ストライクウィッチーズ オストマルク戦記   作:mix_cat

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エピローグ

 カールスラントの各基地にはプラハの巣への攻撃部隊が集結し、各部隊が国境を越えて続々と侵攻を始めている。作戦は連合軍西部方面統合軍によるもので、カールスラント軍を主体に、西部方面に属するブリタニアやガリア、それにリベリオンの部隊が参加している。カールスラントとオストマルクの国境線の北西部のザクセン州との境は、最高峰として1200メートルを超えるクリノーベツ峰を擁するエルツ山脈が連なっている。南西部のバイエルン州との境は、北西寄りがオーバーフェルツァーワルトと呼ばれる900メートル以下の高原で、南東寄りは1400メートルを超えるグローサーアルバー山などの1300メートル以上の山々が連なっている、ベーマーワルト、ボヘミアの森と呼ばれる山岳地帯になっている。プラハまでの距離は北西側が100キロ足らずと近いが地勢が険しく、より地上部隊の通行に適した西側の高原地帯を越えて地上部隊は侵攻する。主要侵攻経路は、ニュルンベルク方面からヴァイトハウスとロズヴァドフを結ぶルートで国境を超え、プルゼニを経てプラハに至る経路だ。過去にも同様の侵攻を行ったことがあったが、その時はプラハの巣からの反撃に加えて、ウィーンの巣からのネウロイの襲撃を受けて、侵攻部隊は大きな損害を受けて撤退を余儀なくされている。言うなれば今回はその雪辱戦だ。

 

 ニュルンベルクには、今回の作戦で重要な役割を担うウィッチ隊の主力が集結している。指揮を執るのはミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ大佐だ。作戦指揮能力には定評があるが、ここしばらくは南部国境線の防衛部隊を指揮していたため目を引くような戦果に恵まれず、昇進がやや滞っている。今回の作戦を成功させれば、いよいよ将官への昇進が期待できる状況だ。視察に来たガランド中将が軽口をたたく。

「この作戦が終われば、いよいよミーナも将官の仲間入りだな。」

 しかし、今回の作戦はネウロイの巣との戦いなのだ。ミーナとしてはそんな軽い気持ちではいられない。

「ガランド中将、巣との戦いはそんなに気楽に考えられるようなものではないことはご存じでしょう。昇進するとかしないとか、そんなことを考えている場合ではありません。」

「ふむ、ミーナは相変わらずお堅いな。」

「そんなことより、少しでも戦力が欲しいところなのに、どうして地中海方面統合軍の協力が得られないんですか? ウィーンの巣の攻略の時には、私たちも協力したじゃないですか。」

「そこは上の連中の思惑だから、私にはどうにもならないな。」

 さすがのガランド中将も、この時ばかりはやや苦い表情を浮かべる。上層部としては、このところ次々に巣を撃滅する戦果を挙げている地中海方面統合軍に対する対抗意識がある。ここで地中海方面統合軍が協力とはいえ参加すると、西部方面統合軍が中心になって戦っても、地中海方面統合軍の成果と見られてしまう恐れがある。自分たちの成果とするためには、地中海方面統合軍には参加しないでもらいたい。そんな上層部の思惑に振り回される現場の苦労は絶えない。

 

「しかしまあ、今回の作戦準備は万全だと思うぞ。プラハまで、ニュルンベルクからでは250キロとやや距離があるから、事前にチェコ地域西端のヘプを占領して航空基地を復旧、整備してある。主攻撃正面であるここにはカールスラント空軍の精鋭を集めて、やや信頼性が劣る各国の部隊はドレスデンに集めて、北方からの陽動を担当させている。何より、今回はウィーンの巣からの攻撃がないんだ。それに、ウィーンの巣を破壊した時の経験から、巣への攻撃方法も大胆に改善している。」

 確かに、巣への攻撃方法はウィーンの戦いで有効性が確認された方法が大幅に取り入れられている。超爆風弾や魔導徹甲弾が取り入れられている他、ツァウベルヴンダーヴァッフェを装備したウィッチ隊も編成している。

「そうですね、これまでのひたすら物量で攻撃して叩く戦法と比べると、長足の進歩ですね。そう言う意味では、地中海方面統合軍の協力は得られているようなものかもしれませんね。」

 地中海方面統合軍に色々な戦法をテストさせておいて、その結果のいいとこ取りをしているようで、若干気が咎めないでもない。

「地中海方面統合軍というよりは、扶桑のおかげだな。結局我々は、扶桑に、なかんずく宮藤君に助けられてばかりだな。」

 ミーナもこれは同感だ。501統合戦闘航空団の頃から、扶桑のウィッチには振り回されてばかりだったが、結果的には扶桑のウィッチのおかげでネウロイに打ち勝って来られた面は大きい。特に芳佳は、最初に会った時は軍人らしさに欠けていて、ずいぶん頼りなく思ったものだが、今では対ネウロイ戦を一人で背負って立つような勢いだ。

 

「今のところ作戦は順調だな。地上部隊はプルゼニを占領してプラハに向かって進んでいるし、ウィッチ隊にも目立った損害は出ていない。北方からの陽動も上手くいっていて、多くのネウロイを引き付けてくれている。」

「そうですね、まずは順調ですね。」

 しかし、ネウロイとの戦いは何があるかわからない。油断は禁物だ。

 

 西側からのカールスラント軍ウィッチ隊がネウロイの巣に近付くにつれ、北側の牽制部隊によるネウロイの誘引は効果が弱まり、主進攻部隊の正面に向かって来るネウロイの数が増えてくる。そして大型ネウロイが出現した。戦闘指揮を担当するシューマッハー中佐から通信が入る。

「ヴィルケ大佐、大型ネウロイが出現しました。ツァウベルヴンダーヴァッフェ中隊を投入します。」

 いきなり新編成の試作兵器部隊を投入するのは、やや危なげな感じもするが、むしろ早いうちに実際に投入してみて、運用上の課題を洗い出しておいた方が良いとも考えられる。ここは実戦テストの意味でも、出しておいた方が良いだろう。

「了解しました。許可します。」

 

「ツァウベルヴンダーヴァッフェ中隊、大型ネウロイを迎撃せよ。」

 シューマッハー中佐の命令に応じて、ツァウベルヴンダーヴァッフェ中隊が前に出る。隊長のソフィア・バーゴー大尉以下5名の編成で、隊員4人がツァウベルヴンダーヴァッフェを装備し、バーゴー大尉は機銃を装備して中隊指揮と隊員たちの支援を担当している。

「エミリア、カロリーナ、攻撃して。」

「了解。」

 十分な距離を置いて、まずエミリア・カイザー少尉が攻撃する。射撃と共に撃ち出された魔法力の弾丸が大型ネウロイめがけて飛ぶ。しかし、ネウロイからの攻撃を警戒して距離を大きく取っていたため、魔法力の弾丸はネウロイの右後方に外れた。

「次、わたし。」

 すかさずカロリーナ・シャルフ軍曹が射撃する。今度は命中だ。大型ネウロイの大きく左右に伸びた翼状部分の右寄りに命中すると、命中した部分から折れてネウロイは大きく傾く。

「少し遠すぎるようね。もう少し接近して射撃して。」

 バーゴー大尉の指示で、エミリアとカロリーナは大型ネウロイに接近する。大型ネウロイは破壊された翼状部分の再生中で、ほとんどビームを撃って来ないので接近するのは容易だ。エミリアが大型ネウロイを慎重に狙って射撃する。今度はど真ん中に命中し、大型ネウロイは四散した。

「大型ネウロイを破壊しました。」

 ツァウベルヴンダーヴァッフェ中隊としては初めての実戦だったが、無事大型ネウロイの破壊に成功した。短い訓練期間だったが、どうやら戦えそうだ。また、この破壊力は頼もしい。これがあれば大型ネウロイも敵ではない。

 

 しかし、ネウロイの攻撃はいよいよ活発になってくる。すぐにまた新手の大型ネウロイ出現の通報が入り、ツァウベルヴンダーヴァッフェ中隊は急行する。

「今度はエマとアンナ、攻撃して。」

 エマ・クライン曹長とアンナ・シュベルト軍曹が大型ネウロイに向かう。まずエマがネウロイを狙うと射撃する。しかし引き鉄を引くその瞬間、大型ネウロイからの多数のビームがエマを襲う。エマは素早くシールドを展開しつつ引き鉄を引く。ネウロイのビームがシールドを激しく叩く。

「しまった、ぶれた。」

 ネウロイのビームを受けた衝撃で、狙いが少しぶれた。それでも、エマの射撃は大型ネウロイの細長く伸びた尾部に命中し、尾部を引きちぎる。

「アンナ行きます。」

 アンナが前へ出る。大型ネウロイからのビームがアンナを襲うが、ふわりと優雅に舞うようにビームをかわすと、さっと狙いを定めて引き鉄を引く。魔法力の弾丸は大型ネウロイの表面装甲を突き破ると、内部のコアを粉砕して裏側まで突き抜ける。ネウロイが砕け散った。作戦は順調だ。

 

「大型ネウロイ出現。至急救援求む。」

 ツァウベルヴンダーヴァッフェ中隊も忙しくなってきた。救援要請に駆け付けると、小型ネウロイと交戦中のウィッチ隊に大型ネウロイが2機襲い掛かっており、ウィッチ隊は苦戦を強いられている。

「エミリアとカロリーナは右のネウロイ、エマとアンナは左のネウロイを狙って。」

 隊長の指示に、各隊員は大型ネウロイに向かう。大型ネウロイのビームが一人のウィッチに集中し、逃げることもできずにシールドを張って必死でこらえている。まだ少し遠いが、十分近付くまでは持たないかもしれないと思い、エミリアは大型ネウロイを撃つ。

「当たれ!」

 エミリアの思いが通じたように、魔法力の弾丸は見事に命中し、大穴を空ける。命中した大型ネウロイは傾きながら退避して行くが、もう一方の大型ネウロイがエミリアめがけて一斉にビームを放つ。

「くっ。」

 シールドで直撃は防いだが、周囲をビームに囲まれて、エミリアは身動きが取れない。このまま防いでいては、魔法力が消耗するばかりだ。カロリーナが飛び出すと、大型ネウロイに向けて射撃する。しかし、距離がまだある上、しっかりと狙う暇もなく射撃したので外れてしまった。次、次、と射撃するが、慌てて連射しているので外れてばかりだ。

「当たって!」

 やっと当たって、ネウロイの先端が砕け散る。カロリーナはさらに突っ込んで射撃する。今度はコアに命中だ。

「ふう。」

 ようやく撃破できて、カロリーナは息をつく。

 

 しかし、一息ついている暇もない。カロリーナにビームが束になって飛んで来る。

「なに? なんなの?」

 さっき大穴の開いたもう1機の大型ネウロイが、再生を終えて襲撃してきたのだ。エマとアンナが、攻撃に向かう。大型ネウロイは接近してきたエマにビームを向ける。アンナが前へ出ると、ビームをかわしながらネウロイを狙う。そこへ、さっきまで別のウィッチ隊と交戦していた、小型ネウロイまで向かって来る。

「小型ネウロイが来る。注意して!」

 そう警告を送りながら、バーゴー大尉が小型ネウロイとの間に割り込んで銃撃する。しかし、同時に反対側からも小型ネウロイが向かって来ている。アンナは引き鉄を引く。魔法力の弾丸が大型ネウロイめがけて飛んで行く。そこへ小型ネウロイのビームが来た。大型ネウロイのビームをかわしながら、大型ネウロイを狙って射撃しているところで、さらに同時に小型ネウロイの襲撃を防ぐのはさすがに手に余る。

「ああっ!」

 アンナが被弾した。ストライカーユニットの破片が飛び散り、黒煙が噴き出し、アンナは渦を巻くように落ちて行く。

「エマ! アンナを助けて!」

 バーゴー大尉が指示するのとほぼ同時に、エマはアンナに飛び付いて受け止める。アンナは重傷だ。そこへ、さらに小型ネウロイが襲ってくる。

「やらせないよ!」

 カロリーナが小型ネウロイめがけて連射する。小型ネウロイ相手にツァウベルヴンダーヴァッフェを使うのはもったいないが、破壊力は抜群で、狙った小型ネウロイは瞬時に消滅する。バーゴー大尉が残った小型ネウロイを撃ち落とす。

「エマ、アンナを基地に運んで。」

「了解。」

 エマは急いで引き上げて行く。残念ながら、やはり一方的な勝利というわけにはいかない。

 

「新手の大型ネウロイが来ます。」

 エミリアが緊張感を滲ませつつ通報する。見ればまた大型ネウロイが2機。更に少し離れて後からもう2機続いている。

「まずいな、どんどん増えてくる。」

 こちらの戦力は半減したのに、ネウロイは逆に倍増している。いくらツァウベルヴンダーヴァッフェの破壊力が抜群でも、このままではいずれ押し負けるのではないだろうか。しかし、数が増えては厄介なので、後続の2機が来る前に、目の前の2機は破壊したい。

「エミリア、カロリーナ、大型ネウロイを叩いて。後続の2機と合流しないように素早く叩いて。」

「了解。」

 エミリアとカロリーナにも、状況は良くわかる。ビームを冒して大型ネウロイに向けて突入する。ビームをすれすれでかわし、次のビームをシールドで弾き、もう一つビームをかわすと、エミリアは大型ネウロイを狙い撃つ。ぱっと破片が飛び散って、ネウロイが二つに折れた。

「惜しい・・・。」

 少し外れた。折れた断面からコアがのぞいている。しかし、コアが露出してしまえば大型ネウロイももうおしまいだ。もう一発撃ち込んで、この大型ネウロイも始末した。向こうでは、カロリーナが数撃ちゃ当たる戦法で攻撃している。次々撃ち込まれる魔法力の弾丸にボロボロになった大型ネウロイが、甲高い音を立てて飛散した。

 

 次の2機が近付いてくる。

「カロリーナ、次行くわよ。」

 しかし、カロリーナの息が荒い。

「エミリア、わたしもう魔法力が・・・。」

 そうか、カロリーナはかなり乱射していたから、もう魔法力が尽きたのか。実際、エミリアも思いの外魔法力を消耗しているのを感じる。やはり魔法力を直接撃ち出すというこの兵器は、威力がある替わりに魔法力の消耗が激しい。弾薬と違って基地に帰って補給というわけにはいかないのが辛いところだ。これがツァウベルヴンダーヴァッフェの最大の弱点だろう。しかし、そんな事情にお構いなく、大型ネウロイは接近してくると激しくビームを浴びせかけてきた。

「!」

 声も出せない程のビームの嵐だ。カロリーナのシールドが見るからに不安定になっている。魔法力が足りないのだ。シールドが破られたら命はない。

「カロリーナ! 私の後ろに隠れて!」

「でも・・・。」

 一瞬のためらいを見せたが、カロリーナも背に腹は代えられない。エミリアの背後に隠れた。事実上一人になって、いよいよネウロイのビームはエミリアに集中する。カロリーナほどではないが、エミリアの魔法力も残りが乏しい。集中するビームを受け続けて、見る見る残る魔法力が削られて行く。

 

 ツァウベルヴンダーヴァッフェ中隊が壊滅寸前だ。このままではまずいと、シューマッハー中佐は増援を回す。

「Me262隊、ツァウベルヴンダーヴァッフェ中隊の救援に向かえ。」

 直ちにジェットストライカーMe262装備のウィッチ4人が駆け付ける。轟音と共に現れたMe262装備の隊員たちは、装備した30ミリ機関砲を次々大型ネウロイに撃ち込む。ツァウベルヴンダーヴァッフェ程ではないが、30ミリ機関砲も強力だ。大型ネウロイの表面装甲が大きく破壊され、飛び散った破片が一面に輝いている。ネウロイもビームで応戦するが、Me262の高速に狙いが定まらない。Me262隊のウィッチたちは、緩やかに旋回しながら反転すると、大きく損傷した大型ネウロイに再度攻撃を浴びせかける。装甲が深く削れてコアが出た。次の瞬間には30ミリ機関砲弾がコアを撃ち抜き、大型ネウロイは脆くも崩壊する。

「助かったぁ。」

 カロリーナはエミリアの背中にしがみついて小刻みに震えている。バーゴー大尉がやってくる。

「二人とも危なかったわね。カロリーナは基地へ帰って。基地までは飛べるわよね? エミリアはまだ戦える?」

「はい、もう少しやれます。」

 エミリアはけなげにもまだ戦うつもりだが、残る魔法力は相当乏しい。でも、Me262隊が応援に来てくれたので、一緒に戦えばもう少しやれそうだ。

 

 息つく暇もなく新手が現れる。今度は大型ネウロイが4機横一線に並んで押し出して来る。直ちにMe262隊が突撃し、バーゴー大尉とエミリアも後を追う。その途端、大型ネウロイが一斉にビームを放ち、無数のビームが網の目状になってMe262隊のウィッチたちを包み込むように襲う。

「あっ!」

 ビームの網に捉えらたウィッチたちから、黒煙が上がり、破片が飛び散った。Me262はそのユニットの特性から、急な機動でビームを回避することができないのだ。自らビームの網に飛び込んで行くような形となったMe262隊は、二人はビームを凌ぎ切ったようだが、二人は被弾して落ちて行く。あっという間にMe262隊も大打撃を受けた。

「くそっ、よくも!」

 エミリアは直ちに魔法力弾を放つ。狙い違わず1機の大型ネウロイがど真ん中を貫かれて爆散する。しかし反撃は強烈だ。3機の大型ネウロイのビームがエミリアに集中する。シールドに受けたビームの圧力が物凄い。残りわずかな魔法力が見る見る削られて行く。そこへバーゴー大尉が飛び込んできて、エミリアを襲うビームを遮りながら叫ぶ。

「エミリア、撃って!」

「はいっ。」

 バーゴー大尉がビームを防いでいる隙に、エミリアは大尉の肩越しに射撃する。また大型ネウロイが砕け散った。あと2機、そう思ったところでエミリアの意識がすっと遠のく。

「あ、完全に魔法力切れだ・・・。」

 最後に一言つぶやくと、エミリアは意識を失って落ちて行く。落ちて行くエミリアを慌てて受け止めたバーゴー大尉の頭上に覆いかぶさるように残った2機の大型ネウロイが迫る。

「だめだ、もう逃げられない・・・。」

 

 青白く輝く光の塊が、2機の大型ネウロイを貫くのが見えた。大型ネウロイは甲高い音を立てて砕け散る。

「え? これってツァウベルヴンダーヴァッフェの魔法力弾? 一体誰が・・・。」

 既にツァウベルヴンダーヴァッフェ中隊は壊滅している。他に装備している部隊というと・・・。

「モエシア方面航空軍団の宮藤です。支援します。」

 地獄に仏とはこのことだ。まあ、カールスラント人は仏を知らないから物の例えだが。

「ありがとうございます。助かりました。でも、次が来ます。」

 早くも次の大型ネウロイ4機が押し出して来ている。

「桃ちゃん、抜刀隊突撃。」

 抜刀隊のメンバーが、玉散る剣抜き連れて、白刃をきらめかせながら大型ネウロイに襲い掛かる。無数のビームを紙一重でかわしながら肉薄すると、白刃一閃、大型ネウロイを斬り伏せる。あっという間に大型ネウロイは全滅だ。

 

「宮藤さん!?」

 ニュルンベルクの司令部では、ミーナが驚嘆の声を上げる。

「どうして? 地中海方面統合軍は今回の作戦には参加しないはずじゃなかったの?」

 ミーナの疑問に対して、芳佳の答えは単純明快だ。

「ウィーンの時支援してもらいましたからそのお返しです。結構助かったんですよ、プラハからの攻撃があんまり来なかったので。それに、すぐ近くで戦ってる仲間がいるのに、知らん顔なんかできないじゃないですか。」

 芳佳にかかれば、上層部の思惑などどこ吹く風だ。もっとも、思惑を働かせているのは西部方面統合軍の上層部だから、地中海方面統合軍に所属する芳佳には関係ないことだとも言える。しかも、勝手に支援に押し掛けたのは芳佳たち扶桑の部隊だけではない。

「オストマルク空軍ウィッチ隊のグラッサー中佐です。同じカールスラント人として、及ばずながら支援します。南方から支援攻撃を行います。」

「チェコ隊のエモンシュ大尉です。自分たちの故郷奪還の戦いですから、協力させてください。」

「ハンガリー隊のヘッペシュ中佐です。オストマルク人として、オストマルク奪還の戦いに協力しないわけにはいきません。」

「スロバキア隊のゲルトホフェロヴァー中尉です。チェコの次はいよいよスロバキア解放ですよね。」

「ミュムラーです。ポーランド隊も来ました。」

 オストマルクウィッチ隊も大挙して出てきている。オストマルクはそういう国柄ではなかったような気もするが、これも芳佳の影響だろうか。

 

 しかし、これで一気に苦しかった形勢が逆転したことは間違いない。ここは一気に押すべき時だ。

「宮藤さん、ここは一気に巣まで攻め込みたいけれど、いいかしら。」

「はい、任せてください。」

 階級や地位を考えると誰が指揮すべきか難しいところだが、そこは長い付き合いの芳佳とミーナだ、自然に役割分担ができている。そもそも、芳佳はカールスラントや他の諸国の部隊配置も状況も把握していないのだから、全体指揮はミーナに任せるに限る。

「みんな、行くよ!」

「了解!」

 一団となってプラハの巣に向かって進む。対抗して出てきたのは、巨大な爆弾様の形状をした大型ネウロイだ。これは胴体が太く、コアが深い位置にあるので、抜刀隊の斬撃がコアに届かない難敵だ。しかし、芳佳は何ほどの事でもないかのように、素早くツァウベルヴンダーヴァッフェを構えると、引き鉄を引く。撃ち出された魔法力の弾丸は、瞬時に大型ネウロイまで飛翔すると、その太い胴体を軽々と貫通する。瞬時に粉砕された大型ネウロイに、バーゴー大尉は驚き、あきれるばかりだ。自分たちと同じ装備だというのに、どうしてこうも軽々と撃破してしまうのか。まあ、そのあたりは経験の差が大きい。またそれ以上に、魔法力切れをあまり心配する必要のない、芳佳の持つ膨大な魔法力の力が大きいのかもしれない。

 

「巣です。」

 目の前に巨大なプラハの巣の渦雲が聳え立つ。いよいよ巣への攻撃だ。

「ミーナ隊長、超爆風爆弾の爆撃機はどこにいますか?」

 それに対するミーナの答えは意外なものだ。

「カールスラントには、超爆風爆弾を搭載できるような大型の爆撃機はないわ。」

「えっ? じゃあ、ここからどうするつもりなんですか?」

「それは、ガランド中将に聞いて。」

 そこで、満を持して真打の登場、といった風に、ガランド中将が無線機を手にする。

「宮藤君、よく来てくれた。ここからはこちらの仕事だ。まあ期待して見ていてくれたまえ。」

「はい、でもどうするんですか?」

「V3号を使う。」

「V3号?」

「ムカデ砲とも呼ばれている、カールスラントの秘密兵器だ。」

 出た、またカールスラントの秘密兵器だ。玉石混交という面もないではないが、カールスラントは実に多様な、他に類を見ない兵器を開発している。

「V3号は、全長150メートルの砲身に28個の薬室を設置し、そこで連続して装薬を発火させることで砲弾を初速1,800メートル/秒まで加速して、最大150キロ先を砲撃する超長距離砲だ。実際は北側の国境線すぐ近くに設置しているので、射距離は100キロ足らずだ。これだけの距離があれば、ネウロイからの反撃を受けずに一方的に砲撃できる。口径15センチと小さいので、1発の威力は大したことはないが、50門設置しているから、数を撃ち込んでネウロイの巣を叩く。」

 何だか途方もない兵器だ。こういうことをするからカールスラントは恐ろしい。

 

 程なく、音速突破に伴う衝撃波と共に、V3号の砲弾が飛来する。V3号の砲弾は、ネウロイの巣の巨大な黒雲に飛び込んで炸裂すると、凄まじい爆風を巻き起こして黒雲の一角を吹き飛ばす。そして、次々飛来する砲弾が連続して炸裂し、見る見る黒雲が吹き飛ばされて行く。程なく、巣を覆っていた黒雲は雲散霧消し、ネウロイの巣の本体が露わになった。

「雲が吹き飛びました。巣の本体が露出しています。」

「よし、それでは徹甲弾に切り替えよう。」

 少しの間を置いて、再び砲弾が飛来する。飛来した砲弾は、露出したネウロイの巣の本体の上方を飛び越えて、かなり先の方の地面に落下して土煙を上げる。続いて飛来した砲弾は手前側に外れた。次、次と砲弾が飛来するが、一向に命中しない。空しく土煙を上げるばかりだ。

「ガランド中将、その・・・、全部外れているんですけれど・・・。」

「そうか、当たらないか。いくらネウロイの巣の本体が大きいとはいえ、100キロ彼方からの砲撃で命中させるのは難しいか。」

 そう言うガランド中将の隣で、ミーナは目をむく。その程度の事は、事前に予想できたことではないのか。ガランド中将も、案外大雑把だ。

「ガランド中将、どうされるつもりですか?」

「うん、困ったな。数撃てば当たると思ったんだが・・・。ミーナ、何かいい考えはないか?」

 そんな、無責任な・・・。

 

 そういうことなら自分たちが行くしかない。

「宮藤です。巣の本体は、わたしたち扶桑のウィッチが破壊します。」

「そうか、頼んだぞ。」

 自分の作戦ミスはなかったかのように、ガランド中将は涼しい顔で答える。若くして将軍の地位に着くには、これくらいの面の皮の厚さが必要なのかと、ミーナはちょっと呆れる思いだ。何だか胃が痛くなってきた。しかし、まだ問題がある。

「宮藤さん、コアの位置の確認はどうするの?」

 

 そこへ割り込むように通信が入る。

「宮藤さん、雁淵です。わたしが接触魔眼でコアの位置を見つけます。」

「あれ、ひかりちゃん来たの? 参加する予定はなかったよね?」

「だって、わたしがやらなくちゃコアの位置が分からないじゃないですか。」

「だめよ、ひかり。危険過ぎるわ。」

 あれ、この声は?

「おねえちゃん!?」

 忘れるはずもない、ひかりの姉の雁淵孝美だ。

「ひかりはもうシールドがまともに張れないんでしょう? そんな状態で接触魔眼なんて、自殺行為だわ。」

 しかし、孝美はとっくに引退して、扶桑に帰って後進の指導をしているはずだ。

「ど、どうしておねえちゃんがいるの?」

「宮藤司令官に呼ばれたのよ。わたしが絶対魔眼でコアを特定するのよ。」

「えっ? だっておねえちゃんの方がもっと魔法力が低下しているじゃない。飛ぶだけだって厳しいんじゃないの?」

 飛ぶだけでも危ないのに、自分を守ることも難しい絶対魔眼を使うなんて無茶だ。

 

 そこは、呼んだ芳佳もわかっている。わざわざ扶桑から呼び寄せて、そんなに危険なことをさせたりはしない。

「あのね、わたし魔法力付与の魔法が使えるんだよ。まあ、魔法力に対する治癒魔法みたいなものでね、一時的だけど低下した魔法力を回復させることができるんだよ。だから今の雁淵さんは、全盛期並みの魔法力になっているんだよ。」

「ず、ずるいです。わたしも回復させてください。」

「いや、ひかりちゃんは魔法力を回復させても、接触魔眼だから危険なことに変わりないでしょう?」

「おねえちゃんだって危険です。絶対魔眼を使うとシールドの力が下がって、自分を守れなくなるんです。そのせいで酷い怪我をしたことだってあるんですよ。」

 ひかりの姉を思う気持ちに芳佳はちょっとうるっとなるが、そこはちゃんと考えてある。

「そこは大丈夫だよ。」

 そう言って芳佳は巨大なシールドを展開する。

「雁淵さん、行くよ。」

「はい!」

 巨大なシールドをかざして進む芳佳に、孝美が続く。

 

 ネウロイの巣の本体は、芳佳と孝美めがけて次々とビームを放って来るが、芳佳の強大なシールドは全てを弾き返す。芳佳のシールドに守られながら、孝美は絶対魔眼を発動する。

「絶対魔眼!」

 孝美の髪がまるで生きているようにざわざわと動くと、赤く光る。同じように赤く変わった孝美の瞳が、ネウロイの本体のコアを暴き出す。

「コア捕捉・・・、最終補正! グリッドH58954、T87449。」

「ユルキュちゃん!」

 芳佳の指示を今や遅しと待ち構えていたユルキュが、孝美が指示した位置に狙いを定めると、ありったけの魔法力を注ぎ込んで、ツァウベルヴンダーヴァッフェの引き金を引き絞る。迸り出た魔法力の奔流が巣の本体のコアを捉えて貫通する。これまで散々苦しめられてきたのが嘘のように、巣の本体はあっけなく消滅した。

 

 基地全体が歓喜の渦に包まれる中で、ガランド中将は落ち着いて言う。

「うん、プラハの巣は撃破できたようだな。作戦通りだ。」

 いやいや、作戦通りではないだろう。

「ガランド中将、もし宮藤さんたちが応援に来てくれなかったら、どうするつもりだったんですか?」

「いや、宮藤君は来ると思っていたよ。」

 よくもまあぬけぬけと言えるものだ。しかし、こうでなければ上層部の面々を向こうに回して、上手く渡り合うことなどできないのだろう。自分も否応なくその中に引きずり込まれるのかと思うと、ミーナは今から胃が痛い。

 

「ともあれ、これでネウロイの巣を撃ち破る方法は確立できたな。次はコシツェの巣だ。早々にV3号を移設させよう。」

 確かに、今回の方法であれば、手堅くネウロイの巣を撃破できそうだ。長い、長いネウロイとの戦いだったが、ようやく人類の勝利が見えてきた。

「しかしまあ、扶桑にばかり頼ってはいられないから、カールスラントでも強大な魔法力を持ったウィッチを発掘して、訓練しなければならないな。」

「そうですね。あと、強力な魔眼持ちも必要ですね。まさか、今回の様に、引退したウィッチをそのたびに連れて来るわけにもいきませんからね。まったく、扶桑のウィッチって・・・。」

「ああそうだな。しかし私も魔眼持ちだぞ。宮藤君に頼んで魔法力を回復してもらおうか。」

「ガランド中将・・・。」

 この人は、この期に及んでまだ自ら出撃するつもりなのか。呆れたウィッチは扶桑だけではなく、ここにもいたようだ。

 

 まだ、ネウロイの巣は少なからず残っているので、時間はかかりそうだが、ネウロイの巣も確実に撃破できる作戦も見つかって、どうやらネウロイに対する人類の最終勝利が見えてきた。もちろんネウロイもただ手をこまねいてはいないかもしれない。予想もつかない新たな方法で反撃してくるかもしれないから、油断は禁物だ。それでも、いつ果てるともなく続いて来たネウロイとの戦いの終わりと、世界平和の到来は決して遠くないことだろう。世界が平和を取り戻すその日まで、頑張れ芳佳、頑張れ世界のウィッチたち。

 

 おしまい

 

 




あとがき

 「ストライクウィッチーズ オストマルク戦記」完結しました。長きに渡った連載中、ご愛読いただいた皆様、コメントや評価をいただいた皆様に感謝します。

 今回はごく大雑把な構想を元に、執筆しながら先を考えて行くという形をとりましたが、結果として全体のバランスが良くないとか、最後の方の数話だけ妙に長くなってしまったとか、構想していたエピソードの幾つかは上手く盛り込めなかったとか、登場人物が多いこともあって一人一人をあまり深く描けなかったとか、反省点も少なくありません。やはり、もう少し完成度の高い作品にするには、全体のストーリー構成とか、プロットとか、事前に詰めてから制作に入る必要があるかと思います。次回作の構想は今の所ありませんが、次回作を書くときにはそのあたりも考慮して取り組んでみたいと思います。

 従来個人ブログに投稿していた時は、各話のサブタイトルは付けていなかったのですが、今回サブタイトルを付けてみました。やってみて思うのは、やはりなかなか難しいということです。全体に統一感がないとか、内容を適切に反映したものになっていないとか、同じサブタイトルに番号を振ること自体は良いにしても「8」まであるのは多過ぎだろうとか、反省することしきりです。これをどう改善して行くかは課題です。

 いろいろ反省点はありますが、ご愛読いただいた皆様に楽しんでいただければ、作者として嬉しく思います。もし、次回作を投稿することになったら、その時はまた楽しんでいただければ幸いです。


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