アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
「うそ、だろ……。炎は岸部が防いだはずじゃないのか!?」
愕然とする雄二を雷撃が貫く。
「がぁあああ!! くっそ、痛ぇ……っ」
「ふ~ん、私のビリビリを食らってまだ倒れないんだぁ。なかなかやるじゃん」
「あなたっ、私がお相手になると言って――」
「もう。さっきからバシバシ、邪魔! そこで大人しく寝てな!」
「だ、大丈夫ですか!? カトリーヌさん、成瀬君!」
フランボワーズが放った雷撃がカトリーヌの意識を刈り取る。
そしてそのダメージは雄二に伝わり、膝をついてしまう。
「これ、やばい……。美海、もうこれ以上は……」
「雄二っ! リンクしよう! まだその手があるよ!」
雄二は霞む視界の中、美海を見る。
まだ諦めていない。その意思が何かを通じて伝わってくる。
リンクって、練習のときに美海と岸部さんが何か言っていたよな……。
『リンクっていうのはね。プログレスたちがαドライバーの支援を受けて使えるようになる必殺技のことなんだよ!』
『必殺技?』
『はい。プログレスとαドライバーでしか確認されていない脳波をシンクロさせることで、エクシードの真価を発揮させるものだそうです』
『成功できれば切り札になる、か』
脳波をシンクロ、させる……。もしかして、昨日のあの感覚が?
美海と手を繋ぎ、空を飛んだ時。
もしあの時の感覚がリンクなのだとしたら、もう一度やれるはず!
雄二は美海から伝わってくる何かを辿っていく。それが例の脳波であることを知らない雄二は一心不乱に辿っていき、そして美海の脳波と完全にシンクロした。
『エクシード・リンクっ!』
二人の声が図らずとも重なり、リンクが発動する。
「これが私の力……。雄二が引き出してくれた、私の可能性!」
空に浮かぶ美海の背中には光の翼が展開している。そして、美海はその手に風を纏う細剣を持っていた。
「それがあなたの覚醒状態ってこと?」
ソフィーナは問いかけながら炎の弾を美海に放つ。
しかし、美海はそれを細剣で切り裂いてしまう。
「凄い……、これなら勝てる!」
「どうやら本物のようね。セーヤ! 私たちもやるわよ!」
「はあ、温存しておくって選択をするつもりはないようだね。じゃあ、行くよ」
誠也は一呼吸置くとすぐに発動させてしまう。
『エクシード・リンク』
「美海っ、早く攻撃するんだ! 誠也は戦い慣れてるんだぞ!」
「わ、わかった! やぁあああ!!」
美海は剣を構え、誠也に突撃する。その速度は前回の比ではないほど上がっている。
「魔の力と古き理をもって全てを焼き払え!
リンクの成功したソフィーナの周りを紅蓮の炎がとぐろを巻いていた。
その爆炎は風を纏い、迫り来る美海を飲み込む。
「くぅ、とどけぇー!!」
「なんですって!?」
炎を突き抜けてきた美海は手に持った細剣を誠也に当てようと腕を伸ばす。
誰もが、誠也でさえ負けを確信したその瞬間、思わぬ形で試合は終了した。
『試合終了! 勝者、黒チーム』
試合終了のアナウンスが流れ、美海とソフィーナのリンクが解除される。
美海は状況が把握できていなかった。ただ、自然と視線は雄二のいる自陣へ向いていた。
「ゆう、じ……?」
その視線の先では岸部が倒れ伏す雄二の体を必死に揺すっていた。
「し、しっかり、しっかりしてください! ……雄二さん、目を覚まして!」
美海は考えるより先に動き出していた。雄二に駆け寄ろうと足を動かすが、途中でもつれて倒れてしまう。
「な、なんで? 動いて、動いてよ! 雄二のところに行かなきゃ!」
「美海。じっとしてなさい、あなたの体は慣れないリンクの影響で相当疲労しているはずよ。大人しく保健室に運ばれなさい」
「で、でも、雄二が」
「成瀬君や他の皆も保健室に連れて行くわ。誰か、保健室に運んであげて」
ソフィーナはギャラリーに声をかけ、保健室に運ぶよう頼む。
安堂先生も同じ指示をしていたのか、観客のプログレスたちに運ばれていく青チーム。
ツバサやカトリーヌは既に意識を取り戻したのか、肩を借りながら歩いて行く。
美海は担架で運ばれる幼馴染みの姿を見届けて、静かに意識を手放した。
「あ、れ……、ここは?」
目を覚ました雄二は焦点の合わない視線を天井に向けていた。
「目が覚めましたか? 雄二さん」
「岸部か。試合はどうなった? それに他のメンバーは」
「試合は負けました。他の子達なら一人はそこに。あとの二人は飲み物を買いに行っています」
そこ、と言って岸部が指差した方に視線を向ける。そこには雄二のベッド横にある椅子に座り、ベッドの上で腕を枕にしながら眠る美海がいた。
「美海、お前何してるんだよ」
「ふふふ、少し前までは横のベッドで寝ていたんですけど、目が覚めたと思ったら今の状況になってましたよ」
「寝ぼけていたってことか?」
「さぁ? どうでしょう。それよりもお体の方は大丈夫なんですか?」
「まぁ、動けないほどじゃないよ」
良かったと安堵し胸を撫で下ろす岸部。その姿を見て、ふと雄二は気づいた。
「そういえば、呼び方変えたのか?」
「は、はい。ダメだったでしょうか? 他の皆さんも呼んでいるので真似してみたんですが」
「別にいいよ。岸部」
「あ、あの! できれば雄二さんも私のことを沙織、と呼んでください。仲間はずれは寂しいです」
「ああ、そうだよな。沙織」
「はい。雄二さん!」
「……私が寝てる間、二人でなにイチャイチャしてるの」
美海は目を擦りながら体を起こす。
「おはよう、美海」
「美海さん、私は別にイチャイチャなんてしてないですよ!?」
「沙織ちゃん慌てすぎだよ。冗談だってば。それと雄二、おはよう。体は平気?」
「ああ。まだちょっと痺れはあるけど、概ね良好だ」
「そっか、良かったぁ。それで、最後のときなにがあったの?」
「別に何かあったって訳じゃない。ただ、俺がダメージに耐えられなかっただけだ」
フランボワーズの雷撃は美海が攻撃していたときも続いていた。
雄二は美海の頑張りに負けないよう必死に耐えていたのだ。
しかし、なかなか倒れない雄二にしびれを切らしたフランボワーズの渾身の一撃で気を失うことになる。
「……ごめんね、私がもう少し早く攻撃できていれば勝てたかもしれないのに」
「あー、確かにそうかもしれない。だが、それなら俺が耐え切れていればよかったんだ。俺はお前たちのαドライバー失格だ」
「そんなことない。雄二の指示は初めてにしては的確だったと思う。負けたのは私たちプログレスの力不足」
「ちょ、ちょっと、ツバサさん。扉は開けておいてくれないと入りづらいですわ」
ツバサは扉を開けてあげる。カトリーヌは複数の飲み物を腕に抱えながら入ってきて、抱えていた紙パックのジュースをベッドの脇にあるテーブルに置く。
「さ、どれにしますか? 雄二さん」
「いや、俺は残ったのでいいよ」
「じゃあ、リンゴジュース飲みたい!」
美海は一番にリンゴジュースを取り、ストローを挿して飲み始める。
沙織、ツバサ、カトリーヌはそれぞれオレンジジュース、カフェオレ、緑茶を選ぶ。
そして最後残ったものを雄二は手に取った。
「野菜ジュースか。これいくらだった? 払うよ」
「あれ? 雄二、お金持ってるの?」
「うぐっ、無駄遣いするなって説教された後、3000リシェ支給されたから大丈夫だ」
「お金は出さなくてもいいですわ。これは貴重な経験を積めたことへのお礼も兼ねてますの。気にせず受け取ってくださいな」
カトリーヌはそう言って微笑むと緑茶を飲み始める。
フランス貴族が緑茶……。紅茶じゃないのか。
野菜ジュースを飲みながら雄二は保健室を見渡していた。
6つのベッドが並び、隣のベッド以外は綺麗にシーツが敷かれている。自分達しかいない部屋は前に廊下から見た保健室に比べて狭く感じた。
「この部屋狭くないか?」
「そう? 病室にしては広いと思うけど」
「病室? ここは保健室じゃないのか?」
美海は飲み終わったパックを畳んでゴミ箱に捨てると雄二のベッドに座る。
「ここの保健室って中でいくつもの病室になっていて、どの病室もこの部屋ぐらいあるんだよ」
「美海ちゃん、そうじゃないよ。各部屋は仕切りで区切られてるだけだから、仕切りを退けたり動かしたりすることで大部屋にも個室にもできるんだって。ナースさんが言ってたよ」
すると何かを見つけたのかツバサは壁際に歩いていく。
壁にあったボタンを押すとゆっくりと壁が動き出し、向こう側が見えてくる。
「動いた」
「すごーい、こんな風に動くんだね! ツバサちゃん、ナイス!」
美海がサムズアップすると得意気な顔をするツバサ。
「いや、ナイスじゃないだろ。それって勝手に押していいものなのか?」
「わからない。でも、戻しておく」
ツバサはそう言い、再びボタンを押して壁を戻す。
少し落ち込んだ表情に気づいた雄二は何か変える話題はないかと考えていた。
「そ、そうだ。今何時なんだ? 俺たちの試合が終わってからあまり経ってないなら、まだ試合を見れるんじゃないか?」
「もう夕方です雄二さん。他の試合なら既に終わってるそうです」
「雄二が寝てたのは6時間ぐらい。耐えようとしていたから余計に負荷が溜まっていたらしい」
「それもナースが言っていたのか?」
ツバサはコクンと頷く。
「気にしなくていいからね。私たちは別に他の試合を観れなかったこと後悔してないよ!」
「そうですわ。それに、看病したいと言い出したのは私たち自身です。観れなかった原因なら私たちにありますわ」
「そうか。後悔していないならいいんだが。あー、夕方ってことは昼食べてないんだよな。思い出したら腹減ってきた」
雄二はベッドから出て靴を履くと入口に歩いていく。
その背中を見ていた美海は追いかけようとするが雄二がそれを遮る。
「ただ、トイレに行くだけだって。ああ、そうだ。今日みんなで一緒に食べないか?」
「じゃ、じゃあ、食堂の前で集合ね! 直ぐに来てよ? 絶対だからね!」
「わかったよ。じゃあ、またな」
雄二は一人、病室を出て保健室の外に行く。
保健室から近い場所にあるトイレの方には行かずに雄二は校舎から出る。
向かったのは闘技場。自分が倒れた場所に行こうとしていたのだ。
第6話につづく