ストライクウィッチーズ オストマルク戦記   作:mix_cat

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第二十六話 ブダペスト攻略作戦会議

 シオーフォクを制圧して、次はいよいよブダペストの巣への攻撃となる。そこで、ザグレブのオストマルク軍総司令部で改めて作戦会議が開かれる。もちろん、芳佳も呼ばれて、チェルマク少将と鈴内大佐を連れて参加する。オストマルク軍総司令官のアルブレヒト・レーア上級大将が現れて会議が始まる。

「諸君、いよいよブダペストの巣への攻撃だ。最早春は目前で、ネウロイの活動は活発化しつつある。今この機会を逃せば、ブダペストの巣の破壊は困難となり、オストマルクの解放は難しくなる。そうならないために、一度の攻撃で巣を破壊しなければならない。相応の覚悟を持って作戦に臨んで欲しい。」

 レーア上級大将の指摘はもっともだが、オストマルクにあるネウロイの巣はブダペストだけではない。恐らく次に目標になるウィーンの巣と戦う時には既にネウロイの活動が活発化していて、全力でぶつかりあうことになるだろうから、春になってネウロイの活動が活発化しても勝てる作戦を考えなければならないのではないかとも思う。それはともかく、オストマルク軍総司令部ではどのような作戦を考えているのだろうか。

 

 レーア上級大将が再び口を開く。

「さて、ブダペストの巣を撃破する作戦だが・・・。」

 勿体をつけるように言葉を区切った後、レーア上級大将は視線を芳佳に向ける。

「宮藤司令官、この中でこれまでにネウロイの巣を破壊した経験があるのは貴官だけだ。だから、貴官に作戦を提案して欲しい。」

 どんな作戦が示されるのかと待ち構えていた芳佳としては盛大にずっこけるしかない。何だ、何も作戦は用意されていないのか。それで戦端を開くとか、無謀以外の何物でもない。しかしまあ、国を取り戻したいという必死な気持ちはわかる。ここはひとつ、即席の感は否めないが、作戦を提案してみよう。

「では作戦案を申し上げます。」

 総司令部に参集した将軍たちの視線が芳佳に集まった。

 

「作戦は、基本的にはダキアの巣を破壊した時と同じ方法を考えています。カールスラント軍が開発した地上戦艦ラッテを使って巣を攻撃します。現在ダキアからラッテを回送している所ですので、ラッテの移動が終わって整備ができたら作戦開始としたいと思います。」

 ラッテはカールスラント技術省が作り上げた秘密兵器だ。戦艦に搭載しているのと同じ28センチ連装砲塔を搭載している、重量1000トンの巨大戦車だ。これを使ってダキアのブカレストの巣を破壊した、実績のある作戦なので、参集した将軍たちからは異論は出ない。ところが、鈴内大佐が芳佳の袖を引く。

「宮藤さん、実は移動が間に合いません。元々重量があり過ぎて、長距離移動では度々走行装置に故障を生じているんですが、雪解けが始まってほとんど走行不能になりました。作戦には間に合いません。」

「えーっ? ラッテは来れないの?」

 言われて見れば、当然考えなければならなかった事態だ。そもそも、量産されている中では最大の、カールスラント軍のティーゲル重戦車は重量57トンだが、それでも長距離走行では走行装置の故障が多発することから、長距離の移動には鉄道貨車での輸送が原則になっている。それよりはるかに重いラッテが自走して移動するのには無理がある。だからといって、鉄道輸送しようと思っても、大き過ぎて積載できる貨車がない。総司令部にざわめきが広がる。もはやオストマルクの奪還は絶望なのだろうか。

 

「ちょっと連合軍総司令部に行って相談してきます。」

 芳佳の言葉に、安堵の声が広がる。いや、連合軍総司令部に相談しても、良い方法が見つかるとは限らないので、安堵するには早いのだが。しかし、居並ぶオストマルク軍の将軍たちの頼りなさはどうだろう。全部芳佳に頼りきりではないか。鈴内大佐はこの中では階級は高くないので黙っているしかないが、宮藤さんばかりに頼るなと叫び出したい気分だ。

 

 仕方がないので、芳佳は地中海方面統合軍総司令部に向かう。果して打開策は見つかるのだろうか。不安を抱えながら総司令部に着くと、もう3将軍は集まって芳佳を待っていてくれていた。

「モエシア方面航空軍団司令官の宮藤芳佳です。本日はお忙しい中お時間を取っていただきありがとうございます。」

 そう言って頭を下げる芳佳に、3将軍の一人でリベリオン陸軍のマーク・ウェイン・クラーク大将が明るく遮る。

「オーケー、そういう固い挨拶は抜きにしようじゃないか。知らない仲でもないんだし。」

 いつもながらこのリベリオンの将軍の気さくさには助けられる。無駄な緊張が一気に緩んだ。これもリベリオン流の部下統率術なのだろうか。新米司令官の芳佳にとっては、学びになることは多い。

「はい、ありがとうございます。実は、ブダペストの巣の攻撃に使おうとしたラッテが、長距離移動が困難で作戦に使えません。何か替わりになる強力な兵器はないでしょうか。」

 すると、カールスラント陸軍のハインリヒ・ゴットフリート・オットー・リヒャルト・フォン・フィーティングホフ・ゲナント・フォン・シェール上級大将が答える。

「ラッテが使えないか。ラッテに替わるものといえば、モンスターだな。」

 カールスラント軍はびっくりするような新兵器を生み出すことも多いが、呆れるような珍兵器を生み出すことも少なくない。それを意識して、クラーク大将が多少胡散臭げに尋ねる。

「何だい、そのモンスターっていうのは。」

「カールスラント技術省が開発中の巨大戦車、というか自走砲だ。口径800ミリの巨大カノン砲を搭載した自走砲で、ラッテを上回る破壊力を誇るものだ。」

 これは驚いた。ラッテでもありえない程の巨大戦車だというのに、それを上回る巨砲を積んだ戦車があるのか。もっとも、口径800ミリのカノン砲を搭載した列車砲なら以前から使われている。これは同じ砲を自走砲化したものだ。驚く芳佳を尻目に、クラーク大将が冷静な突っ込みを入れる。

「それは、どのくらいの大きさ、重さなんだい?」

「全長42m、全幅18m、重量は1500トンだ。」

「それはどうやって運ぶんだい?」

「最大時速10キロで自走する。」

「オー、1000トン戦車でも移動できないのに、1500トン戦車がどうやって移動するんだい?」

「それは・・・。」

 フィーティングホフ上級大将は黙ってしまった。

 

 他には何かないのだろうか。そこで芳佳はふと思い付いた。ブダペストの街は、街の中央をドナウ川が流れている。元々ブダペストは、ドナウ川西岸の街ブダと東岸の街ペストが合併してできた街だ。そのドナウ川は下流でモエシアとダキアの間を流れて、黒海に注いでいる。モエシアからダキアにラッテを運んだ時は、ラッテを浮きドックに乗せてドナウ川を越えたが、浮きドックに乗せてドナウ川を遡らせれば、ブダペストまで運ぶことができるのではないか。

「ラッテを浮きドックに乗せて、ドナウ川を遡らせて、ブダペストまで運んで攻撃に参加させることはできませんか。」

 これには、扶桑海軍の山梨征邦大将が答える。

「いいかね、浮きドックというのは川を遡るようにはできていないんだよ。仮にできたとしても、戦車というものは揺れる船の上からでは正確な砲撃はできない。とても有効な攻撃はできないだろう。」

「えっ? 駄目なんですか?」

「そりゃそうだよ。戦車というものはしっかりした大地の上で、停止してから撃たなければ当てられないんだよ。海軍陸戦隊にも戦車はあるから・・・、といっても宮藤君は陸戦隊の事は知らないね。」

 そう言われて見ると、戦車は必ず停止してから砲撃していたような気がする。

「でも、軍艦は海の上で揺れながら射撃しますよね? しかも全速で航行しながら。」

「それは、そういう前提で設計しているし、そういう条件で射撃する訓練を重ねているからね。」

 

 良い考えだと思ったのだが、残念ながらそうはいかないようで芳佳は落胆する。しかし、それならと思う。

「じゃあ、戦艦が川を遡って作戦に参加すればいいんじゃないですか?」

 しかしこれも山梨大将に却下される。

「戦艦は川を航行するようにはできていないんだよ。いくらドナウ川が大河だと言っても、戦艦は底がつかえて通れないんだよ。」

 それでもと芳佳は食い下がる。

「でも、ずっと以前に、大和がライン川を遡上して作戦に参加したことがあるって聞きました。」

「ああ、確かにそういう作戦をやったことがある。でもね、あれだってそのままでは底がつかえるから、舷側に巨大な浮きを付けて、吃水を上げて、相当な無理をして実現したんだよ。」

「じゃあ今回も浮きを付けて・・・。」

「あのね、ライン川に比べてドナウ川は底が浅い部分があるんだ。いくら浮きを付けても戦艦を通すことはできないんだよ。駆逐艦ぐらいなら通れるけれど、その程度の砲力では巣の破壊は難しいだろう?」

「・・・。」

 やはりだめか。どうやって巣を破壊したら良いのか、芳佳は途方に暮れる。

 

 ふと思いついたように、クラーク大将が言う。

「吃水が浅くて、大型の大砲を積んでいる軍艦があればいいのかい? ブリタニアがそんな船を持っていたんじゃないかな?」

 早速ブリタニア海軍の司令官が呼ばれる。

「吃水が浅くて、大型の大砲を積んだ艦ですか? 確かにありますね。ちょっと古い艦ですが、エレバス級モニター艦がそうです。排水量7,200トンで、戦艦と同じ38.1センチ連装砲塔1基2門を搭載しています。本来の目的は、沿岸砲台の破壊で、沿岸の浅海面に侵入できるように吃水を浅くしてあります。エレバス級の吃水は3.56mで、同クラスの主砲を搭載した、巡洋戦艦フッドの10.2m、戦艦キングジョージ5世の8.8mと比較して半分以下です。」

 戦艦と比較するのは無理があるが、それにしても吃水の浅さが際立つ。扶桑海軍で排水量が近い、例えば巡洋艦大淀は排水量8,164トンで吃水6.1m、巡洋艦加古は排水量8,700トンで吃水5.6mだ。駆逐艦秋月でも排水量2,700トンで吃水4.15m、駆逐艦夕雲でも排水量1,885トンで吃水3.76mと及ばない。まあ、元々の設計が基本的に違うので、比較する意味はあまりないのだが。

「エレバスとテラーの2隻がありますので、2隻とも参加させるようにします。あと、護衛には駆逐艦サウスウォルドとテットコットを付けましょう。」

 これは凄い。2隻合せて38.1センチ砲が4門だ。ラッテの28センチ砲2門よりはるかに強力だ。護衛に付けるという駆逐艦は、ハント級護衛駆逐艦で、10.2センチ連装砲3基6門を搭載している。この艦も吃水2.29mと浅く、今回の任務に好適だ。

 

 クラーク大将が付け加える。

「リベリオンからも護衛艦を出すことにするよ。駆逐艦リチャード・M・ローウェルとシェルトンの2隻だ。」

 この2隻は、ジョン・C・バトラー級護衛駆逐艦で、12.7センチ砲を2門搭載している。吃水は3.0mだ。対抗するように山梨大将も言う。

「それなら扶桑海軍からも護衛艦を出そう。黒海に来ている第21海防隊の海防艦第194号と第198号だ。」

 この2隻は丁型海防艦で、12センチ砲2門を搭載している。吃水は3.05mだ。これら護衛艦の砲は軍艦の砲としては小型だが、陸軍の砲で言えば重砲に該当する、強力な砲だ。陸軍ではなかなか用意できない強大な火力が加わったと言える。

 

 何とかなるものだ。これだけの戦力が加われば、巣の破壊も不可能ではないだろう。芳佳の使命は、これらの艦隊を、巣に接近して砲撃、破壊するまでいかに守り抜くかということになる。これだけの戦力を出してもらうのだから頑張らなくっちゃと、芳佳は決意を新たにする。


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