ストライクウィッチーズ オストマルク戦記   作:mix_cat

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第二十三話 シオーフォク奪還作戦1

 いよいよブダペスト奪還作戦への再挑戦だ。シャーメッレーク基地では、芳佳がウィッチたちを集めて訓示する。

「今日から奪還作戦を再開します。前回の作戦では、シオーフォクの手前まで進んだところで攻勢が頓挫しましたから、今回はまずシオーフォクを奪還して前線を推進することをとりあえずの目標にしています。シオーフォクにしっかりした拠点を築いて、そこを足掛かりにしてブダペストの奪還を目指します。」

 作戦目標は既に周知してあるので、隊員たちは特に問題ないと言った風で芳佳の話を聞いている。特に気負うでもなく、恐れるでもなく、平静でいるようだ。

「わたしたちは戦力を集中してネウロイの反撃に対処できるようにしていますが、徐々に気候が春に近付くにつれて、ネウロイの活動が活発化してきているので油断は禁物です。十分に注意して作戦に臨んでください。」

 一斉に了解の声が上がる。うん、声に張りがあって、隊員たちの自信が感じられる。短い間とはいえ、哨戒や出撃の合間を縫って訓練に努めてきた効果もあるようだ。

 

 心配があるとしたら、ハンガリー隊だ。本人たちが希望したので今回も先陣に指名しているが、前回の作戦で大きな損害を受けたことが、トラウマになっていないと良いのだけれど。

「ヘッペシュ中佐、ハンガリー隊の状況はどうですか。」

 芳佳の問いかけに、問題ないと答えようとするヘッペシュ中佐の機先を制して、他の隊員たちが口々に叫ぶ。

『大丈夫です!』

『任せてください!』

「今度こそネウロイを蹴散らしてやります!」

「必ず雪辱を果たします!」

 一斉に叫ぶので、何を言っているのかよくわからないし、ハンガリー語の声が混ざっているのでますますわからないが、気持ちは十分に伝わった。

「うん、意気込みは伝わったよ。じゃあ、作戦開始!」

「了解!!」

 先陣のハンガリー隊、スロバキア隊、そして今回はそれに加えてポーランド隊が出撃する。最初は待機の各隊の隊員たちが手を振って見送る。

 

 ウィッチ隊が地上部隊の上空に到着した時には、既に準備砲撃は終わって、地上部隊が前進を始めていた。準備砲撃で掘り返された大地を踏みしめて、沢山の兵士と車両が前進して行く。

「スロバキア隊は地上部隊の上空直掩。ハンガリー隊とポーランド隊は先行します。」

 ヘッペシュ中佐の指揮の下、ハンガリー隊とポーランド隊は、周囲を警戒しながら前進して行く。

『またネウロイは出て来るかな?』

 ポッチョンディ大尉が、誰に言うともなく呟く。それに、デブレーディ大尉が返す。

『出て来るだろうね。でも、今度はやられないよ。ポーランド隊も来てくれたし、必ず撃滅するんだから。』

 前回の戦いで重傷を負ったけれど、それに臆することなくますます意気盛んなデブレーディ大尉を、ヘッペシュ中佐は頼もしく思う。まあ、ハンガリー人の気質として、一度くらいの敗戦では挫けない。

『そうだね、今度は撃滅しようね。』

 むしろ、早く出て来いという位の気持ちで、入念に周囲を見回して、ネウロイの出現を待ち受ける。

 

 インカム越しに聞こえてくるハンガリー隊のメンバーの会話を聞いて、ポーランド隊のミロスワヴァ・ミュムラー少佐は多少の不安を感じる。ハンガリー語で話しているから、何を言っているのかわからないのだ。もちろん、隊内で話す分には自分たちの言葉で話してもらって構わないのだが、いざ戦闘となった時に、戦闘に夢中になるあまり自分たちの言葉で通信されたら、お互いに協力するのが難しくなりそうだ。

「せめて、作戦中の通信は共通語に統一してくれるといいんだけどな。」

 ゾフィア・フェリク少尉が応じる。

「そうですよね。大体どこの部隊でも作戦中の通信は、隊内の通信でも共通語にしていますよね。」

 まあ、どこの部隊でもと言っても、ポーランド人はブリタニア軍の部隊に所属して戦っていたのだから、周囲がみんな共通語のブリタニア語を話すのは当たり前なのだが。

 

 そこへ突然、ヘッペシュ中佐からブリタニア語の通信が入る。

「ネウロイ発見。小型がおよそ20機。迎撃します。」

 司令部へネウロイ発見の報告を送ると、続いて各隊に指示を出す。

「デブレーディ隊は左翼に展開、ポーランド隊は右翼に展開、ポッチョンディ隊は正面から、一斉に攻撃します。」

「了解!」

 ヘッペシュ中佐の指示に、ミュムラー少佐は隊員を連れて素早く右へ展開する。ヘッペシュ中佐は戦闘指揮経験が豊富だから、激しい戦闘になってもきっと的確な指揮をしてくれるだろうと思う。つまらない心配はせずに、自分は自隊の指揮に専念しなければならないと思う。ネウロイの集団が近付いて来た。横目でちらりと見やると、既に各隊ネウロイの集団を3方から同時攻撃するように展開している。

 

 ネウロイが、正面のヘッペシュ中佐、ポッチョンディ大尉、モルナール少尉の3人に向かって、ビームを乱射し始めた。

「突撃!」

 ヘッペシュ中佐の号令と共に、ミュムラー少佐は勢いよく突入を開始する。ネウロイのビームが正面を指向している間に、一気に距離を詰めてネウロイを射程に捉える。

「撃て!」

 ミュムラー少佐の号令と共に、フェリク少尉とヴラスノヴォルスカ曹長がそれぞれに狙いを定めたネウロイに向けて銃撃を浴びせかける。それぞれの狙ったネウロイが相次いで砕け散る。

「まずは3機撃墜!」

 ぐっと引き起こしてネウロイの集団の上空をすれ違う。

 

 ミュムラー少佐は距離を取りながら振り返る。

「あれっ、追ってこない。」

 ネウロイは通常、攻撃をかけると分散してそれぞれに手近な目標を追って来るものだが、今日はそのまま一団となって正面に向かって突き進んでいる。これだと、正面にいるヘッペシュ中佐たちが苦戦になる。

「追うよ。」

 隊員たちに一声かけると、ミュムラー少佐は急反転してネウロイを追う。ネウロイのビームがヘッペシュ中佐たち3人に集中し、反撃する余裕もなくシールドでビームを防いでいる。このままでは包み込まれてやられてしまう。

「撃て!」

 まだ距離は少し遠いが、とにかく銃撃してネウロイを散らさなければならない。しかしやはり距離があると有効弾が少ない。そこへ、右手の方からデブレーディ大尉とケニェレシュ曹長が凄い勢いで突っ込んできた。そんな勢いだとネウロイの中に突っ込んでしまうと思うと、銃撃を浴びせながら本当にネウロイの集団の中に突っ込んでしまった。

「ひゃあ、無茶するなぁ。」

 しかし、その無茶が奏効して、ネウロイの集団が崩れ立つ。今がチャンスと、ミュムラー少佐たちはネウロイに肉薄して銃撃を叩き込む。ヘッペシュ中佐たちは、ネウロイが崩れた隙に一旦距離を取って態勢を立て直すと、猛然と反撃に移る。デブレーディ大尉たちはと見ると、突っ込んだ時に被弾したらしく、ケニェレシュ曹長がユニットから煙を上げながら、デブレーディ大尉に守られて離れて行く。こちらにも損害は出たが、致命的な損害ではない。崩れたネウロイは、態勢を立て直す暇もなく、1機、また1機と砕け散って行く。どうやらこのネウロイは撃滅できそうだ。

 

 ケニェレシュ曹長はユニットを損傷したが、それ程酷い損傷ではなかったようで、単独で基地へ引き返し、デブレーディ大尉はすぐに戻ってきた。ひとまず警戒態勢に戻る。しかし、ネウロイはそう長くは休ませてくれない。程なく次が現れた。

「ネウロイ発見。大型です!」

 発見を告げるヴラスノヴォルスカ曹長の声がかすかに震える。こちらは7人いるものの、大型ネウロイは、ビーム攻撃は激しく、装甲は硬く、コアを発見して破壊しなければ再生してしまうというのだから、なかなかの難敵だ。

「とにかく反復攻撃して装甲を削って早くコアを発見すること。コアを発見したら集中攻撃して破壊すること。それが肝心だから、いいね。」

 ヘッペシュ中佐はそう言うが、ミュムラー少佐はまずいなと思う。ミュムラー少佐たちがいたブリタニアは、既に戦線からは後方になっていたので、ミュムラー少佐自身はともかく、若いフェリク少尉とヴラスノヴォルスカ曹長は、大型ネウロイと戦ったことがない。

 

 しかし、そんなことにはお構いなく、大型ネウロイは近づいて来る。

「突撃!」

 ヘッペシュ中佐の号令と共に、ハンガリー隊の隊員たちが相次いで攻撃を加える。遅れてはいけないと、ミュムラー少佐も突っ込む。そこへ、大型ネウロイはばっと全方位に向けて一斉にビームを放つ。まるでハリネズミのようなビーム攻撃だ。回避する隙間もないほどで、シールドを張って受け止める。一発一発のビームも小型ネウロイよりずっと強力で、シールドで受け止めると衝撃が腕に響く。

「きゃっ!」

 すぐ後ろでヴラスノヴォルスカ曹長の悲鳴が聞こえた。シールドでビームを受け止めた衝撃が強烈で、態勢を崩してしまっている。そこに次のビームが飛んで来る。

「危ない!」

 ミュムラー少佐は間に割り込んで、飛んできたビームをシールドで受け止める。受け止めた衝撃が、肩まで響く。

 

「どうしたの? もっと肉薄して攻撃して。」

 半ば叱責のような調子でヘッペシュ中佐が通信を送ってくる。しかし、できないものはできない。

「すみません。ポーランド隊の隊員は大型ネウロイと戦った経験がないんです。」

 ヘッペシュ中佐が一瞬絶句する。

「そ、そうなの? うーん、じゃあせめてビームを引き付けて。」

「はい。」

 対大型ネウロイ戦ではポーランド隊は戦力にならないと言っているようなもので、隊長のミュムラー少佐としては辛い所だ。でも7人いれば大型ネウロイも倒せるだろうと踏んでいた、ヘッペシュ中佐も当てが外れて辛い所だろう。

 

 ハンガリー隊は、再び大型ネウロイめがけて突入する。しかし、ポーランド隊が牽制しているとはいえ、4人で大型ネウロイを攻撃するのはなかなか大変だ。装甲の一部を破壊しても、さらに攻撃を加えて損傷を拡大するよりも再生する速度の方が速く、コアを露出させるには至らない。そんな所へ司令部から通信が入る。

「グラッサーだ。エステルライヒ隊から増援を出したから、もう間もなくそちらに着く頃だ。着いたら共同して撃破してくれ。」

 これは嬉しい。増援が来てくれれば、大型ネウロイといえども撃破できるに違いない。

 

 そして、待つほどもなくエステルライヒ隊が到着する。

「エステルライヒ隊のシャル大尉です。今からエステルライヒ隊が攻撃するので、牽制をお願いします。」

 そう言うと、エステルライヒ隊は休む間もなく突入を開始する。シャル大尉はシュトラッスル准尉を連れて大型ネウロイの側面に切り込むと、銃撃を浴びせかける。ハンガリー隊とポーランド隊も周囲から牽制攻撃をかける。周囲からの攻撃にビームが散った隙を突いて、シュトッツ中尉がボッシュ軍曹を連れて肉薄する。シュトッツ中尉が銃撃を浴びせ、続いてボッシュ軍曹の大口径機関砲が火を噴く。がんがんと機関砲弾が連続して炸裂すると、大型ネウロイの上部装甲が大きく砕け散った。

 

 反転して再度攻撃に向かうシュトッツ中尉とボッシュ軍曹に、大型ネウロイのビームが集中する。それをものともせずに、二人はビームの隙間を縫うようにして肉薄して行く。

「どうして? まるでビームが避けているみたい。」

 集中するビームの中をすり抜けて進むエステルライヒ隊の二人に、ミュムラー少佐は目を見張る。だが、よく見るとネウロイのビームにもある程度のパターンがあって、それに合わせることで巧みに間をすり抜けていることが見て取れる。

「なるほど、そんなテクニックがあるんだ。」

 いや、わかった所で、実際にそれをやるのは生半可な技術では難しい。シュトッツ中尉の200機近い撃墜記録は、それを裏打ちする確かな空戦技術があってのものなのだろう。

 

 機関砲弾が炸裂して、大型ネウロイの装甲の破片が大きく飛散する。大きくえぐれたその下から、怪しく光るコアが姿を現す。それを見逃さず、すかさずシャル大尉が射弾を送る。

「いただき!」

 大型ネウロイがぱっと砕け散る。この分なら、今回はネウロイの抵抗を排除して、シオーフォクを奪還できそうだ。これも前線基地を一気に拡張して、戦力を集中させた司令官のおかげだ。司令官は過去に驚異的な戦果を重ねて来たという話も耳にした。この司令官の下でなら、きっとオストマルク奪還も成るに違いない。隊員たちの士気はいやが上にも盛り上がる。


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