アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
「さて、自己紹介も済んだことだし、ここからは談笑を楽しもうじゃないか」
「なあ、それなら巧達に聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「ああ。こっちも聞きたいことはある。それで、大体想像つくが何を聞きたいんだ?」
「俺が倒れた後の試合についてだ。巧たちの試合、結果はどうなってる」
「負けたよ。なんとか抗ってみたけど勝てなかった。淳のやつ、本当に初バトルなのかってぐらい熟知してた」
巧は真剣な表情で語る。隣のヴァレリアもパフェを食べる手を止めて頷いていた。
「的確な指示で相手を追い込み、確実に倒しにいく。あの戦法は素晴らしいと言えるものだ。しかし、それでも黒チームには一歩及ばず勝てなかったようだが」
「そうか。やっぱり淳は強いのか。しかも誠也はそれ以上……。俺はそんな奴と戦ったのか」
「雄二、今度はこっちの質問に答えてくれ。お前、一体どうやってあれを使ったんだ?」
「あれ? 何のことだよ」
「リンクのことじゃないの? ねえ雄二、このからあげ凄く美味しいよ! ほら」
「あむ、美海、確かに美味いが話の腰を折らないでくれ」
雄二の向かいに座る美海の差し出した唐揚げは、とてもジューシーで多少冷えているのに柔らかいままだった。雄二の横に座っている沙織と美海の横に座るカトリーヌが固まっていたことに雄二と美海は気づいていない。ツバサは周りなどお構いなしに黙々と料理を食べていた。
「リンクかぁ。どうやったと言われても説明なんて出来ないぞ。美海と沙織にリンクのことを聞いて、実践してみたらできたとしか。あの時は朦朧としていたし」
「そんな状況でできているからおかしいんだよ。俺だって試合中にアウロラとリンクをしたけど、あれは雄二や誠也がリンクをするところを見たから出来たようなものだ」
「見ただけで実践できてる巧の方が凄いと思うけどな。俺のなんてまぐれだろ」
雄二が少し不貞腐れたような声で言うと美海が反論してくる。
「違うよ~、リンクできたのは私と雄二の絆があったからだって~」
「美海と雄二は幼馴染みだったかしら。ふーん」
「どうしたの、ディアンナちゃん」
「なんでもないわ。女神をちゃん付けってアナタ、面白いわね」
「えへへ♪ 褒められちゃった」
美海は照れくさそうに頬をかく。それをチラリと見た雄二は視線を巧に戻す。
「そういえば巧は試合の後倒れてたのか? 保健室では会わなかったが」
「倒れてたと言っても雄二ほどじゃない。割とすぐに目覚めたぞ」
そこで試合の話は途切れた。テーブルの上の料理も残り少なくなり、段々とお腹が満たされてきていた。そこでふと疑問に思ったのだ。
「なあ。なんでこんなに料理を持ってきたんだ? 明らかに持ってきすぎだろ」
テーブルには同じ料理を複数あったり、サラダや果物は料理を乗せているトレイごとあったりする。いくら人数が多いとはいえ、圧倒的な量だ。
「それはね、わたしがぜーんぶ頼んだからだよ! 運ぶのがんばったんだから!」
「フローリアったらいきなりトレイを運んで行くんですもの。調理の方もビックリしていましたわ」
「そ、そうだったのか。……その、巧は大丈夫なのか? 懐的に」
雄二の心配する声に気にするほどじゃないと言って笑う巧。
これだけ頼めば懐に大打撃を食らいそうなものだが……。ここってそんなに安いのか?
「ねぇ、雄二。保健室を出てからカフェテリアに来るまでどうして時間がかかったの?」
「だ、駄目だよ、ツバサちゃん! 雄二にだって一人で考えたいときがあるんだから、そっとしてないと」
美海は慌てて小声でツバサを止めようとするが、その声は雄二にも聞こえていた。
「お前、わかってたのか? 俺がなにか悩んでるって」
「当たり前だよ。何年幼馴染みをしてると思ってるの。顔に出なくても、声とか雰囲気で何となく分かるんだからね」
「そうか……。俺って結構わかりやすいやつなのかもな。ラウラにも見抜かれたし」
雄二はここでラウラに語った思いを打ち明けようか迷っていた。
しかし、既に場の雰囲気は話さなければならないものに変わっていた。
「雄二。なにか悩んでいるなら友達として相談に乗るぞ。一人で考えこむより早く解決の糸口を探せるはずだ」
「いっつも雄二って一人で抱え込んで一人で悩んで、解決しようとするよね。それで何度も助けられたこともある……。でも、たまには頼ってよね」
美海は優しく微笑む。その笑みは雄二の葛藤など吹き飛ばしていた。
「もう、悩み自体は解決したんだ。保健室を出た俺は闘技場に行ってもう一度エリアを見ようとした。でも、閉まっててさ。そしたらラウラってアンドロイドと出会ったんだ」
「ラウラって確か今回白チームに選ばれてたプログレスだったか。遠距離攻撃を得意とするアンドロイドで、ディアンナと張り合っていたのを覚えている」
巧は顎に手を当て、バトルの時を思い出していた。
巧の発言にディアンナは面白くないと顔に出していた。
「ラウラが俺の悩みを見抜いて、答えをくれた。その時に悩みは解決したけど、もう一つ悩みが増えた」
「その悩みはまだ解決してないんですか?」
「ああ。どうしようか迷っていたんだ。いつ切り出そうか考えていた。でも、丁度いい機会だと思うし聞いてくれないか」
皆が頷き、雄二に視線を向ける。その視線に少し気圧されながらもきちんと言葉にする。
「俺、あのバトルで学んだことがあるんだ。痛くて辛くてみっともない戦いだったけど、楽しかった。命がけで戦ってるって感じがしてドキドキしていた。あの緊張感や臨場感はバトルでしか味わえない。プログレスたちと策を練って、連携して、勝利する。まぁ、今回は勝てなかったけどさ、次は絶対勝ってやる。倒れる間際そう強く思ったんだ」
雄二はラウラに言った言葉を繰り返す。そして――
その発言を聞いて巧は雄二の言おうとしていることに勘付いたのか、驚いた表情をしていた。
「だから、良ければまた俺とチームを組んでくれないか。一度限りじゃない、正式なチームのメンバーになってくれないか?」
正式なチームを組むには教務課に申請用紙を提出すればいいということは安堂先生が教えてくれていた。今回組んだ四人と正式なチームを組んで強くなっていきたい。雄二の言葉は青チームのメンバーだけでなく赤チームのメンバーにも届いている。
「いいよ。雄二のチームに入る。ただ、これからはチームメイトになるんだから一人で抱え込まないでよね! ……頑張っていこうね、雄二」
美海は真っ先に同意を示す。元々考えるより先に行動するような性格な美海はあまり悩んでいないようだ。雄二は幼馴染みである美海がチームになってくれたことに一先ずホッとしていた。
「それで、他の皆はどうだ。チームに入ってくれないか?」
「ごめんなさい、雄二。私は貴族です。助けを求めるものを救うのが貴族の役目。戦いに明け暮れるなどできません」
「私も入らない。まだ私は自分のエクシードが何なのかも分かっていない。今回だって役に立たなかった。だから、ごめん」
カトリーヌとツバサは断った。雄二もそのことは予想していたのかショックを受けている様子ではない。そんな中、一人最後まで悩んでいたのは沙織だ。
「あの、雄二さん。私、雄二さんのチームに入りたいです」
「……いいのか? 沙織はそれで」
沙織が戦いに苦手意識があることを雄二は知っている。その上で判断したのか確認したのだ。
「はい。戦うのは苦手ですけど……。でも、誰かを守る力になりたい! だ、だだ、だから、その、私も! チームにっ」
「わかった。ありがとう、沙織。気持ちはよく伝わったから少し落ち着け。な?」
「は、はいぃ……」
「雄二! 沙織ちゃんだけ頭を撫でるのは贔屓だよ! ずるいよ!」
これで雄二は美海、沙織の二人とチームを結成するのだった。
そんなやり取りを見ていた巧は自分もチームを組もうかという気持ちになっていた。
ノリのような感じで同じようにチームに誘う巧だったが、反応はイマイチだった。
「私には戦乙女として赤の世界を守る使命がある。すまないが、その誘いに乗ることはできない」
「タクミは面白くないもの。退屈しそうだからお断りだわ」
「ごめんなさい、巧さん。私はあまり戦いが好きではないの」
「アウロラが入らないなら、わたしも入らなーい」
隣のテーブルではチーム結成に盛り上がる中、巧は苦笑いを浮かべていた。
しばらく談笑を楽しんだ後、カフェテリア前でみんなと別れた三人は教務課のある校舎へ向かっていた。
「ねえ、雄二。チームの名前どうする? カッコいいのがいいよね!」
「んー、沙織は何かいい名前あるか?」
「え!? いえ、私は雄二さんと美海ちゃんが決めたのなら。あ、でも恥ずかしくないもので」
カッコよくて恥ずかしくない名前。意外と難しい注文だぞ、おい。
雄二は教務課に着いて、申請用紙に記入しているときも考えていた。
「雄二、教務課の先生が待ってるよ。早く書かないと」
「うーん、じゃあ仮の名前ってことで『チームα』にしよう」
「チームα、ですか?」
「ああ。仮とは言ってもちゃんと理由はあるぞ。αドライバーのαという意味もあるけど、プログレスの可能性を付加価値としてプラスアルファする。そういった意味を込めてみた」
雄二は美海や沙織の“可能性“もチームに入れようとしたのだ。
その発言に美海は目を輝かせていた。
「雄二、それいいよ! もうそれが正式名決定だね。いいよね、沙織ちゃん」
「はい。単純ですがとても分かりやすくて、いい名前です。これなら名乗っても恥ずかしくはないです」
「じゃあ、決まり! 『チームα』っと。はい、お願いします」
美海はチーム名を記入すると提出してしまう。美海や沙織は気に入ったようだが、雄二はもう少しいい名前を思いつけばよかったかもしれないと思っていた。
こうして新入生最初のチーム、『チームα』が結成した。
構成メンバーはαドライバーの成瀬雄二。プログレスの日向美海、岸部沙織の計三名だ。
このチームが頭角を現し、知れ渡るのはまだ先のことだろう。
雄二は二人と別れて夜空を眺めながら帰路につく。
空には一番星が爛々と輝いていた。