アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
「流石十河君ね。経験の量が違うってことかしら。初バトルでリンクを成功させた成瀬君もセンスがいいわね。さあ、次は朝比奈君と垣内君よ!」
前回のバトルで焼けたり、破壊されたりしていたバトルエリアは雄二たちが運ばれていった数分後には修復し終わっている。
巧と朝比奈はチームメンバーを連れて観客席からバトルエリアへと移動した。
「それじゃあ、お互い顔合わせと行こうじゃないか」
巧はお互いが定位置に着いたのを確認すると雄二たちがしていたようにチームメンバーの紹介を始める。
「俺は垣内巧。隣から順番に赤髪でおっとりしてるのがアウロラ。妖精のフローリア。弓を持っているのがディアンナ。そして最後、銀のランスと十字の盾を持っているのがヴァレリアだ」
「アウロラです。よろしくお願いしますね」
「フローリアだよ。よろしく~♪」
「ふん、狩りの女神ディアンナの実力、見せてやるわ」
「戦乙女ヴァレリアとして恥じない戦いをする所存だ」
赤チームのメンバーが各々挨拶を済ませると、淳は白チームの紹介を始める。
「僕は朝比奈淳。隣がSW=コードΩ46セニア」
「SW=コードΩ46、認識用個体名セニア。Dr.ミハイルにより開発されたブルーミングバトル用アンドロイドです。よろしくおねがいします」
名前を呼ばれた少女、セニアはお辞儀をする。
白髪のショートヘア。頭部の両サイドに付いている髪飾り型の演算補助ユニット。黄色を基調とした白のインナースーツ。それと切り離された白い袖部分が動きに合わせてなびいている。額の電源マークのような印と無表情さが彼女をアンドロイドだと認識させる。
「次は、チカル。自己紹介を」
「はい! 近接戦闘型アンドロイド、コード∑、チカルであります! プログレスとしてガンバるでありますよ~」
青い髪を一つに結びポニーテールにした髪が本人の性格を表すように元気に揺れている。
籠手を着用していることから格闘戦タイプだと巧は推測していた。
剣による攻撃もあるかもしれないな……。
「私は遠距離戦闘用アンドロイド、コードΩ、ラウラです。よろしくお願いします」
彼女の武器は手に持っている狙撃銃だろう。ディアンナといい勝負になりそうだ。巧は今後のバトルを想像してワクワクしていた。
にしても、白の世界のアンドロイドは随分と素直に自分の戦闘スタイルを宣言するんだな。対策されても気にしない、のか?
「最後はコード=204ケイティだ」
「ハイ。私ノ名前ハコード=204ケイティ。旧式ノアンドロイドデス。ケイティデモ204デモ好キナヨウニ呼ンデ下サイ」
彼女は完全にアンドロイドだと分かる見た目をしている。白髪のショートヘアはセニアと変わらないが、セニアのような部分的な特徴ではない。髪と同じ真っ白な肌。首、肩、手首、太腿の付け根には黒いコードと緑の蛍光ラインが見えている。
「これでこちらの紹介も終わりです。安堂先生、試合開始の合図をお願いします」
安堂先生は投影パネルを操作すると、自動修復システムと保護フィールド発生装置のシステムを起動させる。
数秒差で展開される保護フィールド。
空中にはカウントダウンが表示され、カウントを減らしていく。
「淳、楽しいバトルにしようぜ」
「勝ち負けなんてどうでもいいけど、早々にくたばらないでおくれよ」
巧は淳の反応に笑顔で答える。
『αフィールド展開!』
巧と淳の声が重なり、それぞれのプログレスを保護するフィールドが発生する。
そして、ついにゼロになり、バトルが開始された。
「よし、先手必勝だ。ディアンナ頼む!」
「言われなくても、攻撃するわ」
ディアンナは青白い光の矢を呼び出すと素早く二連射する。
その軌道は完全に淳とラウラを貫いている。
「流石は狩りの女神といったところか。だが、こちらにも遠距離攻撃のできるプログレスがいることを忘れてもらっては困る」
一つの銃弾と光線が二つの矢を貫き、攻撃を防ぐ。
銃弾を放ったラウラはすぐに次弾を装填すると仕返しとばかりにディアンナを狙う。
発射される前に軌道を読んで回避したディアンナは矢を撃ち落としたもう一人に視線を向けていた。
「ブルーミング・バトルシステム起動。攻撃ドローン展開。出力異常なし。反撃開始です」
セニアは周囲に数基の攻撃ドローンを展開する。それらはそれぞれ浮遊しながら銃口を赤チームに向けている。セニア自身もハンドガンを持っており、先程はそれを使って撃ち落としたのだ。
「流石専用機だ、なかなか万能そうだな。よっしゃ、こっちも本格的にバトルと行こうじゃないか!」
ヴァレリアはその言葉を待っていたかのように勢いよく飛び出していく。
「あなたの相手は私であります! アーマー起動、であります!」
「させん! 貫け!」
ヴァレリアはランスをチカルの胴体めがけて突き出すが、起動し終わったチカルの右腕の装甲がそれを防ぐ。
「それがお前の武器というわけか」
「は、はい! この拳が武器であります!」
チカルはランスを弾くと大きく飛び退く。
その行動にヴァレリアは疑問を持った。
「何故飛び退くのだ。さあ、正々堂々勝負しようではないか」
「や、やっぱり近接戦闘はちょっと怖いでありまする」
「確か近接戦闘型ではなかったか? おかしなことを言うやつだ。ならば、こちらから行くぞ!」
「ひぃー! が、ガンバるでありますぅ!」
ランスを突き出せば拳ではじき、そのまま円運動をすることで勢いを殺すことなく拳を突き出してくる。
それを盾で滑らせるように逸らして体勢を崩そうとするが、素早く体勢を立て直して牽制するように蹴りを放ってくる。
ヴァレリアはその動きに感心していた。
チカルは怖いと言いながらも戦えているのだ。いつもは使命や誰かのためにと、何かしらのしがらみがあったヴァレリアだが今は純粋にこの戦いを楽しめる。
自然と口元は緩み、笑みを浮かべながら戦闘を続けていた。
その光景を見ていた巧は隣で同じように戦いを眺めているアウロラとフローリアに話しかける。
「アウロラ、練習のときのアレ、またできるか? フローリアはケイティの相手を頼む。淳に攻撃を当てる隙を作ってくれ」
「アレ、ですか? はい、できると思いますよ」
「いいよ~。アウロラの手助けってことだよね!」
フローリアは羽ばたいてケイティのいる相手陣へ飛び込んでいく。
「オ相手イタシマス。パワーシフトニ移行。迎撃ヲ開始シマス」
「よっと、ふふ~ん♪ そんなハンマー、私には当たらないよ~」
ケイティは身の丈ほどもある超重量のハンマーを展開すると軽々と振り回す。
それをフローリアはひらりひらりと躱している。
その間にアウロラは力を具現化するための魔法を編んでいた。練習のときは偶然誠也の方に飛んでいき、少し焦げさせてしまった。
「さあ、炎よ。お願いします!」
アウロラの召喚した炎は意思を持っているかのように淳めがけて飛んでいく。
セニアとラウラはディアンナが、チカルはヴァレリアが、ケイティはフローリアが相手をしている。これが巧の考えた作戦だった。
雄二と同じ作戦だが、全員戦闘能力が高いことが成功率を格段に引き上げていた。
「セニア」
「はい。掻き消します」
しかし、そう上手くいかない。淳はセニアを呼び、彼女もそれで命令を理解する。
高密度で放たれた光線が淳を目指していた炎を消滅させ、勢いの落ちることなく対角線上でケイティと戦っていたフローリアをも撃ち抜く。
「危なかったぁ。痛くないけど、この羽じゃあ飛べないよう」
「ぐっ……、地味にくるもんだな、負荷って」
フローリアはギリギリのところでラフレシアの花弁を召喚して盾のように重ねて展開し、攻撃を防ごうとしたが全てを防ぐことはできなかった。
防ぎきれなかった光線は羽を貫き、ダメージこそないものの、その衝撃で自由に動かなくなったのだ。
そしてそのダメージは巧にフィードバックされる。
「ケイティ、チャンスだ」
「ハイ。攻撃ヲ続行シマス」
地面で倒れて動けないフローリアめがけて勢いよくハンマーを振り下ろす。
展開されているラフレシアの花弁を重ねた盾とぶつかり、とても花とぶつかったとは思えない音が響き渡る。
一度目の振り下ろしには完全に耐えたラフレシアの盾だが、二度三度と振り下ろされるハンマーの衝撃に耐えきれずに瓦解していく。
「ディアンナ、ヴァレリア! なんとかしてフローリアを助けられないか!?」
「アナタ、この状況でよくそんなこと言えるわね! こっちは二人を相手するので手一杯よ。一人はたまに私を無視するし!」
「こちらも難しい。段々とチカルが私の攻撃に慣れてきている。そちらの救助には行けそうにない」
「正々堂々のバトル、楽しいでありますね!」
「くっ、そういうことだ。そちらで何とかしてくれ!」
ディアンナもヴァレリアも助けには行けない。アウロラの炎で牽制してもそれすらセニアにかき消される。
くそっ、どうしたらいいんだよ!
そうしている間に盾を失ったフローリアにハンマーが叩き込まれる。
「がはっ、骨が、砕かれるような、攻撃かよ……」
何度も振り下ろされるハンマー。一度直撃をして意識が飛びかけたフローリアだったが再びラフレシアの花弁を召喚し、防御に徹している。
巧に選択の猶予はない。どうにかして助けなければ。何か打開の糸口がないか思考を巡らす。
何か、何かないのかッ! フローリアを助ける方法はっ。
そこで頭をよぎったのは青対黒のバトルだ。あの時、危機的状況を打開するに至った雄二の切り札。あれが使えれば、きっと……。
「……アウロラ、俺とリンクしてくれ!」
巧に出来るかどうか悩んでいる余裕はなかった。
第9話につづく