らんま1/2の乱馬君とあかねちゃんの日常のやり取り。
乱馬君→あかねちゃん、な感じです。
「変質者だぁ~?」
ある日の放課後、授業も終わりそろそろ帰ろうとした時のことだった。
ゆかからの妙な情報に、思わず少し大きな声でもう一度確認してしまう。
「そ、また例の出たらしいのよ。昨日の夕方。隣町の女子高の子が狙われたらしいわ。
本当…怖いわぁ~」
側にいた女子どもは、か弱そうにどよめく中、ただ一人我等の英雄…俺の許婚が立ち上がる。
こういうとこ、いい加減なんとかなんねえのかな…。
やっぱりというか、ほんと無鉄砲な跳ねっかえりだ。
「そんな奴、あたしがやっつけてやるわっ!」
…あー、言うと思った…。
予想通りの展開にため息をつきながら呆れてしまう。
正義感強すぎだろ、こいつ。
「あたしがおとりになってっ」
「誰がおめぇみてぇな凶暴女を狙うってんだよ」
言い出したらきかないあかねを止める気もなかったけれど、ついつい癖でいらぬ口を挟んでしまう。
すぐさま繰り出されたあかねの右手は、見事に俺の右頬にヒットする。
くっそ、本当に凶暴女め…。
「怖いから、早めに帰ろうか」
ゆか達女子はそう言い、いつもより早めに教室を出た。
まー、賢明な選択だろう。
…なのに、こいつは…。
一人、机に向かってなにか書き物をしている。
まだかよ…。
とりあえず、あかねの前の席に座って肘をつく。
「おめーは帰らねえのかよ」
「あたし、今日先生から頼まれた資料を提出しなくっちゃいけなくて、まだ終わらないから…」
「……ふーん…」
それから結構時間がたったけど、終わる気配が見えない。
暇だから今日の学校での出来事とか他愛のない会話をしていた。
すると、突然あかねが何かひらめいたような顔をしてノートから目を離す。
「そうだ!乱馬が4人いたらいいのよ」
前後の会話に何の脈絡ない言葉に、思わず固まってしまう。
…俺が四人?
「…なんだそりゃ」
「だから、それぞれの乱馬が、シャンプーと右京と小太刀と付き合うの。そしたら全て丸く収まるじゃない。
…まあ、お父さんたちの件もあるし、四人目の乱馬はうちに置いてあげなくもないかな」
あかねは話しながら噴き出すように笑う。
唐突に思いついたようで、自分でも変な事言ってるってわかってるみたいだ。
「…ムチャクチャだな」
「まぁ、乱馬は今のこのモテモテな状況を楽しんでるんでしょうけど…。
いつも巻き込まれるあたしの身にもなってよ。」
「あのな、俺は楽しんでねー、苦しんでんだ」
「…ど~だか」
嫌味か、それは。
まったくかわいげのねえ。
「さてと、やっと終わった!
乱馬、帰ろう」
あかねはそう言い、職員室に早々と駆け足で駆け込んで言った。
先に玄関に行くと、もうほとんどの生徒が帰ったのがわかる。
そして夕焼けを横に、二人歩いた。
それにしても、腹がへったな。
あかねが遅くならなきゃ、うっちゃんとこかシャンプーの店に飯食いに寄ってもよかったかな。
……あ。
こういうところが、あかねから見て「楽しんでる」になっちまうのかな。
……しっかし…。
「…あー、俺が四人ねえ」
「なによ突然。さっきの話?」
「よくよく考えると、全然丸く収まらねえなって思ってよ」
「えー、なんで?」
あかねは、うっちゃん達それぞれにって言うけど、きっと俺が何人いようが絶対に幸せになれねえのは目に見えてる。
だって、その全ての俺ら皆があかねに惚れちまうのが分かるからだ。
俺は譲る気なんかさらさらねえからな。
「…きっと俺同士で喧嘩始めるぜ」
俺がそう言ったら、あかねは呆れたように笑い出した。
「本当にアンタは格闘バカね」
…。
いや、色恋沙汰での喧嘩なんだけどな。
…ほんとに鈍感だな。
「ねえ乱馬…」
「ん?」
あかねの足が突然止まる。
振り返ると、柔らかい笑顔のあかねがいた。
「…あたしが終わるの待っててくれたんでしょ?」
「べっつに、そんなんじゃねえけど」
照れちまって、それだけ早口で言うので精一杯。
願望や欲求は人一倍あるんだけど、なあ。
「変質者事件があったから、心配した?」
…わかってんじゃねえか。
…つか、なんでこいつこんなに勝ち誇ったような顔してんだよ。
なんか、むかつく。
「は?だから、そんなんじゃねえって。変質者だって、襲うんならもっと可愛げのある女を狙うんじゃねえの?」
「失礼ね、見た目じゃ凶暴なんて分からないでしょっ」
「おめぇ自分が可愛いとでも思ってんのかよ」
「そうは言ってないでしょっ!」
あかねはそう言って形のいい頬を膨らませる。
予想通りの反応で、思わず笑えてくる。
まー、そんな事件がなくったって遅いから待っててやったと思うけど。
「……ありがと」
………!
あかねはそういうとふいっと顔をそらして足を速めた。
一瞬の出来事に高速で体が固まる。
……なんだよ、かわいいじゃねえか。
そんなあかねを見て、思わず手を伸ばした。
でも伸ばした手は空をきり、行き場を無くして引いたそれは無意識に頭の後ろに回ってた。
‥手、繋ぎたかったな。
でも、まあ、いっか。
今は…これで。
あかねの笑顔だけで、満足しちまう俺って随分安い男だよな。
それでも、悪くねえかな…なんて思っちまう自分が何だか可笑しくて口元が綻ぶ。
「おい、あかねー。
待てよ、襲われんぞー」
少し遠くなったあかねに、茶化して叫んだら、夕焼けの中に「ばーか」ってかえってきた。
振り返ったあかねの顔は、オレンジに染まりながらも赤くなっているのがまるわかりだ。
その顔を見たら何だかすごく嬉しくなって、思わず俺も足を速めた。
ーend.