アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
地上に戻った雄二はラウラと別れて、闘技場に向かっていた。
「さて、と。あいつらを集めるにはどうするのが手っ取り早いか……」
しかし、悩んでいるうちに闘技場についてしまう。
ふと自動ドアの前からエントランスに視線を向けると、何故かそこには集めようと思っていた人が全員いた。
「あっ、雄二発見!」
「ふむ。僕もまだまだということか。読みが甘かったみたいだね」
「どうしてくれるのよセーヤ。あなたのせいで負けちゃったじゃない」
「いやいや、雄二のことで日向には勝てないって」
「とーぜん! だって幼馴染みだもん♪」
雄二は自動ドアを潜り、三人がいるエントランスのソファーに近づいた。
「やけに美海は嬉しそうだが、なんの話だ?」
「えっとね~、検査が終わったあとに雄二がここにくるかどうか勝負してたの」
「何してんだよお前ら……」
「それで、おおよそ予想はついているけどどうしてここに?」
雄二は深く深呼吸をする。
そして思いきって切り出した。
「誠也。俺と、戦ってくれ」
「いいよ。準備はできてる。さぁ、行こうか」
思いの外すんなりと提案が受け入れられたことに雄二は口をポカンとしていた。
「は? いいのか? というか準備ってなんだよ」
「だから言っただろう? おおよそ予想はついているって。ここにきたってことは戦いたいってこと。それに、この場にはアルドラとプログレスがそれぞれ二人いる。闘技場の使用条件は満たしているよ」
「雄二は検査のあと自分の力を試したくてバトルしにくるかなぁって思って、誠也君とソフィーナちゃんを呼んでおいたの♪」
「ふん。多忙な私が協力してあげるんだから感謝しなさい!」
「お前ら……。ありがとな」
ありがたいよな。俺のことをわかってくれている人がいるなんて。
「よっしゃあ! 美海、交流戦のリベンジするぞ!」
「うん! 楽しんでいこうね♪」
雄二は美海と拳を合わせる。
お互いに気合い充分だ。
「ふふん。この理深き黒魔女ソフィーナに勝てると思ってるの? いいわ、叩き潰してあげる!」
「それじゃあ、バトルエリアに移動しよう。今は誰も使ってないからすぐに戦えるよ」
四人はバトルエリアへと通じる通路を歩いていく。
その背中を見つめる視線に彼らは気がついていなかった。
「マスター……」
「何をしているのですか? コードΩラウラ」
ガラス張りの壁に張り付いていたラウラは後ろから話しかけられて一瞬体を硬直させる。
「……コードΩ46セニア」
何でもありません、とラウラはその場を立ち去ろうとする。
「彼らの試合を観ないのですか?」
「……あなたはどうするの」
「私は観ます。
ラウラは少しだけ悩んでいた。
見に行ってもマスター、怒らないかな……?
「どうしました?」
「ラウラも、行く。マスターの試合、観たい」
「では行きましょう。観客席は空いていると予想されます。すっからかんです」
ラウラとセニアは自動ドアを潜り、観客席へと向かう。
「ところで、聞きたいことがあります」
「……? なに?」
「マスターとは誰のことですか?」
「マスターはマスター。成瀬雄二だよ?」
「彼が、あなたのマスターになることを承認した、ということですか」
「うん。呼んでいいって言ってくれた」
「そうですか……」
嬉しそうな雰囲気を振り撒くラウラとは裏腹にセニアはどこか寂しげな雰囲気を纏っていた。
四人はバトルエリアに到着した。
「雄二。ルールはどうする?」
投影パネルを操作していた誠也から声がかかる。雄二は思わず首を傾げた。
「ルール? 俺かお前がぶっ倒れるまでやる以外にもあるのか?」
「まあね。公式戦用のルールだとクリスタルブレイクなんてのもあるよ」
「なんだそれ。美海、教えてくれ」
「ぇえ!? えっと、えっとね……ソフィーナちゃんにパス!」
「はぁ、あなたたち……。クリスタルブレイクっていうのは両チームに設置されたクリスタルを守りながら戦うルールのことよ。通常はアルドラが行動不能になったり、プログレスが戦闘不能になれば終了だけど、そこにクリスタルブレイクの場合はアルドラやプログレスが無事でもクリスタルが破壊されれば即負け。そこで試合終了になるわ」
『へぇ、なるほど』
示し合わせたかのように雄二と美海は声を重ねて同じ反応をする。
「それで、他にもあるんだろ?」
「他には……、ハーフバトルかな。解説はソフィーナちゃん、よろしく」
「セーヤまで!? あなたは知ってるでしょ」
「まぁまぁ、ソフィーナちゃんの方が二人も聞く気になるからさ」
「仕方ないわね。ハーフバトルというのは相手αドライバーの体力を半分以下まで削るのが勝利条件のルールよ」
「体力が半分になったなんてどうやってわかるんだ? 目に見えるものじゃないだろ」
「そのルールが適応されている時はアルドラの頭上に体力ゲージが表示されるんだよ。そしてフィードバックや攻撃によってダメージを負えばそのゲージが減っていくんだ」
体力ゲージ表示とか、まるでゲームだな。
比較的に安全なルールなため、特訓にはもってこいのルールとして使われることが多い。
「雄二、今日はハーフバトルにしようよ。明日だって学校だし……」
「いや、この前と同じルールでやりたい。じゃなきゃ、勝ってもリベンジできたなんて言えねぇよ」
「雄二……。わかった。でも、無理しないでね」
「じゃあ、時間無制限の通常ルールに設定するね。二十秒後に開始するよ」
誠也が投影パネルを操作すると交流戦の時と同じように空中にカウントが表示される。
四人は2チームに別れて定位置についた。
「いよいよだね。頑張ろうね、雄二」
「……美海」
「どうしたの? 手、震えてるよ」
「少しの間でいい。手を握ってくれないか」
雄二は震える手を美海に差し出して懇願する。美海は何も言わずにそっとその手を両手で包みこんだ。
「大丈夫。恐いのは雄二だけじゃない。二人で乗り切ろうよ。リベンジ、しようよ」
「ああ。……お前には助けてもらってばかりだな」
「そんなことないよ。雄二の考えすぎだよ」
「そうか……」
「うん。……もういけそう?」
雄二は頷く。美海は離す前に思いを込めるように強く雄二の手を握った。
既に雄二の手は震えていない。
この試合はただの気晴らしだ。
でも、俺と美海にはリベンジ戦でもある。
今度こそ勝つ。絶対に。
「俺とお前がいるんだ。次はもう負けない!」
「うん! 私と雄二だもん。幼馴染みの絆、見せつけようね!」
カウントが五秒を切る。
観客席はセニアの予想していた通り、がらんとしていた。
「あ、マスター! うぅ、ラウラも戦いたい」
「そろそろですね。カウントが開始されています」
二人の視線の先では雄二と美海が手を握って何か話している。
「何をしているのでしょうか」
「わからない。でも、少しマスターが……」
ラウラはじっと雄二を見つめる。
その隣ではセニアがドローン飛ばして空中に待機させていた。
「撮影準備完了。Dr、どうですか?」
『ああ、問題ない。綺麗に映っているよ。セニアもよく見ておくといい。つい先程連絡があったが、成瀬雄二というαドライバーは少々特別なようだ』
「特別、ですか」
『そうだ。まぁ、細かいことはいずれセニアにも話す。今は試合に集中しよう』
セニアはコクリと頷く。
『おや? そこにいるのはラウラか? どうだい、調子は』
「Dr.ミハイル。うるさい。少し黙ってて。じゃないと撃ち落とす」
ラウラは手元に愛用の狙撃銃を転送し、銃口をドローンに向けた。
『げ、元気そうでなによりだよ……』
ミハイルは画面の向こうで思わず後退りしてしまう。それほどラウラの本気がカメラ越しでさえ伝わってきたのだ。
「ん……」
ラウラは静かになったのを確認すると狙撃銃を送還して観客席の最前列に腰を下ろした。その隣にセニアも座る。
そしてついにカウントがゼロになり、試合開始のブザーが鳴り響いた。
第16話につづく