アンジュ・ヴィエルジュ-もしもの世界の物語-   作:Kuroya

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第3話 学園案内

SHRが終わり、クラスメイトのほとんどが教室から出て行ったが雄二と美海はまだ自分の席で会話をしていた。

「ねぇねぇ、このあと雄二は何か予定ある? ないなら私が学園を案内してあげるよ?」

「んー、特にないな。この島に来るのが遅かったからまだ荷解きは終わってないけど。というかまだ届いてないはずだ」

「そんなの夜やればいいの! 届いてないなら尚更だよ! 案内する場所はいっぱいあるんだから」

「わかったよ。案内よろしくな」

美海は元気よく頷くと素早く荷物をまとめて教室のドアまで走っていき、早く来いと言わんばかりに手を振る。すると後ろから来ていた生徒に手がぶつかってしまう。

「おっとっと。日向さん、ドアの前ではしゃぐのは止めてもらえないかな」

「わわっ、ごめん! って文ちゃんは何してるの? またボランティア?」

「ボランティアというより学級委員の仕事かな」

段ボール箱を抱えて入ってきた少女と美海は顔見知りのようだ。鞄を持って近づいた雄二は手伝うよと言って段ボール箱を教卓まで運んだ。

「いやー、やっぱり男の子は力持ちだねー。ありがとう成瀬君」

「あれ? 俺って自己紹介したっけ?」

雄二は彼女が誰なのか思い出そうと彼女を観察した。

しかしどれだけ凝視しても思い出せなかった。

「そ、そんなにじっと見ないでよ。成瀬君のことは中学の時に美海ちゃんから聞いたの。まあ聞いていなくてもクラスメイトの顔と名前ぐらいは覚えてるけどね」

「ということは同じクラスの人?」

考え事をしていてクラスメイトとの交流をあまりしていなかった雄二にはクラスメイトかどうか判断できなかった。そこで美海は慌てて彼女の自己紹介をする。

「えっと、この子は琴吹(ことぶき)文(あや)ちゃん。同じクラスだよ。中学の時も同じクラスだったんだよ!」

「そういうこと。中学の時に学級委員をしてたから先生にまたやらせてもらえないか頼んでみて、こうして他に希望者がいなかったらって条件で暫定学級委員してますッ」

ビシッと敬礼のポーズをとる琴吹。

こういった親しみやすさが彼女の学級委員としての人気の一つなのかもしれない。

「二人はこれから帰り? それと先生の話はちゃんと聞きなさいよ~」

「うん。気を付けるね。じゃあ、文ちゃんまた明日~!」

「じゃあな、琴吹さん。お先に」

「おつかれ~、また明日ね」

まだ仕事のある彼女を残して二人は教室を後にした。

 

高等部1年生の教室があるのは四階建て校舎の4階だ。

青蘭学園では高等部、初等部が一つの校舎の中にある。1学年6クラスが基本であり教室は最大40人の生徒が授業が受けられる。

教室に問わず校舎には数多くの縦長の窓があるので広さの割に校舎内は明るい。

「三階が2年生、二階は3年生だよ。1年毎に階が下がるって覚えてたら忘れないでしょ? 一階には職員室とか保健室と初等部の教室があるの」

「初等部の教室は一番下なんだな」

「そうだよ~。初等部の教室と教務課がいる職員室は隣だから悪いことしようとしたらすぐバレるからね?」

「俺はそういうやつだと思われてるのか? 誠也じゃないんだ。俺はそんなことしない」

「だって、美伽ちゃんにはデレデレじゃん」

「美伽は親戚だからセーフだろ!」

「う~ん、どうなんだろ。嫌がってる感じはないしセーフなのかなぁ」

雄二の親戚、美伽に対するデレっぷりを毎年のごとく見てきた美海にとって判定の下しにくいものだった。

「そ、そうだ。初等部だけでも6クラスあるわけだろ。この校舎の中に納まるのか?」

「ああ、それは大丈夫だよ。初等部の子はあまりいないから6学年で1クラスなんだよ」

「へぇ。で、ここが初等部の教室か。俺らの教室とあまり変わらないな。お、机とか小さいな。美伽がこの島に来たらここに通うことになるのかぁ」

隣の職員室からこちらを見ている視線に気づいた美海は急いでこの場を離れることにした。

「ほ、ほらっ、次行くよ次! あまりいると怪しまれちゃう」

 

一階にいた雄二たちは一度校舎を出て、隣の校舎に向かっていた。

「私たちが普段使う教室とかがある校舎は第一校舎。今から向かう隣の校舎は第二校舎って言って、文化部系の部活の教室とか、生徒会室とか風紀委員室とかあるんだよ~」

「あ、中等部の方も同じような配置だからそっちの第一、第二は案内はしないよ?」

何故か釘を刺された。ただ説明されたからその方向を見てただけなんだが。

第二校舎、特別棟なんて呼ばれていたりするこの校舎の一階は他の場所と比べて一段と静かだ。二人分の足音が廊下に反響して異様な雰囲気を作っていた。

「なんか、静かすぎないか? 割と不気味なんだが」

「ここの一階には演劇部と手芸部、階段を挟んで反対側には二つの会議室と風紀委員室があるの。演劇部は完全防音の教室だし、他はあまり大きな音とか出さないからすっごく静かなんだよ~」

「だから皆ここでは大きな音とか出さないようにしてるの」と小声で言った。

 

急ぎ足で階段を上り、二人は二階にやってきた。

そこも一階ほどではないが静かな階だ。

「なぁ、この校舎って人少なくないか? どこも静かすぎる」

「え? だってここ、あんまり使わんないもん」

「もしかして上の階もにたような感じなのか?」

「うん。そうだけど……説明、飽きちゃった? ご、ごめんね。あまり説明とか得意じゃなくて」

「そういうことを言ってるわけじゃない。それに、お前が説明下手なのは昔から知ってる。俺に対してそんなこと今さら気にするなよ」

「あっ、……えへへ。ありがと。じゃあ次の場所に行こっか」

落ち込んだかと思うと直ぐに笑顔になって嬉しそうにする。美海は喜怒哀楽が表情に出やすい。俺はそんなところが少し羨ましいと思った。

「あ、でも、女の子の頭を撫でる癖は治さないとダメだよ?」

「ん? ああ、髪型とか崩れたら大変だもんな」

「そうじゃなくて、えっと、ほら! セクハラだし!」

「……そうか、セクハラか。セクハラなら治さないとダメだな」

「うんうん。わかったならい「なら今後は撫でるのは一切禁止だな」……えっ?」

被せるように発せられた雄二の言葉に美海はポカンとする。

「だってそうだろ? セクハラなんだし。俺も訴えられたくはないし、撫でようとしてたらぶん殴ってでも止めてくれよ?」

「え、あの、別にそこまでしなくてもいいんじゃない? 無意識でしてるんだし」

「無意識だからこそだろ。美海だって嫌だろ? だからちゃんと意識して規制しないとダメなんだ」

何故か自信あり気な声でそういう雄二に対して、美海はキョロキョロと視線を泳がせた。

「私は別に嫌じゃない、から。その……私なら撫でてもいいよ?」

「お前、自分が何言ってるかわかってるか?」

不思議そうな顔をしたが自分が何を言ったのか気づいた美海は慌てて否定した。

それはもう、必死に。

「い、今のなし! 今の全部なしだから!」

「別に嫌じゃないってやつか?」

「あーあー! 私は何も言ってないし聞こえないー!」

耳を手で塞いで聞こえないふりをしてる美海は見てて面白かった。

そんなことを口にすれば不機嫌になりそうだが。

「ほら、そんなとこに座り込んでないで次に行くぞ。大声だして怒られても知らないからなー」

「ま、待ってよー! というかどこに何があるかなんてわからないでしょ! もーっ、置いてかないでってばー!」

勢いであんなこと言っちゃったけど、雄二は明日には忘れてるんだろうなぁ。

雄二の背中を追いかけながら美海はそう直感した。

 

「そう言えば第一校舎の一階には他に何があるんだ? 片側だけしか見てないよな」

「あれ? そうだっけ? 反対側にはおっきな保健室があるんだよ~」

保健室の場所って重要だと思うのだが……。

この学園にある保健室の広さは診療所といえるレベルだ。

なにかと怪我をすることが多いこの学園では保健室の使用が増えてくるためかなりの広さを使っている。治療には白の世界『システム・ホワイト・エグマ』の医療技術が一部使われていて、大抵の怪我や病気は治せる凄腕のナースがいるんだとか。

「あ、でも、血が出るような怪我をしたときは中等部の第一校舎にある保健室にいった方がいいよ」

「高等部の方は何か訳ありなのか?」

「んー、あくまで噂なんだけど怪我が悪化するんだって」

「……それ、保健室として機能してないだろ」

「それ以外の怪我ならあっという間に治るから大丈夫だよ」

曰く付きの保健室か。そうそう怪我をすることはないだろうが気を付けておくか。

 

雄二は第二校舎を出てから少し遠くに見える建物を目指していた。美海はその隣を楽しそうに歩いている。

「なぁ美海。やたらデカイあれって何? 上の方とか煙出てるんだが」

「ん~とね、あれはお風呂だよ。温泉。運動した後に浸かるあそこのお風呂は最高だよ♪」

学園内に大規模な温泉……。この学園は一体どこを目指してるんだ?

雄二の疑問などお構いなしにその建物内へと入っていく美海。

まさかと思いつつ雄二は問い掛けた。

「ちょっと待て美海。そこには特に用事はないだろ?」

「ふぇ!? あ、そ、そうだね! 別にお風呂入りたいなぁとか思ってないよ!」

思ってるじゃないか。おもいっきり。

誤魔化そうとしていても視線はチラチラと入り口と雄二の間を行ったり来たりしている。

「はぁ……、この学園に来てお前の風呂好きは悪化したみたいだな」

「じょ、冗談だって! それにほら、この建物って温泉だけじゃなくて一階には食堂とか購買があるからお昼にちょうどいいでしょ? ね?」

「もうそんな時間か。でも今は腹減ってるわけじゃないし、美海だけで食べてきていいぞ」

「…………」

いかにも不機嫌ですと言うように頬を膨らませて睨んでくる。

「成瀬雄二くん」

「は、はい。何でしょう、日向美海さん」

「私が食べてる間、どこで何をするつもりなのかな? お姉ちゃんに教えてほしいな♪」

「お姉ちゃんって数日早く産まれただけだろ」

「お・し・え・て?」

「……あっちの方にでも行こうかな、と。」

「ダメ! 雄二が一人で目的地につけるわけないよ!」

「いや、そんなことないって。方向音痴でもないんだし」

「え、自覚ないの!? なおさら行かせられないよ。心配だもん」

「あー、わかった。なら購買で何か買って歩きながら食べるってのはどうだ?」

それなら美海の腹も満たせて、俺の要望も通る。我ながら名案だな。

まだ若干頬は膨らんだままだが、少し機嫌は直ったようだ。

「ならいい、けど。……じゃあ行こ?」

「お、おう。一気にテンション落ちたな、そんなに風呂に入りたかったのかよ」

違うもん。お風呂好きだって覚えてくれてたのは嬉しいけど、そうじゃない。

本当は一緒に食堂で食べたかったのに……。

「……雄二のばか」

「いきなりバカはないだろ。ほら、購買まで案内してくれよ。俺は一人じゃ目的地に辿り着けないらしいからな」

「っ、うん! えっとね、ここの購買にはいろんなものが置いてあるんだよ! おにぎりとかサンドイッチとか~、お菓子とか輸血パックとか。あとはー」

元気があってこそ美海だな。

雄二は手を引かれて建物内へと入っていく。今だけは付き合ってあげよう。

手を握ると美海は嬉しそうに握り返してきた。

「あ、おい、にぎにぎするな」

「えへへ、気にしない気にしない♪」

あれ? そういえばさっき変なものが混じってなかったか?




第4話につづく
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