ストライクウィッチーズ オストマルク戦記   作:mix_cat

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第二十八話 決戦、ブダペスト攻略戦2

 ネウロイの反撃はなお続く。早くも次のネウロイが出現した。

「ネウロイ発見! 大型です! 4機もいます!」

 部隊に動揺が走る。ハンガリー隊5名、スロバキア隊2名の合計7名で、大型ネウロイ4機を相手に勝てるのだろうか。さっきのような攻撃で、1機ずつ撃破して行くしかないだろうが、4機は明らかに編隊を組んで向かって来ており、攻撃している間他の大型ネウロイが黙って見ているとは思えない。こんな時どうやって戦えばいいのか、誰も経験がない。ヘッペシュ中佐が本部に連絡する。

「大型ネウロイ4機が編隊を組んで襲来しました。指示をください。」

 

 シャーメッレーク基地では、報告を受けたグラッサー中佐が、どう対処するか判断を迫られていた。

「大型4機か・・・。」

 巣への攻撃ともなると、複数の大型ネウロイが同時に攻撃してくることもあるとは予想していたが、いざ出て来るとやはり緊張する。これまでの知識や経験では、確実に勝てる方法はわからない。ただ、今前線にいる戦力だけでは足りないことは明らかだ。グラッサー中佐は通信機を取る。

「増援部隊を送るから、それまでは監視していてくれ。」

「監視ですか? 進行を遅らせるための攻撃はしませんか?」

「消耗を避けたい。増援部隊と合流するまでは、戦闘は極力避けてくれ。」

「了解しました。」

「ネウロイが編隊を組んだままでは撃破は難しいだろうから、編隊を崩して、各個撃破する方法を考えてくれ。」

「・・・、了解しました。」

 ヘッペシュ中佐からの応答に少しの間があった。ヘッペシュ中佐も編隊を崩せと言われても、どうすれば良いのか考えあぐねているのだろう。

 

 グラッサー中佐は無線を切って振り返る。

「シャル大尉、エステルライヒ隊出撃だ。」

 待ってましたとばかりに、シャル大尉はぴょんと跳ねるように立ち上がる。その時、それまで黙って見ていた芳佳が声を掛ける。

「エステルライヒ隊も良いけど、ここは抜刀隊にしてもらえるかな。」

 視線を移したグラッサー中佐に、芳佳はにこっと笑いかける。しかし、自分の指示を遮られたグラッサー中佐としては面白くない。

「どうしてですか? エステルライヒ隊では力不足だとでも言うんですか。」

 同じカールスラント人として、エステルライヒ隊を実力不足と見られるのは不満だ。それに、自分の指揮が不適切だと言われたようにも感じる。確かに、シオーフォクの戦いで抜刀隊の実力の程は見せつけられたが、だからといってエステルライヒ隊では無理ということにはならないだろう。

 

 むっとした表情を見せるグラッサー中佐に、芳佳は困ったなと思う。命令して従わせるのは簡単だが、それでは不満が残って肝腎の時に不都合の元にならないとも限らない。何とか機嫌良く、任務に当たってもらいたい。

「ええとね、力不足とかじゃなくて、ここは抜刀隊に行ってもらった方がいいと思ったんだよね。」

 グラッサー中佐は相変わらず不満気な様子を残している。

「なぜですか?」

 今回現れた大型ネウロイは比較的よく出現するタイプで、多分中央を真二つに斬り裂けば瞬殺できる。茅場と桜庭と望月に扶桑刀で斬らせれば、一瞬で残り1機になる。久坂の薙刀か、高田の槍を同時に使えば、4機なら一度に瞬殺できるが、薙刀や槍を持って行かせると、機関銃を一緒に使うのが難しくなるので、まあ避けた方が無難だろう。残り1機にしてしまえば後はどうとでもなる。しかし、そう説明してもグラッサー中佐の不満は解消されないだろう。芳佳はグラッサー中佐に納得してもらえそうな、もっともらしい説明を考える。

「ここでエステルライヒ隊に出てもらうと、ブダペストに到達するまでに消耗して、肝腎の巣への攻撃に参加してもらえなくなるじゃない。だからエステルライヒ隊の出撃はもう少し後にした方がいいと思うんだ。」

 

 芳佳の説明にグラッサー中佐ははっとする。そうか、この司令官は、巣への攻撃の時にはエステルライヒ隊がなくてはならないものと、そのように高く評価してくれていたのか。エステルライヒ隊を力不足と見られたのかと、そんな受け取り方をしたことを恥ずかしく思う。

「失礼しました。そういうお考えとは気付かず、変な受け取り方をして申し訳ありません。」

 そんなグラッサー中佐に、芳佳あくまで鷹揚だ。

「ううん、別に謝るほどの事じゃないよ。戦闘中は誰でも気が立っているしね。」

 言われて見ればそうだとグラッサー中佐は思う。巣との戦いを指揮する緊張感で、気が立っていたのだと思う。そんなことではいざという時に思考が硬直して、適切な判断ができないことになる。さすがに百戦錬磨の司令官は、戦場の心理をよく理解している。

「ありがとうございます。もう少し冷静さを維持できるように心がけます。」

 もっとも、実際には芳佳はそこまで考えていたわけではない。

 

 抜刀隊が格納庫に集合し、出撃準備を整える。芳佳が出撃を見送りに行ってみると、久坂が薙刀を、高田が長槍を持っている。薙刀や長槍は、扶桑刀の様に使わない時は背負っているというわけには行かないので、これでは機関銃が使えない。

「あれっ、陽美ちゃん、尚栄ちゃん、機関銃を持って行かないの? 駄目だよ、それじゃあ小型ネウロイが大量に出てきた時に対処できないよ。」

 抜刀隊隊長の茅場大尉が、困った様子で答える。

「私もそう言ったんですけれど、得意な武器で戦いたいって言って聞かないんです。」

 久坂が訴える。

「お願いです。巣との決戦なんですから、得意な武器で思う存分戦わせてください。」

 高田も同じ思いだ。

「機関銃だけだと、大型ネウロイが出てきた時に支援しかできません。わたしも全力で戦いたいんです。」

 気持ちはわかるが、芳佳の立場では様々な状況への対処を考えないわけにはいかない。

「うん、そうさせてあげたい気持ちもあるんだけど、どういう状況になるかわからないからね。不利な状況になって怪我されたくないし。」

 

 そこへ、グラッサー中佐が意見する。

「差し出がましいようですが、短機関銃を持って行ったらどうですか?」

「短機関銃?」

 扶桑では、短機関銃は陸軍が開発して装備しているが数が少なく、海軍では輸入したものを陸戦隊が少数装備している程度なので、芳佳にはなじみがない。

「威力は劣りますが小型軽量なので、携行するにも邪魔になりませんし、反動も小さいので片手でも大丈夫です。」

 そう言ってカールスラント製の短機関銃MP-40を持って来させる。なるほど、扶桑海軍標準装備の99式2号2型改13ミリ機銃が全長1,883㎜、重量37㎏あるのに対して、全長845㎜、重量4㎏とはるかに小型軽量だ。折り畳めば全長625㎜とさらに携行しやすくなる。カールスラントのウィッチは、メインの武器が故障した時の予備として持って行く場合が多いという。

「威力は限定的ですが、小型ネウロイ相手なら結構使えます。」

「うんわかった。じゃあ陽美ちゃん、尚栄ちゃんこれを持って行って。」

「はい!」

 二人はMP-40を装備すると、にこにこしながら出撃準備を整える。

「発進!」

 茅場大尉の命令一下、抜刀隊は大型ネウロイの殲滅に向かう。

 

 抜刀隊が応援に向かっている頃、ハンガリー隊とスロバキア隊は大型ネウロイの編隊と対峙していた。グラッサー中佐からは遅滞のための攻撃はしなくて良いと指示されているが、可能なら遅滞させられて方が良いし、どうやって編隊を崩すか、少しあたりを付けておいた方が良い。試しに、ポッチョンディ大尉とモルナール少尉が接近する。途端に4機の大型ネウロイが一斉にビームを放ってきた。凄まじい量のビームだ。大型ネウロイは1機だけでもハリネズミのように多数のビームを放って来るが、それが4機も一斉に攻撃してくるのだ。とてもじゃないが、ビームを掻い潜って接近することなど覚束ない。ポッチョンディ大尉たちは、シールドでビームを防ぎながら、ほうほうの体で逃げて来る。

「中佐、これじゃあ攻撃どころか近付くこともできませんよ。」

「うーん、そうだね。困ったな、どうやって編隊を崩そうか。」

 これでは多少の応援部隊が来ても、まともに攻撃できない。1機ずつ集中して反復攻撃をかけたいところだが、近付くことも難しいのでは、どうしようもない。このまま大型ネウロイの編隊が進んで地上部隊と遭遇することになれば、ビームの雨を降らされて地上部隊が壊滅することにもなりかねない。ヘッペシュ中佐の表情に、焦りの色が浮かんでくる。

 

「扶桑の抜刀隊です。応援に来ました。」

 抜刀隊が到着し、茅場大尉からの連絡が入っても、ヘッペシュ中佐の苦悩は晴れない。

「応援感謝します。ただ、まだ攻撃方法の手掛かりがつかめていないので、少し待機してください。」

 ところが茅場大尉からの応答は意外なものだ。

「攻撃は我々が行いますから、支援をお願いできますか。」

「いいけど・・・、どうやって攻撃するの?」

「まず、前に出ている2機に、左右から牽制攻撃をかけてビームを引き付けてください。その間に前の2機を同時攻撃して、さらに直後に後ろの2機を攻撃します。」

 ヘッペシュ中佐にはどうもよくイメージできないが、茅場大尉は自信に満ちているようなので、ここは言う通りにしてみよう。

「了解。我々は牽制攻撃を行います。」

 

 ヘッペシュ中佐の了解を貰って、茅場大尉は隊員たちに指示する。

「まず前の2機を私と桜庭中尉が攻撃する。後ろの2機からの攻撃は私たちに集中するだろうから、そのタイミングで望月軍曹と久坂曹長が後ろの2機を攻撃する。高田軍曹と小山軍曹は牽制に加わって。」

「えー、わたし牽制ですか? 折角槍持ってきたのに。」

「そう言わないで。まだ腕を振るってもらう機会は幾らもあるから。」

「はぁい。」

 さすがに戦闘場面になっては、高田もそんなにわがままは言わない。高田はMP-40短機関銃を構えると、小山と共にハンガリー隊に合流する。

 

「攻撃開始!」

 ヘッペシュ中佐の号令と共に、各隊分散して前列の2機の大型ネウロイめがけて突入する。対する大型ネウロイは、各方向にビームを放ってウィッチたちを迎え撃つ。さらに、後列の2機の大型ネウロイまでビームを放って来るからもう無茶苦茶にビームが飛んで来る。その縦横に飛び交うビームの中を、遮二無二潜り抜けて銃撃を加える。そんな中では銃撃の効果は大して上がらず、ビームを防ぐだけでも精一杯だ。ただ、背後から不意に撃たれたりしないのだけが救いだ。

 

 しかし、そうしてネウロイのビームが散った隙を突いて、茅場と桜庭が大型ネウロイに肉薄する。前列より後列の大型ネウロイの方がやや高度を取っているので、前列の後列の大型ネウロイから死角になるように、やや低い位置から上昇しながら肉薄して行く。牽制している各隊にビームが集中しているため、向かって来るビームはわずかだ。茅場は背中の扶桑刀をすらりと抜く。幕末の名刀の勝村徳勝で、強靭さと大業物に匹敵するような斬れ味に定評がある。茅場は魔法力を纏った扶桑刀を上段に振り上げると、気合一閃斬り付ける。大型ネウロイの底を舐めるように飛行しながら斬り裂けば、魔法力の光が大型ネウロイを縦断する。さっと振り抜けば両断されたネウロイは、鮮やかな光を放つとばらばらに砕け散る。

 

 直後、後続の大型ネウロイが多数のビームを集めた強力なビームを茅場めがけて放つ。反射的に開いたシールドに、強力なビームが直撃すれば凄まじいほどの打撃が襲う。茅場は歯を食いしばってそれを凌ぐ。

「きゃあっ!」

 近くで悲鳴が聞こえた。同じように後続のネウロイから強力なビームを浴びせかけられた桜庭が、打撃を支えきれずにシールドごと弾き飛ばされたのだ。

「桜庭さん!」

 叫ぶ茅場だが、強力なビームを支えるだけで精一杯で、とても助けることなどできない。弾き飛ばされた桜庭の背後には、今しも砕け散ったばかりの大型ネウロイの破片が渦巻いている。ネウロイの破片も崩壊が進めば光る砂のようなもので大したこともないが、崩壊を始めたばかりの破片は大きく、硬く、そして鋭い。その中に飛び込んでしまってはたまらない。しかし、正面からのビームを防いでいるので、背後にシールドを張ることもできない。鈍い打撃音とともに鮮血が迸る。

 

 その直後、二人を飛び越えて望月と久坂が大型ネウロイの前に躍り出る。

「たあっ!」

 久坂の薙刀が旋風を巻き起こして大型ネウロイに喰らい付く。

「やあっ!」

 望月の扶桑刀の斬撃が大型ネウロイの装甲を斬り裂いた。

 紫電一閃、大型ネウロイは無数の破片を振り撒いて空に散る。

 

「桜庭さん!」

 雪のように舞い散るネウロイの破片の中で、茅場は落ちて行く桜庭を追う。ようやく追いついて受け止めれば、桜庭は背中に深い傷を負って重態だ。

「望月さん、基地まで運んで!」

「はいっ!」

 望月が桜庭を抱きかかえて飛んで行く。その後ろ姿を見送りながら、大型ネウロイの撃滅に成功はしたものの、無傷では済まなかった。

「ちょっと損害を出すには早すぎたかな。」

 そう呟く茅場の胸に苦いものが込み上げる。


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