アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
「そろそろ時間ね。これより新入生交流バトルを開始します! トーナメント形式で行うわ。一回戦目は青対黒よ。青と黒のチームは準備してね」
先生が観客席から声を張る。
青チームと黒チームだけがバトルエリアに残り、他は観客席で既に観戦モードだ。
その中には朝比奈や巧のチームも混じっている。
「まさか最初に戦うことになるなんてね」
「こうなることは予想してたんだろ? ところで誠也、なんで始まる前から少し焦げてるんだよ」
「ああ、ちょっとあってね。気にするレベルじゃないよ」
誠也は何事もなかったように平然と話している。
本当に気にするレベルではないということか。
「あなたたちの実力、見せてもらうわよ」
「ソフィーナちゃん、負けるつもりはないから! 全力でぶつかろうね!」
「ふんっ、私が全力を出すまでもなく倒してあげるわ!」
「ふふふ、ソフィーナったら必死になっちゃって。カワイイ」
ソフィーナを後ろから抱きしめる少女。ピンクのツインテール。安全ピンの形をした髪留め。髪から突き出る二つの小さな角。何より特徴的なのが胸部の双丘だ。ソフィーナと同じぐらいの身長に不釣り合いなほど大きなふくらみはソフィーナの背中で押しつぶされている。
「リゼリッタ。抱きつかないでくれるかしら。あとその背中に当たっているものを今すぐどけなさい」
「誠也、お前のチームって黒というよりピンクじゃないか?」
「雄二……、それは言わないでくれ。あ、チームメンバーの紹介はいるかな?」
「今回のバトルの目的は交流だろ? 紹介はした方がいい。というわけでこっちのチームからやらせてもらうぞ。俺は成瀬雄二。隣のツインテールが日向美海。お淑やかな子が岸部沙織。金髪お嬢様がカトリーヌ・オベール。マフラーをしてる子が音羽ツバサだ」
誠也は一通りメンバーを見た後、頷き黒のチームの紹介をする。
「僕は
「これは悪魔の正装よ。どう? 襲いたくなった?」
フランボワーズは背中の蝙蝠の羽をはばたかせ、雄二と距離を詰める。
一瞬で距離を詰められた雄二は驚き、反応が遅れてしまう。
「あははは、その驚いた顔たまんない、ってなんで無表情なのよ!」
「残念ながらこれがデフォルトでな」
よっぽど悔しかったのかフランボワーズは尻尾をしならせ、誠也のもとへ戻ってしまう。
「アイツ、絶対驚かせてやる! セーヤ、早く始めようよ!」
「まだ紹介が終わってないよ。最後のメンバーはこの子、アビーだ」
誠也はそっと横にずれると背中に隠れていた少女を前に出す。
白い魔法帽子に黄色いリボン。白い魔法服。身長130センチ程度。手に持っているかわいらしい魔法の杖がトレードマークのその少女は緊張した面持ちで前に出てくる。
「あ、あのっ、アビーです。よろしくお願いします!」
雄二は歩み寄り、アビーと目を合わせるように少し屈んで話しかける。
「こちらこそよろしく。やれるだけやるつもりだから精一杯楽しもう」
「っ、はい! よろしくおねがいします!」
誠也のもとに戻るアビーの足取りは少し軽やかで、先程よりも緊張はしていないようだった。
雄二はチームの位置に戻ると先生の合図を待った。
「雄二って素でこういうことするよね」
「緊張しているようだったから、解してやろうと思ってな」
「優しいんですね、成瀬君って」
「ほら、もうすぐ合図があるはずだ。気持ちを切り替えろ」
安堂先生は投影パネルを操作すると、自動修復システムと保護フィールド発生装置のシステムを起動させる。数秒差で展開される保護フィールド。空中にはカウントダウンが表示され、カウントを減らしていく。
『αフィールド展開!』
雄二と誠也の声が重なり、それぞれのプログレスを保護するフィールドが発生する。
そして、ついにゼロになり、バトルが開始された。
先に動きを見せたのは青チームだ。雄二がプログレスたちに指示を飛ばす。
「練習した連携で行く! やられる前に決着をつけるぞ!」
「りょーかい! いっくよー!」
美海は自身のエクシードを発動させる。すると美海の周りに風が集まり、木の葉が舞い始める。
「何をしようとしてるか分かんないけど、そうはさせないぜ!」
美海の動きを邪魔しようとフランボワーズが羽をはばたかせ、距離を詰めようとしてくる。
しかし、その羽を一本のナイフが貫通していく。
「美海の邪魔はさせない」
「あ、あれ? 痛くない。でも、羽がダメになっちゃった……」
「くっ、大したことは無い。このまま迎え撃ってくれ」
フランボワーズの受けたダメージは誠也にフィードバックされる。
だが、誠也は顔をしかめながらも体勢を崩さない。
「雄二っ、行ってくる! てりゃぁああ!!」
風を纏った美海はバトルエリアを滑るように移動し、まっすぐ誠也めがけて突き進む。
「突っ込むだけでは意味がないわよ!」
「きゃあっ!」
「大丈夫か、美海!」
美海の前方に突然炎の壁が出現し、進行を遮ったのだ。
その炎を放ったソフィーナは空中に飛び上がった美海を捉えている。
「大丈夫だよ。ちょっと驚いただけ!」
「止まっていたら簡単に当たっちゃうわよ、美海!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! うわっ、よっと、雄二どうしよう!?」
「美海はそのままソフィーナを引き付けていてくれ!」
「りょーかい。ほらほら、ソフィーナちゃん! そんなの当たんないよ!」
美海がかく乱している間、フランボワーズの相手をカトリーヌが鞭で牽制していた。
「もう! 鞭、邪魔なんだけど!」
「ここから先には行かせませんわ!」
カトリーヌの鞭捌きが的確にフランボワーズの行く手を妨害している。
「成瀬。私が行く」
「おう。頼んだぞ、音……ツバサ」
「ん。任せて」
ツバサはマフラーを翻し、敵陣へ駆けてゆく。
雄二の傍では岸部が待機している。
「みんな、すごい……。ちゃんと戦えてる!」
「ああ。俺らのチームはみんな初バトルなのに戦えてる」
「それに比べて私は――」
「そうね。あなたは今のところ役立たずね」
「っ!? ごほっ、ごほっ、何これ……力が抜けて」
咳き込んで膝をついた岸部を見て、ようやく雄二は周囲に漂う仄かな甘い香りに気がついた。
「リゼリッタ……! お前、もしかして毒を」
いつの間にか岸部の後ろにいたリゼリッタは不敵な笑みを雄二に向ける。
「私は闇夜の黒薔薇。即効性の毒の香りを発する花を召喚するなんて造作もないのよ。でも残念なことに私にはあなたにダメージを与えるすべがないわ」
「どういう、ことだ……?」
「毒のダメージは負荷にならないってことよ。後始末はアビーちゃんに任せるわ」
そう言うと立ち去っていくリゼリッタ。
力が抜けて膝をついていた雄二の視界にはアビーが杖を掲げる姿が映った。
すると、上空に出現する複数の炎の塊。その大きさは徐々に肥大化してく。
「雄二っ、逃げて!」
「逃げろとか言われても、逃げ場なんてないぞ!?」
「わたしが、守り、ますっ! 成瀬君は、わたしが」
ふらふらになりながらも雄二の前に立つ岸部。その瞳に怯えはなかった。
「戦いは好きじゃない……でも、なにもできないのは嫌なの!」
岸部は前に両手を突き出し、集中する。
エクシードは意思に反応する。岸部の守りたいという強い思いがエクシードを強くするのだ。
岸部のエクシードにより、シールドが雄二たちの周りに展開されるのと炎が落ちてくるのはほぼ同時だった。
シールドに当たった炎の塊が爆散し、辺りに炎をまき散らす。
しかし、青チームのメンバーは全員岸部に守られて無傷だ。
「沙織ちゃん、すごいよ! 全然炎が熱くなかった!」
「あはは、でも、もう使えなさそう。ちから、使い切っちゃった……」
「あなたはそこでゆっくり休んでなさいな。後は私たちが請け負います」
力を使い切って座り込む岸部を励まそうと近づいた雄二に激しい痛みが走る。
「ぐっ、なんだよ、これ。一体何が、っ!?」
雄二は倒れそうになる体を必死に押さえ、エリアを見渡す。
「成瀬君、あれ……」
岸部が指差す先、撒き散らされた炎がまだ少し残る敵陣で、音羽ツバサが倒れていた。
第5話につづく