アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
自分の席に戻った雄二を待っていたのはニコニコと笑う美海と岸部だ。
「なんだよ。次は闘技場なんだろ、行かないのか?」
「いくよ~、でもその前に紹介しておこうと思ってね。この子が岸部沙織ちゃん」
「は、初めまして。
綺麗にお辞儀をする岸部。
「おい、美海。中等部の時に何を言いふらしたんだ」
「え!? そんなに話してないよ~。たまに話してたぐらいだって」
「ふふふ、そうですね。昼休みや放課後以外にも、月に一回ぐらい広報部の子と集まってよく話してました」
「月一……」
広報部と話してたとか嫌な予感しかしないぞ、おい。
「き、気のせいだよ! それより雄二、端末出して」
雄二は言われた通りに端末を出す。
美海もスカートのポケットからよく似た端末を取り出すと操作し始めた。
「あれ? これってアルドラ専用じゃなかったか? なんで同じのを持ってるんだよ」
「違いますよ、成瀬君。これはプログレス専用端末です。プログレスには先日の入学式のときに配られたんです。機能は普通のスマートフォンと大差ありませんから。ただ、これは本人しか操作できないようになっているので学生証として使えるんですよ?」
岸部は同じように端末を取り出し、雄二に説明をする。
その間に操作が終わったのか、美海は雄二に端末を突き付けていた。
「はい、雄二。ID登録」
「え、これってその端末とも登録できるのか?」
「もちろん! ほらさっきしてたみたいに登録するの」
「えっと、確か……これか。お、登録できた」
ピコンっと音が鳴り、登録が完了する。美海は満足げに頷くと岸部の方を見た。
「どうしたの、美海ちゃん」
「どうしたのって沙織ちゃんはしないの?」
「えっ! わ、私も!?」
「もちろんだよ。いいよね? 雄二」
「ああ、俺は別にいいが。岸部さんはいいのか?」
「はい。その、よろしくお願いします」
恐る恐る端末を雄二に差し出し、登録を済ませる岸部。
早くも二人のプログレスと登録できたことに雄二は感心していた。
いつものメンバー以外の連絡先があるって新鮮だなぁ。
「それじゃあ、行こっか。また私のエクシードを見せてあげるね♪」
「ああ、楽しみだよ。俺も、自分の力を確かめたいし」
「お二人はとても仲がいいんですね。ちょっと妬いちゃいます」
「幼馴染みだもん。仲がいいのは当然だよ」
「もうこれが普通って感じだからな」
三人は教室を出て、闘技場に向かう。
雄二としては男子の皆と行きたかったのだが、既に教室にいなかった。
闘技場に着いた三人は自動ドアを通って中に入る。
中には多くのクラスメイトがいた。先程教室にいたメンバーだけでなく、昨日見かけたクラスメイトも集まっている。
「賑わってるな。昨日のガランとした感じが嘘みたいだ」
「ほらほら、入口のとこに立っていたら迷惑だよ。バトルエリアの方に行こうよ」
美海と岸部に連れられて通路を歩く雄二。
周りにはアンドロイドや妖精、魔女のような恰好をした少女まで様々なプログレスが溢れていた。その中にこちらに駆け寄る男子生徒の姿が見えた。
「あれ? おい、美海。こっちに来てるやつ誠也に似てないか?」
「え、誠也君に? でもあの人、一般人じゃないの?」
「あの、その誠也さんとはどなたなのでしょう?」
「誠也は俺と美海が中学にいたころの友達でさ。見た目はイケメンなんだが、中身は残念ってもったいないやつだ」
「本人を前によくそんなこと言えるよね」
雄二が岸部に説明をしているとその後ろから先程の生徒が話しかける。
その声に雄二は振り返った。
「後ろだからいいんだよ。それと、久しぶりだな。元気してたか?」
「そういう問題じゃないんだけど……。久しぶり、雄二。それと
「わあ、本当に誠也君だ~。誠也君もαドライバーだったんだね! 久しぶり~」
「日向も雄二も驚かないんだな。あ、初めまして、
「は、はい。岸部沙織です。よろしくお願いします、十河さん」
「僕のことは誠也でいいよ」
「おい誠也。岸部さんが可愛いのは分かるが、もう少し離れろ。自己紹介するには近すぎだろ」
「もうセクハラだよね。安堂先生に訴えようかな」
雄二と美海の言葉が聞こえたのか、すぐに距離をとる誠也。
恥ずかしかったのか岸部の頬はほんのり上気していた。
通路を抜けてバトルエリアに出た四人。
闘技場は円形だ。一階中央部には円形のバトルエリアがあり、バトルエリアの外側にはエントランスと更衣室、トイレや簡易的なシャワー室等の施設が配置されている。
そして二階にはバトルエリアを囲うように作られた観客席がある。
「ここが、バトルエリアか。見てるだけでワクワクしてくるよな!」
「久しぶりに見たけど、声は弾んでるのに顔は無表情って何だか妙な光景だね」
「雄二はいつものことだよ。それよりさ、もっと見て回ろうよ!」
「美海ちゃんはいつも以上に元気ですね~」
「貴方が成瀬雄二かしら。思った以上に無表情なのね」
雄二と美海がバトルエリアの壁をペタペタ触っていると上から誰かが話しかけてきた。
上? 誰か観客席にいるのか?
二人そろって少し後ろに下がって観客席に視線を向けた。
するとゴスロリ服を着た少女が腕を組んで見下ろしていた。
「ねえねえ! 私、日向美海。あなたのお名前は?」
「この状況で名前を聞くのかよ。まあいいか。俺は成瀬雄二。どうして俺のことを知っていたんだ?」
「私は理深き黒魔女――」
「なーんだ、そんな所にいたんだね。ソフィーナちゃん」
「ちょ、ちょっと、セーヤ。自己紹介に割り込まないでよ!」
「誠也、知り合いなのか?」
「知り合いというか僕の雇い主。可愛い黒魔女ソフィーナちゃんだよ」
「理深き黒魔女、ソフィーナよ! 勝手に変えないで!」
ソフィーナは観客席から飛び降りて、ふわりと着地すると誠也に詰め寄る。
誠也の隣にいた岸部はサッと美海たちのもとへ逃げていく。
「大体、どこに行ってたのよ。いきなり置いていくとかひどいと思うんだけど」
「あー、それはひどいよね。ねえ、沙織ちゃん」
「そうですね、イケメンとは思えない行動です」
離れた所では美海と岸部がうんうんと同意していた。
「ごめん、可愛い子がいたからつい。あ、でも、おかげで雄二たちと再会できたし、許してくれないかな」
「言い訳にすらなってないな」
「最低だね。誠也君」
「本当に残念なイケメンということですか」
「ちょっと!? こっちまで聞こえてるんですけど!」
「まあいいわ、今回は許してあげる。そのかわり、しばらく仕事を倍に増やすから」
「それで許しちゃうんだ、ソフィーナちゃん」
話は終わったのか雄二たちのもとへ来る二人。
ソフィーナに改めて自己紹介を済ませた雄二たちは誠也との関係を聞いていた。
「それで、こうして今は助手となっているわけだよ」
「なるほど。ドラゴンかぁ、美味いんだろうな。高いだろうけど」
「え? 雄二はこの前食べてたじゃん。ほら、あの高いやつ」
「は!? 俺が食ったあのカツサンドってソフィーナさんが倒したドラゴンだったのか!?」
「あら、あのドラゴンを食べたのね。どう? 美味しかったでしょう? ドラゴンなんて滅多に食べられない珍味なんだから」
「美味かった。でも高かった!」
「それなら自分で調達したらいいじゃない。そうすればタダよ? まぁ、そう簡単にはいかないでしょうけど。いつか黒の世界で狩れるといいわね」
ワイバーンか。下位種とは言えドラゴンだ。アルドラ1人でどうにかなるような相手じゃないよな……。
「ところで雄二と日向。僕がαドライバーだったこと、驚いていないようだけど何でだい?」
誠也の質問に顔を見合わせる二人。
「世界中を飛び回ってるやつが一般人なわけがないだろ」
「そうそう。誠也君がアルドラでもあまり驚かないよ。私としては雄二がアルドラになってたことの方が驚いたよ」
「それは、俺自身も驚いた」
「あの、みなさん。そろそろ向こうに行った方がいいかと。他の皆も集まっているようですし」
おずおずと手を挙げて発言する岸部。その隣ではソフィーナが頷いている。
「行くか。この後、何をするんだろうな」
「雄二、君の実力楽しみにしているよ」
誠也は雄二の肩に手を置くと意味ありげに言ってくる。
ソフィーナも何があるか分かっているのか美海と岸部に不敵な笑みを向けていた。
そして始業のチャイムがなり、闘技場での授業が始まる。
第3話につづく