アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
集合時間まであと15分。
生徒昇降口だろう場所の傍にある掲示板に張り出されていた案内図で自分の教室を確認する。この確認作業は中学でもやったが少し緊張する。美海と違って上手く馴染めるか心配だ。
自分の教室、1年Aクラス。このAはαドライバーと関係があったりするのだろうか。
案内図に従い、入口正面の階段を上って四階まできた。
1-Aは一番上の端。覚えやすくて助かる。
他愛もないことを考えながら中学最後の席と同じ窓際の席に座る。教室には既に多くの生徒が集まっていた。席順は自由らしい。俺の前に教室に入った女子が他の女子にそう言われているのが聞こえたし。
「この場所、懐かしいな。あの日ここと同じ席でまどろんでいたら開いている窓から声が聞こえてきてさ」
「うわああああ、遅刻するぅうう! ちょっとそこの人どいてぇえええ!!」
「そうそう、そんな感じの言葉を――って、えっ!?」
叫び声につられて窓の外を見るとあの時と似たような光景が窓の外にあった。
クラスの人が騒ぐ中、俺は何もできずに固まっていた。
そして体に伝わる衝撃。まるであの日の再現のように机や椅子を巻き込みながら床を転がるように吹き飛ばされてしまう。床に倒れた俺の上に覆い被るように倒れていたのはこの学園の制服を着た幼馴染み、
「いったぁ。あっ、君大丈夫? 怪我とかしてない?」
「その前に上から降りてくれ。重い」
「ちょっ! 女の子に重いは禁句なんだよ! そんなこと言ってると女の子に嫌われちゃうんだからね?」
「わかったわかった。いや、わかったから揺さぶらないでくれ。朝食をリバースしそうになる」
こんなことなら朝食を買い食いしなきゃよかったかも。
「わわっ、ごめん。ん? その無表情っぷり、どこかで見たような……」
不思議そうに首を傾ける彼女。もしかして俺の勘違いなのかと疑ってしまう。
俺の上から降りて立ち上がった彼女と一緒に散らかった机や椅子を元に戻す。幸い怪我人はいなかったようで、みんな片付けを手伝ってくれた。
体中痛いがこれぐらいなら問題ない。
片付け中もうんうん唸っていた彼女はまだ思い出せてはいないらしい。
俺はそんなに印象薄いのかと少しショックを受けながら自分の席に座る。クラスの生徒が手伝ってくれたおかげで片付けはあっという間に終わった。
「みなさん、おはようございます。これから入学式を行いますので体育館の方へ移動してもらいます。出席番号順に廊下に並んでくださいね」
片付けが終わったところで先生が教室に来て整列するよう言ってきた。
眼鏡の似合う大人の女性な感じの先生だ。優しそうな雰囲気だけどそういう人って怒ると怖いんだよな。
廊下に並ぼうと歩き出したら、後ろから誰かに制服を引っ張られてた。
「ねぇ、もしかして君って雄二? 成瀬雄二って名前?」
「……? やっと思い出したのか。そうだよ、成瀬雄二だ。一応日向美海の幼馴染みだ」
「やっぱり雄二なんだ! 背が大きくなってたからわかんなかったよ~」
「そういう美海はあまり変わってないから直ぐにわかったけどな」
どうやら俺の勘違いではなかったようだ。見た目そっくりさんの別人じゃなくて安心した。
「むぅ、私だって成長したんだよ。それと、久しぶりっ雄二」
「おう、久しぶり。相変わらず元気そうでよかったよ」
「元気は私の取り柄だからね。それでね、雄二に話したいこといっぱいあるんだよ! ここでの暮らしとか友達のこととかいーっぱい」
「こらっ、そこの二人。早く並びなさい!」
先生に注意されて周りを見渡すと既に俺たち以外は廊下に並んでいた。
慌てて廊下に出て列に並ぶと周りから、仲良しなんだねとか二人は付き合ってたりするのとか、こそこそと小さな声で質問攻めを受ける。一人だけ妙に食いついてくる女子がいたが、女子はこの手の話題が好物なのだろう。俺だけでなく美海も色々と聞かれているようだが上手く話題を変えて友達作りに励んでいた。俺はあれだ、無表情で返しが普通だから直ぐにされなくなった。やめてくれ、気まずそうな顔をするのは! 俺の方が気まずいんだから。
ふと、周りの生徒を見て違和感を感じた。でもその時はまだそれが何なのか分からなかった。
入学式。新入生の入学を許可し、歓迎する行事。
新入生となる俺たちは緊張した面持ちで次々と体育館へ入場していく。
与えられた席に座りながら周りを少し見てみると壁際に並ぶ先生方に交じってロボットがいた。
いや、正確にはロボットに乗ったおじさんがいた。あ、俺たちを案内した先生に何か言われている。おじさんは渋々ながらロボットから降りていた。
式は順調に進み、校長先生の言葉となる。
壇上に上がっていくのはあのおじさん。となるとあの人が校長なのか? 新入生一同がそう思ったに違いない。
「コホン。私がこの青蘭学園の……教頭である!」
体育館は異様な静けさに包まれた。校長じゃないのかよ! とか突っ込みたい衝動に駆られたがそれ以上に何故ロボットに乗りなおしたのか聞きたかった。
こうして新入生が妙なショックを受けたまま、式は幕を閉じた。
この学園は教頭からして普通ではないらしい。
教室に戻り、席に座りながら考え事をしていた。
式が終わった後退場しているときに少し周りを見た。そこでやっと違和感に気がついた。周りに男子が異様に少ないのだ。俺が見つけた男子は2、3人程度。もっといるのかもしれないが、大勢いる新入生の中にこれだけしかいない。αドライバーの素質は男子にしかなく希少だとは聞いていたがここまでなのか。男友達を作るのには苦労しなさそうだ。あれ? これって所謂ハーレムってやつなのか?
「いやいや、誠也の妄想じゃないんだ。そんなことあるわけがない」
「何がないの?」
考え事をしていた彼に話しかけたのは美海だった。
突然話しかけられたことに驚いてしまう。
「あ、ああ、美海か。急に話しかけられると驚くだろ」
「だってさっきからずっとブツブツ言ってるんだもん。私前の席だから聞こえるんだよ」
雄二の考え事は周りに漏れていた。無表情な彼がブツブツと何かを呟いている姿見て、誰も何も言わなかったのは他に話題があるからだ。
入学式での教頭の話やこれからの生活について数人のグループで会話を楽しんでいる。数少ない男子は男子でグループを作って話していた。
グループを作っているが他のグループとはあまり干渉しないのは種族や性別の壁があるからだろう。世界接続が起こってからしばらく経つとはいえ異世界交流はこれが初めてだという人ばかりなのだ。
それは青の世界、地球の人間だけでなく各世界人にも当てはまる。そのため教室の中は互いに距離を測っているようなギスギスした空気が満ちていた。
「考え事をしてて気づかなかったけど、なんだか居心地の悪い雰囲気だな」
「こんな空気そのうちなくなるよ。心配ないって」
「そうだといいけどな。ずっとこのままは耐えられそうにない」
「大丈夫だって! それに他の世界の子たちもいい子ばかりだよ。編入してきた私にも優しく接してくれたし、友達になった子もたくさんいるんだから!」
中学3年から青蘭学園の中等部に編入した美海は自分の力や周りの態度に不安を抱いていたが、編入したクラスでは心配していたことにはならなかった。卒業するころにはクラスの人気者にまでなっていた。
「エクシードの方はまだまだだけどね」
美海は照れるようにそう付け足した。
美海のエクシードが何なのか疑問に思ったが、それを質問する前に先生が来てしまう。
「二人ほど来ていないようね。まぁ、初日だし大目に見ましょう」
空席が目立つけど来ていないのは二人だけらしい。
「高等部一年の担任になりました、教務課の
安堂先生が今後の説明をしている中、美海は後ろを振り返り雄二にそっと話しかけていた。
「中等部の時に聞いた噂だとタマちゃんって綺麗な人だけど相当強いらしいから気をつけてね」
「気を付けるって何を」
「え、う~ん、セクハラとか?」
何を気をつけるかまでは噂では伝わっていないらしい。
教務課とは青蘭学園のプログレスとαドライバーを導き、育成する任務を負っている集団だ。一部を除き、普段はただの教師であり、『
そんな強い先生相手にタマちゃんとか呼んで大丈夫なのかよ……。
ひそひそと話していることがバレないか内心ひやひやしながら雄二はSHRを乗り切るのだった。
勿論終わった後に前に呼び出されて注意をされたのは言うまでもない。
第3話につづく