アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
「リンク、ですか?」
「そうだ。雄二たちがやっていたあれならこの状況を打開できるはずだ」
リンクを使えば打開できると考えた巧だが、肝心のやり方までは知らない。
ただ、リンクという言葉から、何かを繋ぐ技なのだと推測していた。
「アウロラ、俺と何か繋ぐものないか?」
「繋ぐものですか? はい。どうぞ」
アウロラはそう言って手を差し出す。
巧はそれは違うんじゃないかと思いながらも差し出された手を握った。
「やっぱりこれじゃないか。他に繋ぐものってなんだ。意思? 心? 絆? そんなの会ったばかりなのに出来るわけが──」
焦る巧の手をぎゅっと強く握るアウロラ。
「出来ない、そう思っていては本当に出来なくなってしまいます。心を落ち着かせて祈りましょう」
「祈る? 祈ってどうにかなることじゃないだろ」
「私たち赤の世界の人達は女神に祈りを捧げます。きっとヒントをくださいます。だから強く祈るのです、その祈りは女神に届くはずです」
巧は目を瞑り、心を落ち着かせる。焦っていても状況を打開できるわけじゃない。
落ち着け。祈るんだ。アウロラとの繋がりを、見つけられるように!
その時、巧は何かを感じた。
──繋がって。お願い。フローリアを助けたいの。
耳で拾った声ではない、まるで頭のなかに直接届いているような感覚。
小さいながらもハッキリと巧には聞こえていた。
……アウロラの声だ。
フローリアを救いたいという思いが伝わってきている。
そうだ。仲間を救いたいのは俺だけじゃない!
その事に気づいた巧はアウロラとの間に確かな繋がりを感じた。
「これだ! アウロラ、行くぞ!」
「はい。私にも伝わりました。あなたの思いが」
巧はその繋がりを辿るようにしてアウロラに意識を向ける。
『エクシード・リンク!』
そして、二人はリンクする。
「アウロラ、その姿……」
アウロラの周りに迸る赤い稲妻。ポニーテールに結んでいた布は焼かれ、下ろした髪がゆらゆらと揺れている。
「オラティオ・ミゼリコルデア……祈りを、全ての人に慈しみを」
アウロラが手に持った身の丈程もある長杖を横に薙ぐと迸っていた稲妻が消失する。
おっとりした雰囲気は消え去り、真剣な表情を浮かべる彼女は別人のようだ。
「タクミさん、反撃開始です」
「ああ、フローリアを助けて、勝利を掴むぞ!」
アウロラは視線をフローリアの方へ向ける。
既にラフレシアの盾は再召喚できないのか一枚しか残ってない。
そんなフローリアに今まさにケイティがハンマーを降り下ろそうとしていた。
「させません!」
素早く魔法を編み上げたアウロラは長杖をケイティに向けて魔法を発動する。
今まで通りそれを打ち落とそうとしたセニアだったが、炎の飛ぶスピードが前回を大きく上回っていて外してしまう。そして当たる直前に爆発した炎がケイティと振りかぶったハンマーを吹き飛ばした。
「きゃあっ! なになに!? って、アウロラその姿カッコイイ!」
「フローリア、今のうちにこちらへ! その間に私はケイティを倒します」
「わかった! ……頑張ってアウロラ」
フローリアは敵陣から走って巧の方まで向かうが、足で移動することに慣れていないのとバトルの疲労でふらふらと覚束ない足取りだ。見かねた巧は敵陣にもかかわらず、フローリアを迎えに行く。
「お疲れさま、フローリア。後は俺の後ろで休んでいてくれ」
「ダメだよ、みんな頑張ってるのに……」
フローリアを抱きかかえて歩く巧はリンクで繋がっているアウロラの動きを把握しながら自陣へ戻る。
「巧。戦闘中に背中を見せるなんて狙ってくれって言ってるようなものだぞ」
淳のその呟きを拾ったのは二人を相手に戦っていたディアンナだった。
聴力の優れていた彼女は戦闘音に紛れたその声を聞き逃さなかったのだ。
セニアの攻撃ビットによるレーザー射撃を射線から外れることで避けながら、ラウラの狙撃を矢を放って撃ち落とす。確かな機動力と優れた弓の腕。狩りの女神はそれだけで二人相手に互角のやり取りをしていた。
だが、淳の呟きが状況を変える。
今までレーザー光線を放っていたビットがセニアのもとに集まっていく。
「高機動モードに移行。決着をつけます」
「なっ、させるわけないでしょ!」
「それはこちらも同じです」
モードを移行しようとするセニアを止めようと光の矢を放つが、その軌道を読んでいたかのようにラウラの放った銃弾が防ぐ。
その攻防の間にセニアは攻撃ビットの形状を変化させて、スノーモービルのような形状に変形させてシートに跨り、システムを起動する。
正常に起動した機体は10センチ程浮かび上がった。ディアンナはそれが何なのか分からなかった。
見たことのないモノ。それだけで警戒するのは当然だった。
「これで――」
セニアを乗せた機体がディアンナの視界から消えた。
閃光を噴出しながら一瞬で巧に距離を詰めたセニアは巧の周りを一周することで勢いを殺し、巧の傍で停止させると、ハンドガンを突き付ける。
「――終了です」
セニアは引き金を引いて銃口からエネルギーを放出する。
いつの間にか接近され、銃を突き付けられていた巧は状況を理解する間もなく背中を撃たれ、過負荷で気絶。
アウロラとのリンクを生かせず、巧率いる赤チームの敗北が決定した。
試合終了後、すぐに巧は保健室に運ばれた。
アウロラやフローリアは少し保健室で仮眠を取って、その後巧の目覚めを傍で見ていた。
「ねぇねぇ、アウロラ。あの雫を持ってくるのとタクミが起きるの、どっちが早いかな?」
「雫、ですか? そうですね……多分待っている方がいいわ。今から赤の世界に取りに行ってもその間に起きるでしょうし」
その病室には三人しかいない。残りの二人は誠也と淳のバトルを見に行っているのだ。
フローリアはベッドで寝ている巧の上に座り、アウロラとバトルのことを話している。
「アウロラがカッコよくなったのってどうして? 髪を下ろすとカッコいい?」
「あれはリンクのせいですよ。それに、フローリアは今のままが一番似合ってますよ」
「えへへ♪ じゃあ、このままにしとく~」
楽しそうに話す二人の会話が聞こえたのか、目を覚ます巧。
起き上がったことでフローリアはバランスを崩し、慌てて宙に逃げる。
「ぐっ、なんだか腹を圧迫されたような感覚が。これが負荷の影響ってやつなのか」
「あ、あははは。大丈夫? 元気? フローリアは元気だよ! ほら、もう飛べるよ~」
「俺はまだ少し違和感があるぐらいだよ。あれだけ疲れていたのにフローリアは回復が早いな。アウロラも大丈夫か? それと、他の二人は?」
アウロラは大丈夫だと答えて、二人の行方を伝える。丁度説明し終わった頃、病室のドアが開けられて出かけていた二人が帰ってきた。
「あら、もう起きていたのね。丁度いいわ。タクミ、夕餉を食べに行くわよ」
「夕餉? ああ、夕食か。早くないか、まだ夕方だぞ」
「テラ・ルビリ・アウロラではこの時間に食べるのだ。それにここに戻る途中で美味そうな香りの漂う場所を見つけた。きっと食堂か何かだろう」
ディアンナは早く来いと言わんばかりに巧を睨み付け、ヴァレリアはその香りを思い出したのかお腹に手を当てていた。
「わかったよ。それじゃあ、そこで打ち上げといこう。二人もそれでいいよな?」
アウロラとフローリアは快く同意した。全員昼を食べていない上に、消耗したせいか空腹なのは同じだった。
「よーし、ヴァレリア。その場所に案内してくれ」
「承知した。早く行くとしよう」
「で、それがここってわけか。学校内にカフェテリアがあるなんてスゴいな」
「ほら早く行きなさいよ。入れないでしょ」
ディアンナは巧の背中を押してカフェテリア内に入る。その後ろから三人がついてくる。
巧は四人に利用の仕方を教えていた。
「いいか。ここでお盆を取って、向こうに並んである料理から食べたいものを選んでお盆に乗せる。会計は最後だから今回は気にしなくていい」
「わかったか?」と言う巧の言葉に返事をしたのはヴァレリアだけだ。
更に言えば四人のうち、説明を聞いていたのはヴァレリアだけだった。
ディアンナは厨房の調理風景を真剣に見ている。アウロラは果物の皿を乗っているトレイごと運ぶフローリアを微笑ましそうに見てた。
「ふむ。使い方はおおよそ理解したが、私はここのお金を持ってないぞ」
「あー、いいよ。今日は俺が全部奢る。好きなのを頼んでくれ」
しかし、と渋るヴァレリアを無理やり説得して料理を選びに行かせる。
巧自身は何も選ばずにフローリアが奮闘したテーブルへと向かった。
フローリアは目の前に並ぶ果物の山に大興奮していた。
「こんなにいっぱい果物がある! 夢みたいだよ~♪」
「あらあら。フローリアったらすごく嬉しそう。……でも、こんなに持ってきてよかったのかしら? 他の方に迷惑が──」
フローリアは待ちきれなかったのか既に果物の山に突撃していた。
「まぁ、問題ないんじゃないかな。多分、すぐに補填されると思うよ。だから、アウロラも楽しみなよ」
「そう、ですね。私もいただきます。巧、あなたもお座りくださいな」
「ああ。そうさせてもらうよ」
巧がチラリとフローリアがトレイごと持ってきた場所を見た。
そこには既に半数の料理が補填されている。
大量のオーダーに調理のおばちゃんが驚いたのは一瞬だ。素早くメニューを読み上げると他の調理師と連携して次々と料理を補填させていく。
その光景を見ていたディアンナはポツリと呟いた。
「あの職人。調理の動きに一切無駄がない。しかも、正確な手捌きと完璧なまでの連携。私でも真似できそうにないわ」
「狩りの女神を上回る手捌きとか。あの人たち何者だよ……」
巧たちが青チームと遭遇するのはもう少し後の話だ。
第8、9話は巧視点でお送りしました。