作の知識はあまりあてにならないけど……

 

「なあ、君ってどうやって、うちのなのは達と知り合ったんだい?」

 

 どうやら、窓を眺めている間に恭也さんがこちらに近づきそう聞いてきた。

 

「え……どうしてですか?」

「いや、なのはが急にある男の子を連れてってもいいかって急に言ってきたもんだったからさ、少し気になっててね。あいつが男の子との友達ができたなんて聞いたこともなかったからさ」

 

 俺はほっとしながら肩をなでおろす。何だそういう事か。……ていうか友達なのか、俺? ただの黒鐘からの避難場所じゃないのか?

 

「そういう事でしたら…別にそんな大層なもんではありませんよ。ただある男の子がいましてね、その子は高町達に……そのゾッコン? でして」

 

 あながち間違ってはいないと思う。…だってあいつ、いつも俺に会うたびに俺のなのは達に手を出しやがって……とか言ってくるし。

 

「でも、高町達はそいつのことが嫌いなわけですよ」

「ああ」

「で、その男の子は俺のことが苦手でして…」

「どうして?」

「えっ?いや、その…初対面の時におもいっきり吹っ飛ばしてしまいまして…」

「ははっ、それはかわいそうに」

「で、高町達はそいつに追いかけられたら俺の所にエスケープしてくるんです。それが知り合った一番の要因ですね」

 

 あんなことをしなければ、俺は今頃、また天満達と遊んでいるんだろうな…しかしやってしまったこと…過去は変えられない。

 

「なるほど……」

 

 何かを考えながら、頷く恭也さん。……なにか嫌な予感がするんだけど。

 

「なら、学校でのなのはの安全は君にお願いしよう」

「…はい? どういうことですか?」

 

 ポカンと空いた口を戻しながら、恭也さんに言い返す。…なにいってんの? この人。

 

「俺はなのはの兄として、なのはや美由希を守ならければいけない。だが、学校の時には助けてはやれない。美由希はうちで鍛えてるからいいが…なのはがな。そのことにずっと悩んでいたんだ」

「はぁ…」

「だが、君にそのことを託しても良さそうだ」

「…………あの初対面の俺に任せていいんですか?」

「ああ。なのはは君を信頼してるようだからね。なのはが一目置いたなら俺も同じさ」

 

 なるほど、良く分かりました。つまり、あなたは重度なシスコンなわけですね、良く分かりました…ていうか普通そこまで考えないだろ。

 

「どうかな?」

「えっと……」

 

 あの………殺気を出しながら言われると、断れないと言うかなんというか……くそっ! やっぱり、兄弟は似るんだなっ!

 

「はい……分かりました」

「良し!では君になのはのボディガードが務まるか、テストしよう」

「テスト……ですか?」

「そうだ。でも心配しなくていい、ちょっとしたテストだから。そんな崖を登れとか言わないから安心して」

 

 うわぁ~、それでも嫌な予感しかしないんですけど…

 

「父さん!」

「ん?どうした?」

「木刀、持ってきてる?」

「ああ、4本持ってきてるぞ」

「そう。じゃあ、橘くんと試合するから、貸してくれないか?」

 

 やっぱり……。もういやだ…なんで、俺ばっかこんな不幸な事ばかり起きるんだろうか。せっかく、傷も癒えたばかりなのに。

 

「橘くんと?大丈夫なのかい?」

「ああ、大丈夫さ。それで、父さんには審判をしてくれると助かるんだけど…」

「構わないよ。それにしても珍しいね。恭也がやる気を出しているなんて」

「たまには、そういうこともあるさ」

「よし、じゃあそのあとに、仲良く三人で温泉に入るか」

「おっ、いいね父さん」

 

 あの~お二人方、わたしの気持ちは無視ですか。

 

「じゃあ行こうか?橘くん」

「………はい」

 

 俺たちはそう言いながら、ひらけた場所を探すべく、外へ出た。…今こそ、某アニメの主人公の口癖を言いたい。

 

(不幸だーーーーーーーーーーーーーー!!!!》

《うるさいですよ、マスター!!》

《えっ?ごめん……》

 

 心の中で叫んだつもりだったのだがどうやら、無意識に念話で叫んでいたらしい。

 

「はぁ~……」

 

 恭也さん達に連れられ、俺は旅館の外庭? とりあえず開けた場所に来ていた。…帰りたい。

 

「では、準備ができたら言ってくれ」

 

 ゲームでボス直前になると、仲間が言いそうな言葉を士郎さんが言った。…って今はそんなことを考えている場合じゃない!

 

「あのー俺、小学生なんですけど……」

「……それが?」

 

 恭也さん、このままいくと俺を殺しかねないと思ったので、小学生だから手加減してねという意味で殺気……漢字が違う! さっきの言葉を吐いたのだがたった、一言で返されてしまった。

 ………それが?って何!? 小学生相手に何で本気になってるんだよ、あんた! もうヤダっ! 先頭種族って恐ろしいッ!!

 

「ちょっとは手加減してくださいよ」

 

 俺は我慢しきれずに、本音を言う。転生して、まだ一年しか経ってないんだ。つまり、この世界での実際の年齢は一歳……一歳で死ぬなんて、一歳……だから漢字が違うって! 一切、御免だ。

 

「手加減? 手加減って何だ?」

 

 恭也さんはブ○リーめいた言葉で返答してくる。……このサ○ヤ人!!って事はなんですか? あなたは伝説のスーパーサ○ヤ人にもなれるんですか?

 

「冗談だよ。だが、どんなことであっても手加減は相手に失礼と俺は思ってるんでね。しかも、君は並の小学生じゃない、そう感じるんだ。……そろそろ、始めようか」

 

 なるほど……つまりあなたはアリがいたら、全力で退治する方なんですね。分かります。

 

「じゃあ、まずルールを確認する」

 

 士郎さんがこのテストの説明をし始めた。……今思えば必要なのか? このテスト。

 

「ルールは簡単。私が「そこまで」というまで戦ってもらう。それでいいな?」

「ああ、父さん」

「…………」

「橘くんは?」

 

 理不尽だが、ここまで来たら腹をくくろう。生半可な気持ちでやってたら、すぐやられるからな。

 

「ええ、いいですよ」

「そうかい。まあ頑張って。それでは……!」

 

 俺は始めの合図を待つと同時に目の前の恭也さんに集中する。今恭也さんは二本の木刀を持って何かの構えをとっている。場所を見つける最中に聞いたが、あれは高町家に代々伝わる御神流という流派らしい。あっちも本気ってことか…!

 

「始め!!」

「ッ!」

 

 始めと言われた途端、俺は一本の木刀の柄を握りしめ、恭也さんに全力で近づいた! 体力、筋力、手数、技術、どれをとっても恭也さんが上。となると……ここは…!

 

 恭也さんは間合いに入った瞬間、こちらに木刀を振ってくる。俺はそれを……………食らった。

 

 

「「……………」」

 

 

 二人共、無言。恭也さんも小手調べだったらしく、威力はそんなになかった。こうすれば、そこまでと言われるはずだ……が、そこまでと言われない。士郎さんを見ると、仁王立ちでこっちをガン見している。…スベった!!

 

(わざと、負けるのは難しそうだな…)

 

 士郎さんも武術の達人だ。相手が本気なのか、そうじゃないのかは見分けることができるのだろう。限界まで戦うしかないらしい。……クソッ!いい策だと思ったのに!!

 俺は改めて目の前にいる恭也さんに意識を集中する。徐々に感覚が研ぎ澄まされ、恭也さん以外見えなくなり始める。

 

「ようやく、本気になったか。じゃあ行くよ」

 

 恭也さんは言った途端に、すごく早く、そして鋭い斬撃を二刀で放ってくる。

 

「くっ……」

 

 俺はそれをかろうじて避けたり、ガードしたりしながら反撃のチャンスを伺う。ていうかホントに容赦ないなこの人!

 

「ほらほら、守ってばかりじゃ勝てないよ」

「………ッッ!」

 

 こちらは声が出せないほど、切羽詰まっているのにも関わらず、あちらは余裕しゃくしゃくである。くそ、隙が無い。反撃できない……!

 

「がッ……」

 

 遂に捌ききれずに恭也さんの左の木刀が俺の左腕に当たる。それをさかいに、嵐のような剣戟が恭也さんから繰り出される!

 ガードするだけで精一杯になった俺。……まだか? まだ士郎さんは止めないのか?

 

「…………………」

 

 こちらをさっきと変わらず、見続ける士郎さん。

 

「よそ見をするなっ!」

「がはっ!!」

 

 士郎さんを見て、恭也さんから目を離した俺がバカだった。攻撃は木刀でガードしたのに、そのまま吹っ飛ばされてしまった。

 数メートル吹っ飛びその勢いで恭也さんと距離を取る。

 ……怖い。体が恐怖で動かなくなりはじめる。もしかしたらこの世界に来て初めて俺は恐怖を感じたかもしれない。それほどまでに恭也さんの殺気は凄かった。

 

「ふうぅぅぅー」

 

 深呼吸しながら、気持ちを落ち着かせ目の前の()を見る。これはテストなんてものじゃない。本当の戦いだ。

 

(防御はいらない……!)

 

 どうやっても、あの攻撃からは逃げきれない。となるとダメージ覚悟で行くしかない。

いいか、防御は捨てろ。

迷うな。

臆するな。

やるべきことは……

 俺は木刀の柄を再度握りしめ、震える体を無理に動かし、自分にそう言い聞かせながら、恭也さんに突っ込む。

 

「攻撃だけ!!」

 

 俺は恭也さんに真正面から突っ込んでいく。そして俺の木刀が恭也さんに振られる直前……

 

「そこまでッ!!」

 

 士郎さんからのストップがかかった。不測の事態に頭が追いつかない俺。その隙に、恭也さんから手がさし伸ばされる。

 

「おめでとう。合格だ」

「…え?」

 

 合格?何でだ?まだ、俺は続けられるのに、どうして……

 

「悪いね。今回のテストは君の強さを試すテストじゃない。君の勇気を試したんだ」

「勇気……ですか?」

「そうだ。もちろん人を守るには強さは必要だ。だがその前に勇気…思いが大事なんだ。それを今試させてもらった。俺に立ち向かう勇気をね」

 

 俺は安堵のため息ををつく。……なんだ。そういうことだったのか。どうりで恭也さんがあんなに殺気を出しているのに士郎さんが止めなかったわけだ。

 

「これからなのはの事よろしく頼む」

「……えっ、えっと」

「よ・ろ・し・く!」

「……はい」

 

 キャラが変わってませんか? 恭也さん。

 

 

◇◆◇

 

 

 俺と恭也さん達がテストの後の温泉から上がった時にはすでに夜になっていた。 どうやら温泉に長居しすぎたようだ。 いや、男同士で親睦を深め合っていたんだ、そしたら時間が………自分で言っているのに、気持ち悪っ!

 それにしても士郎さんの体を見たときは驚いた。 体中が傷だらけだったからだ。どんな人生を送ってきたんだろうか……

 

「おーい、橘くん。そろそろ寝るか?」

 

 恭也さんが声をかけてくる。 うん、確かに今日は疲れたから早く寝たいけど……

 

《どう思う、リゼット?》

 

 念話でポケットにつっこんでいるリゼットに問いかける。

 

《何で、私に聞くんですか?》

〈えっと……今日もこれから訓練とか言わないのか?〉

《さすがの私もそこまで鬼じゃありませんよ……帰ったらその分だけ訓練量を増やしますけど》

 

 まさかの答えが返ってきたと思ったら、やっぱりリゼットは訓練の鬼だった。くそ、帰ったら増えるのか……勘弁してほしい。

 

《ていうか、私をそろそろポケットから出してください! 私は本来首にかけるものです!》

《はいはい……》

 

 そう返しつつ、首にリゼットをかける。……まったく、わがままなデバイスだ。マスターをここまでシゴくデバイスなんてお前ぐらいだぞ。

 どうやら話しているうちに恭也さんが布団を敷いていたらしく、俺の前に布団が敷き詰められている。入口側から士郎さん、恭也さん、俺という順番になっている…という流れが出来始めている。空いている布団が窓際のやつしかないからである。

 

《まっ、いっか》

 

 夜の景色を見るのは別に嫌いじゃない。まあ、まだちょっと肌寒いのがきずだけど……

 

「じゃあ、明日も早いし電気を消すよ」

「ああ、頼む」

「ええ、いいですよ」

 

 恭也さんは電気を消すために立ち上がりながら聞いてきた。その問いに士郎さんと俺は賛成の声を上げる。

 電気を消すときの特有の音が、部屋中に鳴り響き明かりがいっさい無くなり、星の光が輝くようになる。

 

(寝るか……)

 

俺は瞳を閉じながら、眠りはじめた…

 

 

 

◇◆◇

 

 

「……………寝れない」

 

 何分たっただろうか? 俺は目を外の景色へ向けながらそう思う。みんなも経験ないだろうか。いつも、自分が寝ているベッドじゃないと、なかなか寝つけない事が……。今がまさにその時である。

 俺は外の景色を見るのをやめ、恭也さん達のの方向へと寝返りをうつ。……そこで恐るべき光景を目にした。

 

(寝ながら……戦ってる!?)

 

 そう、寝ながら戦っているのだ。戦っているのだ、寝ながら。大事なことなので倒置法も含め二回言った。

 俺の視線の先では、いびきをかきながら、恭也さんに馬乗りになり、拳を放つ士郎さん。そしてその拳をこれまた、寝ながらさばいている恭也さん。明らかにありえない光景である。

 

「ほんとに寝てるのか? この二人……おーい、シスコン~。親バカ~」

 

 やってはいけないことだが、二人の悪口を言い反応を探る。……返事が無い。ただの先頭種族のようだ……って、待て待て! おかしい! これはあまりにもおかしい!

 

「世の中って常識が通じないんだな…」

『そうですね。ところでマスター、近くでジュエルシードと魔力の反応があるんですけど……』

「で、それが?」

『えっ…リベンジしなくていいんですか? テスタロッサさんの反応がありますよ』

「今日はもう疲れた」

『そう……ですか。あちらはこっちに近づいてきてるんですが……』

「…………はぁ!?」

 

 リゼットの言葉に驚き、大声を上げる俺。やばっ! 恭也さん達を起こしたか?……いまだ、戦っている二人。どうやら大丈夫なようだ。ていうか、それよりも!

 

《何でバレてるんだよ?》

 

 さっきは起きなかったとはいえ、恭也さん達を起こしては悪いので、念話でリゼットに訊く。魔力は漏れていないはずなんだが……

 

 

『やっぱり、私が作った結界では隠しきれないようですね……』

 

 

 リゼットは小言のように何かつぶやいているが、声が小さくて聞こえない。ていうかリゼット…お前、しゃべるなら念話でしろって……隣でバトってる人たちに聞かれたらどうするんだ。

 

《とにかく、どうします?》

 

 リゼットは念話で訊いてくる。……確かに今は何故気づかれたよりも今どうするべきか…だよな。

 

《とりあえず、外に出よう。ここにいても、恭也さん達を巻き込むし、逃げる場所も少ない》

《そうですね…それしかないですね》

《そうと決まれば、セットアップだ》

《イエス、マイマスター》

 

 俺は素顔がバレると厄介なので、セットアップをする。ついでに魔力ロックも解除しておく。……今ので確実にあっちには気づかれたはずだ。テスタロッサ側も高町側も。

 

「さて、外へ出たはいいがどうしよう」

 

 俺は三階の窓から風を操りながら降り立った。風を使ったのはみんなもわかるとおり、使わないと悲惨な目にあうからだ。

 

『とりあえず、出来るだけここから離れましょう』

「だな」

 

 俺はどこに行くあてもなく、とにかく旅館から離れようと思い、全力で駆け出した。

 

 

◇◆◇

 

 

 俺が全力ダッシュしていると、視界に気になるものが目に入った。……俺、今まで言わなかったけど、目はいい方なんだ。

 

「また、このパターンですか……」

 

 そう、目の前には青い宝石―――ジュエルシードがある。目の前のミニ川を挟んで、こちらに顔を覗かせている。どうやら、まだ覚醒前らしく今は何も感じない。……なぜ、俺はこんなにもトラブルに巻き込まれやすいのだろうか?

 

「流石にもう勘弁!」

 

 そう言いながら俺はまた走り始めた。恐らくあれが、後で覚醒してここでのあの二人の戦いの引き金になったのであろうが、はっきり言うと俺には関係ない。それにもしかするとあっちの方に目がいって俺の方には誰も来なくなるっていうこともありえるからな。

 

『マスター、追っ手が4人から1人になったようです』

 

 リゼットには、「状況をこまめに教えてくれ」と頼んでいたので、頼んだとおりに状況が報告される。…さっき、ジュエルシードが覚醒していたから、二手に分かれたんだな。……できれば、高町とは会いたくない。

 

「本当に痛そうだもんな…あの砲撃」

『何か言いましたか、マスター』

「いや、なんでもない。…それよりも、もうかなり離れたからここいらで迎え撃つぞ」

『了解です』

 

 俺は気持ちを切り替えながら、相手を迎え撃つべく臨戦状態に入る。…さあ、来るのは誰だ?

 

「あんたかい?もうひとつの反応は」

 

 出てきたのは大人の女性だった。………えっと、確か、テスタロッサの使い魔の……ダメだ、思い出せない。まぁ、こいつが来たってことは、向こうの方にスクライアと高町そしてテスタロッサがいるってことになる。

 

「何か言ったらどうだい、顔を隠した魔道士さん?」

「お前に話すことは何もない」

 

 俺は冷たく言い放つ。……だって、あの人話し合う気がさらさら無さそうだもん。ほら、殺気出しまくり。

 

「だったら、体に聞こうかね!」

 

 使い魔はいきなりこちらに向かって接近し拳を繰り出してきた。…だが、こっちも戦闘には備えておいたので、別段驚くこともなく、剣でそれを受け止める。

 

「いきなりか?」

「良く受け止めたね。大抵の奴は反応できないのに」

「それは……どうも!」

 

 俺は言葉を言ったと同時に腕に力を入れ相手を押し返す。押し返すと、相手は抵抗する事もなく俺の力を利用し俺と距離を作る。

 

「逃がすかよッ!」

 

 俺は風の恩恵を受けながら高速で相手に近づく。そして俺はその勢いを殺さず、相手に突きを放つ。

 

「ふっ!」

「……ッ!」

 

 が、俺の放った突きは、虚しくも相手の防御魔法によって阻まれる。……だがこれでいい。

 

「エアロ………ブレイクッ!」

 

 そして、突きを放った剣から、竜巻が巻き起こり、木々をなぎ倒しながら、使い魔を吹き飛ばす。

 エアロブレイク―――風の技の一つ。まあ単純に言えば風の砲撃だ。……ゼロ距離からこれを食らうとひとたまりもないはずだ。だが…

 

「あんたかい!フェイトが言ってた不思議な魔法を使う魔道士ってのは!」

 

 どうやら、逃げられたらしい。上空に浮遊している使い魔がそう言ってくる。だがダメージはあったようで服が多少汚れている。…ていうか、情報がバレてるし。

 

「……一つ聞きたいことがある」

「何さ?」

「あんたのご主人様は何か抱え込んでたようだけど、心当たりはあるのか?」

 

 テスタロッサと会ったときに気になっていたことを訊いてみる。あいつの使い魔となれば原因を知っているだろう…………が、どうやら禁句だったらしく、相手の表情が怒りに変わる。

 

「……あんたには、関係ない事さ」

「だろうな。でもな…………」

「何さ?」

「俺は困っている人を助けないほど落ちぶれた奴じゃないッ!!」

「他人は………他人は黙ってなッ!」

 

 俺は風を操り、使い魔の元へと飛翔する。あちらもこちらに急接近してくる。

 

「あんたに心配される筋合いはないよ!それに何さ!あんただったらフェイトを救えるっていうのかい!」

「確かに……ッ! そうだな……くッ!」

 

 俺たちは剣と拳同士で打ち合っていた。……いや、どちらかと言うと俺が押されている。実力は大差ないと思っていたが、怒っているせいか動きのキレとパワーが上がっているようだ。さすがは原作組、怒りでパワーアップとかシャレになってないって……!

 

「だったら、あたし達の問題に首を突っ込むんじゃないよ!」

「しまっ……!」

 

 遂に押されきってしまい、俺は吹っ飛ばされた。……それにしても、ここまでキレるなんて、コイツもテスタロッサの事、気づいていたんだな。しかも、原因も分かっているぽい。

 

「違う……!俺が言いたいのはそういう事じゃない!」

 

 俺は離された間合いを再び詰め、体を回転させ裏拳みたいに剣を振るう。その攻撃は防がれてしまうが、俺はそんなのはお構いなしに次の攻撃のモーションに入っていた。

 

「確かに他人の問題に首を突っ込むなんて、人の心に土足で踏み込むようなもんだろうな。……でもな、そうでもしないと人は救えないんだよ!」

 

 俺は剣を軸に回転し、風で強化した回し蹴りを叩き込む。どうやら、これは反応できなかったらしく使い魔は地面に落ちて激突した。

 俺はすぐさま追撃しようと思ったが、体が動かない。

 

「バインド!?」

「フォトンランサー・マルチショット!」

 

 俺が縛られているあいだに使い魔は体制を整え直し、フォトンランサーを撃ってきた。

 

「風よ!」

 

 俺は叫びながら、目の前に風のバリアを生成する。しかし、この選択が間違いであることにあとで気づく。

 

「くッ!」

 

 フォトンランサーが俺のバリアに当たった瞬間、凄まじい閃光が俺の視界を覆う。そう、使い魔は攪乱用に着弾時炸裂効果を付与したフォトンランサーを撃ってきたのだ。

 

「がはっ!」

 

 すぐさま、腹に衝撃が突き抜け、俺は地面に叩き落とされる。痛みをこらえ、敵を視ようとするがまだ俺の視界は戻りきっていない。

 

「チェーンバインド!」

 

 そう叫ぶ声が聞こえる。見えないが、恐らく俺の周りを囲むように鎖が飛んできているのであろう。俺はすぐさま、対応策として剣を上に掲げ、技を発動させる。

 

「ストームレイド!」

 

 俺がそう言うと、俺を中心に竜巻が起き、周囲に存在する物すべてを吹き飛ばしていく。もちろんチェーンバインドもこれで吹き飛んだはずだ。

 俺の視界が復活する。……そして使い魔の姿を上空で視認する。

 

「あんたはそう言うけど、そんなのは綺麗事さ。それにあの子がどんな闇を抱えてるか知らないくせによく言うよ。救いたくても救えないんだよ。どんなに頑張ったてできないことだってあるんだ、この世にはね」

「そうかもしれないな。でも……」

 

 使い魔はちょっとは落ち着いたらしく、さっきよりかは優しくなった口調でそうもらす。確かに頑張ったてできないことはこの世にはあるだろうが―――――――

 

「それはただの言い訳だ」

 

 俺は使い魔をまっすぐと見ながらはっきりと言う。そう言うと、また使い魔の顔が変わり始める。

 

「だったら……だったらどうしろって言うのさ!」

 

 使い魔は人型から獣型になりながら、高速で俺に突進をしてきた。

 俺はそれをサイドステップで避けるが、使い魔は着地時の衝撃などものともせず、そのまま俺を追尾してきた。

 

「くッ……はああッ!」

 

 その攻撃を一旦剣で受け止め、押し返す。……そろそろ、決めないと魔力が底を尽きてしまう。でも、一番俺の能力で威力がある火系の技はこんなところでは撃てないんだよな。そんなことしたら辺りが火の海になる。

 

「グランドバレット!」

 

 俺は考えながら牽制用に土で作った拳を地面から数個出現させる。……土系の技は地面からじゃないと使えないが、魔力消費量が少ないからこういう時には使えるな。

 俺は次の攻撃に移るため、構えをとっていると光とともに爆音が森に響き渡った。

 

《なんだ?》

《どうやら、テスタロッサさんと高町さんが交戦中のようです》

 

 俺はリゼットにさっきの爆音についての情報を訊く。が、戦闘中なのに意識を別の方に傾けたため、そこに一瞬のスキができる。

 

「よそ見するんじゃないよ!!」

「ぐっ! ……しまった!!」

 

 使い魔はそのスキを突き、俺に攻撃を仕掛けてきた。不意を突かれ、気が緩んでいたため、使い魔に剣を弾き飛ばされてしまう。そして、使い魔は人型に戻り、魔力の込めた全力のパンチをこっちに向けてくる。

 

「……ッ! 風よ!」

 

 俺は右手を前に突き出して一番、強度の高い風のバリアを創り、使い魔のパンチを受け止める。

 

「さっき言ったな……。だったらどうしろって」

 

 俺は耐えながらも使い魔に話しかける。

 

「そんなの俺もわからねーよ。でもな、お前が間違ってるってことはわかる」

「あたしが間違ってるって?」

「ああ。誰が必ず救わなきゃいけないって言った?それ以外でも別の方法はいくらでもあるはずだ。その人の味方になってあげるとかさ。相談できる人が一人いるだけで結構変わってくるもんだぜ?」

「味方に……その味方になれない人はどうすればいいのさ!」

 

 使い魔のパンチの威力が上昇する。

 

「だから…言ってるだろ。そんなのは言い訳だって。……そのくらい自分で考えろ。…………あと最後に言っておくぞ。どんなに頑張ったてできないことがある?甘えてんじゃねーよ。誰がそう決めつけた?試してもないのに?……まずは、本当に救いたいと思うなら、やってみることが大事だと思うぞ」

 

 俺はそう言いつつ、バリアに使っていた風を、使い魔を覆うように動かし、風の檻を創りだす。そして左手を前に出して……

 

「エアロ……ブレイクッ!!」

 

 俺の左手から凄まじい風の奔流が迸る。そして使い魔はそのまま、吹き飛ばされていった。

 

《マスター、転移魔法を使って逃げられたようです》

「そうか……逃げられたか。まっ、いいや。当たった感触はしたから、向こうは戦える状態じゃないし、もう反撃してこないだろう」

『そうですか』

 

 誰もいなくなったことによって、リゼットの声が念話から音声に切り替わる。

 

『それにしても、どうしましょう……これ、絶対にニュースにされますよ』

「は? 何だ、急に」

『いや、この光景ですよ』

「あっ……」

 

 俺の目の前には辺りには何もない土むき出しの地面。綺麗だった木々たちはものの見事に吹き飛んでいる。明らかに自然現象では起きないレベルのものだった。

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