アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
「エクシード測定?」
昨日の交流戦の疲れが抜けていない雄二が机に突っ伏していると登校してきた美海が容赦なく邪魔してきた。
微睡んでいた雄二は聞き覚えのない言葉について美海に聞き返す。
「うん。正確にはエクシードランク測定検査だよ、ね? 沙織ちゃん」
「ふふふ、あってますよ」
「お前、覚えてないのかよ……」
「ち、違うの! ちょっとうる覚えだっただけだから!」
「うる覚えじゃなくて、うろ覚えだ」
「あぅ……って雄二は完全に知らなかったじゃん! 昨日の夜に端末に連絡来てたでしょ?」
「連絡? ……あー、寝てて気づかなかったみたいだ」
雄二は端末のメールボックスに入っていた新着メールを開いた。
するとそこには今日行う『検査』について日程や場所が書かれていた。
αドライバー能力検査? 美海たちに来ていたものと違うのか。
「どうしたの? メール来てなかった?」
「いや、そうじゃなくて。こっちに来てたのはαドライバー能力検査ってやつだ」
「αドライバー能力検査、ですか。初めて聞きました。やっぱりプログレスとαドライバーでは検査が違うんですね」
「あっ、ということは雄二のアルドラとしての能力がわかるかも?」
「んー……俺に何か能力なんてあるのかねー」
親父のレポートによれば、もしかしたら俺は意図的に覚醒させられたαドライバーかもしれないんだが。
雄二は言葉とは裏腹に何かあるかもしれないと思っていた。
「やぁ、みんなおはよう」
「帰れ、誠也。お呼びじゃない」
「今日初めての会話がそれってひどくないかな!? 折角今日の検査について情報を持ってきたのに」
誠也は学生鞄からクリアファイルを取り出して雄二の顔の前で見せびらかすようにひらひらとさせる。
こいつ、そんな情報どこから仕入れたんだよ。
「誠也君おはよ~。ねぇ、それなあに? 私も見たい!」
「もちろんいいよ。はいこれ」
「えへへ、ありがと~」
「ナイスだ、美海。それを俺に――」
雄二の伸ばした手を美海は叩く。
ちっ、見せないってことか。
「美海ちゃん。それにはなんて書いているんですか?」
「えっとね……、αドライバー能力検査・検査要項? って書いてあるよ」
「はぁ。誠也、すまんが俺にも見せてくれ」
もちろん、と言って誠也はもう一つのファイルを取り出して雄二に渡す。
美海は沙織と一緒に見ていた。
「なんか、午前中は中学の時にした体力測定と同じなんだな」
「異能を持っているプログレスやαドライバーと言っても体力が基本だからね。それを測るなら体力測定は外せないよ」
「ふーん……。で? これはどこから手に入れてきたんだ? まさか盗んで」
「違う違う! 前に僕が検査したときの資料をコピーして持ってきただけだよ!」
「……冗談だって。お前が盗むだなんて思ってねえよ」
「少し間があったのが気になるんだけど。まあいい。今日の検査で雄二の力がどれくらいなのか、楽しみにしているよ」
誠也は美海たちからも資料を返してもらい、自分の席に着いた。
「昨日戦ったメンバーの人は大丈夫かしら? 今日は一日検査で終わると思うから気楽にいていいわよ」
全然大丈夫じゃない。まだ動くのが怠いです。
そんな雄二の心の声が聞こえるわけもなく、安堂先生は連絡事項を伝えていく。
「──連絡事項は以上よ。それじゃあ、これから各自昨日送られたメールに従って検査をすませるように。検査が終わってもここに戻ってくる必要はないから、終わり次第帰っていいわよ」
解散、という先生の言葉で生徒たちは各々で動き出す。
雄二も立ち上がろうと腰を上げると、後ろから服を引っ張られて椅子に座らせられた。
「おい、何の用だよ美海」
「午前中って体力測定だから場所は同じだよね? 私たちは第1体育館だよ」
「ん? あー、ちょっと待てよ。……俺も第1体育館だ。てことは同じだな」
同じ場所で行われると聞いた美海はパアッと笑顔になり、身を乗り出してきた。
「なら、一緒に──」
「行きません」
「でも……」
「沙織と一緒に行けよ」
「むぅ、今日の雄二はちょっと意地悪だよ」
美海はさっきまでの笑顔から一転、どんよりと肩を落として沙織のところへ向かった。そのまま二人で教室を出ていった。
雄二のところにやってきた巧は不思議そうな顔で雄二を見ていた。
「……なんだよ」
「一緒に行かなくてよかったのか? すごい落ち込んでるようだったけど」
巧の質問に答えたのは雄二ではなく誠也だ。
「あれでいいんだよ、でしょ?」
「なんで誠也が答えるんだ。まぁ、間違ってないが」
「どういうことだ? あれでいいって」
巧には二人の言葉が理解し難かった。
それもそうだ。誠也が雄二の考えが分かるのは中学校三年間を共に過ごしてきたからだ。
まだ、会って数日の巧には雄二の考えは見えなかった。
「この学校で美海と再会してから、あいつはやたらと俺の面倒を見たがるんだ」
「さっきの一緒に行こうと言おうとしたのは案内しようとしていたってことか?」
「ああ、多分な。俺の面倒を見ようとして他を蔑ろにする、なんてことはあいつに限ってないだろうがな。ただ、それでも俺よりも友達を大事にしてほしいんだよ」
「まぁ、日向に限って友達の輪から外されるってのはここではないだろうけどね」
「そうか……、そんな理由があったんだな」
「それに、女子の着替えって長いんだよ。そんなの待ってられるかっての」
一緒に行くなんて同意したら着替えが終わるまで待たされるに決まってる。
「は? 雄二、もしかしてそれが本──」
「ほら、そろそろ行こうぜ。俺たちも着替えなきゃだろ?」
「ハハハ、相変わらずだね、雄二は。ってあれ? 朝比奈君は?」
「淳なら話が終わってすぐに教室を出ていったけど」
巧の言葉を聞いて雄二は教室を見渡す。
「なら俺たちが最後ってことか」
既に教室にはアルドラの3人しか残っていなかった。
体育館に移動した雄二は美海に絡まれることなく体力測定の全項目を終えた。
「あら? 成瀬君が一人でいるなんて珍しいね」
「ん? 委員長か。別に美海とはいつも一緒にいるわけじゃない。それにさっきまで誠也たちと一緒にいたんだ。ぼっちじゃないからな」
「あははは。面白いね、成瀬君は。それはちょっと深読みしすぎだよ。ひとりぼっちでいる成瀬君を心配したわけじゃないよ」
なんだ、違うのか。
雄二は心なしかホッとして琴吹を見た。
「じゃあ、何か用か?」
「うん。えっとね、このあと昼休みでしょ? 一緒にお昼食べない?」
「別にいいけど……。それだけ?」
「そうだよ。じゃあ、屋上に来てね! みんなも待ってるから」
そう言い残して琴吹は走り去っていく。
みんなって、ほかに誰がいるんだ?
雄二は琴吹の言葉に少し疑問を持ったが、購買に着く頃には忘れていた。
「で、屋上に来てみたわけだが……」
屋上には設置されているベンチで昼食を楽しむ生徒や女子同士で仲睦まじくお弁当を食べさせあうカップル? もいた。
そして──
「あ、あれー?奇遇だねー。雄二も屋上でお昼食べるの? わ、私たちもここで食べるんだよ」
「ゆ、雄二さんも一緒にたべっ、食べませんか?」
「やっほー、成瀬君。随分と遅かったね、私はもうお腹ペコペコだよ~」
ブルーシートの上に座ってくつろいでいる三人がいた。
「提案したのは美海ってところか?」
「て、提案? 偶然だよ偶然!」
「そ、そうですよ、偶然です!」
「お前ら……、誤魔化すの下手すぎだろ。偶然でも必然でもどっちでもいいけど、普通に誘えばいいじゃないか。委員長まで巻き込んで……」
「だって、今日の雄二は私に意地悪だもん。朝だって行かないって言うし」
「私が誘いに行ければ良かったんですが、その、緊張しちゃって……」
「てなわけで、代わりに私が誘いに行ったって訳ですよ」
なるほどな。原因は俺にもあったわけか。
「別に意地悪してたわけじゃないんだが……。まぁ、今度から一緒に食べたいなら普通に誘ってこいよ。予定がないなら断らないから。な?」
「ぅん、……わかった。そうする。……えへへ」
雄二は気持ちを落ち着けるように美海の頭を撫でる。少し落ち込んでいた美海は小さく笑みを浮かべていた。
「はわわわ……美海ちゃん、頭撫でられてる……気持ち良さそう?」
「へぇー、二人はやっぱりそういう仲なんだぁ。へぇー」
「ぅえ!? あ、いや、違うよ! これは雄二の癖だから、ただの幼馴染みだし! 雄二もそろそろ離してよぉ」
あー、相変わらず美海の髪はさらさらしていて気持ちいいなぁ。
「も、もう! 雄二ぃー!」
雄二は琴吹が止めに入るまでずっと撫で続けていた。だが、美海の髪が乱れた感じはなく、その光景を沙織は感心したように見ていた。
……ちょっと、羨ましいなぁ。
沙織の呟きは言った本人さえも聞こえていなかった。
第13話につづく