ストライクウィッチーズ オストマルク戦記   作:mix_cat

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第三十三話 決戦、ブダペスト攻略戦7

 援軍が到着して、戦勢は人類側優位に傾いた。また、小部隊の寄せ集めで、指揮系統が不明確だった点も、グラッサー中佐が部隊を率いて前線に出てきたことで明確になった。このまま巣から出現するネウロイを排除し、その間にモニター艦隊が前進して、巣を砲撃で破壊すれば人類の勝ちだ。各隊員の意気は上がる。

 

 そこへ、スロバキア隊のゲルトホフェロヴァー中尉が申告する。

「グラッサー中佐、スロバキア隊は弾薬が乏しくなったので、基地へ帰還します。」

 スロバキア隊は戦闘の最初から一貫して前線で戦っていたのだから、補給が必要になるのも当然だ。丁度攻勢を強めているときに戦力が減るのは残念だが、こればかりは仕方がない。

「了解した。最初に説明した通り、シオーフォク基地で補給したら再度出撃して来い。」

「はい、了解しました。」

 朝からずっと戦っているスロバキア隊にしてみれば、すぐに再出撃しろとは人使いの荒いことだと思わないでもない。しかし、人類がハンガリー西部を奪還できるかどうかの瀬戸際なのだ。人使いが荒くなるのも仕方がない。

 

 スロバキア隊は撤退したが、一番人数の少ない部隊だから戦況への影響は限定的だ。ウィッチ隊の優勢は変わらない。最初は呆れるほど多数いると思った小型ネウロイも、撃墜を重ねてかなり密度が薄くなってきた。この分なら殲滅も近いと思えるが、また新手が出て来るだろうから、油断は禁物だ。そう思った側から新手が出て来る。

「新手のネウロイです。大型です!」

 通報に巣を見ると、黒雲の中から大型ネウロイがぬっと姿を現したところだ。一難去ってまた一難だが、大型ネウロイに暴れ回られると厄介だから、早めに撃破したい。グラッサー中佐は命じる。

「エステルライヒ隊、大型ネウロイを攻撃せよ。」

 

 グラッサー中佐の命に応じて、シャル大尉がシュトラッスル准尉、シュトッツ中尉、ボッシュ軍曹を率いて大型ネウロイに向かう。

「いい、わたしがギルベルタとビームを引き付けるから、マクシミリアーネとオティーリエで大型ネウロイを破壊して。」

「了解。」

 このメンバーは何度も大型ネウロイを撃破して来ているから慣れたものだ。小型ネウロイは、グラッサー中佐とシュタインバッツ准尉がハンガリー隊と共に押さえてくれている。ところが、大型ネウロイを追うように、黒雲の中から小型ネウロイが出現してきた。

「10、・・・20、・・・まだ出て来るわね。・・・ちょっとやりにくいな。」

 シャル大尉が眉間に皺を寄せる。もっとも、シャル大尉はまだ15歳だから、眉間に皺を寄せても可愛らしくしか見えない。

 

 小型ネウロイは大型ネウロイを追い越して、次々とシャル大尉たちに襲い掛かってくる。

「ブレイク!」

 エステルライヒ隊はロッテ毎に分かれて小型ネウロイの突進をやり過ごすと、反撃に転じる。シュトッツ中尉とボッシュ軍曹はすれ違った一団に向かい、反転して再度攻撃して来ようとするその出鼻を叩く。シャル大尉とシュトラッスル准尉は、後続の一団の先頭に銃撃を浴びせかける。どちらの一団も先頭を叩かれて、集団を崩して四方に散る。ばらばらになってしまえば小型ネウロイの攻撃力は大したこともないので、片端から撃ち落として行けば良い。それより大型ネウロイだ。シャル大尉が叫ぶ。

「マクシミリアーネ、小型はほっといて大型を攻撃して。」

「了解。」

 シュトッツ中尉はまだ周囲を飛び回っている小型ネウロイは放って、ボッシュ軍曹を連れて大型ネウロイに向かう。すると、大型ネウロイからのビームが束になって飛んで来る。

「くっ。」

 シールドでビームを押し返しながら前進するが、誰もビームを引き付けてくれる人がいないので、シールドには無暗やたらとビームがぶつかってくる。しかし、遮二無二押し込んで行くしかない。

 

 大型ネウロイが迫ってきた。

「オティーリエ、行って。」

「了解。」

 ボッシュ軍曹が飛び出す。もう目も開けていられない程のビームの雨だ。もちろん、一瞬でも目を閉じたらビームの餌食だ。目をカッと見開いてビームの軌跡を見極めながら、引き鉄を一杯に引いて、機銃を乱射しながら突っ込んで行く。大型ネウロイの装甲がばりばりと砕けて、破片がそこらじゅうに飛び散る。飛んだ破片がかすめて、腕を裂く。大丈夫、傷は浅い。あっという間に大型ネウロイの上を飛び過ぎる。そのまま一旦距離を取ると見せかけて、急反転して追ってきたビームをやり過ごすと、もう一撃だ。急反転で速度が落ちたので、開いたシールドにビームがばんばん当たる。撃ち返す機銃弾もばんばん当たる。再び大型ネウロイの上を飛び過ぎると、今度は降下に入れて、加速しながらネウロイの下に抜けてビームをかわす。しかし、ネウロイ下面からのビームが集中してくる。とても反転できる状況ではなく、どんどん降下して距離を取る。と、突然ビームが止んだ。振り返ると大型ネウロイが砕け散る所だ。シュトッツ中尉からの通信が入る。

「大型ネウロイ撃破!」

 どうやらさっきの強引な攻撃でコアが露出し、シュトッツ中尉がその一瞬を逃さずコアを破壊してくれたようだ。ほっと息をつけば、傷がチクチクと痛みだしてきた。

 

 大型ネウロイを撃破して、少し余裕ができたこと思ったのも束の間、すぐに次の大型ネウロイが雲の中からぬっと顔を出す。更に後からもう1機。一難去ってまた一難だ。直ちにシュトッツ中尉が反応する。

「オティーリエ、もう一回行くよ。」

「合点承知!」

 二人は再度出現した大型ネウロイの1機目に向かって、再び突撃する。目標の大型ネウロイからは豪雨の様にビームが降り注ぎ、シュトッツ中尉はシールドで遮二無二跳ね返しながら進む。しかし、さっきの攻撃の時とは違って、分散した小型ネウロイが至る所飛び回っており、突入するシュトッツ中尉とボッシュ軍曹にも襲撃してくる。それを一々回避するわけにもいかず、ボッシュ軍曹がシールドを張って防ぎながら進む。様々な方角から相次いで襲撃してくるので、防ぐボッシュ軍曹も忙しい。小型ネウロイの襲撃に気を取られてシュトッツ中尉から遅れてしまったら、肝腎の大型ネウロイ攻撃が上手く行かない。それに、ビームを受け止める衝撃の連続で、浅いと思ったさっきの傷が、ずきずき痛み出してきた。

「大型ネウロイはまだですか!」

 ちょっと苦しくなってきたボッシュ軍曹が悲鳴のように叫ぶが、まだもう少し距離があり、耐えなければならない。

 

 もう少しで攻撃距離だ、そう思うシュトッツ中尉の目に、大型ネウロイの背後から2機目の大型ネウロイがぬっと姿を現すのが映る。2機目の大型ネウロイは高度を上げて、突進する二人の上からかぶせるような位置を取ると、その表面を赤く光らせる。

「まずい、ビームが来る。」

 退避する暇もなく、上からビームが降り注ぐ。正面からのビームを抑えるだけで手一杯のシュトッツ中尉は上からのビームには全く無防備だ。すかさずボッシュ軍曹が割り込んでシールドをかざす。シールドにビームが束になって直撃し、その衝撃で腕に激痛が走る。

「あっ!」

 ビームの衝撃を支えきれなかったボッシュ軍曹がシュトッツ中尉に激突し、二人まとめて弾き飛ばされる。1機目のビームのコースからは外れたが、2機目のビームは続けて降り注ぐ。1機目の大型ネウロイも、すぐに狙いをつけてビームを放って来る。二方向から浴びせかけられるビームの連打でもう無茶苦茶だ。必死になってシールドを回してビームを防ぐが、防ぎ続けられているのが奇跡のようだ。もちろん長くは続かない。

「ぎゃっ!」

 悲鳴を上げて、被弾したボッシュ軍曹が落ちていく。ボッシュ軍曹に守られたシュトッツ中尉が追いかけて受け止めるが、そこにも容赦なくビームは降り注ぐ。シュトッツ中尉も無傷ではない。これ以上の戦闘は無理だ。

「シュトッツです。退避します。」

 シュトッツ中尉はボッシュ軍曹を抱えたまま急降下して退避する。大型ネウロイは次の獲物を求めて前進して行く。

 

 2機の大型ネウロイは、小型ネウロイの集団と交戦中のハンガリー隊の上空に覆いかぶさるように布陣すると、一斉にビームを浴びせかける。驟雨の様に降り注ぐビームに、シールドで防ぐだけでやっとの状況に追い込まれたハンガリー隊のメンバーに、周囲から小型ネウロイが襲いかかる。

「あっ。」

「やられた。」

 あっという間にヘッペシュ中佐とケニェレシュ曹長が撃墜された。デブレーディ大尉が慌ててヘッペシュ中佐を確保する。一度に二人受け止めるのは無理で、ケニェレシュ曹長はユニットに被弾したのか、煙の尾を曳きながら落ちて行く。ヘッペシュ中佐が苦しそうに言う。

「ケニェレシュ曹長を救助に行って。私のユニットは無事だから、自力で飛べるから。」

 しかし、ヘッペシュ中佐は左の腰のあたりに被弾していて、かなりの重傷と見える。ちょっと自力で基地まで帰るのは厳しそうだ。そう思って逡巡するデブレーディ大尉に、ヘッペシュ中佐が重ねて言う。

「早く行って。下にはまだネウロイが沢山いるから、落ちたら危険だよ。」

 そうまで言われては仕方がない。デブレーディ大尉が手を放すと、ヘッペシュ中佐はふらつきながらもどうにか飛んで行く。

「中佐、気を付けてください。」

 不安な思いを抱きつつ見送ると、デブレーディ大尉はケニェレシュ曹長を追って降下する。

 

 疎林に落ちたケニェレシュ曹長を追って、デブレーディ大尉は地上に降りる。

「マルギト! どこ?」

 呼びかけると案外元気そうな返事が返ってくる。

「ここよ、ジョーフィア。」

 手を振るケニェレシュ曹長の所へ急ぐと、ユニットは大きく破損して煙を噴き上げているが、本人はどうやら無傷のようだ。

「怪我はないの? 良かった。」

 しかし、安心するのは早い。ずしんと地響きがしたかと思うと、ビームが頭上を飛んで木の枝がばらばらと降ってくる。地上型ネウロイの襲撃だ。

「長居は無用ね。」

 デブレーディ大尉はケニェレシュ曹長を抱きかかえて飛び立つ。地上型ネウロイの放つビームが、さっきまで居たあたりに着弾するのが見えた。残して来たユニットは、多分今ので完全に破壊されてしまったろう。

 

 飛び立ってほっとする暇もなく、さっきの大型ネウロイがビームを浴びせてくる。ケニェレシュ曹長を抱えた状態では、ビームを回避することも、振り切って逃げることも難しい。シールドで防ぎながら、ただ撃たれ続けるしかない。このままではやられる、そう思った時、上空で何かが光った。

「何?」

 何かを確かめるより早く、大型ネウロイが二つに斬り裂かれて砕け散る。

「扶桑隊だ! 助かったぁ。」

 逃げるのは今の内だ。後を扶桑隊に任せて、デブレーディ大尉は離脱を急ぐ。しかし、相次ぐ損害にウィッチ隊の戦力は見る見る低下している。ネウロイは落としても落としても新手が出てきており、やがては戦力の限界に達するだろう。そんな状況下に戦線を離脱するデブレーディ大尉は、後ろ髪を引かれる思いだ。

「みんな待っててね、すぐに戻って来るから。」

 

 扶桑刀を振り抜いた茅場大尉の背後で、両断された大型ネウロイが砕け散る。

「ふう。」

 一息ついて見下ろせば、ハンガリー隊のデブレーディ大尉が撃墜された隊員を抱えて撤退して行く。少し疲労感を覚える。

「魔法力の斬撃は、結構魔法力を消耗するな。そろそろ魔法力が尽きそうだな。」

 年少の望月軍曹はどうかと見ると、もう1機の大型ネウロイを片付けて、元気いっぱいで飛んでいる。望月軍曹は持っている魔法力が大きいのか、それとも19歳になって自分の魔法力が低下してきているのか。この調子で大型ネウロイが出て来ると、魔法力が持たないかもしれないと、ちょっと心配になる。向こうの方をふらふらと遠ざかって行くのはヘッペシュ中佐か。段々戦力が低下して戦いは厳しさがいや増して来ている。ネウロイの巣はまだ無傷で聳え立っている。

 


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