ストライクウィッチーズ オストマルク戦記   作:mix_cat

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第四十七話 グラーツ攻防戦1

 エステルライヒ地域内に侵入した戦闘機隊の隊長が僚機に指示を送る。

「いいか、地上のネウロイは残らず殲滅する。一匹も残すな。」

 部下たちから了解の応答が入る。さっと見回した空には、まだ飛行型ネウロイの姿はない。飛行型ネウロイはウィッチ隊が撃退してくれることになっているが、人数の限られているウィッチたちだけで、ネウロイを防ぎ切ることができるのかどうか。しかしそんなことを気にしていては任務は務まらない。飛行型ネウロイの出現を警戒しつつ、速度を絞り気味にして地上をくまなく探す。いた、地上型ネウロイだ。四角い箱型の胴体から4本の脚を出した標準的なタイプだ。

「ネウロイ発見、攻撃する。」

 通信を送ると直ちに降下に入る。ネウロイは、ゆっくり前進しているようだが、戦闘機の速度からすると止まっているのと同じだ。隊長は狙いをつけるとロケット弾のトリガーを引く。両翼の下に装備されたロケット弾が、白煙を残してネウロイめがけて飛んで行く。

「命中!」

 発射したロケット弾がネウロイに命中して炸裂した。大きく機体を傾けて旋回しながら、戦果を確認する。ネウロイは左の脚部を破壊されて擱座し、本体も大きくえぐれているがまだ崩壊していない。直ちに再突入するとロケット弾を斉射する。今度は命中と同時にきらきら光る破片が大きく飛び散る。

「ネウロイ撃破。」

 報告しながら周囲を見回すと、部下たちがそれぞれにネウロイに攻撃を加えている。そこここでロケット弾が炸裂し、所々でネウロイの崩壊を告げる、ネウロイの破片の光が広がっている。後続の戦闘機中隊が接近してきているのが見えた。

「中隊集合。帰投する。」

 隊長は列機を集めると基地に戻る。基地に戻れば弾薬と燃料を補充して、直ちに反復出撃する予定だ。今日は長い一日になりそうだ。

 

 その頃、ヘッペシュ中佐率いるハンガリー隊、スロバキア隊はエステルライヒ地域目指して飛んでいた。既に進攻部隊は戦端を開いているはずだ。通信回線を合わせると、進攻部隊の通信が錯綜しているのが聞こえてくる。程なく、ウィッチ隊にもネウロイ出現の通報が入る。

「ネウロイ出現。マリボル方面に向かって南下中。」

「了解。迎撃に向かいます。」

 ヘッペシュ中佐は針路を北寄りに振って、ネウロイ迎撃に向かう。やがて、南下するネウロイが見えてきた。

「中佐、ネウロイ発見。小型が約20機の編隊で南下しています。」

「うん、撃退するわよ。全員突撃!」

 ヘッペシュ中佐指揮下のウィッチたちは、一斉にネウロイめがけて突撃する。もう数か月に渡ってネウロイとの戦いを繰り返して来ている隊員たちにとっては、20機程度の小型ネウロイなど物の数でもない。縦横に飛び回って銃撃を浴びせ、編隊を分断し、ばらばらに分散したネウロイを追い詰め、次々撃墜して行く。

 しかし、ネウロイ側もその程度で引き下がりはしない。すぐに新手が向かって来る。

「隊長、新手のネウロイが向かってきます!」

「了解。ゲルトホフェロヴァー中尉、残敵はスロバキア隊に任せるわよ。」

「了解。」

「ハンガリー隊は新手に向かって突撃!」

「突撃!」

 ハンガリー隊の隊員たちは、ヘッペシュ中佐の指示に呼応して新手のネウロイに向かって突撃する。たちまちウィッチたちの銃撃とネウロイのビームとが空一面に交錯する。ネウロイのビームがウィッチをかすめる。ウィッチの銃撃でネウロイが砕け散る。ネウロイのビームがシールドに当たって弾け飛ぶ。乱戦になるが、ハンガリー隊の戦闘力は高く、徐々にネウロイはその数を減らして行く。

「これで最後。」

 最後のネウロイが砕け散ると、空は急に静まり返る。さっきまでの喧騒がうそのように、ストライカーユニットのエンジン音だけが響く。しかし静まるのもほんの一時の事。すぐに新手のネウロイが出現して、空は再び喧騒に包まれる。

 

 しばらくすると、グラッサー中佐率いるエステルライヒ隊、ポーランド隊が前線にやってくる。

「ヘッペシュ中佐、グラッサーだ。任務を交替する。基地に戻って補給と休養をして、次の出撃に備えてくれ。」

「了解。そろそろ残弾が心細くなってきたところだったから丁度よかったわ。ネウロイは次々新手が出て来るから気を付けてね。」

「承知した。任務ご苦労。」

 ウィッチたちは互いに手を振り合って交替する。すると程なく、ヘッペシュ中佐が言っていたように、新手のネウロイが接近してきた。

「ネウロイ接近。小型約30機。シャル隊は中央、シュトッツ隊は左翼へ、ミュムラー隊は右翼へ展開。一気に殲滅する。」

 グラッサー中佐は指示を出すと、シュタインバッツ准尉を連れて、シャル大尉とシュトラッスル准尉のロッテと共に、正面からネウロイの編隊に向かう。一斉に放って来るネウロイのビームを回避しながら銃撃を撃ち込み、先頭の小型ネウロイを撃ち砕く。直後に左右からシュトッツ隊とミュムラー隊が突入し、ネウロイの集団を突き崩す。戦いは優勢に進んでいる。

 

 そこへ、シュトッツ中尉が警告を発する。

「西側から新手のネウロイです。小型約20機!」

 直ちにグラッサー中佐が応じる。

「シュトッツ隊とシャル隊は西側に回って新手のネウロイに当たれ。」

「了解。」

 直ちにシャル大尉とシュトラッスル准尉、シュトッツ中尉とボッシュ軍曹は新手のネウロイの一団に向かって突入して行く。最初の集団は、大分数を減らしているので、グラッサー中佐のロッテと、ミュムラー少佐率いるポーランド隊だけで十分対処できるだろう。ところがそれだけでは済まない。

「グラッサー中佐、東寄りにネウロイの集団が来ました。」

 シュタインバッツ准尉からの通信に東側を見れば、小型ネウロイが30機ほど迫ってきている。

「くそ、西から来たのは陽動か。」

 そう気付いても後の祭りだ。もっとも、これだけ次々に押し寄せられると、人数が絶対的に足りないというのが本当の所だ。それでも、手元の人数で戦わなければならない。

「ミュムラー隊は東の新手の集団に当たれ。」

 

 ミュムラー少佐は直ちに東側の集団に向かう。しかし、ポーランド隊は3人だけだ。これで30機のネウロイを撃滅しようとしても、ちょっと手に余る。

「とにかく縦横に飛び回って乱戦状態にする。乱戦にしてネウロイを引き付けておいて、他の隊が応援に来るのを待って撃滅する。」

 ミュムラー少佐以下、フェリク少尉、ヴラスノヴォルスカ曹長はネウロイの集団に突入する。ネウロイはビームを放って来るが、この集団はあまり密集していないのでビームの間隔がやや広く、ビームをかわしながら突入するのが比較的容易だ。銃撃を浴びせながらすれ違うと、3人は分散してネウロイ集団の攪乱に移る。しかし何としたことか、一部のネウロイはミュムラー少佐たちに立ち向かって来るが、大部分のネウロイはすれ違ってそのまま進んで行ってしまう。

「しまった、ネウロイが反撃してこないと足止めできない。」

 慌てて追撃しようとするが、少ないとはいえ向かって来るネウロイもいるので、思う様に追いすがることができない。このまま行かせてしまっては、戦闘機隊の危機だ。ミュムラー少佐は急いで通信を送る。

「グラッサー中佐、ネウロイに突破されました。」

 

 ミュムラー少佐からの通信を受けて、グラッサー中佐は直ちにバックアップに向かいたいところだが、なお残るネウロイと交戦中ですぐには動くことができない。

「まずい、戦闘機隊が襲われる。」

 戦闘機隊による前路掃討ができなくなれば、地上部隊の進行速度がてきめんに遅くなってしまう。グラッサー中佐に焦りの色が浮かぶ。

「レオポルディーネ、私が行くからここのネウロイは任せる。」

 グラッサー中佐は、今戦闘中のネウロイはシュタインバッツ准尉に任せて、突破したネウロイを一人で追撃しようというのだ。それしかできる手段はないが、やや広く分散した20機からのネウロイを、たった一人で食い止めようというのには無理がある。無理は承知の上で、それでもやらなければならない。そこへ戦闘機隊から通信が入る。

「グラッサー中佐、こちらに向かって来る小型ネウロイは、我々戦闘機隊に任せてください。」

「し、しかし・・・。」

「なあに、小型ネウロイ位なら我々でも十分に戦えます。ましてやこっちの方が圧倒的に機数が多いんだ。」

 戦闘機はウィッチ程小回りが利かないし、魔法力がない分機銃の破壊力も劣る。もちろんシールドで身を守ることもできない。それでも、自分たちだけでは防ぎ切れない現実を受け止めないわけにはいかない。グラッサー中佐は苦渋の思いで答える。

「わかった、頼んだぞ。」

 

「攻撃開始。」

 ネウロイの侵入に備えて、地上攻撃に加わらずに上空で待機していた戦闘機隊が、小型ネウロイの集団めがけて次々に降下する。小型ネウロイは、低空で地上型ネウロイを攻撃している戦闘機隊に目を奪われているのか、気付いている様子はない。戦闘機隊のP-51は降下速度が速く、見る見るうちにネウロイに迫る。各機思い思いの標的に狙いを定めると、それぞれに銃撃を浴びせかけていく。装備している機銃は、ウィッチが良く使っているのと同じ12.7ミリ機銃だが、1機当たり4丁装備しているので火力は大きい。魔法力がない分を補って余りあるほどだ。また、コアのあるネウロイの場合は、魔法力によって再生能力を低下させなければ撃破するのは難しいのだが、小型ネウロイなら魔法力なしでも十分撃破可能だ。かくて小型ネウロイは、逃げるいとまもなく次々と四散して行く。最初の一撃を回避たネウロイも、何しろ出撃している戦闘機はリベリオンの物量を背景に数が多いから、二撃、三撃と受けて敢え無く散って行く。僅かな時間で、侵入してきた小型ネウロイは残らず撃破した。

 

 戦闘機隊がほとんど損害もなくネウロイを撃破してくれたので、グラッサー中佐はほっと胸をなでおろす。直面するネウロイもようやく残り数が少なくなってきた。しかし、突然大量に出て来たので、被弾した隊員こそいないものの、思ったよりも弾薬も魔法力も消耗が激しい。ここは、少し交替を早めてもらいたいところだ。

「本部、グラッサーです。ネウロイの襲撃が激しいので、次の隊への交替を早めてもらえませんか。」

 

「チェコ隊、大村隊、出撃。指揮はわたしが執ります。」

 芳佳の命令に、各隊員たちは声を揃えて応じる。司令官自らの出撃と聞いて、心なしか応じる声が弾んでいるようだ。しかし、参謀長の鈴内大佐は慌てて止めに入る。

「待ってください。司令官は司令部から動いては行けません。」

 毎度、毎度出撃しようとする芳佳に、一々制止しなければならずちょっと迷惑そうな表情の鈴内大佐だが、生憎芳佳に応じる気持ちはさらさらない。

「駄目だよ。決戦だよ。指揮官先頭でなきゃぁ。」

 そう言われると鈴内大佐もそれ以上止めにくい。もっとも芳佳は、新しい装備を実戦で試したいだけかもしれない。

「発進!」

 飛び立つ芳佳を、鈴内大佐は不安そうに見送る。出撃している間に、何か予想外の事が起きなければいいのだが。同じように、留守中の指揮を任されているチェルマク少将も不安そうだ。

 

 芳佳が率いているのは、先日編入したユルキュを含む大村隊7名とチェコ隊3名だ。戦闘空域に到着した時には、丁度グラッサー隊が来襲したネウロイを一蹴したところで、まだ空にはネウロイの破片がきらきらと散っている。

「グラッサー中佐、交替します。」

「ありがとうございます。エステルライヒ隊、ポーランド隊、被害なし。」

「うん、お疲れ様。基地に帰ってゆっくりしてね。」

「はい。ただ、時間を追ってネウロイの襲来が激しくなっているように思いますから、十分注意してください。」

「うん、ありがとう。」

 簡単な引継ぎを終えると、グラッサー中佐は隊員たちを連れて帰って行った。

 

 芳佳たちが警戒につくと、すぐにまたネウロイが現れる。

「ネウロイ接近、大型です。」

 ここまで数は多いが全て小型だった。大型が出て来るとは、やはりグラッサー中佐の言う通り、ネウロイの襲来は段階的に強化されているようだ。千早大尉が尋ねてくる。

「宮藤さん、敵は大型1機だけのようですね。どう攻撃しますか?」

「うん、折角だから、ツァウベルで攻撃してみるよ。多香子ちゃん牽制してビームを引き付けて。」

「はい、了解しました。」

 千早は、何が折角だからなんだかと、苦笑気味だ。司令官としての立場などどこへやら、新しいおもちゃを手に入れて、使いたがっているいる子供のようだ。まあそれが芳佳の性格だ。強いて弁護すれば、新しい装備の性能を早めに確認しておくことは必要だ。

「大村隊左から、チェコ隊右から、赤松隊はチェコ隊の援護。」

 隊員たちに指示を出すと、千早は攻撃に向かう。人数の関係で、千早と編隊を組むのは玲子とユルキュで、ケッテの編隊だ。

 

 突入する千早大尉たちに、大型ネウロイは激しくビームを浴びせかけてくる。千早大尉自身はさんざん経験していることなので、落ち着いて回避しながら進むことができるが、他の二人はどうだろう。特に実戦経験がまだ乏しいユルキュが心配だ。しかし、ユルキュは乱れ飛ぶビームにも臆することなく、シールドをうまく使ってビームをかわしながらしっかりとついてきている。短期間とはいえ、猛訓練を施したのが良かったのだろう。千早大尉は、芳佳の猛訓練を思い出す。

 

 

「あっ、やられた。」

 芳佳と模擬空戦をしていたユルキュは、かわし切れずにペイント弾を被弾した。右の腰のあたりにペイントがべったりとついている。しかし、一発被弾して終わりにはならない。ユルキュめがけてペイント弾が次々に飛んで来る。被弾したことに気を取られていたユルキュは、続けざまに被弾する。

「ユルキュちゃん、一発位当たったからって気を抜いちゃ駄目。動きを止めたらネウロイの集中攻撃が来るよ。」

「はいっ。」

 ユルキュは慌てて回避に入る。しかし、芳佳はさらに激しく襲い掛かってくる。飛んで来るペイント弾をシールドで防いだと思うと、次の瞬間には反対側からペイント弾が飛んで来てびしびし当たる。もう全身ペイントまみれだ。ユルキュは泣きそうになりながら、急降下して振り切ろうとする。だが、そんなことで芳佳を振り切るのは無理だ。さらにペイント弾が当たる。ペイント弾といっても、当たれば痛い。ペイント弾が丁度みぞおちに当たった。ユルキュは痛みとこみあげて来るものとで表情をゆがめると、げっと胃液を吐き散らす。もう駄目だ。ユルキュはそのまま墜落する。シールドを張って地上への激突の衝撃を和らげても、これまた相当痛い。ユルキュはもう手を上げる力もなく、大の字になって地面に転がる。全身のあちこちが痛い。実戦に臨むには、こうまで厳しい訓練に耐えなければならないのかと涙が滲む。これに比べれば、ブリタニアで受けた訓練など物の数でもなかったと思う。そこへ芳佳が降下してくると、ペイント弾を連射する。

「ぎゃっ!」

 ユルキュはかわすこともできずに、ペイント弾をまともに浴びる。さすがにやり過ぎだと思った千早大尉が止めに入る。

「宮藤さん、やり過ぎです。ここまで来ると、しごきを通り越していじめです。」

 しかし芳佳は首を振る。

「違うよ。地上に落ちちゃったら、狙い撃ちにされちゃうんだよ。だから落ちちゃ駄目、落ちても止まっちゃ駄目、あきらめちゃ駄目。それを身に染みて覚えてもらうんだよ。今は辛いだろうけど、ユルキュちゃんが自分の身を守るためなんだよ。」

 そう言って再び銃口をユルキュに向ける。インカム越しに芳佳の言葉を聞いたユルキュは、気力を振り絞ってごろごろと転がると、岩陰に身を潜める。ペイント弾が岩に当たって、ペイントが飛び散った。

 

 

 そんな過酷な訓練を乗り越えて、ユルキュは立派にネウロイ攻撃の一翼を担っている。ユルキュの銃撃がネウロイの装甲に命中し、破片が飛び散る。ネウロイのビームがユルキュを狙うが、芳佳の猛射に比べれば大したことはないと、ユルキュはひらりとかわす。そこへ、芳佳の放った魔法力の弾丸が大型ネウロイを撃ち抜く。芳佳の攻撃の破壊力は抜群で、大型ネウロイは一撃で爆散した。インカムに入った通信が、地上部隊のグラーツ突入を告げている。まずは第一段作戦の成功だ。この勢いで、ウィーンの巣を撃破し、エステルライヒ地域を開放するのだ。隊員たちの士気は高い。

 


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