ストライクウィッチーズ オストマルク戦記   作:mix_cat

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第三十話 決戦、ブダペスト攻略戦4

 ハンガリー隊が撤退してくる。ヘッペシュ中佐からは他の各隊に指示がなかったため、結果的にハンガリー隊が突撃して撃退されるのを見ているだけになってしまった。抜刀隊の茅場大尉は思う。ハンガリー隊のヘッペシュ中佐は、積極的で勇敢なのはいいけれど、今前線にいる中では最上級者なのだから、もう少し自分たち友軍との協同攻撃を考えてもらえると良かった。仮にもっと上手い作戦を自分が考え付いたとしても、何分ヘッペシュ中佐の方が階級が上とあっては、茅場大尉としては指図めいたことは言いにくい。でもそんな遠慮をしたせいで、大した戦果もなく、損害だけを出す結果になってしまったとも言える。このあたりが混成部隊の難しい所だ。宮藤さんがいて指揮をしてくれればいいのにとも思うが、司令官の立場ではそうもいかないだろう。

 

 さて、このネウロイを撃破するためにはどうしたものかと考えていると、小山軍曹が寄ってくる。

「隊長、わたしが小型ネウロイの壁に穴をあけますから、後ろの大型ネウロイを撃破してください。」

 そう言って懐から棒手裏剣を取り出して見せる。なるほど、小山の手裏剣なら、大型ネウロイにはあまり効果はないものの、小型ネウロイなら撃破できるし、一度に複数の小型ネウロイを攻撃できるので、まとめて撃破するのに向いている。それで空いた穴を抜けて大型ネウロイに肉薄し、斬撃で破壊してしまえば残った小型ネウロイの背後からの攻撃もそれほど脅威ではない。同時に他の隊に残った小型ネウロイを攻撃してもらえば、なお確実だ。

「うん、そうだね、それなら上手く行きそうだね。じゃあそれで行こう。」

「はい!」

 小山は自分の特技と発案が局面打開に役立ちそうなので、嬉しそうににこにこしながら肯く。

 

「ハンガリー隊、スロバキア隊、今から我々が大型ネウロイを攻撃しますから、同時に小型ネウロイを攻撃して小型ネウロイが背後から攻撃して来ないようにしてください。」

 そう伝えながら、茅場大尉は内心ちょっとひやひやしている。ハンガリー隊のヘッペシュ中佐は上級だし、スロバキア隊のゲルトホフェロヴァー中尉は下級とはいえ指揮下にいるわけではない。ウィッチ隊の指揮官ともなると、自信とプライドが高い人が多いので、素直に従ってくれるとは限らないし、へそを曲げたら梃子でも動かなくなる恐れもある。しかし、それは杞憂だった。

「了解した。」

「了解しました。」

 両隊の隊長はあっさり了解の応答を返してくる。やはり、ジグラットを一撃で斬り倒したり、大型ネウロイ4機を一瞬で撃滅したりするのを目の当たりにした驚きは強烈で、ヘッペシュ中佐は、階級のことは置いておいて、扶桑ウィッチには一目置くようになっているのだ。ヘッペシュ中佐が了解しているのだから、同じオストマルクウィッチ隊のゲルトホフェロヴァー中尉に否やはない。

 

「行きます。」

 小山軍曹が飛び出す。小型ネウロイがビームを集中させてくるが、軽い身のこなしでひょいひょいとかわして進んで行く。そして十分肉薄すると、両手に2本ずつ、計4本持った棒手裏剣を、さっと腕を振って一度に投擲する。棒手裏剣はそれぞれが狙った小型ネウロイを貫いて、一度に4機の小型ネウロイが砕け散る。小山軍曹は素早く次の手裏剣を手にすると、目にも留まらぬ速さで投擲する。

「もういっちょ。」

 砕け散る小型ネウロイの破片が一面に舞い散る中、更に手裏剣を投げる。あっと思う間もなく、およそ10機の小型ネウロイが消滅した。

 

「隊長!」

 小山軍曹が声を掛けるが、その時にはもう茅場大尉は小山の開けた穴を潜り抜け、大型ネウロイめがけて突っ込んでいる。後を追うように進んできたハンガリー隊とスロバキア隊のメンバーが、残った小型ネウロイに一斉に攻撃をかける。各隊の攻撃に足止めされて、茅場大尉を追う小型ネウロイはいない。狙い通りだ。

 

 接近する茅場大尉に向けて、大型ネウロイは多数のビームを束ねた、太く強力なビームを浴びせかけてくる。茅場大尉は、背中を擦るほどのぎりぎりの間隔でそのビームを巻くように回避しながら、最短距離で大型ネウロイに肉薄して行く。そして肉薄しながら、背中の扶桑刀をすらりと抜き放つ。氷のような冷たさを感じさせる白刃が、陽光を反射して凄愴とした光を放つ。再び大型ネウロイが強力なビームを放ってきた。茅場大尉はわずかに体を浮かせてかわすと、ビームに腹を擦りつけるような勢いで、一直線に大型ネウロイに迫る。

「喰らえ!」

 叩き付けるように斬り付けた白刃が、大型ネウロイの強固な装甲をまるで紙でも斬るように一筋に斬り裂いて行く。茅場大尉は大型ネウロイの装甲を、前から後ろまで一息に斬り裂いた。

 

「しまった、浅い。」

 今回の大型ネウロイは胴体が太いので、斬撃がコアまで届かなかったのだ。装甲にただ一筋の切れ込みを入れただけでは、大型ネウロイはたちどころに再生してしまう。茅場大尉は急反転して再びネウロイに肉薄すると、刀のつばが装甲の表面をこするほどに深く斬り付ける。

「今度はどうだ!」

 しかし、やはり浅かったようで、大型ネウロイは崩壊する様子を見せず、悠然と飛行を続けている。これでは撃破することはできない。芳佳のように魔法力を刀に集めて、魔法力の刃の斬撃を浴びせることができれば倒すことができるのだろうが、あいにく茅場大尉はそのような技は習得していない。自分にはこのネウロイを倒せないのかと、茅場大尉は臍を噛む。

 

「隊長! わたしが行きます!」

 高田軍曹が長槍を振りかざして突っ込んでくる。そうか、自分の扶桑刀の刃渡りでは届かない深さに潜んでいるコアでも、高田軍曹の長槍で突き刺せば届くに違いない。

「よし、行けっ!」

 茅場大尉は扶桑刀を素早く機銃に持ち替えて、距離を取りながら銃撃を浴びせかけ、大型ネウロイからのビームを引き付ける。そこに高田軍曹が突っ込んだ。

「宝蔵院流槍術の威力を見せてやる!」

 そう叫びながら繰り出した長槍の穂先はネウロイの装甲を易々と貫き、深々と突き刺さる。しかし何としたことか、それでもコアには届かない。しかし、高田軍曹はまだ諦めない。

「これならどうだ!」

 高田軍曹は右腕をぐっと体に引き付けると、突き刺さった長槍の石突を掌底で思い切り突いて、石突が装甲の中に埋まるほどに長槍を突き込む。

「やったの?」

 茅場大尉は大型ネウロイを凝視する。1秒、2秒、大型ネウロイに変化はない。何と長槍が完全にネウロイの中に埋まるほどに深く突き刺しても、丸々と太った大型ネウロイの分厚い装甲は抜き切れず、コアには届かなかったのだ。

 

 槍は大型ネウロイに深く突き刺さったままで、深く突き刺し過ぎたために引き抜くこともできない。ちょっと困った高田軍曹が戸惑ったままネウロイの近くにいると、久坂曹長から声がかかる。

「尚栄ちゃん、そんなに近くにいると危ないよ。」

 それはそうだ、至近距離からビームを浴びせかけられたら、シールドで防いでも弾き飛ばされてしまう。だが、槍をどうしようか。

「でも、槍が刺さったままなんだよ。」

 久坂曹長は猛然と突入して来ながら言う。

「後は任せてちょっとどいて。」

 まあ、任せろと言うのなら任せようと、高田軍曹は大型ネウロイから距離を取る。でもどうするんだろう。

「陽美ちゃん、任せろって、どうするの? 薙刀でえぐり出すの?」

「こうするんだよ。」

 大型ネウロイに肉薄した久坂は、持っていた薙刀を逆さまに持ち変えると、まるで槍で刺突するかのように薙刀を繰り出す。逆さまに持ち変えた薙刀の石突を前に出し、その石突でネウロイに突き刺さっている高田軍曹の槍の石突を力いっぱい突く。そしてそのまま一気に薙刀の柄を大型ネウロイに深く突き入れる。突かれた高田軍曹の槍は、ネウロイの奥深く突き刺さり、ついにコアに到達した。一瞬目も眩むほどの光を放ったかと思うと、大型ネウロイがきらきら光る破片を盛大に撒き散らして崩壊する。破壊するまでにさんざん苦労させられただけに、感慨もひとしおだ。

 

「やったぁ!」

「陽美ちゃん凄い。」

 手を叩き合って喜ぶ高田軍曹と久坂曹長だ。

「みんなやるなあ。」

 隊長の茅場大尉は、隊員たちが自主的に工夫して、見事大型ネウロイを葬り去ったことに、静かな感動を覚える。ウィッチなのに刀槍を持って戦う、この奇抜な部隊にすっかり馴染んだばかりか、この部隊ならではの新たな戦術を生み出すまでに育っている。思えば、芳佳によって集められたときは、こんな奇妙な混成部隊が戦力になるのかと、半信半疑だったものだ。こうなることを予想してこの部隊を編成したのなら、宮藤司令官というのは凄い人だと心から尊敬する。

 

「大型ネウロイを撃破しました。小型ネウロイもあと少しです。」

 茅場大尉からの報告に、本部には安堵の空気が流れる。ハンガリー隊の二人が撃墜された時は、どうなることかと思ったが、エステルライヒ隊の応援なしでも撃破することができた。しかし、ハンガリー隊は被弾した隊員が出た上、弾薬も魔法力も消耗しただろうから、そろそろ変え時だろう。グラッサー中佐は命じる。

「ハンガリー隊は墜落した二人を回収して基地に帰還せよ。チェコ隊、ポーランド隊は帰還するハンガリー隊と交替して出撃せよ。」

 そこへ、エステルライヒ隊からも大型ネウロイ撃破の報告が入る。どうやらここまでで最大のピンチは乗り切った。しかし、まだ予断は許さない。この後どんなネウロイが出現してくるのか、そして巣を撃破することは本当にできるのか。尚も困難な戦いは続く。


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