アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語- 作:Kuroya
青蘭神社に繋がる石段の途中から林の中へと入っていく雄二。
つい最近、この抜け道を通ると青蘭学園の闘技場の裏に出るポイントを見つけたのだ。
見つけた経緯はちょっとした冒険心からだった。
ま、林の向こうに学園が見えてたから、他の誰かも知ってるだろうけど。
木の枝を避けながら進み、林を抜けきった雄二は闘技場の裏に出た。
制服に付いた葉っぱを払い落して闘技場の正面へと向かう。
正面入り口に着いた雄二はエントランスを覗いてみるが、休日ということもあり誰もいない。
「うーん。アルドラだけでここに来ても意味ないよなぁ」
雄二は入り口を潜り、設置されているソファーに寝転がる。
闘技場はブルーミングバトルをするための施設だ。アルドラだけで出来ることは殆どない。
「あ、そういえばアルドラの特訓施設があるじゃん」
あれ? でも、どこにあったっけ?
強化施設-α。
その存在を思い出した雄二だったが、場所までは思い出せていなかった。
検査で訪れて以来、一度も使っていないのだから無理もない。
「チームメイトのプログレスがいなかったら一人で特訓って、アンタの友好範囲狭すぎじゃない?」
雄二が場所を思い出そうとしていると端末から少女の声が聞こえてきた。
幸い周りに人がいなくて変な目で見られずに済んだ雄二は、上着のポケットに入れていた端末を取り出す。端末の画面には赤みがかったピンク髪のツインテールの少女が映し出されている。
「急に話しかけるなよ。誤解されるだろ」
「ふーん。アンタたち人間って面倒くさいのね。システムと会話してるだけで不審者扱いだなんて」
「地球の技術はまだそこまで進んでないんだよ。あ、そうだ。強化施設-αってどこにあったっけ?」
雄二は端末の中の少女に話しかける。
すると、少女は画面から消えて直ぐにホログラムとして雄二の眼の前に現れた。
「購買がある建物の地下。一ヶ月前のことなのに忘れたの?」
「俺はそんなに記憶力良い方じゃないんだよ。んー、そっちまでいくの怠いなぁ」
寝転がったまま脱力する。
あー、やばい。このまま寝てしまうかも。
「はぁ。アンタってオンオフの差が激しいわね。スイッチ入ると面倒だけど、入ってないアンタも面倒ね」
「だってさー、一人で特訓って実は寂しいんだぞ」
「あら、私がいるじゃない」
「ゼシカは一人にカウントしねぇよ。システムじゃん」
「じゃあなに? 他にプログレスがいればいいの?」
「そうだなぁ、プログレスがいればここで特訓もできるからなぁ」
「そう。なら呼んできてあげる。手当たり次第にね」
「その必要はありません。システムNP=ゼシカ、成瀬雄二さん」
話しかけられて起き上がった雄二の目を雄二の目をセニアはじっと見ていた。
その隣ではセニアより30センチ程背の高い少女が雄二を睨んでいた。
「えっと、誰だっけ? ゼシカは知ってるか?」
「彼女たちは
「いや、知り合いになったアンドロイドはラウラぐらいしかいないからさ。他の子まで覚えてない」
小声で話し合っている二人を見て気がついたのかセニアは自己紹介をする。
「SW=コードΩ46、認識用個体名セニア。Dr.ミハイルにより開発されたブルーミングバトル用アンドロイドです」
「セニア……? ああ、そういえば確かに白チームのメンバーに選ばれてたような記憶があるぞ」
「こんなに可愛いセニアのことを忘れていたなんて残念な馬の骨でございますね。ああ、申し遅れました。戦術級決戦型アンドロイド、コードΩ33、カレンでございます。セニアに敵対するなら容赦はしませんので」
カレンは雄二を鋭く見据えたまま自己紹介をした。無表情な雄二の横でゼシカは苦笑いを浮かべている。
「一言目に罵声が飛んでいたような気がするが……、二人は俺たちのことを知っているようだけど、どうしてここに?」
「はい。ここ一か月の間、あなたたち『チームα』を見ていました。昼休みにエクシーズで戦っていることや休日はここで特訓をしていることも知っています」
エクシーズ。
ブルーミングバトルを用いたスポーツ競技のことである。青蘭学園では毎回昼休みに開催されており、学内ランキングも存在している。
チームαはランキングの下位常連チームだ。
「今日は一人しかいないようですね」
「まぁ、そんな日もあるさ」
「そこで提案です。私に手伝わせてください」
「手伝うって、特訓を? 嬉しいけどいいのか? カレン……さんは、なんだか不服そうだけど」
雄二はカレンと呼ぼうとしたが睨まれて咄嗟にさん付けにしてしまう。
「カレンは関係ありません。私だけが手伝うつもりです。ダメ、でしょうか?」
今日はメンバーのプログレスがいなくて困っていた雄二には渡りに船だった。
「むしろ大歓迎だ! よろしくな、セニア」
「はい。よろしくお願いします、マスター」
差し出された雄二の手をそっと握るセニア。
雄二はその時伝わった温もりに思わずビクッとしてしまう。
アンドロイドって温かいんだな。そういえば、ラウラはどうだっただろう?
一か月前を思い返す雄二だったが流石に覚えていなかった。
「ん? マスターってどういう――」
「馬の骨。早くセニアの手を放しなさいです」
鋭い視線と威圧する声に思わず握手していた手を放してしまう。
「あ、はい。えっと……カレンさんはどうしてここに?」
「妹のセニアと気持ちのいいお散歩中でございます。それなのになぜ邪魔をするのですか、馬の骨」
「邪魔しているのはカレンの方です。これからマスターと特訓です。邪魔をするのなら帰ってください」
「でも、セニア! この馬の骨がいかがわしい行為をセニアに働くかもしれないでございます!」
「帰ってください」
セニアの言葉で渋々と闘技場を出て行くカレン。その背中は物凄く寂しそうだった。
「なあ、さっきカレンが妹とか言ってたけどアンドロイドにも姉妹とかってあるのか?」
雄二の疑問に答えたのは今まで投影パネルを操作して何かをしていたゼシカだ。
「姉妹はいるわよ、正確には姉妹機だけど。血のつながりがあるわけじゃないわ」
「はい。カレンは私より前にDr,ミハイルが開発したアンドロイド、つまりお姉ちゃんです」
「なんだ、そういうことか。相当セニアを可愛がってるみたいだし、いい姉妹だな」
「自慢の姉です。時々先程のようにおかしなことを言いますけど」
「……俺はそんなことしないぞ。よしっ、特訓を始めるか」
「おー」
雄二のやる気はこのメンバーでは少し空回りしていた。
セニアが小さな拳を挙げていたことがちょっぴり嬉しい雄二だった。
今、雄二は距離を取ったセニアに銃口を向けられている。
別にいかがわしいことをやろうとして怒られたからではない。これは特訓の一環だ。
ゼシカ考案のアルドラ耐久力向上プログラム。内容はその名の通り、αドライバーである雄二のブルーミングバトルでの耐久力を向上させようというものだ。
「ブルーミングバトルにおいてαドライバーはチームの要。αドライバーがいないとリンクも使えないし、そもそも試合に出れない。それに倒されればそこで試合終了。逆に言えば、倒されなければ勝つ確率も高くなるってわけ」
ゼシカはフィールドに立つ二人に向けてプログラムの解説を続ける。
「そこで、このプログラムでアルドラの耐久力を向上させて少しでも長く耐えて試合を続けれるようになろうっていうのが目標よ。ちゃんと理解できてる?」
「その説明は何度も聞いたから、わかってるって。そんなことより早く始めようぜ」
「くっ、私が仕事を蔑ろにするなんて、そんなこと出来ないわ! 説明は最後まで聞きなさいよ! スキップも早送りもさせない。そんなものはオペレーター兼ナビゲーターへの侮辱だわ」
「システムNP=ゼシカ。説明の続きを」
「コホン。セニア、私のことはゼシカでいいわ。えっと、そんなわけだからアルドラのアンタにはプログレスから攻撃を受けてもらうわ」
「避けれると思ったら避ける。無理だと判断したら腕でガードしなさい、だろ?」
雄二はゼシカの説明に割り込んでセリフを奪う。何度も聞かされて一語一句覚えてしまったのだ。
「はぁ、わかったわよ。それじゃ、スタート」
ゼシカが投影パネルのスタートボタンを押してプログラムを実行すると、空中に経過時間が表示された。
「行きます。ブルーミング・バトルシステム起動。多角的に攻撃を仕掛けます。大丈夫です、出力は抑えてあります。マスター、頑張ってください」
「え、ちょっ、それは急すぎないか!?」
雄二は咄嗟にガードして攻撃を食らう。
「ちゃんと反応できるようになったじゃない。偉い偉い」
ゼシカはパネルに表示されているダメージ数値を見ながら特訓を見守る。
流石、ミハイルが作ったアンドロイドね。威力がほぼ一定だわ。
雄二は多角的に放たれる攻撃ドローンのレーザー射撃を多少避けようとはしているが、避けた先でセニアのハンドガンが放つエネルギー弾に狙い撃ちされ、止まったところでドローンに追い打ちをかけられる。
「攻撃一つ一つは軽いけど、数が多い! 地味に痛いな、これ」
「現在の出力は1%未満です。もっと引き上げます。出力10%です」
「いきなり!?」
出力が上がり、レーザーの太さが先程の倍以上になった攻撃の痛みは地味などではない。
必死にダメージを耐え、避けようとする雄二をセニアが狙い撃つ。
「セニア、抜け駆け。ズルい。ラウラもマスターと特訓したいのに……」
ラウラは狙撃銃を柱に立て掛けて、特訓を見守る。いつ呼ばれてもいいように狙撃銃は出したままだ。
しかし、バトルエリアで特訓をしている彼らは観客席の一番上で自分たちを見ている視線に気づいていなかった。
第3話につづく