アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
「さて、みんな集まっているかしら。ああ、並ばなくて大丈夫よ。楽にしてていいわ」
安堂先生はそう言いながら空中に投影されたパネルを操作している。
「へぇ、あんな機能もあるんだな。美海は知ってたか?」
「い、いや~、実はここに入るのって初めてなの。観客席から見たことはあるんだけどね」
「私も今日初めて入りました」
「え、岸部さんも? 中等部では入らないのか?」
「中等部にはαドライバーがいないから。高等部の人に頼むのもハードル高かったし」
今は初等部、中等部にはαドライバーがいない。
そのため、彼女たちがアルドラを必要とするブルーミングバトルには参加することが滅多にないのだ。高等部のアルドラと組めば参加できるのだが、なかなか組む人はどちら側にもいない。
「さ、皆注目~! これからこの施設について説明します。よく使うことになると思うからちゃんと聞いておくように。わかった? 成瀬君、日向さん」
『はい!』
反射的に返事をする二人。横では岸部がクスクスと笑っていた。
「まず、この施設の正式名称から教えましょうか。誰か分かる人はいるかしら?」
「はい! ブルーミングバトルコロシアムです!」
美海は先生の質問に素早く手を挙げて答えてみせる。
「そう。日向さんの言う通り、ここは『ブルーミングバトルコロシアム』という名前よ。通称闘技場ね。コロシアムって呼ぶ人もいるかしら。バトルエリア、今私たちが立っているここには自動修復機能がついてるわ。そしてバトルの観戦する観客席にはαフィールドを参考にした最新型の保護フィールド展開デバイスが設置されているから、万が一に流れ弾が飛んできても観客席に被害はないから安心していいわ。更衣室は冷暖房完備、シャワーやトレーニング施設も完備された、ブルーミングバトルを行うための快適な空間となっている優れものよ。説明は以上だけど何か質問があるかしら?」
「あのー、αフィールドってなんですか?」
「垣内君、いい質問ね。それじゃあ、その説明をするためにこっちに来てもらえるかな」
「あ、はい。……来ました、けど」
「よし、それじゃあ発動してみようか」
「えっ!?」
「簡単よ。端末を出して、項目をタップするだけ。最初のうちはそれで発生させるといいわ。慣れてくると意思だけで発動できるらしいから頑張ってね」
「……えっと、なんか周りに拡散していった感じがあるんですけど」
「今は対応するプログレスが選択されていないから、実戦とは違う感覚かもしれないけど……、それがαドライバーが発生させる、プログレスを保護するフィールドよ」
青蘭島では、その用途からブルーミングバトルフィールドと呼ばれることもある。プログレスたちはαフィールド内において怪我を負うことはないが、αドライバーに一定以上の負荷がかかると解除される。
「負荷というのがどういう程度のものなのか。それは後で分かるわ。ここで戦う限りは負荷を負ったαドライバーが血塗れの大怪我になるなんて事態にはならないから。と、いうわけで一時間後この場所で新入生交流バトルを開催します!」
「実力ってこういう事だったのか」
「雄二、楽しみだね! バトルだよ、バトル! 絶対楽しいよ~!」
「わ、私にこなせるでしょうか……」
クラスメイト全員が安堂先生の言葉を固唾を飲んで待っている。
「ルールは公式ルールと同じよ。ただ今回はメンバーをこっちで選ばせてもらったわ。最大プログレスは四人。控え交代は無し。αドライバーが倒れたらそこで試合終了。参加できなかったプログレスたちは悪いけど見学していてね」
「αドライバーは強制参加か。連戦になると辛いだろうな」
「雄二はいいよね、私たちなんか出られないかもしれないんだよ?」
「わ、私は出れなくてもいいかなー、なんて」
先生は生徒が静まるのを待ってから話を続ける。
「メンバーを発表するわ。丁度このクラスには四世界のプログレスがいることだし、色ごとに戦ってみましょう。まず、青チーム。αドライバーは成瀬雄二君。プログレスは日向美海。岸部沙織。音羽ツバサ。カトリーヌ・オベール。以上の四人よ」
「美海や岸部さんは知っているがあとの二人は誰だ?」
「え~っと、ごめん。私もわからない」
「すみません、多分新入生の方々、という事しか分かりません」
「いや、いいよ。後で会えばいいだけなんだ。気にしなくていい」
周りは多少騒めきはしても、静かな方だ。大多数の生徒が初めてのバトルの選手に選ばれるかどうか緊張して待っている。
「黒チーム。αドライバーは十河誠也。プログレスはソフィーナ。リゼリッタ。アビー。フランボワーズ。以上の四名」
黒チームに選ばれたのは誠也だ。雄二が誠也の方を見てみるとソフィーナ以外のプログレスも集まっているようだった。なにやら騒いでいるようだが、緊張しているようではなかった。
「赤チーム。αドライバーは垣内巧。プログレスはアウロラ。フローリア。ディアンナ。ヴァレリア。以上の四名」
「次は俺か。バトルなんてワクワクするよな。なぁ、雄二」
「あ、ああ、垣内か。俺は緊張でいっぱいだよ。もっと気楽なバトルだと良かったんだが」
「そんなの気にするな。選ばれたからとかそんな理由は関係ないだろ、バトルは楽しくやるものだ。雄二の気持ちでどうとでもなるさ。あ、俺のことは巧でいいぞ」
「巧の言う通りかもなぁ。楽しまなきゃ勿体ない。ありがとう、巧。お互い頑張ろうぜ」
巧は手を振って雄二に応える。雄二は緊張の和らいだ状態で次の発表に耳を傾ける。
「そして最後、白チーム。αドライバーは朝比奈淳。プログレスは
最後は朝比奈だ。彼はアンドロイド工学というものを読んでいたぐらいだ。アンドロイドとの相性はいいだろう。強敵の予感がする。雄二は思わず拳を固く握っていた。
「今回はこちらが決めさせてもらったけど、正式なチームになるなら教務課まで書類を提出しなければいけないわ。最低でもアルドラ1人とプログレス1人はいないとチームじゃないと受理されないから注意するのよ」
チーム申請用紙は職員室前に置いてあるボックスの中だ。
そういえば、昨日案内してもらった時は初等部の方に気を取られて、隣の職員室の方はあまり見ていなかったな……。
安堂先生は騒めく生徒たちを見渡し、一呼吸おいて言葉を飛ばす。
「それでは一時間後ここで行うから集合するように。それまでは各自エクシードの確認や制御の練習をするといいわ。それじゃあ、解散!」
雄二たち青チームはエリアの端に集まっていた。
「え~っと、とりあえず自己紹介しよっか! 私は
「じゃあ次は私が。
「あ、ああ。成瀬雄二だ。このチームのアルドラをすることになった。何ができるか分からないが、このバトルを楽しんでいこうと思ってる。よろしく」
雄二がぎこちないながらも自己紹介を終えると名前のわからないメンバーの金髪の少女が歩み寄ってきた。
「貴方、きちんと喋れるのね。てっきり、無口で無表情な殿方なのかと思っていましたわ」
「え、っと……自己紹介してもらえるかな? 同じクラスの人なんだろうけどまだ分からないからさ」
「いいですわ。私の名前はカトリーヌ・オベール。フランス出身の貴族ですわ」
「へぇ~、カトリーヌさんってフランス人なんだー。日本語上手だね!」
「日向さんと言ったかしら。いきなりファーストネームで呼ぶのは失礼になりますわよ。まあ、ここでは階級など無意味ですし、構いませんけど。それに、貴女たちこそフランス語がお上手なのね」
どういうことだ? お互いに話している言語が違うのに会話ができている。一体何故……。
雄二は原因を考えていたが、その腕を誰かにつつかれて思考から戻ってくる。
「
「ああ、よろしく。ところで、音羽さんとオベールさんは何のエクシードが使えるんだ?」
「ツバサでいい。エクシードの方はまだわからない。でも、ナイフは割と得意」
「親しみを込めてカトリーヌでいいですわ。私もエクシードの方は分りませんが一応護身用の鞭なら得意ですわ」
「ナイフと鞭か。近接型と中距離型ってところか。岸部さんは防御系のエクシードだろうけど、美海はどうなんだ?」
美海は腕を組んでしばらく考えていた。
「そう! 風がぶわーってなって、相手の体制を崩したり、速く動けたりするよ。あ、空も飛べる!」
どうやら、説明の仕方を考えていたらしい。
「空が飛べるのは知ってる。うーん、拳や蹴りが主な武器になってくるのか」
「うぐっ、ごめん。まだ上手く制御できなくて」
「気にしなくていいですわ。私なんて自分のエクシードが何なのか分かっていないのですから、美海さんは十分凄いですわ」
「そう。気にしなくていい。……ナイフいる?」
「カトリーヌちゃん、ツバサちゃん。ありがとう! 私、がんばる! あ、でも、ナイフはいらないかな」
「αドライバーの成瀬さんの防御は任せてください。精一杯お守りします!」
チームのやる気はバッチリだ。雄二はこの戦力でどう戦うか、彼女らと話し合いながら決めていくのだった。初バトルはもうすぐだ。
第4話につづく