アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
美海とソフィーナの攻撃が激しく空気を揺らす。
不思議なことに、美海が攻撃に躊躇いがなくなったことで雄二へのダメージは少なく済んでいた。
「随分と苦しそうだね、雄二」
いつの間にか近くまで来ていた誠也。
その表情はダメージなどないかのようにいつもと変わらない。
「はっ、この程度どうってことねぇよ。それよりそんなに近づいていいのかよ。その眼鏡かち割ってやろうか?」
「相変わらずだね、雄二は。日向の動きが変わったようだけど、何かしたの?」
「相手チームのお前に言うことはなにもねぇよ」
「そっか。じゃあそうだね、ソフィーナちゃん相手に互角に渡り合う日向の頑張りを称して、いいものを見せてあげよう」
「は? 何、を──!?」
誠也のいた方向から襲ってきた衝撃で雄二は吹き飛ばされてしまう。
「がはっ、な、何が起きたんだ?」
「攻撃を出来るのはなにもプログレスだけじゃないってこと、だよ」
雄二は誠也へと視線を巡らす。
するとそこには雄二に手のひらを向ける誠也。そしてその手のひらの前にはソフィーナの使うものとよく似た魔方陣が展開されていた。
「な、なんでお前が魔法を、使えてるんだよ……」
青の世界の住人にとって魔法とは限りなく無縁の存在だ。古くからあるそういう家系やプログレスのように力に目覚めでもしない限り、魔法を使うことはできない。
何故なら魔法を行使する魔力をもっていないのだから。
「なに、簡単なことだよ。リンクを使ったのさ」
「リンクを……?」
雄二は誠也の魔法で負傷した左腕を押さえながら、なんとか立ち上がる。
左腕からはポタポタと血が滴っていた。
「雄二はリンクをただ脳波を繋ぐだけだと思っていない? それは違う。リンクはプログレスとαドライバーを繋ぐ。そして、それはプログレスとαドライバーが同じ存在になることを意味するんだ」
「お前、頭大丈夫か? ダメージでおかしくなったんじゃねえの?」
「うっ、相変わらず失礼だね! 僕は正常だ。コホン、……分かりやすく言うとリンクを繋いだ時、アルドラはそのプログレスと同じ特性を持つんだよ。つまり、プログレスの力を使えるようになる。これが『プログレス・リンク』の力だよ」
雄二はハッとする。先程の誠也による攻撃はソフィーナの特性を使ったものだと気がついたのだ。
「そうか、だから魔法を……。でも、それだけじゃないんだろ? アルドラがエクシードに似た力を使うなんてそんな大技、デメリットなしに使えるわけがない」
「流石雄二、目敏いね。もちろんデメリットはある。でもそれはアルドラじゃなくてプログレスの方にね。自分のエクシードを使われるんだ。その分、プログレスは消耗する」
プログレス・リンク。
それは強力な反面、プログレスに負荷が掛かる諸刃の剣である。
だが、誠也はそれをこの場面で使ってきたのはそうするしかなかったからだ。
空中でのプログレス同士の戦いはソフィーナが押され始めていた。このままいけば誠也は大ダメージを負うことになるだろう。
「決着をつけようって魂胆かよ。でもいいのかよ、俺にそんなこと教えても」
「別にいいよ。雄二はここで負ける。でも、君たちには強くなってほしいからね。先輩アルドラとしてのアドバイスだよ」
雄二は言葉を交わしながら策を練る。
『美海。お前の力少しの間、借りるぞ』
『何をするの?』
『今から別のリンクを試してみる。お前の消耗が激しいらしいけど、耐えてくれよ?』
『もっちろん! お互い様だよ、雄二』
『俺がチャンスを作る。だからお前は誠也に止めをさせ』
『りょーかい!』
美海の確認は取れた。あとは実行に移すだけ。
できない。と雄二は欠片も思わなかった。
あいつらに出来たんだ。長年一緒にいた俺たちができないわけがない!
「ふん。その先輩面なんて眼鏡ごと叩き割ってやるよ! プログレス・リンク!」
リンクを通じて雄二の体に力が流れ込んでくる。それは美海の力。幼馴染みのプログレスとしての能力。風を操るエクシード。
不安定に揺らぐいつもと違うリンクの繋がり。
だが、揺らいだのは一瞬だ。
雄二と美海がお互いに力を合わせたのだ。
「なっ!? 全く……雄二には驚かされてばかりだよ。でも、僕たちが勝つ!」
「いいや。勝つのは俺たちだ! はぁああああ!!!」
雄二は誠也に大量の風をぶつける。
複雑な操作はいらない。誠也にぶつけるだけを考えろ!
大質量の風を真正面から浴びた誠也は両手を前につきだして魔方陣を展開することで風を防ぐ。
だが、あまりの強さにズリズリと後ろに押されてしまう。
「ぐぅ、風で押すだけで勝てると思っているのかい? 考えがあま──」
魔方陣の向こう側で雄二が口を動かす。
突風のせいで何を言っているのか誠也には聞こえない。
「美海っ、今だ!」
「うん!」
「あなた、何を……っ!?」
美海はソフィーナから距離を取ると一気に降下していく。
その先には雄二の攻撃を防ぐことで精一杯になっている誠也がいる。
突然の行動にソフィーナは反応が遅れた。
「っ、させないわよ!」
魔方陣を展開し、炎を放とうとするが中々構築できない。
焦りと負荷がソフィーナの集中を乱しているのだ。
「これぐらいのことでっ、次期魔女王は伊達じゃないのよ!」
なんとか放った不安定な炎の塊が美海に迫る。
「そんなっ!?」
ソフィーナは目を見開いた。
炎の塊はは美海の背中に現れた光の翼に弾かれて霧散してしまったのだ。
そして光の翼は役目を終えたと言うように弾けて消えてしまう。
「はぁあああ!! くらえぇえええ!!」
美海は最大限の力を込めて攻撃を放つ。
「っ──!?」
がら空きの背中に直撃を食らった誠也。
そして鳴り響くブザー。
『試合終了! 勝者、成瀬雄二、日向美海チーム』
勝者は決まった。
雄二たちはリベンジを果たし、見事勝利したのだ。
「勝った、のか?」
全てのリンクを解除し、その場に座り込む雄二。そんな彼に美海は駆け寄ってくる。
「雄二っ、勝った! 勝ったよ! 私たちの勝利だよ~♪」
ピョンピョンと美海は跳び跳ねる。それにつられてツインテールも嬉しそうに跳ねていた。
「……勝ったんだな、俺たち」
「ん? 嬉しくないの? いつもの雄二なら、うぉおおって叫んでるとこじゃない?」
「いや、嬉しいんだが、流石に疲れた」
雄二は意識を失って倒れている誠也を見る。
「誠也のことは心配しなくていいわ。私がきちんと運ぶから。お願い、黒の世界の大いなる意思よ」
倒れている誠也を『黒の世界の大いなる意思』と呼ばれる丸い謎生物に乗せてソフィーナは立ち去ろうとする。
「ソフィーナちゃん!」
「……なに? 慰めなんていらないわよ。私たちは別に負けたことを気にしてないし」
「ううん。またブルーミングバトルしようね!」
「……ふふっ。ええ、必ず。次は負けないわ」
ソフィーナは笑顔でそう言うと静かにその場を立ち去った。
「さて、と。雄二も保健室に行こっか。……雄二?」
「…………」
振り返った美海は雄二の返事がないことに首を傾げた。
雄二は俯いたまま何も言わない。
慌てて近づいてみると、雄二は息はしているものの気を失っていた。
雄二の左腕からは止めどなく血が流れている。
「っ、急いで運ばなくちゃ!」
美海は沙織に連絡を飛ばした。
「コードΩラウラの予想が当たりました」
観客席にはセニアだけが残っていた。
ラウラは負傷した雄二を運ぶために美海たちの手伝いをしに行ったのだ。
『まさか、入学してすぐにここまでリンクを使いこなす生徒がいるとは。十河誠也とは会ったことがあるから強いことは知っていたが……。成瀬雄二、あの男はとんだ才能の持ち主だな。とてもαドライバーに目覚めて間もないとは思えない実力とセンスだ』
「Dr.ミハイル。声が弾んでいますよ」
『仕方ないだろう? 彼は私の研究対象だ。今からワクワクしてきたよ。あー、早く
「予定では5月ですよ。まだ先です」
『楽しみなのは変わらないよ』
「その時は私が案内します」
『ああ。頼んだよ』
セニアはミハイルとの通信を終了し、ドローンを送還させて立ち上がった。
その時だ。
セニアのセンサーがバトルエリアに何者かがいることを知らせる。
「あれは……」
視線の先にいる白衣の男性。
データベースにアクセスし、該当する人物を見つけ出した。
「
バトルエリアに残る雄二の血痕のそばにしゃがみこみ、何かをする泉川。
その手には試験管が握られていた。
「成瀬雄二の血を集めている?」
気になったセニアは観客席から飛び降りて泉川のもとへ歩いていく。
近づいてきたセニアに驚いた泉川は慌てて試験管に蓋をして、道具と一緒に懐に隠した。
「泉川研究員。あなたは何をしているのですか?」
「…………」
泉川は黙秘し、その場を立ち去ろうとする。
「私にはあなたが成瀬雄二の血液を採取しているように見えました。違いますか?」
「ちっ、見ていたのか。なに、貴重なサンプルを採取したかっただけだよ。ただそれだけだ」
そう言って泉川は早足でバトルエリアから出ていった。
ポツンと残されたセニア。
「泉川正信。警戒リストに登録完了」
小さくそう呟くとセニアもバトルエリアを立ち去った。
雄二たちが青蘭学園に入学してまだ三日目。つまり、ここまでは物語の序の口に過ぎない。
彼らがこれからの学園生活がどうなるのか知る由もない。
影はひっそりと、そして着実に動き出していた――
これにて第1章完結です。
ここまでに何人もキャラが出てきましたが、お気に入りの子はできましたか?
私のお気に入りはラウラです。アンドロイドなのに感情露わにして迫る彼女が可愛いです。
皆さんにもお気に入りができるように、そして彼ら彼女らの世界を楽しんでいただけるように更新していきます。
次回、第2章『黒き夜の奇跡』をお楽しみに!
※不定期更新です。更新は数話まとめてします。